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てんかん学ハンドブック 第4版

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てんかん診療の第一人者による、その診療哲学と最新の情報をギュッと詰め込んだミニ百科全書、6年ぶり待望の改訂! 「てんかんは難しい」「どこから手をつけたらいいかわからない」と悩む若手医師、非専門医には最良な入門書として、経験豊かなてんかん専門医にも必ず気づきをもたらす奥深い1冊。「新規抗てんかん薬」はもちろんのこと、ILAEの「2017年分類」および『てんかん診療ガイドライン2018』にも言及。
兼本 浩祐
発行 2018年10月判型:A5頁:446
ISBN 978-4-260-03648-1
定価 4,400円 (本体4,000円+税)

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第4版の序

 てんかんについて初めて知ろうという思いでこの本を手にとっていただいた方は,第1章がマスターできれば成人のてんかんであればその診療のほぼ8割くらいはとりあえずは可能と考えていただいてよい。「視点・論点」などはすべて読み飛ばし,また本文のなかでも,歴史的な経緯を説明した部分も読み飛ばすとさらに必要不可欠な部分の分量は減る。最短距離は,第1章図1,2で4大類型を理解し,p.8下7行目~p.12の10行目,さらにp.17~25で概観した10個程度の症候群を把握することである。1つの症候群についての鍵概念は3,4個であるから,集中すれば3~4時間もあればとりあえずは十分把握できる。もちろん,この部分を実際の臨床で使うためには本書の他の部分を必要に応じて参照しなければならないので,実質的にはもう少し時間はかかると思うが,いずれにしてもすぐに実践の役に立てようという動機で本書を買っていただいた方は第1~3章をまずは集中して読んでいただくのが近道だと考える。
 その上で実際の事例に当たった場合,第4章「鑑別診断」の項目で目立った症状から逆引きして目の前のこの症状であればどんな疾患の可能性があるかを考える手助けにしていただくとよいかと思う。よく欧米の医学ドラマで,ホワイトボードに目の前の症状から考えられる病態の候補をすべて挙げて,そのなかから疾患を絞り込むあれである。そしてこの下準備をした上で,最初からすべてを把握しようと思わないことがてんかん医療に習熟する近道だと思う。まずは,現場,現場に応じて目の前によく現れる病態,側頭葉てんかんなら側頭葉てんかん,若年ミオクロニーてんかんなら若年ミオクロニーてんかんに習熟するのが第一である。個別の症候群によく習熟することができれば,そこからそれに類縁の病態を簡単に理解できるようになる。確実にわかる一部をゲットすれば,少なくともそれについてはすぐに実践で使うことができて時間コストの損はないが,漠然とたくさんの知識をもっていても,実践では何も始めることはできないからである。
 本書を前版から買っていただき,この新しい版も買っていただいた方は,ともにこの間のてんかん学の歴史を歩んできた同志だと心密かに思わせていただいている。特に「視点・論点」などこの本の一部は私のてんかん学であって,これが唯一つの正解だなどとは決して思っていない。てんかん学をともに学び続ける同志への話題提供だと考えている。いろいろな機会でお会いしたときに,侃々諤々と議論できると嬉しい。
 医学書院の小藤崇広さんのお蔭で,装丁やガストー教授の後書きなどを通して,この本が実現したいコンセプトを形にしていただいた。愛知医科大学の精神科学講座の同僚,脳神経外科や神経内科の諸先生,そして何よりもこの何十年間かをともに歩んでもらった患者・家族の方にこの本を通して深く感謝したい。

 2018年8月27日(平成最後の夏に)
 兼本浩祐

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第1章 てんかん学の基礎
 A てんかん診療のフローチャート
 B てんかんの定義と非てんかん
 C てんかん4大類型の予後と治療
 D てんかん4大類型の診断の仕方

第2章 治療
 A てんかん類型の診断がつかない場合
 B 年齢非依存性焦点性てんかん
 C 特発性全般てんかん群
 D けいれん発作重積状態の初期治療
 E 迷走神経刺激療法
 F てんかんの外科手術
 G ケトン食

第3章 脳波
 A てんかんにおける脳波判読の原則
 B てんかんに特異的な脳波異常
 C てんかんに特異的な脳波異常と混同しやすい波形

第4章 鑑別診断
 A 発作性のけいれんとけいれん様症状
 B 転倒発作(大発作を除く)を主症状とする場合
 C 意識,記憶,反応性が繰り返し消失ないしは減損するのが主症状(転倒を伴わない)
 D 突然出現した錯乱状態
 E 発作性の主観的体験を主症状とする場合
 F 発作性の笑いを主訴とする場合

