看護研究のための文献レビュー 第2版
マトリックス方式
マトリックス方式による文献レビューで論文に精通しよう!
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本書は、ネット検索で比較的容易に論文が手に入るなか、信頼性のおける論文とは何か、そして徹底した文献レビューのやり方とその意義を丁寧に記している。マトリックス方式で文献レビューを行うと、どんな研究が誰によってどこまで行われたのか、また十分解明されていないことはあるのか、など深く研究論文を理解できる。情報が氾濫する時代に、文献を鵜呑みにせずに批判的に読み込めるようになるための必読書である。
著 | Judith Garrard |
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訳 | 安部 陽子 |
発行 | 2025年03月判型:B5頁:224 |
ISBN | 978-4-260-05781-3 |
定価 | 3,300円 (本体3,000円+税) |
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序文
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訳者の序/まえがき
訳者の序
本書は,保健科学分野の文献レビューの実践的かつ実用的な方法を説明した『Health Sciences Literature Review Made Easy: The Matrix Method』(原書)第6版の翻訳です。前版は原書第3版を翻訳したもので,その原書第3版の翻訳を出版してから13年後に,改訂する機会をいただき,大変うれしく思っています。
私が原書と出会ったのは,ミネソタ大学看護学部の博士後期課程で文献レビューに取り組んでいたときでした。研究テーマは「職場のいじめ」(workplace bullying)(!)でした。そのころは,パワー・ハラスメント等の概念が社会に浸透しておらず,まず,自分が興味をもっている現象が何と呼ばれているのかを明らかにする必要がありました。そのため,検索する文献のキーワードをどのように設定するか,「bullying」ではない似た言葉で実施されている研究をどこまで文献レビューに含むのか,に悩みました。眉間にしわを寄せながら1本ずつ学術雑誌掲載論文を調べる私を見て,指導教官のハンセン先生は「キスをすると王子様になるか,1匹ずつカエルをテストしているみたい」と笑いながらおっしゃっていました。そのとき,参考にしたのが,原書の第3版でした。
ガラード先生が原書に記述なさっている通り,文献レビューは直線的なプロセスではありません。3歩進んで2歩下がる(1歩は進んでいる!)といった紆余曲折のプロセスです。私は,その後,試行錯誤しながら,文献レビューの目的を,①職場のいじめはどのように測定されているか,②職場のいじめの発生率はどの程度か,③職場のいじめに関連する要因は何か,に決めました。「測定方法」「発生率」「先行要因」「結果要因」をマトリックス方式の列トピックとして設定し,これらのトピックのための列をExcelファイルに作成し,学術雑誌掲載論文の情報を整理しました。文献レビューには質的研究の学術雑誌掲載論文も含まれていました。すると,①職場のいじめの測定方法は大きく分けて2種類あること,②職場のいじめの発生率は1.2~88.0%であること,③年齢,職場環境,業種などが先行要因として,抑うつ状態,病休,離職意図などが結果要因として調査されていることがわかりました。しかし,職場のいじめの関連要因として,私が想定していた要因は調査されていませんでした。さらに,「研究が行われた国」「研究対象」「統計分析」も列トピックとして設定していたため,日本の看護職を対象とした職場のいじめの研究はまだ行われていないこと,多くの研究では会社など組織の部署内の個人といった入れ子状態の研究対象を用いていながら,その特徴が統計分析に反映されていないことが明らかになりました。
研究論文では,問題陳述(problem statement)の記述が重要とされています。問題陳述では今までの研究で明らかにされていないことや十分に調べられていないこと(知識のギャップ)を述べ,だから,自分の研究が必要だと主張しなければなりません。マトリックス方式を使った文献レビューの結果,研究対象,関連要因,分析方法について,知識のギャップがあることがわかり,研究計画書の作成が可能となりました。さらに,学術雑誌掲載論文の精読を通して,引用部分の( )内にある著者名と出版年を見れば「あ,あの論文ね」とだいたいわかるようになりました。
無事に学位を取得し帰国してから,文献レビューの研修を担当する機会があり,受講者に原書を紹介しました。そのときは,まだ,日本語の文献レビューの書籍が少なく,原書の日本語版に関する質問や要望が殺到しました。それが原書第3版の翻訳出版につながりました。
今回翻訳した原書第6版には,文献レビューの実践的かつ実用的な方法だけでなく,研究のガイドラインやメソッド・マップ,ハゲタカ出版業界,総括の書き方が説明されています。記載されたガイドラインは量的研究に関するものですが,本書で紹介されている Enhancing the QUAlity and Transparency Of health Research(EQUATORネットワーク)には,質的研究のガイドラインも掲載されています。ぜひ,参考になさってください。ハゲタカ出版業界のことは,研究者として身を守るために知っておかなければならないと考えます。また,総括の書き方の詳しい説明は文献レビューのまとめの参考となるでしょう。
原書が私の学位論文作成に役立ったように,みなさまの学位論文作成や学術雑誌論文執筆に本書が役立つことを心より願っています。
