末梢神経病理
どう作り、どう読み、どう臨床に生かすか

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オールカラーで“美しい”写真を贅沢に収載。標本の作り方から病理所見の解釈、そして病理レポートの書き方まで、臨床現場で活用できる末梢神経病理の考え方をわかりやすく解説。この所見のどこをみるのか、それが何を意味するのか、なぜそう考えるのか、末梢神経病理の要となるロジックがよくわかる。アーチファクトの実例写真や、剖検での末梢神経の検索法まで役立つ情報が満載。

神田 隆 / 佐藤 亮太
発行 2024年05月判型:B5頁:200
ISBN 978-4-260-05620-5
定価 11,000円 (本体10,000円+税)

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序/本書の特徴・謝辞

 『末梢神経病理──どう作り,どう読み,どう臨床に生かすか』をお届けします.この本は,『末梢神経障害──解剖生理から診断,治療,リハビリテーションまで』として筆者(神田,以下同)が編纂し,2022年10月に医学書院から出版した成書の姉妹本です.筆者は末梢神経の病理で医学博士の学位をとったこともあり,この領域とは40年以上の付き合いですが,やっと成書の形で自分の仕事を世に出すことができ,感慨深いものがあります.

 本書は総論,各論,実践編という3つの部分から構成されています.末梢神経生検をどのように行うのか,標本はどうつくるのか,正常な腓腹神経とはどういうものか,出来上がった標本をどう読んでどう考えるかといった基礎を身につける重要性を読者に伝えるべく,総論にはかなりのページを割いています.各論では,代表的な疾患の光顕・電顕像を提示するのと同時に,それぞれの所見の読み方について,筆者が日常的にカンファレンスで行っている思考法に基づいて記載することを心がけました.患者さんの臨床症候,電気生理学的所見,画像所見などと並行して末梢神経病理をみることで,先生方のニューロパチー診療の腕前はぐっと上がること請け合いです.同時に,各論での各種ニューロパチーの写真は,ベッドに寝転がって何も考えずにボーっと眺めていただいてもいいのではないかと思っています.筆者が40年以上末梢神経の病理に付き合っているのも,まずカタチが“美しい”こと,そして,このカタチの背景に何があるんだろうという好奇心が,筆者の研究と臨床の根っこにあるからです.何千枚というスライドの中から代表的な写真を選りすぐりました.末梢神経病理は美しい,と直感的に感じていただけたら望外の喜びです.最後の実践編では,実際の症例を前にしての筆者の考え方を提示し,併せてレポートの書き方の見本を掲載しました.役に立つ生検レポートというのはどういうものか,筆者の考えはここに十分伝えたつもりですが,われわれ2人とも脳神経内科の臨床家で,正式な病理のトレーニングを受けた人間ではありません.いろいろなところで至らない記載もあるかと思います.忌憚のないご意見・ご批判をいただければ幸いです.

 2024年5月
 神田 隆


本書の特徴

 末梢神経を生検することで,ストレートに確定診断に結びつく病気は数えるほどしかありません.アミロイドニューロパチー,血管炎性ニューロパチー(血管炎所見があれば),サルコイドニューロパチー(サルコイド結節があれば),Hansen病,n-ヘキサンニューロパチー……,あまり後が続きませんね.“一目でわかる”典型的な所見だけ,確定診断に必須の写真だけを並べるのであれば,この本は多分今の半分以下の厚さで出版できたと思います.しかし,1枚のトルイジンブルー染色切片の中に盛り込まれた情報は無限大です.この患者さんは今活動性の軸索変性を起こしているのか,軸索変性を起こしているとしたらどこに病変の首座があるのか,有髄線維のミエリンが不整形にみえるがこれからどんな疾患が考えられるか,電気生理の所見と随分ずれているな,全然再生所見がないがこれはどうしてだろうか…….主治医が目の前にいる患者さんの臨床に真剣に向き合うほど,1枚の標本からいろいろなものがみえてきますし,筆者(神田)はこれこそ末梢神経生検の今日的意義だろうと信じています.この本は,先生方の上質な臨床のよき伴侶となるよう,1枚の標本の“どこに注目して”“どのように読んで”“どう解釈するか”ということを主眼として制作しました.掲載する病理写真の数は欲張らず,1ページに2枚を原則として,みやすい,理解しやすい,大きな美しい写真を提示することを心掛けました.

 ここで“美しい写真”と書きました.末梢神経はとてもデリケートな組織です.採取から固定にかけて,細心の注意とともに他臓器の固定過程とは異なる工夫が必要で,この点を疎かにするとみるに堪えない標本が出来上がります.当然ながら,人工産物の重畳した標本ではまともな考察はできません.この本には第6章として,アーチファクトと題した独立の1章を加えました.みるだけで恥ずかしくなるような写真がずらりと並んで,辟易とされた読者の方も多いと思います.しかし,こういう標本は決して珍しいものではありません.東京都内のある有名な病院でもこのような変形の強い標本がつくられ続けていて,びっくりしたこともあります.腓腹神経生検は侵襲的な検査です.患者さんの痛い思いに100%報いるためにも,美しい標本をつくって120%の情報をそこから引き出す,それが私たち臨床家の責務だろうと思います.この本には生検標本の採取から固定までのtipsを詳述しました.是非熟読していただいて,情報のぎっしり詰まった“美しい標本”を作製していただきたいと念願します.ただ,よい末梢神経標本を作製するにはちょっとした“コツ”があります.どうしてもしっかりした標本ができない,とお困りでしたら,是非ご一報いただければと思います.

