看護のためのファシリテーション
学び合い育ち合う組織のつくり方
対話と支援を大切にする「ファシリテーター型リーダー」必読の1冊
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ファシリテーションとは、「人々が遠慮なく発言や参加ができる場をつくり、円滑なコミュニケーションを育むことで、意見や感情のやり取りをスムーズにし、共に学んだり一緒に何かを創ったりする過程を実り多いものに促すための技法」である。本書では、支援型・対話型リーダーによる「人材育成」と「組織開発」を中心に据え、ファシリテーションの理念とスキル・実践を、主に病院の看護師に向けて解説する。
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- 目次
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序文
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はじめに
看護師の皆さんは「本当に素晴らしい」と思います。病気や怪我で病院に行った時,その穏やかな笑顔,優しくもテキパキした声がけや行動に,どれだけ救われたことでしょう。ほっと気が休まるのです。入院してしまった時など,特に用がなくても,看護師さんが回ってきて声をかけてくれるのを心待ちにしている自分がいます。本当に頭の下がる立派なお仕事だなあ,とずっと思ってきました。 患者にはこのように素敵なケアを提供している看護師の皆さんですが,労働環境の現実はなかなか厳しいというのが実情でしょう。不規則な労働時間,予期せぬ事態への対応,人の感情や気持ちという難しいものと向き合う日々。そんな大変な中で,気持ちよく前向きに働き続けるためには,職場環境,特にチーム医療として取り組む多様な職種の人々や身近な同僚やスタッフの人間関係が健やかでないと,かなりつらいことになるでしょう。
看護師長や主任など看護管理者の皆さんは,医療現場で日々直面する幾多の課題に対応する一方で,若いスタッフを育てながら,気持ちや意欲までケアしていくという大変なお仕事を抱えておられるのだと思います。つい頑張り過ぎて自分自身の心身も危うくなってしまうのでは。
そんな大変な現場に,「ファシリテーション」がきっとお役に立ちます。もともと英語の“facilitation”は「促進」「〈事を〉容易にすること」という意味です。そこから発展し,今では「人々が集まって学んだり,何かを一緒に考えたり,創ったりする時に,1人ひとりの多様な思いや知恵や力を認めて活かし,前向きな相互作用を引き出して,お互いに学び合うことを支援する技法」を意味しています。教える側が一方的に知識を伝達する,つまり学ぶ側が聞き続けるのではなくて,学ぶ側が実際にやってみて自分で考え,仲間と話し合うなかで,自分ごととして学びを深めていく場をつくるのです。
つまりファシリテーションをうまく活用すれば,上に立つ人が1人で力んで教えようと頑張り続けなくても,おのずと人々が「学び合い,育ち合う」場が生まれてくるのです。主体的に学び合い,ともに成長していくというのは,人材育成や組織開発の理想的な形でしょう。
主にアメリカで育まれたファシリテーションの技法は,日本では2003年頃から一気に広がってきました。さまざまなワークショップや研修,会議や組織開発などで,そこに集う人々の参加や体験や相互作用を促し,学びや創造を支援するスキルとして,分野を超えて活用されてきました。2003年に設立された「日本ファシリテーション協会(FAJ)」には,ファシリテーションを学び活用する人々が集い,自律分散型の社会を築くべく全国各地で学び合いの場を設けています。
本書には,日本での創成期に『ファシリテーション革命』(岩波書店)を出版した私が,Be-Nature School代表の森雅浩と一緒に2003年から始めた「ファシリテーション講座」の長年の蓄積が詰まっています。多くの方々がここから巣立って行きました。看護師長を務め,看護師の育成に関わっていた浦山絵里は,このBe-Nature Schoolのファシリテーション講座に2006年に参加しました。そしてファシリテーションの持つ豊かな可能性をぜひ医療・看護の世界に活かしたい,という強い志を持ち,彼女なりに研修などに応用してきました。