第5章 てんかん症候群とてんかん類似疾患
 本書でのてんかんとてんかん類似疾患の分類
 1 年齢依存性てんかん群
 2 特発性全般てんかん群
 3 全般・焦点混合てんかん群
 4 年齢非依存性焦点性てんかん群
 5 状況依存性機会性けいれん
 6 進行性ミオクローヌスてんかん
 7 反射てんかん
 8 発作重積状態
 9 てんかんと時に混同される可能性のある疾患

第6章 抗てんかん薬
 A 抗てんかん薬の簡易薬理学
 B レベチラセタム(LEV)
 C バルプロ酸(VPA)
 D カルバマゼピン(CBZ)
 E ラモトリギン(LTG)
 F ゾニサミド(ZNS)
 G トピラマート(TPM)
 H ラコサミド(LCM)
 I ペランパネル(PMP)
 J フェノバルビタール(PB)
 K プリミドン(PRM)
 L フェニトイン(PHT)
 M エトスクシミド(ESM)
 N ガバペンチン(GBP)
 O ベンゾジアゼピン
 P ビガバトリン(VGT)
 Q ルフィナミド(RFN)
 R ビタミンB6
 S スチリペントール
 T アセタゾラミド(AZA)
 U スルチアム
 V ピラセタム
 W 臭化ナトリウム

第7章 遺伝
 A 遺伝・遺伝子関係の用語解説
 B 遺伝性疾患の種類とてんかんを主症状とする症候群・疾患の対応関係
 C 遺伝要因が発病を規定していることが判明しているてんかん症候群・関連疾患
 D 多因子遺伝あるいはtrait markerが不明なその他のてんかん症候群

第8章 器質因
 A 急性症候性発作
 B-1 感染性脳炎
 B-2 免疫介在性脳炎・脳症
 C 頭部外傷
 D 脳血管障害
 E 内分泌・代謝・膠原病
 F 認知症
 G 薬物中毒

第9章 診療アラカルト
 A 初回発作の治療
 B 妊娠とてんかん
 C 海馬硬化を伴う側頭葉てんかんの外科手術
 D 自動車の運転
 E てんかんと熱性けいれんをもつ人への予防接種
 F 抗てんかん薬による薬疹
 G 自閉症
 H 公的支援
 I 多剤併用時の薬剤整理
 J 投薬の終了

索引

事例
 1 排尿後失神のため失職しそうになったお抱え運転手
 2 発作ではなく脳波を治療されて成績の下がった小学生
 3 朝上肢がピクつく高校生
 4 焦点性意識減損発作を欠神発作と誤診され失職した女性
 5 3回目の大発作でようやく薬の服用に納得したヤンキー高校生
 6 1日に何度も急に返事をしなくなるので無理やり妻に連れてこられた会社社長
 7 CBZをLEVに変更され1日中意識減損発作を群発した主婦
 8 統合失調症様の交代性精神病を呈した1例
 9 発作後に急性の躁状態となり精神科病院への入退院を繰り返す市会議員
 10 クロナゼパム投与が激しい行動化を招いた事例
 11 心因性発作重積状態を起こして挿管された若年女性
 12 出社前になると倒れてしばらく動けなくなる会社員
 13 新人を怒鳴り散らした1年後に目と上肢がブルブルッとする発作が群発した
     中華料理店店主
 14 姿勢発作を心因性発作と誤診され抗うつ薬と多量のベンゾジアゼピンを
     投与された1例
 15 採血や運動で左半身のけいれんが誘発された高齢の男性
 16 解離・転換性障害によるオピストトーヌスを疑われたNMDA受容体脳炎の
     ツアーコンダクター
 17 SPECTで側頭葉てんかんを疑われたピアニスト
 18 心因性非てんかん性発作に側頭葉てんかんが隠されていた1例
 19 時々ブツブツと独り言を言う介護福祉士
 20 小声でブツブツ囁くディスコの女王
 21 発作を反抗的な態度と誤解され,繰り返し体罰を受けていた青年
 22 数時間の耐えがたい「眠気」を主訴とする中年女性
 23 数時間の間,事務処理能力が低下する中間管理職の男性
 24 長年蟄居生活を送っていたヤンツ症候群の青年
 25 当初ヤンツ症候群に似た症状を呈した青年
 26 手術によって発作後精神病と新興宗教への信心が消失した側頭葉てんかん
 27 毎夜ベッドの上で飛び跳ねる青年実業家
 28 突発行動の目立つ辺縁系前頭葉てんかんの女性
 29 失語になってから頭部が右へ向く歯科衛生士
 30 7色の糸巻きが右視野にみえる高校生
 31 暴漢に襲われた後ジャクソン発作を起こした1例
 32 発作重積状態の診断で運ばれて来た洗濯工場で働く女性
 33 毎夜「夜の霊」に噛みつかれる主婦
 34 I型糖尿病がてんかんに続発したGAD抗体関連脳症の主婦

