医療者のための生成AIリテラシーテキスト
教える人・学ぶ人のための実践ガイド
生成AIを安全・適切に使うためのリテラシーを、指導者と学習者が共有する
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AI時代の医療系教育では、生成AIをどのように活用し、どのような使い方に注意すべきかが問われている。本書は、生成AIの仕組みと限界、個人情報や著作権、研究倫理などの基礎(リテラシー)を踏まえ、授業設計、教材作成、実習の振り返り、研究支援、学生指導など、教育・研究における多彩な活用法を整理する。AIに思考や判断を委ねるのではなく、「考える力」を育てる支援ツールとして活用するための実践的テキスト。
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生成AIは短期間で,私たちが情報を探し,文章を作り,学び,教える方法を大きく変えました.臨床や医療者教育の領域でも,知識の整理,教材作成,臨床での振り返り,研究の準備や論文執筆など,活用の可能性は広がっています.一方で,もっともらしい誤情報を生むハルシネーション,個人情報・機密情報の漏洩,著作権の侵害やバイアスの再生産,過度な依存,課題や研究の「丸投げ」といった問題は,患者の安全,学習の質,研究への信頼に直結します.だからこそ,医療者に必要なのは,生成AIをただ使えることではなく,その仕組みと限界を理解し,使う場面と使わない場面を自ら判断し,結果に責任をもてる力です.
本書は,生成AIを「禁止するか」「無条件に受け入れるか」という二者択一を超え,安全かつ有意義に活用するための共通言語を届けたい,という思いから生まれました.基本的な仕組み,プロンプトの組み立て方,守るべきルールを土台に,学習・教育・実習・研究の場面へと段階的に進みます.特定のサービスや一時的な機能の紹介に終始せず,技術が変わっても応用できる判断の軸を身につけられる構成を心がけました.すぐに試せる実践例や参考となるプロンプトを示しながらも,AIに答えを任せることは勧めません.まず自分で考え,AIとの対話で視点を増やし,一次資料と照合し,最後は自分で判断する.この往復こそが,生成AIを「思考の代行者」ではなく,「思考を深めるパートナー」に変えると考えるからです.
本書の内容は,多様な専門性と実践をもつ仲間との対話から形になりました.鋪野・髙橋・近藤・榎本の各先生とは共同研究を通して,医療者教育と生成AIを結ぶ可能性と課題を検討してきました.また,児玉・榎本・坂・中神・杉下・恒川の各先生とは,私たちが通称「永井研」と呼ぶ学び合いの場で,看護領域における生成AIの利活用と教育・研究について議論を重ねてきました.その積み重ねが,本書の随所に息づいています.心より感謝申し上げます.
生成AIの性能やサービスは,これからも変わり続けます.しかし,出力を鵜呑みにせず,根拠を確かめ,わからないときには相談し,人にしか担えない倫理的判断と説明責任を手放さないという原則は変わりません.本書が,医療系学生,医療者,教育者,研究者の皆さまにとって,生成AIとの距離を整え,自分の専門性をより深く発揮するための羅針盤となれば幸いです.
2026年9月
永井 翔
目次
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序
第1部 基礎編:生成AIを安全に使うための基本ルール
第1章 生成AIの基本
1 生成AIの基本的な仕組み
2 医療系の学習で生成AIを使うメリットと注意点
3 主要な生成AIサービスの特徴と選び方
4 AIで実施してよいこと,してはならないこと
第2章 効果的なAIへの質問:プロンプト入門
1 プロンプト
2 マークダウン記法
3 プロンプトの基本型:役割,課題,出力形式(RTF)
4 安全な質問の作り方(SAFEの原則)
第3章 生成AI利用のルールと禁止事項
1 絶対禁止の使い方
2 確認を要する使い方
3 比較的利用しやすい学習支援(所属機関のルールに従う)
第4章 プライバシーとセキュリティの基本
1 個人情報を守るポイント
2 匿名化と情報の安全な取り扱い
3 海外サーバーへのデータ送信(越境移転)の注意点
4 個人情報保護の基本
5 病院・実習先でのAI利用とルール
第5章 生成AIリテラシーの基本
1 生成AIの限界
2 情報の正確性の確認(ファクトチェック)
3 プロンプトインジェクションとその対策
4 生成AIと学術的誠実さ
第6章 知っておくべき法律と制度
1 著作権とAI
2 医療機器プログラム(SaMD)と汎用生成AI
3 医療現場でのAI利用の現状と課題
4 教育・学習目的におけるAI利用の注意点
第2部 教育編:授業に生成AIを取り入れてAIリテラシーを育てる
第7章 授業準備での活用法
1 生成AIを授業準備に取り入れる前に考えること
2 授業計画立案の支援
3 教材作成の支援
4 模擬症例作成の支援
第8章 課題・評価設計での活用法
1 生成AIを課題・評価設計に取り入れる前に考えること
2 試験問題作成のAI支援
3 レポート・課題設計の支援
4 授業でのAI利用ルールの設定と運用
第9章 学習者のAIリテラシーを育てる
1 AIリテラシー指導の前に考えること
2 医療系教育に特有の情報リスクと指導
3 AI出力に対する批判的評価力を育てる
第3部 実習編:生成AIで実習の学びを安全に深める
第10章 実習前の準備学習
1 実習の学びを安全に深めるために生成AIを使うには
2 実習の学習目的に沿ったAI活用と安全な質問文の作り方
3 架空症例の作り方と教育利用
第11章 実習中の学習支援
1 実習の経験を一般化して臨床推論を深める
第12章 実習後の振り返り
1 安全な振り返りの方法
2 学習の到達度・定着度のチェック
3 成長課題の発見と学習課題への接続
4 学習計画の作成
5 実習で得た情報を誤って入力した場合の初動対応
第4部 研究編:医学研究・論文執筆での生成AI活用と教育
第13章 論文を読む力を高める
1 論文の要点を理解する
2 論文のデータを適切に解釈する
3 論文と建設的に対話する
第14章 研究準備への活用
1 研究テーマを明確にする
2 研究の問いを整理する
3 文献検索のキーワード選定
第15章 論文作成での適切な活用
1 量的研究での活用
2 質的研究での活用
3 査読や発表で想定される指摘や質疑への対応
4 AI利用の開示方法
5 AIは著者になれない原則(ICMJE基準)
第5部 コミュニケーション編:生成AIとの適切な関係の築き方
第16章 AIの迎合性を踏まえた使い方
1 AIがもつ迎合性
2 迎合の見分け方と対処
3 医療者教育における人間の役割とAIの立ち位置
索引




