摂食嚥下障害学 第3版
言語聴覚士をめざす学生が摂食嚥下障害学を学ぶ最初の教科書
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令和6年「言語聴覚士学校養成所指定規則」改正を踏まえ改訂。摂食嚥下障害学の理論・技術を網羅かつ体系化した標準的な教科書。今版では診断・治療のプロセスの理解をより重視する構成に刷新した。本書の強みは、成人領域はもちろん、小児領域の解説がくわしいことであり、臨床家にも役立つ。臨床実習や卒後の臨床現場の橋渡しになる事例、検査やスクリーニングなどの動画も収載した。
*「標準言語聴覚障害学」は株式会社医学書院の登録商標です。
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第3版の序
摂食嚥下障害をめぐる臨床と教育の環境は,近年大きく変化した.超高齢社会の進行に伴う支援対象者の増加,小児領域への関与の拡大,そして多職種連携の深化など,言語聴覚士に求められる知識と技術はますます高度化している.こうした社会的要請に応えるべく,2024年には言語聴覚士養成課程の指定規則が改正された.これは,1997年の言語聴覚士法制定以来,初めての指定規則改正であり,教育内容や臨床実習の在り方を大幅に見直すものであった.本書はこのたび,この新たな教育体系に即し,現代の臨床に求められる実践的視点を反映することを目的として改訂を行った.
わが国は世界に類を見ない速度で高齢化が進んでおり,嚥下機能の低下に起因する誤嚥性肺炎,低栄養,フレイルといった課題は,医療・介護の枠を超えて社会全体の問題として認識されるようになっている.摂食嚥下障害への支援は,単なる機能訓練にとどまらず,個人の尊厳や「食べる喜び」を守る行為でもある.言語聴覚士は,その中心的専門職として,高齢者のQOL(生活の質)を支える役割を担っている.今後は,評価・訓練技術のみならず,栄養,口腔衛生,呼吸,認知機能,生活環境を統合的に理解し,チームの一員として包括的支援を展開する力が求められる.
一方で,摂食嚥下障害は高齢者だけでなく,小児領域でも重要な課題となっている.近年,新生児期からの医療的管理や先天性疾患,発達障害,医療的ケア児の増加により,摂食嚥下機能の発達や食行動の支援を必要とする子どもが増えている.小児の「食べる」行為は,栄養摂取のみならず,発達,社会性,コミュニケーションと深くかかわっており,言語聴覚士の関与が強く求められるようになっている.このように,摂食嚥下障害の臨床は,乳幼児から高齢者までの幅広いライフステージを対象とする総合的な支援へと発展しつつある.
第3版の改訂にあたっては,こうした時代的変化と教育改革をふまえ,理論と臨床の双方を有機的に結びつけることをめざした.基礎的な解剖生理,病態理解,評価・治療技法に加え,実際の臨床場面を想定した症例学習を充実させ,実践力の育成を重視している.さらに,初版・第2版の特徴でもある小児領域の充実を踏襲しつつ,前版までにはなかった新しい試みとして,QRコードによる動画閲覧機能を導入した.嚥下評価や訓練手技,介入時の工夫など,紙面だけでは伝えきれない微細な要素を映像で確認できるようにしている.これにより,臨床現場の実際をよりリアルに理解し,学修効果を高めることが期待される.
また,本3版では,今後の10年・20年を見据え,摂食嚥下障害領域を牽引する新世代の臨床家・教育者・研究者の方々を執筆者に迎えた.経験豊富な指導的立場の専門家と,新たな視点をもつ若手執筆陣が協働することで,実践的側面と学問的展望の双方を兼ね備えた内容となっている.教育現場でも臨床現場でも活用できる「実践の書」として,そして未来の専門職育成に資する教材として,本書を位置づけている.
本書が,言語聴覚士を志す学生,そして臨床の第一歩を踏み出して間もない言語聴覚士にとって,確かな学びと実践の橋渡しとなり,患者さんやご家族,多職種のチームとともに「食べる喜び」を支える専門職として成長される一助となれば幸いである.最後に,本書の改訂にあたり,多大なご尽力をいただいた医学書院医学書籍編集部ならびにご関係の皆様に心から感謝申し上げる.