臨床メモ
 1 見落としやすい高齢発症てんかん
 2 なんでもレベチラは新規投薬例だけに!
 3 抗てんかん薬の精神症状とガイドライン
 4 脳波の周波数
 5 誤診されやすい発作――ミオクロニー発作とジャクソン発作
 6 誤診されやすい焦点性意識減損発作と欠神発作
 7 意識障害の精神病理学
 8 特発性全般てんかん各症候群での定型欠神発作の比較
 9 覚醒てんかんの性格
 10 代謝・病巣性ウェスト症候群と特発性ウェスト症候群
 11 ミオクロニー発作とてんかん性スパスムの相違
 12 レンノックス症候群の側頭部焦点
 13 過剰連結症候群
 14 てんかん外科を難しくするハブてんかん?
 15 閉眼と発作誘発
 16 前兆としての不安・恐怖と扁桃核
 17 血中アンモニア値

視点・論点
 1 てんかんの新たな定義(ILAE,2014年)
 2 “特発性”とは何か
 3 空欄“placeholder”としてのてんかん発作用語活用のすすめ
 4 精神運動発作,複雑部分発作,意識減損を伴う焦点性発作
 5 システムてんかん
 6 てんかんでみられる“うつ病”
 7 チャンネル病としてのてんかん

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さらにわかりやすく深化した,てんかん学の名著
書評者: 山田 了士 (岡山大大学院教授・精神神経病態学)
 日本のてんかん臨床は,小児科,脳神経内科,脳神経外科,精神科の4科が一定の棲み分けをもってかかわっている。しかし残念なことに,てんかんはこれらの診療科の診療や研究の中心的な対象とは言い難く,卒前教育でもてんかんを学習する機会は限られている。これは日本で100万人と推定されるてんかんのある人々とその家族にとって,非常に困ったことである。ただ幸い,てんかんに関心を持つ医療者はかなり増えてきているので,ここはぜひとも,最新のてんかん学をわかりやすく伝道してくれる書物が必要である。

 そこに,兼本浩祐教授の『てんかん学ハンドブック 第4版』が,内容も装いも大きく「深化」して再登場した。初版以来20年以上も読み継がれてきたてんかん学の名著が,新しいiPhoneのように今の読み手のニーズを捉えている。

 本書の序文に,「第1章がマスターできれば成人てんかんの8割は理解できる」と書かれている。手ほどきのてんかん群分類は,臨床経過と治療の視点に基づき,極めて合理的でわかりやすく,いわば兼本てんかん学の骨子である。それを理解した上で頻度の高いいくつかの疾患に絞って習熟すべきという見解に深く賛同したい。続く第2章では,多様なてんかん治療が実践的に紹介され,爽快でさえある。ここまで読めば,とにかく何とかできそうと勇気が出る読者は少なくないだろう。第4章以降でてんかんのあらゆる知識が網羅されている。中でも白眉は第4,5章にみられる鑑別診断で,てんかん以外の疾患も含んだ見事な鑑別リストを読むことができる。臨床記述はこうでなくてはと思う。

 著者の真骨頂は,複雑な事象をシンプルにシェーマにまとめ上げる手腕だと思う。これらの図表は,整理された構造によって直感的な理解に導き,読者は迷い道から抜け出たような体験を得られる。この第4版では,こうしたシェーマが一層パワーアップしてたくさん挿入されているのがうれしい。そのため,第5,6章のような辞書的部分でも常に明快である。てんかん学はわかりにくいという方は,これらの図表を見てぜひすっきりとしてほしい。

