組織の力学
パワーを掌(つかさど)る
成功し続けるための組織行動論

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「なぜ、人は動かされるのか?」「成功し続けるリーダーと〈脱線〉するリーダーは何が違うのか?」「人や組織は本当に変えられるのか?」「リーダーたちはなぜパワーを手放せないのか?」──リーダーとして自身のパワーを増強し、組織の中で影響力を発揮し続けるために、何を考え、どう行動すべきか。コンサルティングファームに長年従事し経営大学院で教鞭を執る筆者がすべてのリーダーたちに贈る、パワーと影響力の要諦書。

シリーズ 看護管理まなびラボBOOKS
髙岡 明日香
発行 2024年10月判型:A5頁:232
ISBN 978-4-260-05740-0
定価 3,080円 (本体2,800円+税)

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  • 序文
  • 目次

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はじめに

 組織の中で、リーダーが「パワーを掌(つかさど)る」うえでの要諦はどこにあるのでしょうか。
 誤解のないように補足すると、ここで言う「パワーを掌る」とは、上の立場から不健全なパワーを振りかざして相手を威圧するというネガティブな意味合いではなく、健全なパワーを適切に行使するというものです。パワーを掌る、すなわち、組織の力学を適切にマネージしながら個人の強みを発揮し影響力を行使するためには、何が要件となるのでしょうか。

 多くの方がまず思い浮かべるのは、知識や技術を高めて圧倒的に仕事で成果を出すという能力面(ハードスキル)での解決策かと思います。もちろん、リーダーが成果を出し続けることは重要です。が、本書では、こうした能力面ではなく、あえて対人面(ソフトスキル)の打ち手に焦点を当てています。
 なぜなら、能力面については、学校や職場のOJTなどで鍛えられ、スキルを身につけていく機会が多くあるのに対して、対人面については、一様に学ぶ機会があるとは限らず、理解度や習得度に差が出やすい領域だからです。ゆえに、ある日気づくと、組織の中で感度の高い人たちだけが知識やスキルを身につけているという状況に陥っていることも少なくありません。実績を上げて組織の中で大きな役割を担うようになったにもかかわらず、対人面に難があるために、結果としてそれが原因で、ある時突然、順調なキャリアから脱線してしまうエグゼクティブも少なくありません。
 また、人が集まる組織においては、パワーを持つ者(パワーホルダー)が大きな影響力を発揮しやすく、持たざる者はひたすらパワーホルダーの受け手(レシーバー)になってしまうリスクがあります。そうしたリスクを避けるために、「組織に存在するパワー」と、組織においてそうした「パワーが発揮されるメカニズム」を理解しておくことが肝要です。これらは、対人面の課題を克服するうえで、リーダーがあらかじめ留意すべき文脈とも言えるでしょう。
 本書は、組織におけるさまざまな対人面の課題や摩擦、齟齬や衝突を乗り越え、組織の中で効果的に影響力を発揮するために、リーダーとして「何を考えどう行動すればよいのか」という問いに答えることを目的としています。そしてこの問いを解決するためには、パワーを掌ることが必要不可欠なのです。

 私は長らく、社長指名、経営者・経営層の評価・選抜・育成を生業としながら、自身も管理職として組織を率い、並行して経営学者(博士)として学術的な研究を積み上げてきました。現在は、米国で研究を続けながら、日本のビジネススクールにおいて、パワーと影響力、リーダーシップ、そしてコーポレート・ガバナンスに関する授業を担当しています。
 ただ、ビジネスの世界にいた22年間を振り返ると、仕事そのものにはいつも恵まれたものの、対人関係に悩み傷つき落ち込むといった不毛な時間が時々にありました。当時の日記には、「組織の階段を上がるために、どこまで強くならなければいけないのか」といった言葉が並んでいます。
 のちに、組織行動論を皮切りに組織心理学や社会心理学、組織社会学、経営学を学ぶにつれ、過去の自分の思考や言動のまずさや摩擦の原因を理解し、これらの学問をもっと早くに学んでいれば、あんな失敗やこんな寄り道やそんなはた迷惑をかけなくても良かったのでは……、仕事だけにもっと集中できたのでは……、と地団太を踏んだものです。
 ですから本書では、そうしたこれまでのキャリアにおいて私が実際に経験してきた多くの失敗や少しの成功、またその後の研究生活から得られた成果などもご紹介します。