浦山と医学書院の編集者小齋愛さんとのご縁から,雑誌『看護管理』2014年1月号で特集「『対話』が現場を変える!ファシリテーター型リーダーシップ」を組んだところ,売り切れになるほど大きな反響をいただきました。執筆していた中野と森もそこから看護の世界に関わるようになり,『看護管理』での連載や,「看護のためのファシリテーション講座」を少しずつ積み重ねてきました。今回,この連載や各地での講座の体験をもとに,ようやく本書がまとめられたのは大変うれしい限りです。
第1章「ファシリテーションとは何か」(中野)では,ファシリテーションの概要と,ファシリテーター型リーダーの心得,人材開発や組織開発への活用について述べます。
第2章「看護現場とファシリテーション」(浦山)では,ファシリテーションを,より看護の現場の実際に即してお伝えします。看護管理者にとっての意義や,研修や人材育成にファシリテーションがどう活用できるか説明します。
第3章「ファシリテーションのスキル」(森)では,基本的なファシリテーションのスキルを,3つの基本「空間デザイン」「グループサイズ」「板書」を中心に整理して紹介します。
第4章「企画とプログラムデザイン」(森)では,さまざまな会議や研修を企画する立場の人に役立つ細かなステップを描きます。また実際に筆者がどのように考えてプログラムをつくっているかの過程を詳述します。
第5章「プログラムデザインとファシリテーションの展開例」(浦山・森)では,定例会議や研修など,現場で求められるより実践的な展開例でのプログラムデザインを紹介します。
第6章「ファシリテーションのこころ」(中野)では,ケアする人自身を支えるマインドフルネスなど,ファシリテーターを根源から支える思想や哲学を分かりやすく語ります。
本書は,「学び合い育ち合う場のつくり方」に取り組む全ての方々,つまり対話を大切にした参加体験型の研修や組織開発に取り組む人々に役立つはずです。看護管理者に限らず,より健やかな人と社会を築くために多様な現場で奮闘する方々に,ぜひ本書を手にとっていただけたらと願っています。
まずは自分自身が少し楽になり,そしてその余裕と穏やかさが周囲の人々の内側からの笑顔と元気を引き出し,いつの間にか組織全体が活性化する,そんな奇跡のような相乗効果が起こる一助になることを祈っています。
2020年2月
中野民夫
看護師の皆さんは「本当に素晴らしい」と思います。病気や怪我で病院に行った時,その穏やかな笑顔,優しくもテキパキした声がけや行動に,どれだけ救われたことでしょう。ほっと気が休まるのです。入院してしまった時など,特に用がなくても,看護師さんが回ってきて声をかけてくれるのを心待ちにしている自分がいます。本当に頭の下がる立派なお仕事だなあ,とずっと思ってきました。 患者にはこのように素敵なケアを提供している看護師の皆さんですが,労働環境の現実はなかなか厳しいというのが実情でしょう。不規則な労働時間,予期せぬ事態への対応,人の感情や気持ちという難しいものと向き合う日々。そんな大変な中で,気持ちよく前向きに働き続けるためには,職場環境,特にチーム医療として取り組む多様な職種の人々や身近な同僚やスタッフの人間関係が健やかでないと,かなりつらいことになるでしょう。
看護師長や主任など看護管理者の皆さんは,医療現場で日々直面する幾多の課題に対応する一方で,若いスタッフを育てながら,気持ちや意欲までケアしていくという大変なお仕事を抱えておられるのだと思います。つい頑張り過ぎて自分自身の心身も危うくなってしまうのでは。
そんな大変な現場に,「ファシリテーション」がきっとお役に立ちます。もともと英語の“facilitation”は「促進」「〈事を〉容易にすること」という意味です。そこから発展し,今では「人々が集まって学んだり,何かを一緒に考えたり,創ったりする時に,1人ひとりの多様な思いや知恵や力を認めて活かし,前向きな相互作用を引き出して,お互いに学び合うことを支援する技法」を意味しています。教える側が一方的に知識を伝達する,つまり学ぶ側が聞き続けるのではなくて,学ぶ側が実際にやってみて自分で考え,仲間と話し合うなかで,自分ごととして学びを深めていく場をつくるのです。
