看護教育学 第8版
看護教育のすべてを収めた1冊
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1988年の初版発行以来、看護教育学の最も標準的なテキストとして改訂を重ねてきた本書。第8版では、これまでの内容を整理し、第1部と第2部に再構成した。前版でも言及していた看護基礎教育や看護卒後教育等を新たに章として独立させ、詳述している。加えて、看護教育に関連する最新の法規と制度改正を反映して解説。日本の看護教育の変遷のすべてが分かる1冊となっている。
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序文
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第8版 序
本書『看護教育学 第8版』の改訂に向けた執筆は,2017年4月3日から始まった。そして,その終結は2022年12月であり,第8版への改訂には5年8か月の期間を費やしたことになる。この期間の長さはもちろん想定外のことである。しかし,この間,初版から貫かれている学問としての「看護教育学」への信念を継承しつつ,事実から目をそらすことなく,研究成果に基づく執筆を休むことなく継続して,5年8か月の間,執筆開始当初と同様の緊張感を維持し,ゴールにたどり着いた。
本書は,序章,第1部「看護教育学・総論」,第2部「看護教育学・各論」から構成されている。このうち,第1部は,第1章から第5章を包含し,いずれも看護学教育の基盤となる内容である。また,第2部は,看護基礎教育論,看護卒後教育論,看護継続教育論の3章を包含する。
1988年,本書初版の序に,杉森は次のように述べている。「看護教育学はやっと種をまいたばかりという状態で,学問というには余りにも若い科学である。そのために不確実性に充たされ,さまざまな問題を内包し,究極として何処へたどり着くのか,また着くべきなのかについても模索の段階である」。そこから36年後に出版される本書の構成は,千葉大学大学院看護学研究科,看護教育学専攻の学生,修了生らによる研究の継続により導き出されたものである。その過程を振り返りつつ,第8版の構成を客観視してみると,前述した構成は,学問「看護教育学」の構造と体系を表していると言ってよいように感じている。1988年に不確実性に充たされていると形容された「看護教育学」は,36年間の看護教育学研究の継続とそれに尽力した研究者の力により明瞭な姿を現し,不確実性は払拭されている。
しかし,次のような課題も残されている。本書の第1部「看護教育学・総論」には,看護学組織運営論を組み込む予定であった。しかし,現在,この領域の研究は構想段階にあるため,執筆には至らなかった。構想段階の研究を具現化し,近い将来,研究成果に基づく看護学教育組織運営論を執筆する予定である。また,第2部「看護教育学・各論」第7章は看護卒後教育論である。看護卒後教育に関する看護教育学研究は緒に就いたばかりであり,第7章の充実に向けては,今後さらなる研究成果の累積が必要である。
これらの課題の克服も含め,看護教育学の後継者たちは,看護教育学をどのように発展させていくのか,興味は尽きない。研究の力を信じて,柔軟な思考で軽やかに,恐れることなく現実の中に潜む真理の探究に挑んでいただきたい。
本書の出版に際し,医学書院の北原拓也氏は,本書執筆の機会を獲得し,長期間,あたたかく見守り,完成に向け激励してくださった。また,第8版編集担当の竹内亜祐子氏と制作担当の宮下敦司氏は,細部まで,根気強く的確な支援をしてくださった。心より感謝申し上げる。(舟島)
2023年9月
杉森みど里
舟島なをみ
目次
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序章 「看護教育学」創造への道
I.看護教育学への模索
1 看護教育学の定義とその変遷
2 看護教育学の英語表記「nursing education」の検討と変遷
3 看護心理学,看護社会学などの連字符学問との比較にみる看護教育学の特徴
4 看護教育学に関連する用語
5 学科目「看護教育学」の存在意義
II.看護教育学研究の成果と蓄積
1 拡大する看護教育学研究の領域
2 看護教育学研究進展の契機
3 看護教育学研究,さらなる発展に向けた課題
引用文献
第1部 看護教育学・総論
第1章 「看護教育学」概論
I.看護教育学の定義
II.看護教育学の研究対象と領域
1 看護教育学の研究対象と領域
2 看護教育学研究としての看護実践領域の研究とその発展の方向
III.看護教育学における人間観と教育観
IV.看護教育学の理念
V.看護教育学研究の体系と方法論
1 看護教育学研究の体系
2 4種類の看護教育学独自の研究方法論
引用文献
第2章 看護教育制度論
I.日本の教育制度と看護教育制度
1 日本の教育制度
2 学校教育制度を支える法律
3 看護教育制度
4 学校教育制度としての医師や薬剤師の養成教育制度