最後に,本書の出版のために尽力くださった医学書院看護出版部4課の藤居尚子さん,制作部2課の彼島瑞生さんに感謝いたします。
2025年3月
訳者 安部陽子(きよこ)
まえがき
「看護研究のための文献レビュー:マトリックス方式」の目的,範囲,焦点は,本書の初版から変わっていない。その目的,範囲,焦点は以下のとおりである。
- 目的:本書の目的は,文献,とくに保健科学分野の科学文献をレビューするための実践的で実用的な方法を説明することである。読者は引き続き,文献のレビューを行う方法について,実践的,段階的な一連の指導を必要とする大学院生や専門職の学生である。それが本書の基本的な目的である。
- 範囲:本書は,入学したばかりの学生から職場で働いている医療専門職までを対象としている。文献レビューの実施方法は,公衆衛生学,看護学,歯学,医学,薬学,獣医学,関連する保健科学分野を含めた,すべての主要な医療専門職に適用される。また,本書は,教育学,教育心理学,心理学,デジタル・ヘルス学(訳者注:情報通信技術等を活用したヘルスケア学),社会学,ヘルス・ツーリズム学,環境工学など,人間や動物の健康に適用される他の分野の専門職にとっても有用である。
- 焦点:本書で焦点を当てているのは,実践的な適用である。私の目標は,実際に文献のレビューを行い,ナラティヴ形式による総括を準備するための方法を確立することであり,引き続きそうであり続ける。
今版では,章ごとの改訂が行われ,全体的に新しい内容に再編成されている。以下はその具体的な内容である。
- 最も整理されたユーザー・フレンドリー版:これまでで最も整理され,最も使いやすくなっていることが特徴である。あなたが,マトリックス方式を初めて学ぶ学生,マトリックス方式を教える経験豊かな教員,または,自分の論文を発表する研究者の,誰であったとしても,構成と使いやすさが重視されていることは,とくにあなたによい結果をもたらすだろう。 教育心理学の博士号と過去50年にわたる教育経験から,私は読者が実際にその章を読む前に構成や内容を予測できれば,学習過程が容易になり,教材の活用能力が高まることを確信した。そこで,本書を作成するにあたり,私が目指したのは,次のような方法である。
- 経験豊かな教師陣の協力:今回の改訂は,旧版についての標準的アンケートに答えてくれた教育者の評価と,今後への助言を読むことから始まった。この(私にとっての)匿名の協力者は,ジョーンズ・アンド・バートレット・ラーニング社(Jones & Bartlett Learning)の私の編集者であるティナ・チェン(Tina Chen)によって集められた。私たちは協力者の回答について詳しく議論した。私はそのあと,(彼らの許可を得て)協力者の一部と,他の教員や学生たちに,彼らが推奨する内容の詳細についてインタビューを行った。その後,短期大学の図書館の司書や館長にも,学生が自分の大学でアクセスできる資源についてインタビューを行った。私は,図書館が主要な書誌データベースを提供しているか(提供していた),文献管理ソフトウェアを提供しているか(提供していた!),施設内で無料の授業を提供しているか(やはり提供していた!),についてとくに知りたかった。
- 前版(原書第5版)を引用している論文の文献レビュー:ミネソタ大学生物医学図書館の Web of Science(ウェブ・オブ・サイエンス)という書誌データベースを使い,保健科学分野の査読付き文献で,前版を引用している科学論文を入手し,すべての論文を読んだ。私の目的は,本書の最新版で説明されているマトリックス方式を,論文執筆者が用いているかどうかを判断することであった。専門分野の範囲・地理的広がり,マトリックス方式の使われ方を確認できたことは,とても刺激的であった。論文の中でレビュー・マトリックスとPRISMAフローチャートは科学的に適切な方法で使用されていた。
- 各章のアウトライン:この11か月の作業の約半分をかけて,私は新版の各章のアウトラインを作成した。これは私にとって新しい方法であった。その結果,各章の構成をよりよく,一貫したものにするにはどうしたらよいか,どの部分が欠如しているか,とくにどの部分を修正する必要があるか,などを知ることができ,大変勉強になった。これらのアウトラインは,指導者や学生にとって貴重な資源となる。そしてアウトラインは,この版に付属する Navigate Companionウェブサイトからダウンロードすることができる(日本語版では割愛している)。
この3つの取り組みを経て,今版ではどのような成果があったか? 改訂内容は以下の通りである。
- 章の目的と論点のアウトライン:各章と付録は,目的の説明で始まる。その後に主要な論点の説明が行われる。
- 基本的な概念の定義とフォルダや内容の利点:読者は,いつでも各章の最初のページに戻って,その章で説明された基本的な概念の定義と,フォルダや内容の利点を参照できる。
- 本書の論点の確認:章の目的の説明の直後に,その章の簡単な,論点のアウトラインが置かれている。この構成は,第1章から第9章まで同じである。
- キャロラインの冒険旅行:「キャロラインの冒険旅行」は,第1章から第9章までの各章の最後にある。この節により,マトリックス方式を学ぶ上での実践的な体験ができるようになっている。マトリックス方式に関するキャロラインとディッカーソン教授の会話について,やや基本的だと考える読者がいるかもしれない。しかし,会話の根底にある疑問はすべて,長い間に,私の授業で大学院生が提起したものである。「キャロラインの冒険旅行」には,新しい情報が提供されている。したがって,この節を読むために時間を使う価値はある。
- 本章の学習内容の確認:この節は,第1章から第6章に置かれている。
今版では他に何が新しくなったか?