つまりファシリテーションをうまく活用すれば,上に立つ人が1人で力んで教えようと頑張り続けなくても,おのずと人々が「学び合い,育ち合う」場が生まれてくるのです。主体的に学び合い,ともに成長していくというのは,人材育成や組織開発の理想的な形でしょう。
主にアメリカで育まれたファシリテーションの技法は,日本では2003年頃から一気に広がってきました。さまざまなワークショップや研修,会議や組織開発などで,そこに集う人々の参加や体験や相互作用を促し,学びや創造を支援するスキルとして,分野を超えて活用されてきました。2003年に設立された「日本ファシリテーション協会(FAJ)」には,ファシリテーションを学び活用する人々が集い,自律分散型の社会を築くべく全国各地で学び合いの場を設けています。
本書には,日本での創成期に『ファシリテーション革命』(岩波書店)を出版した私が,Be-Nature School代表の森雅浩と一緒に2003年から始めた「ファシリテーション講座」の長年の蓄積が詰まっています。多くの方々がここから巣立って行きました。看護師長を務め,看護師の育成に関わっていた浦山絵里は,このBe-Nature Schoolのファシリテーション講座に2006年に参加しました。そしてファシリテーションの持つ豊かな可能性をぜひ医療・看護の世界に活かしたい,という強い志を持ち,彼女なりに研修などに応用してきました。
浦山と医学書院の編集者小齋愛さんとのご縁から,雑誌『看護管理』2014年1月号で特集「『対話』が現場を変える!ファシリテーター型リーダーシップ」を組んだところ,売り切れになるほど大きな反響をいただきました。執筆していた中野と森もそこから看護の世界に関わるようになり,『看護管理』での連載や,「看護のためのファシリテーション講座」を少しずつ積み重ねてきました。今回,この連載や各地での講座の体験をもとに,ようやく本書がまとめられたのは大変うれしい限りです。
第1章「ファシリテーションとは何か」(中野)では,ファシリテーションの概要と,ファシリテーター型リーダーの心得,人材開発や組織開発への活用について述べます。
第2章「看護現場とファシリテーション」(浦山)では,ファシリテーションを,より看護の現場の実際に即してお伝えします。看護管理者にとっての意義や,研修や人材育成にファシリテーションがどう活用できるか説明します。
第3章「ファシリテーションのスキル」(森)では,基本的なファシリテーションのスキルを,3つの基本「空間デザイン」「グループサイズ」「板書」を中心に整理して紹介します。
第4章「企画とプログラムデザイン」(森)では,さまざまな会議や研修を企画する立場の人に役立つ細かなステップを描きます。また実際に筆者がどのように考えてプログラムをつくっているかの過程を詳述します。
第5章「プログラムデザインとファシリテーションの展開例」(浦山・森)では,定例会議や研修など,現場で求められるより実践的な展開例でのプログラムデザインを紹介します。
第6章「ファシリテーションのこころ」(中野)では,ケアする人自身を支えるマインドフルネスなど,ファシリテーターを根源から支える思想や哲学を分かりやすく語ります。
本書は,「学び合い育ち合う場のつくり方」に取り組む全ての方々,つまり対話を大切にした参加体験型の研修や組織開発に取り組む人々に役立つはずです。看護管理者に限らず,より健やかな人と社会を築くために多様な現場で奮闘する方々に,ぜひ本書を手にとっていただけたらと願っています。
まずは自分自身が少し楽になり,そしてその余裕と穏やかさが周囲の人々の内側からの笑顔と元気を引き出し,いつの間にか組織全体が活性化する,そんな奇跡のような相乗効果が起こる一助になることを祈っています。
2020年2月
中野民夫
目次
開く
はじめに
第1章 ファシリテーションとは何か
1.1 ファシリテーションとは何か
1.2 ファシリテーター型リーダー
人々の相互作用を促し,自律や創造を育む支援型のリーダーシップ
1.3 「愛を持って見守る」とは
1.4 人材開発・組織開発とファシリテーション
第2章 看護現場とファシリテーション
2.1 看護管理者とファシリテーション
2.2 看護部門の組織開発とファシリテーション