II.看護教育制度の沿革とその成り立ちへの影響要因
1 看護教育制度の沿革
2 日本の看護教育制度の成立に影響を及ぼした要因
III.看護教育制度の特徴
1 学校教育制度の領域区分から見た看護師養成教育の特徴
2 看護師養成教育の制度的特徴
IV.大学・短期大学と3年課程の看護専門学校の制度上の差異
V.日本の看護教育制度の向かうべき方向
1 看護の専門職性と看護教育制度
2 1947年以降の進学率の推移
引用文献
第3章 看護学教育課程論
I.用語「教育課程」とその関連用語
II.日本と米国の初等中等教育カリキュラムの動向
1 米国の初等中等教育におけるカリキュラムの動向
2 日本の初等中等教育におけるカリキュラムの動向
III.看護学教育課程の対象
1 成人期の発達と発達課題
2 成人学習者を対象とした教育「アンドラゴジー(成人教育学)」
IV.看護学教育課程の開発と構成(作成,改正,評価)
1 カリキュラムを「作る」ことにかかわる用語
2 カリキュラム編成・実施・評価の基盤となる知識
V.カリキュラム編成の実際
1 第1段階,第2段階の統合が生じる方向づけ段階
2 第3段階の統合が生じる方向づけ形成段階
VI.カリキュラムの改正
1 カリキュラム改正を決定する理論的根拠
2 カリキュラム改正を円滑,かつ適切に進めていくための留意点
引用文献
第4章 看護学教育評価論
I.教育評価の基本的知識
1 評価との関連概念「評点」と「評定」
2 用語「教育評価」の定義
3 教育評価6水準とその対象
4 教育評価の4大機能
5 教育評価の基本形態
6 評価に必要なデータ収集法
II.高等教育の質保証システムとしての評価
1 米国における高等教育機関のアクレディテーションと自己評価
2 日本における大学教育の質評価
III.授業評価
1 授業評価の定義
2 授業過程の評価
3 授業の成果の評価
引用・参考文献
第5章 看護学教育授業展開論
I.授業の定義と過程
1 授業の定義
2 授業の過程としての「教授=学習過程」
II.授業展開を支える知識体系
1 学習理論の源泉となった学習心理学と教育心理学
2 学習理論
3 学習意欲
4 学習のレディネス
III.授業展開を支える基礎知識と看護学教育
1 授業形態の多様性
2 授業形態と1単位ごとの時間数
3 講義・演習・実習
4 授業展開にかかわる用語
5 教材と教具
IV.看護学教育における授業設計
1 授業設計と授業の組織化
2 学習者が「よい授業」と「よくない授業」を決定づける視点
3 授業設計と授業の組織化の実際
引用文献
第2部 看護教育学・各論
第6章 看護基礎教育論
I.保健師助産師看護師学校養成所指定規則にみる日本の看護基礎教育の変遷
1 1915(大正4)年以降の看護基礎教育
2 1947(昭和22)年占領下の改革
3 1951(昭和26)年占領下の改革による看護基礎教育
4 1968(昭和43)年以降の看護基礎教育
5 1989(平成元)年の指定規則の改正
6 1996(平成8)年の指定規則の改正
7 2008(平成20)年の指定規則の改正
8 2020(令和2)年の指定規則の改正
II.WHOが示す看護師・助産師教育機関の基準と指定規則
III.看護基礎教育の到達目標
IV.看護基礎教育と看護学実習
1 看護学実習に着眼した看護師養成教育の類型
2 指定規則にみる看護学実習を表す用語と位置づけの変遷
3 授業としての「看護学実習」
4 看護学実習の教材
5 授業としての「看護学実習」における教授者の存在と授業過程
6 看護学実習における学習活動
7 看護学実習における教授活動──教員と実習指導者の連携──
8 看護学実習の評価
9 看護の専門職性と看護学実習
V.看護基礎教育と看護卒後教育
1 法改正による看護職者の大学院進学機会の拡大
2 看護基礎教育と看護卒後教育の内容の連関
引用文献
第7章 看護卒後教育論
I.看護卒後教育の法的根拠とその特徴
1 看護卒後教育の法的根拠
2 法的根拠から見た看護卒後教育の特徴
II.看護卒後教育機関としての大学院の教育
1 大学院教育の対象
2 大学院の授業
3 大学院における研究指導
III.看護卒後教育と学位
1 博士,修士の学位とその法的根拠
2 日本の看護卒後教育における博士の学位とその種類
3 米国の看護卒後教育における博士の学位とその種類
IV. 看護卒後教育における高度実践看護師の養成
1 高度実践看護師養成に向けた制度の創設とその経緯
2 専門看護師制度
3 日本看護系大学協議会におけるナースプラクティショナー制度
4 高度実践看護師の資格認定
5 日本における高度実践看護師養成の今後
引用文献
第8章 看護継続教育論
I.用語「看護継続教育」の定義
II.看護継続教育にかかわる法律および規定
1 「保健師助産師看護師法」と「看護師等の人材確保の促進に関する法律」と看護継続教育
2 保健師助産師看護師学校養成所指定規則と看護継続教育
3 大学院・大学・短期大学設置基準と看護継続教育