 本書の構成は、組織に存在するパワーに関わる学術理論と実践的な手法の両面からアプローチする形にしています。これは、読者の皆さまが、普遍的な理論をふまえたうえで実践法を理解されることで、より多様な難局を乗り越える際の再現性と精度が高まると考えるからです。
 第1部「パワーの理論」では、組織に存在するパワーの正体を解明するために、組織行動論をベースに、組織心理学や社会心理学、組織社会学、経営学などの学問領域を横断しながら、その定義と理論をご紹介します。
 第2部「リーダーシップ理論」では、パワーを行使する「リーダー」に焦点を当てます。というのも、リーダーはまず前提条件として、効果的なリーダーシップを発揮したいものです。そのために、リーダーシップ理論の歴史的な変遷と、現代のリーダーに期待される主な理論について概説します。すなわち、第2部は、リーダーがリーダーシップという影響力を発揮するための基本編となります。
 そして、リーダーにとっての応用編は、第3部の「パワーの行使」です。この部では、リーダーがパワーと影響力を効果的に発揮する上での実践法について、最新の知見をご紹介します。「ボス・マネジメント」や「部下マネジメント」といったステークホルダー(利害関係者)別の手法から、「コンフリクト・マネジメント」というテーマ別の手法、そして、リーダー自身が自己変容し続けるための手法を見ていきます。
 第4部「パワーの委譲」では、リーダーのキャリア後半におけるテーマに移ります。リーダーが、自身の後継者計画をどのように設計し実践していくか、そして自身のパワーをどう適切に手放していくかについて、私のこれまでの社長指名業務における経験も交えながら議論します。さらに、社長交代によって企業の明暗が分かれた実例もご紹介します。
 全体を通して、リーダーが、その成長期・成熟期のみならず、衰退期に至るまで、長いキャリアの中で直面する広範なテーマを扱っています。ひとときの成功でなく、成功し続けていくうえでの肝を解明することを目指しているからです。ゆえに、幅広いテーマを包含する組織行動論の中にあって、本書は特に、「リーダーが成功し続けるための組織行動論」に焦点を当てています。

 本書を読み進めていただくと、読者の皆さまの心の中でも、これまでの経験を思い出してはっとしたり、身につまされたり、過去の失敗の原因に気づいて苦しくなったりといった、さまざまな引っ掛かりや刺激が生じると思います。そういったポイントは、時の流れとともに変わりゆくと思います。皆さまの役職がさらに上がり、責任が大きくなるにつれて、以前とは異なるテーマに反応されると思います。ですから、本書をぜひ手元に置いていただき、折にふれ読み返してみてください。きっと、その時々で異なる気づきがあると思います。

 本書は、あらゆるリーダーや組織人にとってのパワーの使い方について論じたものです。ですから、医師や看護師などの医療従事者だけでなく、自身のパワーを掌ることでさらなる影響力を発揮したい社会人、そしてその予備軍の学生まで、幅広い読者にとって有用であると確信しています。本書が、皆さまの今後の長いキャリアにおける「転ばぬ先の杖」としてお役立ちできるように願っています。

 2024年8月
 髙岡明日香

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はじめに

第1部 パワーの理論
 第1章 脱線研究
 第2章 人が動かされるメカニズム
 第3章 パワーの源泉
 第4章 組織で生じるさまざまなパワー 研究の変遷
 第5章 不健全なパワー

第2部 リーダーシップ理論
 第1章 リーダーシップ理論の変遷
 第2章 倫理的なリーダーシップ
 第3章 ナルシシスティック・リーダーシップ
 第4章 女性リーダーが避けるべき、とるべきリーダーシップスタイル
 第5章 レベル5・リーダーシップ

第3部 パワーの行使
 第1章 影響力の武器
 第2章 ボス・マネジメント(上司マネジメント)
 第3章 部下マネジメント
 第4章 コンフリクト・マネジメント
 第5章 自己変容[基本編]──リーダーシップ・タイムラインアプローチ
 第6章 自己変容[応用編]──夢を叶える最後の手段:変革を阻む免疫機能

第4部 パワーの委譲
 第1章 後継者計画
 第2章 後継者計画のプロセス
 第3章 後継者計画のケーススタディ
 第4章 パワーを手放す

おわりに
引用・参考文献
索引