2.3 看護部門の人材育成とファシリテーション
2.4 看護部門におけるファシリテーターの育成
第3章 ファシリテーションのスキル
3.1 ファシリテーションのスキル 3つの基本
3.2 創造的な話し合いの流れを理解しよう
3.3 流れの中で使うスキル
3.4 ファシリテーターの態度
column ファシリテーションやワークショップに使えるお役立ちグッズ紹介
第4章 企画とプログラムデザイン
4.1 プログラムデザインで変わるファシリテーション
4.2 企画の明確化
4.3 目的・目標を意識した基本要件の確認
4.4 「参加型の場」その意義とプログラムの型
4.5 プログラムデザインマンダラの使い方
4.6 起・承・転・結のねらいを定める
4.7 流れを意識してプログラムを組み立てる
4.8 時間を調整しながら,プログラムの精度を高める
4.9 アクティビティの選択と開発
4.10 進行表を作って,プログラムをさらに明確にしよう
第5章 プログラムデザインとファシリテーションの展開例
5.1 第5章の読み方
5.2 展開例1 「定例会議」 メンバー全員が意見を言い合える会議
5.3 展開例2 「病棟マネジメントチームミーティング」
看護師長と主任の関係性を深め,創造的な病棟運営を促進する場づくり
5.4 展開例3 「参加型研修」
クリニカルラダーレベルII「倫理研修」
column 「参加型研修プログラム」の基本的な流れ
第6章 ファシリテーションのこころ
6.1 想定の保留とマインドフルネス
6.2 ありのままを認め合う
6.3 つながりを取り戻す
6.4 学び合う場のつくり方:本当の学びへのファシリテーション
6.5 やすらぎとひらめきの場づくり
おわりに
索引
著者紹介
第1章 ファシリテーションとは何か
1.1 ファシリテーションとは何か
1.2 ファシリテーター型リーダー
人々の相互作用を促し,自律や創造を育む支援型のリーダーシップ
1.3 「愛を持って見守る」とは
1.4 人材開発・組織開発とファシリテーション
第2章 看護現場とファシリテーション
2.1 看護管理者とファシリテーション
2.2 看護部門の組織開発とファシリテーション
2.3 看護部門の人材育成とファシリテーション
2.4 看護部門におけるファシリテーターの育成
第3章 ファシリテーションのスキル
3.1 ファシリテーションのスキル 3つの基本
3.2 創造的な話し合いの流れを理解しよう
3.3 流れの中で使うスキル
3.4 ファシリテーターの態度
column ファシリテーションやワークショップに使えるお役立ちグッズ紹介
第4章 企画とプログラムデザイン
4.1 プログラムデザインで変わるファシリテーション
4.2 企画の明確化
4.3 目的・目標を意識した基本要件の確認
4.4 「参加型の場」その意義とプログラムの型
4.5 プログラムデザインマンダラの使い方
4.6 起・承・転・結のねらいを定める
4.7 流れを意識してプログラムを組み立てる
4.8 時間を調整しながら,プログラムの精度を高める
4.9 アクティビティの選択と開発
4.10 進行表を作って,プログラムをさらに明確にしよう
第5章 プログラムデザインとファシリテーションの展開例
5.1 第5章の読み方
5.2 展開例1 「定例会議」 メンバー全員が意見を言い合える会議
5.3 展開例2 「病棟マネジメントチームミーティング」
看護師長と主任の関係性を深め,創造的な病棟運営を促進する場づくり
5.4 展開例3 「参加型研修」
クリニカルラダーレベルII「倫理研修」
column 「参加型研修プログラム」の基本的な流れ
第6章 ファシリテーションのこころ
6.1 想定の保留とマインドフルネス
6.2 ありのままを認め合う
6.3 つながりを取り戻す
6.4 学び合う場のつくり方:本当の学びへのファシリテーション
6.5 やすらぎとひらめきの場づくり
おわりに
索引
著者紹介
書評
開く
「プログラムデザインマンダラ」に魅せられて。(雑誌『看護管理』より)
書評者: 渡邊 大地 (株式会社アイナロハ 代表/札幌市立大学 非常勤講師)
◆初めてのオンライン両親学級