4 日本看護協会定款
5 看護職者の倫理綱領
6 日本看護協会資格認定制度
III.看護継続教育に関連する用語と概念
1 用語「現任教育」,「再教育」,「院内教育」
2 用語「集合教育」と「分散教育」
3 用語「OJT(on-the-job training)」と「Off-JT(off-the-job training)」
4 「FD(Faculty Development)」と「SD(Staff Development)」
IV.看護職者が就業する組織が提供する教育
1 学習ニードと教育ニード
2 院内教育
3 大学に就業する教員の能力開発
V.看護継続教育機関が提供する教育
1 看護継続教育機関
2 看護継続教育機関が提供する公認された教育プログラム
VI.看護職者個々の自己学習とその支援
1 自己学習の基盤となる自己教育力
2 自己学習の習慣化に向け必要な職業活動の自己評価
引用文献
用語解説
付表1 わが国における看護基礎教育機関設置基準比較一覧表
付表2 看護教育制度の沿革(近代看護教育の歴史と教育制度)
付表3 看護師養成教育制度の推移
付表4 わが国における教育課程の変遷(学習指導要領の改訂の特徴を追って)
付表5 看護師学校養成所指定規則の変遷
付表6 改正前後の教育基本法の比較
資料1 日本国憲法
資料2 教育基本法
資料3 学校教育法
資料4 学位規則
資料5 大学院設置基準
資料6 大学設置基準
資料7 短期大学設置基準
資料8 専修学校設置基準
資料9 各種学校規程
資料10 保健師助産師看護師法
資料11 保健師助産師看護師法施行規則
資料12 保健師助産師看護師学校養成所指定規則
資料13 看護師等養成所の運営に関する指導ガイドライン
資料14 看護学教育モデル・コア・カリキュラム──「学士課程においてコアとなる看護実践能力」の修得を目指した学修目標
索引
書評
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時を経て看護教育学の種は実を結び発展した
書評者:亀岡 智美(国立看護大教授・看護教育学)
本書『看護教育学』の初版出版は1988年であり,当時,大学院受験を決意したばかりの評者にとって,その内容は十二分に読み応えがあった。著者(杉森みど里氏)は,その序に「看護教育学はやっと種をまいたばかり」と述べており,そのボリュームは,A5判,全286頁であった。それから36年,第8版は,B5判,全728頁と,明らかにそのボリュームを増した。第8版の文字通りの「重み」は,36年間を通し,著者らが看護教育学の研究に心血を注いだ結果であり,看護教育学の種が芽吹き,根を張り,葉を茂らせ,実を育て,着実に発展してきたことを表す。研究者としてのあり方をこのような形で示してくださっている著者らに,心からの敬意と感謝を伝えたい。
第8版を手にし,すぐに気付く第7版からの変更点は,その構成である。第7版の第1章は,第8版の「序章『看護教育学』創造への道」に引き継がれた。新たな研究成果の加筆とともに,看護教育学発展のための課題が具体的に提起されており,その向こうに,課題に挑み続ける研究者らの姿が見える。また,第7版の第2章から7章は,第8版の「第1部 看護教育学・総論」(全5章),「第2部 看護教育学・各論」(全3章)に整理された。第1部は「看護教育学」概論,看護教育制度論,看護学教育課程論,看護学教育評価論,看護学教育授業展開論を,第2部は,看護基礎教育論,看護卒後教育論,看護継続教育論を含む。
当然のことながら,第8版は,第7版からの内容充実が図られた。それは,研究成果に根ざした新たな知識の加筆,各知識が持つ看護学の実践や教育といった現実社会にとっての意味の解説,そこから見えてくる問題の提起などに及ぶ。第2部 第7章の看護卒後教育論は,第8版で初めて系統的に論述された内容であり,評者は,看護卒後教育に携わる看護学教員として,食い入るようにその内容を読んだ。随所に挿入された新たな図表は,複雑な知識の理解と思考の深まりを促進する。全ての図表が,伝えるべき内容の正確さとわかりやすさを妥協なく追求した結果であることは明白である。
第8版を読むことは,初版から変わることのない「看護教育学」への著者らの信念に触れることであり,「看護学の教育も研究も,その先に看護の対象となる人々を常に見すえて進める必要がある」という大前提の再確認にもなる。
4月,新年度が始まり,評者も,学年が進んだ学生たちへの看護教育学の授業が始まる。本書を傍らに準備を進めつつ,今年度はどのように授業を展開できるだろうかと想像を巡らせるのは楽しい。
保健師助産師看護師学校養成所指定規則は,看護教育学を看護職者になるための必須学習内容とは定めておらず,看護教育学の知識にまだ触れたことのない看護職者も多いと推察する。しかし,看護教育学の知識修得は,全ての看護職者にとって有益である。本書を読むことは,自らを,また看護職者の学習や教育を再考する機会になるに違いない。多くの皆さまが手にされることを願っている。