 本書のもう一つの特長は,豊富なコラム群である。この第4版では34にのぼる症例群がコラム形式で各所に挿入され,大いに理解を助けてくれる。巻末に紹介されたガストーの手紙にある「(てんかんは)臨床によってしか理解できないことがら」だという言葉の意味を実感する。臨床メモなどのコラムでも,一度読んだら忘れない臨床の実践知に触れることができる。著者は読み飛ばしてもよいと言うが,もったいない。つまみ食いするだけでも必ずや読者の臨床力が上がり,てんかんへの洞察が深まるであろう。

 第4版で装丁が大きく変わり,本文の書体も読みやすいモダンゴシックになった。紙質の手触りが心地よい。若手ベテランを問わず,てんかんに少しでも関心のある方には,全国100万の患者さんのためにもぜひお読みになることをお勧めする。
臨床てんかん学の面白さ,重要さを実感できるハンドブックという名の単著の名著
書評者: 池田 昭夫 (京大大学院特定教授・てんかん・運動異常生理学/日本てんかん学会理事長)
 医学書院から,このたび,愛知医大精神科教授の兼本浩祐先生による『てんかん学ハンドブック 第4版』が,前版から6年の期間を経て出版されました。本書は1996年に初版が出版され,その後2006年に第2版,そして第3版が2012年に出版されました。

 実は,私は6年前の本書第3版の書評を記す大変光栄な機会を賜り,今回もその機会を賜り大変光栄な限りでまた大変嬉しく思います。そのおかげで,今回「兼本てんかん学」のハンドブックがいかに新しく改訂されたか,いかに兼本教授が細部にまで心血を注がれているかを一部でも垣間見ることができたように思いました。

 2012年から2018年の過去6年間は,臨床てんかん学では,大変大きな話題がいくつもありました。「自己免疫てんかん」という新しい病態の出現,高齢者てんかんの増加,新規抗てんかん薬が続々と上市されたこと,2017年に国際抗てんかん連盟からてんかん発作とてんかんの新分類が提言されたこと,ケトン食療法の見直し,脳刺激療法の臨床導入など,枚挙にいとまがありません。

 本書ではこれらを系統立てて大変わかりやすく解説してあり,最新の情報をたやすく身につけることのできる,てんかん学成書となっています。その大きな特徴を3点紹介したいと思います。

 1つ目は,本書が兼本教授の単著であることです。単著の特徴は,単独の著者が全体を綿密に構成かつ俯瞰して,あるポリシーを持って一貫した内容に仕上げられることです。それによって読者は一貫した内容をその本から学ぶことができます。それはもちろんその著者がこの分野に最も精通した専門家でなければ不可能で,また同時に一貫した筋の通った考え方(臨床的哲学)がなければ逆に浅薄な内容となってしまいます。その点において,兼本教授は,精神科の立場から,学問的にも臨床的にも長い経験と豊富な知識で日本の臨床てんかん学の分野の最も傑出したリーダーのお一人です。

 2つ目は,ページ数も前版の300ページから400ページへと一気に増えました。特に新しい章として第8章「器質因」が設けられています。従前はてんかんの病因は詳しく検査しても3分の1程度しかわからないとされてきましたが,前述のような各種病態がわかるようになり,それをわかりやすくまとめられています。

 3つ目に,系統書でありながら,大変読みやすい理由として,「事例」「臨床メモ」「視点・論点」といったコラムが,本版でも豊富に取り上げられていることが挙げられます。これはサイドメモ,トリビア,兼本語録として,本文の理解を補う,少し視点を変えて内容を語りかけてくれます。

 本書の序で,兼本教授が初学者の皆さまに対して,第1~3章をまずは読んでてんかんの概略をつかむという本書の使い方を記してくださっています。またてんかん診療を専門として開始された皆さまは,それに加えて第9章の「診療アラカルト」を参考にすることで,日常診療のピットフォールになりがちな内容も網羅できるものと確信します。

 最後に,本版では,ガストー教授の言葉「忘れてならないのは てんかんは(中略)科学ではないことです。それは臨床によってしか理解することができないことがらなのです」を紹介されています。これはまさにこの本で示されている内容そのものです。装画にも患者さんの絵画作品が示され,臨床医学は実証的学問であり臨床の事実を尊重されている兼本教授の思いを感じる次第です。本書を手に取ってみると,臨床てんかん学の面白さ,重要さを実感できることと思います。

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