私は産婦人科の両親学級講師をしています。2月以降,新型コロナウィルスの感染拡大防止のために,レギュラー講師を務めている産院の学級も,保健センターや自治体から依頼されていた講座も全て中止になりました。それでも妊娠は待ったなしですから,マタニティのご夫婦たちは,突然両親学級受講の道が絶たれてとても不安な思いをされたことと思います。
そこで,自宅のパソコンやスマホから受講できるオンライン両親学級を運営することにしました。初めての試みでしたが,すぐに満席になり,全国に同時にオンライン上でファシリテートするという貴重な経験をさせていただきました。
受講者は自宅でリラックスして受講できるし,私も自宅に居ながらできるしと,よいことづくめで,「なぜ今までやらなかったんだろう?」と思ったくらいです。ただ,予想外だったことは,いつも2時間で開催しているプログラムが,オンラインでは2時間に収まらなかったんです。やり取りにタイムラグが生じてしまうので,リアルな場での学級よりも時間がかかってしまうんですね。
◆「見える化」で課題発見
そこで,初開催後,すぐに取りかかったのが,中野民夫先生がファシリテーション関連のご著書で紹介されていた「プログラムデザインマンダラ」の作成です(「プログラムデザインマンダラ」は『看護のためのファシリテーション』の中でも解説されています)。
これは,自分のファシリテートするプログラムを時間軸に沿って起承転結にゾーン分けするという,プログラムを「見える化」するためのワークです。初めに読んだ時には,「こういうのは頭の中で散々やってるから」と読み流したのですが,あるとき,自身の両親学級プログラムに行き詰まりを感じ,わらにもすがる思いで「プログラムデザインマンダラ」を作成してみました。
すると,自分のプログラムの課題点がいともあっさり浮き彫りになり,同時に,課題クリアの糸口もつかめたのです。私が中野先生の信者(笑)になったきっかけです(弊社には中野先生のご著書が5冊あります)。それからというもの,両親学級だけでなく,講座や講演,自社の社員研修・ミーティングでも,「プログラムデザインマンダラ」を作成してから臨むようになりました。
◆ファシリテートを支える魅力的なワーク「進行表」
今回もそうでした。「時間が足りない」という課題をクリアするためには,まず,何を削るか,または,どこをスピードアップさせるかを考えなければいけないわけですが,削る箇所の目星がついたからといって,そこをばっさりカットすれば済むかというと,そうではありません。削った個所のフォローなどを含め,プログラム全体のバランスを調整する必要が出てきます。「プログラムデザインマンダラ」の出番です。
そのおかげで,2回目以降は2時間の枠でぴったり収まるプログラムを自信を持ってお届けできるようになりました。
課題をクリアして心に余裕ができたので,さっそく中野先生の新著『看護のためのファシリテーション』を読み始めたところ……今度は「進行表」なるたいへん魅力的なワークが登場しているじゃないですか!
私が慌てて「進行表」作成に取りかかったことは言うまでもありません。
(『看護管理』2020年7月号掲載)
ファシリテーターの必読書(雑誌『看護管理』より)
書評者: 内藤 知佐子 (京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻研究員)
待望の『看護のためのファシリテーション』が,ついに出版となりました!
これまで,ファシリテーションを扱う書籍と言えばビジネス書がほとんどでしたが,本書は看護の文脈で書かれているため,大変読みやすい1冊となっています。かつ,長年ファシリテーターとして活躍されてきた3人の先生方のノウハウが余すところなく記述され,読み応えのある全6章となっています。新たにファシリテーターを担う方はもちろん,すでにファシリテーターのご経験がある方にもお薦めできる,対話の場づくりをする人たちの「必須アイテム」と言えるでしょう。
◆ファシリテーターの心構えとは
本書の中には,印象的なフレーズが多く登場します。例えば,中野民夫先生による第1章「ファシリテーションとは何か」の中で,「ファシリテーター8か条」が紹介されています。「フ,ア,シ,リ,テ,イ,タ,ア」の8つの文字で,ファシリテーターの心構えが表現されています。気になりますね?