- 新しく追加された内容:旧版と同様,新しく開発されたものに重点が置かれている。この意味では,前版では大きな方向転換が行われた。今版では,ハゲタカ出版業界(第3章)と,総括の初稿の書き方(第6章)に関する,2つの全く新しい節が設けられた。本書では,旧版にあった新しい論題の内容はすべて,原版または改訂版の形で収録されている。
- デジタル・アドレスの更新:ウェブ上のアドレスやURLは,旧版と同様,今版印刷時にすべて最新のものに更新した。索引を改訂し,新しい題材を追加した。
- 以前の資料:アクセスできない資料,削除された資料,改訂された資料を除き,旧版の内容をすべて収録している。
本書の感想をメールで送っていただけるとうれしい。宛先はjgarrard@umn.eduである。
目次
開く
第1部 文献レビューの基礎
第1章 はじめに
本章の目的
文献レビューとは?
リサーチ・シンセシスの分野とは?
リサーチ・シンセシスにおけるガイドラインと基準とは?
保健科学ガイドラインのその他の展開とは?
マトリックス方式とは?
レビュー・マトリックスとは?
第2章から第9章と付録の概要
キャロラインの冒険旅行/過程を理解する
▪ 本章の学習内容の確認
第2章 基本的な概念
本章の目的
原資料とは?
科学論文の解剖図:研究論文の基本構造
メソッド・マップ:文献の方法論的レビュー
キャロラインの冒険旅行/概念を学ぶ
▪ 本章の学習内容の確認
第2部 マトリックス方式
第3章 ペーパー・トレイル・フォルダ──文献検索の計画方法と管理方法
本章の目的
ペーパー・トレイルとは?
ペーパー・トレイル・フォルダの準備方法
ペーパー・トレイル・フォルダの作成方法と使用方法
保健科学分野における書誌データベースの使い方
ハゲタカ出版物,ハゲタカ出版社,ニセ学術集会
キャロラインの冒険旅行/検索を実施して管理する
▪ 本章の学習内容の確認
第4章 文書フォルダ──レビューのための文書の選択方法と使用方法
本章の目的
基礎資料とは何か?
基礎資料下位フォルダの作成方法と使用方法
PRISMAフローチャート下位フォルダの作成方法と使用方法
キャロラインの冒険旅行/文書フォルダを組み立てて整理する
▪ 本章の学習内容の確認
第5章 レビュー・マトリックス・フォルダ──研究文献の要約方法
本章の目的
レビュー・マトリックスとは?
レビュー・マトリックス・フォルダの準備:3つの下位フォルダ
レビュー・マトリックス用の列トピックの作成
レビュー・マトリックスにおける基礎資料の読み込みと要約
キャロラインの冒険旅行/レビュー・マトリックスを構築して使用する
▪ 本章の学習内容の確認
第6章 総括フォルダ──総括の執筆方法
本章の目的
総括とは?
総括フォルダの作成:3つの下位フォルダ
基礎資料の横断的分析
基礎資料の横断的統合
執筆方法:自分自身の経験と他者の経験
キャロラインの冒険旅行/総括を執筆する
▪ 本章の学習内容の確認
第3部 マトリックス方式の活用
第7章 基本フォルダのライブラリ
本章の目的
基本フォルダのライブラリとは?
基本フォルダのライブラリの準備
基本フォルダのライブラリの活用
マトリックス方式の最大限の活用:よくある質問
キャロラインの冒険旅行/自分自身の,基本フォルダのライブラリを作成する
第8章 マトリックス索引システム
本章の目的
マトリックス索引システムとは?
マトリックス索引システムの作成
基礎資料下位フォルダの拡張
効率的に総括を更新する方法
キャロラインの冒険旅行/マトリックス索引システムを使用する
第9章 保健科学分野の専門家によるマトリックス・アプリケーション
本章の目的
マトリックス・アプリケーションとは?
助成金申請書におけるマトリックス・アプリケーション
メタ・アナリシスにおけるマトリックス・アプリケーション
実践ガイドラインにおけるマトリックス・アプリケーション
根拠に基づく医療におけるマトリックス・アプリケーション
キャロラインの冒険旅行/非学術的な状況においてマトリックス・アプリケーションを適用する
付録A 文献レビューに役立つ資源
付録B マトリックス方式のコンピュータ・フォルダの構造
索引