TAKING CARE 看護の知が社会を変える
看護師の持つ大きな可能性、あなたは知っていますか?
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専門職としての知識・技術を駆使して働く職業にもかかわらず、医師の「お手伝い」扱いされることもある看護師だが、実は社会を変える可能性を持つ人々だった。気鋭のジャーナリストが、看護の歴史を紐解きながら、その大きな可能性を魅力的に伝える1冊。語られる物語から、看護が人間社会の根幹の1つであることがわかるだろう。看護師に支えられている社会の一員として誰もが知るべき、看護師のポテンシャルがここに明かされる。
| 原著 | Sarah DiGregorio |
|---|---|
| 訳 | 山下 麻衣 / 藤原 哲也 |
| 発行 | 2025年11月判型:A5変頁:288 |
| ISBN | 978-4-260-06265-7 |
| 定価 | 3,300円 (本体3,000円+税) |
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序文
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訳者・序
なぜ看護師は、これほどまでに過酷な状況のなかで働かざるをえないのだろうか。2019年末から猛威を奮った新型コロナウイルスに感染した患者の看護のために、家族や友人に会えない孤独のなかで、職務を全うしようとする多くの看護師の姿が報道されたことは記憶に新しい。
近現代日本における看護労働を研究してきた者として私には、その姿が過去の歴史と重なって映る。看護は、様々な場面で、あたかも「奉仕」であるかのようにとらえられ、女性が集中しているがゆえ「女性ならではの優しさ」が強調される。看護師の働きは、感謝の言葉で讃えられながらも、「無理をしてでも働くことが看護の本分」とみなされ、労働の過酷さが正当化されてきたのである。
もちろん、戦後期以降、専門職としての看護師の役割は高く評価され、地位も格段に向上した。しかし、コロナ禍における評価や働き方を振り返ると、歴史の中で受け継がれてきた看護師に対する捉え方はいまなお残っているように思われる。
そうしたときに出会ったのが、サラ・ディグレゴリオ(Sarah DiGregorio)氏の『TAKING CARE』である。この本は、看護の歴史を人類の始まりにまでさかのぼって記述し、戦争、宗教、政治といった大きな社会の流れの中に看護を位置づけている。取り上げられたテーマは、働き方、政治参加にとどまらず、終末期医療や薬物依存、気候変動、中絶や避妊といった問題にまで広がっている。こうした幅広いテーマを通して、本書は、看護を「病院における医療の一部」としてではなく、人々の生活にまつわる様々な困りごとに寄り添い、暮らしを支えてきた専門職の歩みとして描いており、読者の心を捉えて離さないだろう。
私が本書の翻訳に取り組みたいと思ったのは、本書が、看護師が果たす役割の重要性を、解決を要する社会的課題や歴史と重ね合わせて、多面的に考えるきっかけを与えてくれると確信したからである。
サラ・ディグレゴリオ氏は、看護師に対して「エール」を贈るだけではなく、看護をめぐる困難や矛盾をも丁寧に描き出している。そのため、単なる看護師の働きに関する賛美や感動にとどまらず、「看護とは何か」をあらためて問いかけてくる。
私たちは必然的に年を重ねる。そして、どのような人であっても、心身の健康を損なう可能性を持っている。本書を読みこむことによって、専門性を基盤とする看護は、生活の質を維持する上で不可欠であるということ、そして、社会的・経済的に適切に評価されるべきであるということを、社会全体で理解し共有するきっかけとなる一冊なのではなかろうか。
2025年10月
山下麻衣
目次
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著者覚書
はじめに
第1章 看護の起こり
看護することは人間であること:歴史を取り戻す
第2章 ヒエラルキー
大きな嘘:基本は女性、常に従属
第3章 アイデンティティ
看護師とは誰か? ケアの権利をめぐる戦時下の闘い
第4章 コミュニティ
図書館、教会の地下室、アパート:日常生活における看護の実践
第5章 終焉
治療の先の看護:ホスピスが約束する革新的なケア
第6章 自己決定権
選択のための闘い:看護師、避妊、中絶についての複雑な物語
第7章 環境
未来を見とおす:気候変動と看護の役割
第8章 依存症
生き続けること:根本的受容は薬物依存治療にどのように役立つか
第9章 集団
私たちは天使ではない:労働としての看護
第10章 看護の力
リーダーシップの発揮:優れた看護師が主導することで社会にもたらすものとは
エピローグ 愛の実践
注
参考文献
索引