少しだけご紹介しましょう。最初の「フ」は,「ふらっと現れふらっと去る,オイラは脇役,縁の下の力持ち」とあります。そして解説には,「参加者が主体の場。よい体験が残っても,ファシリテーターのことは忘れるくらいがいい。ちょっとさみしいけど」とのメッセージが。「ちょっとさみしいけど」,この寂しさを乗り越えて学習者のために尽くせる覚悟がないと,「ファシリテーターのリサイタルショーが始まってしまうのだなあ」と自戒も込めて感じました。
そして第2章には,看護師である浦山先生から看護管理者へ寄せる,さまざまなメッセージが書かれています。印象的だったのは「ファシリテーションはコミュニケーションスキルですから(中略),看護管理者が大切にしたいのは,スタッフが自分で選択して決められる場をつくり,実際に行動できるよう支援をすること」という部分です。時間に追われてしまうと,ファシリテーションという名の誘導尋問が始まります。すると学習者は,管理者や指導者が求めている答えを推し量り,返事をするようになります。だから,やらされ感でいっぱいになってしまうのです。
本人も気づいていない学習者の中に潜む可能性や答えをあふれ出させるのが,ファシリテーターの役割。そのためには真の対話,コミュニケーションが必要となります。
◆会議の質を向上させるプログラムデザイン
森雅浩先生執筆の第4章には,「“事前準備”があると会議の質が断然変わります」と,事前準備の必要性が強調され,プログラムデザインの重要性が解説されています。研修準備に時間はかけていたけれど,果たして会議の準備には時間をかけていたでしょうか。COVID-19による影響で,不要な会議の多さに気づいたことは確かです。となれば,今後はより準備を綿密に行わないと,会議や研修に対する不満が高まることは容易に推測できます。
でも,安心してください。本書の第5章には,看護師長会や病棟会議の事例がタイムマネジメントの具体例付きで解説されています。また,第3章には,進行のスキルやお役立ちグッズの紹介もあります。そして,第6章にはマインドフルネスについても書かれているため,この1冊さえあれば,自分の心と身体を整えながら会議や研修に取り組めそうです。皆さんのアイテムに,ぜひ本書を追加してみませんか。
(『看護管理』2020年9月号掲載)
書評者: 渡邊 大地 (株式会社アイナロハ 代表/札幌市立大学 非常勤講師)
◆初めてのオンライン両親学級
私は産婦人科の両親学級講師をしています。2月以降,新型コロナウィルスの感染拡大防止のために,レギュラー講師を務めている産院の学級も,保健センターや自治体から依頼されていた講座も全て中止になりました。それでも妊娠は待ったなしですから,マタニティのご夫婦たちは,突然両親学級受講の道が絶たれてとても不安な思いをされたことと思います。
そこで,自宅のパソコンやスマホから受講できるオンライン両親学級を運営することにしました。初めての試みでしたが,すぐに満席になり,全国に同時にオンライン上でファシリテートするという貴重な経験をさせていただきました。
受講者は自宅でリラックスして受講できるし,私も自宅に居ながらできるしと,よいことづくめで,「なぜ今までやらなかったんだろう?」と思ったくらいです。ただ,予想外だったことは,いつも2時間で開催しているプログラムが,オンラインでは2時間に収まらなかったんです。やり取りにタイムラグが生じてしまうので,リアルな場での学級よりも時間がかかってしまうんですね。
◆「見える化」で課題発見
そこで,初開催後,すぐに取りかかったのが,中野民夫先生がファシリテーション関連のご著書で紹介されていた「プログラムデザインマンダラ」の作成です(「プログラムデザインマンダラ」は『看護のためのファシリテーション』の中でも解説されています)。
これは,自分のファシリテートするプログラムを時間軸に沿って起承転結にゾーン分けするという,プログラムを「見える化」するためのワークです。初めに読んだ時には,「こういうのは頭の中で散々やってるから」と読み流したのですが,あるとき,自身の両親学級プログラムに行き詰まりを感じ,わらにもすがる思いで「プログラムデザインマンダラ」を作成してみました。
すると,自分のプログラムの課題点がいともあっさり浮き彫りになり,同時に,課題クリアの糸口もつかめたのです。私が中野先生の信者(笑)になったきっかけです(弊社には中野先生のご著書が5冊あります)。それからというもの,両親学級だけでなく,講座や講演,自社の社員研修・ミーティングでも,「プログラムデザインマンダラ」を作成してから臨むようになりました。
◆ファシリテートを支える魅力的なワーク「進行表」
今回もそうでした。「時間が足りない」という課題をクリアするためには,まず,何を削るか,または,どこをスピードアップさせるかを考えなければいけないわけですが,削る箇所の目星がついたからといって,そこをばっさりカットすれば済むかというと,そうではありません。削った個所のフォローなどを含め,プログラム全体のバランスを調整する必要が出てきます。「プログラムデザインマンダラ」の出番です。
そのおかげで,2回目以降は2時間の枠でぴったり収まるプログラムを自信を持ってお届けできるようになりました。
課題をクリアして心に余裕ができたので,さっそく中野先生の新著『看護のためのファシリテーション』を読み始めたところ……今度は「進行表」なるたいへん魅力的なワークが登場しているじゃないですか!