2025年11月
編集
倉智雅子
兼岡麻子
中村達也
目次
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第1章 摂食嚥下機能
1 発達と成熟
1.摂食嚥下機能の発達と成熟
2.正常な嚥下
2 加齢
1.加齢に伴う変化
第2章 成人の摂食嚥下障害
1 はじめに
2 運動障害に伴う摂食嚥下障害
3 悪性腫瘍に伴う摂食嚥下障害
4 高次脳機能障害,認知症に伴う摂食嚥下障害
5 加齢に伴う摂食嚥下障害──サルコペニア,フレイルとの関係
6 その他
第3章 成人の評価
1 臨床評価
1.評価の流れ
2.情報収集
3.問診
4.臨床評価
5.スクリーニングテスト
2 嚥下内視鏡検査
1.嚥下内視鏡検査とは
2.検査の手順と観察ポイント
3 嚥下造影検査
4 その他の検査法
1.はじめに
2.嚥下CT
3.マノメトリー
4.筋電図
5.超音波
5 情報の統合──臨床推論と介入計画の立案
1.摂食嚥下障害の有無
2.摂食嚥下障害の詳細な病態把握
3.摂食嚥下障害の重症度
4.摂食嚥下障害の予後予測
5.摂食嚥下障害の訓練適応
6.摂食嚥下障害に関するリスクマネジメント
7.ICFに基づく問題整理と介入計画立案
第4章 成人の治療・訓練
1 成人分野の概要
2 言語聴覚士の介入
1.間接訓練と直接訓練
2.脳血管障害
3.神経筋疾患
4.器質性疾患
5.加齢・不活動・認知症
3 外科・薬物治療
1.外科治療
2.薬物治療
第5章 成人の摂食嚥下障害によくみられる合併症
1 はじめに
2 誤嚥性肺炎・窒息・気管切開・吸引
3 低栄養・脱水・非経口栄養
第6章 言語聴覚士に求められる感染症対策
第7章 小児の摂食嚥下障害
1 小児摂食嚥下障害とは
2 早産に伴う摂食嚥下障害
3 脳性麻痺に伴う摂食嚥下障害
4 小児後天性脳損傷に伴う摂食嚥下障害
5 先天性疾患に伴う嚥下障害
6 自閉スペクトラム症に伴う摂食嚥下障害
7 器質性障害(口唇口蓋裂)に伴う摂食嚥下障害
8 食行動症および摂食症に伴う摂食嚥下障害
第8章 小児の評価・スクリーニング・検査
1 臨床評価
1.評価の流れ
2.情報収集・問診
3.スクリーニングテスト
4.臨床的評価
2 機器を使用した検査
3 情報の統合と計画の立案
第9章 小児の摂食嚥下訓練
1 小児摂食嚥下リハビリテーションの概要
1.小児摂食嚥下障害の特性
2 言語聴覚士による摂食嚥下リハビリテーション
1.姿勢へのアプローチ
2.食物形態へのアプローチ
3.摂食嚥下機能へのアプローチ
4.家族支援
5.年代別の課題と対応
3 言語聴覚士の介入──疾患別
1.早産/低出生体重児に伴う哺乳障害
2.脳性麻痺
3.重症心身障害児者(主に経口摂取不可な症例への対応)
4.先天性疾患に伴う摂食嚥下障害
5.自閉スペクトラム症に伴う摂食嚥下障害
6.口唇口蓋裂に伴う哺乳・摂食嚥下障害
7.食物拒否に対する対応
第10章 小児の合併症とリスク管理
1 呼吸器系の問題
2 消化器系の問題
3 てんかん,薬物の影響
第11章 言語聴覚士の役割とチームアプローチ
1 言語聴覚士の基本的な役割
2 言語聴覚と倫理
3 チームアプローチ
第12章 摂食嚥下障害リハビリテーションの課題と展望
参考図書
摂食嚥下障害学の授業プラン
『標準言語聴覚障害学』全10巻の特長と構成
索引
Note一覧
1.乳児嚥下と成人嚥下
2.マンチングと咀嚼
3.嚥下の「期」と「相」
4.残存歯数と咀嚼の関係
5.嚥下と呼吸の協調性
6.口腔機能低下と摂食嚥下障害の関係
7.加齢と嚥下反射惹起ポイントの関係
8.用語の整理:脳血管疾患,脳血管障害,脳卒中の違い
9.脳血管疾患の代表的な症状
10.球麻痺と偽性球麻痺の言葉の由来
11.デバイスを用いた新しい嚥下訓練
12.バキューム嚥下の発見
13.神経筋疾患による摂食嚥下障害を診察するときのポイント
14.臨床倫理的な問題への対応
15.Speech-Swallow Dissociation(SSD)
16.意思表示能力の評価における言語聴覚士の役割
17.TNM分類
18.先行期において視覚的に食物を認知することの重要性
19.「食べたい」と思ってもらうための工夫の重要性
20.アルブミン値が示すもの
21.AIと摂食嚥下リハビリテーション
22.海外の水飲みテスト
23.嚥下造影検査時の被曝
24.側面像と正面像
25.干渉波電気刺激療法
26.健側を利用する嚥下方法
27.liquid intake protocol(LIP)
28.誤嚥防止術・人工呼吸器装着後のコミュニケーション障害
29.嚥下障害が薬物療法の障害となる
30.LSVT® LOUD
31.PS(Performance Status)
32.コホート対応
33.HEPAフィルター
34.N95マスク
35.Pediatric Feeding Disorder
36.出生数の減少と早産児,低出生体重児の増加
37.経口哺乳下の嚥下内視鏡検査
38.脳室周囲白質軟化症(PVL)
39.小児・思春期の低体重(やせ)の評価
40.ARFID患者への5つのかかわり方(AED)
41.国際的な小児摂食嚥下機能評価ツール
42.日本語で利用可能なスクリーニング質問紙
43.食事場面における感覚異常の影響
44.成人嚥下の評価
45.手づかみ食べからスプーン使用への移行過程
46.支持基底面(base of support)
47.支援の対象としての家族
48.口腔ケアの重要性
49.二項関係
50.三項関係
51.ライフステージ別の摂食嚥下障害の特徴
52.感覚過敏と心理的拒否
53.乳児てんかん性スパズム症候群(ウエスト症候群,点頭てんかん)
54.課題特異性,エラーレストレーニング,エラー許容型トレーニング