私が慌てて「進行表」作成に取りかかったことは言うまでもありません。
(『看護管理』2020年7月号掲載)
ファシリテーターの必読書(雑誌『看護管理』より)
書評者: 内藤 知佐子 (京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻研究員)
待望の『看護のためのファシリテーション』が,ついに出版となりました!
これまで,ファシリテーションを扱う書籍と言えばビジネス書がほとんどでしたが,本書は看護の文脈で書かれているため,大変読みやすい1冊となっています。かつ,長年ファシリテーターとして活躍されてきた3人の先生方のノウハウが余すところなく記述され,読み応えのある全6章となっています。新たにファシリテーターを担う方はもちろん,すでにファシリテーターのご経験がある方にもお薦めできる,対話の場づくりをする人たちの「必須アイテム」と言えるでしょう。
◆ファシリテーターの心構えとは
本書の中には,印象的なフレーズが多く登場します。例えば,中野民夫先生による第1章「ファシリテーションとは何か」の中で,「ファシリテーター8か条」が紹介されています。「フ,ア,シ,リ,テ,イ,タ,ア」の8つの文字で,ファシリテーターの心構えが表現されています。気になりますね?
少しだけご紹介しましょう。最初の「フ」は,「ふらっと現れふらっと去る,オイラは脇役,縁の下の力持ち」とあります。そして解説には,「参加者が主体の場。よい体験が残っても,ファシリテーターのことは忘れるくらいがいい。ちょっとさみしいけど」とのメッセージが。「ちょっとさみしいけど」,この寂しさを乗り越えて学習者のために尽くせる覚悟がないと,「ファシリテーターのリサイタルショーが始まってしまうのだなあ」と自戒も込めて感じました。
そして第2章には,看護師である浦山先生から看護管理者へ寄せる,さまざまなメッセージが書かれています。印象的だったのは「ファシリテーションはコミュニケーションスキルですから(中略),看護管理者が大切にしたいのは,スタッフが自分で選択して決められる場をつくり,実際に行動できるよう支援をすること」という部分です。時間に追われてしまうと,ファシリテーションという名の誘導尋問が始まります。すると学習者は,管理者や指導者が求めている答えを推し量り,返事をするようになります。だから,やらされ感でいっぱいになってしまうのです。
本人も気づいていない学習者の中に潜む可能性や答えをあふれ出させるのが,ファシリテーターの役割。そのためには真の対話,コミュニケーションが必要となります。
◆会議の質を向上させるプログラムデザイン
森雅浩先生執筆の第4章には,「“事前準備”があると会議の質が断然変わります」と,事前準備の必要性が強調され,プログラムデザインの重要性が解説されています。研修準備に時間はかけていたけれど,果たして会議の準備には時間をかけていたでしょうか。COVID-19による影響で,不要な会議の多さに気づいたことは確かです。となれば,今後はより準備を綿密に行わないと,会議や研修に対する不満が高まることは容易に推測できます。
でも,安心してください。本書の第5章には,看護師長会や病棟会議の事例がタイムマネジメントの具体例付きで解説されています。また,第3章には,進行のスキルやお役立ちグッズの紹介もあります。そして,第6章にはマインドフルネスについても書かれているため,この1冊さえあれば,自分の心と身体を整えながら会議や研修に取り組めそうです。皆さんのアイテムに,ぜひ本書を追加してみませんか。
(『看護管理』2020年9月号掲載)
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