 この本では剖検検索についてもかなりのページを割きました.腓腹神経生検標本はL4~S2に細胞体を持ち,下肢に伸びる感覚神経(+自律神経節後線維)の1断面をみているだけにすぎません.もちろん,今生きている患者さんでの検索はここにとどまらざるを得ないわけですが,剖検例であればもっと広範に神経根,後根神経節,近位神経から遠位神経までサンプリングが可能で,患者さんの末梢神経障害の全貌を捉えることができます.例えば,腓腹神経標本に軸索変性があっても,これがdying-back process/length-dependent distal axonopathyであるのか,近位部の脱髄による二次的軸索変性であるのか,はたまた後根神経節に病変の首座のあるニューロノパチーであるのか,この標本だけでは結論は出ません.しかし,多数の部位から得られた剖検末梢神経標本を解析することでこの疑問は氷解します.剖検台でいくつもの末梢神経を採取してきれいに固定するというのは並大抵の作業ではありませんが,十分な形態学的バックグラウンドをもって病態が理解できているニューロパチーの蓄積はまだまだ不十分です.不幸にして亡くなった患者さんのご遺志に報いるためにも,是非ニューロパチー患者剖検例の検索を進めていただきたいと念願いたします.また,近年,MRIや超音波などを用いた末梢神経疾患の画像診断が急速に普及してきています.神経のマクロの形態学的変化を捉えることが容易で,この腫れは浮腫である,炎症である,いや線維化をみているだけであるなどの議論が盛んになされていますが,現時点では画像でみえているものの病理形態学的裏づけは十分ではありません.画像診断のさらなる充実のためにも,是非剖検例を基にした末梢神経病理所見の蓄積を期待したいと思います.

謝辞

 本書は神田 隆,佐藤亮太の共著という形で出版しました.総論,各論の各章を2人で分担し,最終的には神田が文章や写真を総括して完成させるというスタイルをとりました.掲載された写真は,神田が山口大学に赴任した2004年以降20年間に蓄積された腓腹神経生検標本からのものを骨子としていますが,広範な疾患が含まれるニューロパチーを対象として,しかも専門書に載せるに堪える美しい写真を,ということになると,とても1施設だけの症例で完結できるものではありません.神田がかつて奉職し,臨床の傍ら末梢神経生検・剖検の実施からレポート作成までを担当していた,東京医科歯科大学脳神経内科と東京都立神経病院の症例も多数使わせていただきました.本書への病理写真の掲載を快く了解していただいた東京医科歯科大学脳神経内科の横田隆徳教授と桑原宏哉講師,東京都立神経病院の小森隆司検査科部長に深く感謝申し上げます.加えて,佐藤が担当となる前に山口大学での末梢神経生検の実務を一手に引き受けてくれていた現関門医療センター脳神経内科の尾本雅俊医師,神田が大学院生の時代から,私の傍らでこの仕事を支えてくれた妻に心より感謝を述べたいと思います.

 神田 隆

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総論
 第1章 神経生検とはどういうものか
   生検の意義
   生検神経の選択
   神経生検の適応

 第2章 腓腹神経生検の手技
   腓腹神経生検
   腓腹神経・短腓骨筋同時生検
   術後の処置と注意点

 第3章 末梢神経の標本のつくり方
   組織固定前に行う神経検体の切り分け
   凍結固定
   ホルマリン固定
   グルタールアルデヒド固定

 第4章 末梢神経の正常像
   神経上膜の構造物
   神経周膜
   神経内鞘の構造物

 第5章 末梢神経の病的変化
   軸索変性(axonal degeneration)
   脱髄と再髄鞘化
   末梢神経再生
   細胞浸潤
   異常蛋白質の沈着
   浮腫

 第6章 アーチファクト
   神経束の変形
   神経線維のアーチファクト
   生物学的アーチファクト
   剖検材料にみられるアーチファクト

 第7章 筋生検と皮膚生検
   筋生検
   皮膚生検

 第8章 剖検での末梢神経の検索
   末梢神経の正常像は部位によって異なる
   剖検腓腹神経の検索は有用である
   末梢神経障害を三次元的に理解する

各論
 第9章 遺伝性ニューロパチー
   Charcot-Marie-Tooth病(CMT)
   遺伝性圧脆弱性ニューロパチー(HNPP)
   遺伝性感覚・自律神経性ニューロパチー(HSAN)
   CANVAS
   アミロイドニューロパチー
   Fabry病
   副腎白質ジストロフィー(ALD)
   Krabbe病
   異染性白質ジストロフィー(MLD)
   脳腱黄色腫症
   タンジール病
   ムコ多糖症II型(Hunter症候群)

 第10章 炎症性/自己免疫性ニューロパチー
   Guillain-Barré症候群(GBS)
   急性自律神経性感覚性ニューロパチー(AASN)
   慢性炎症性脱髄性多発(根)ニューロパチー(CIDP)
   ノドパチー
   MAG抗体陽性ニューロパチー
    [note] 臨床所見,電気生理学的データと末梢神経病理を総合的に考察する

 第11章 内科疾患に伴うニューロパチー
   血管炎によるニューロパチー
   膠原病に伴うニューロパチー
   糖尿病性ニューロパチー
   アルコール性ニューロパチー
   ビタミン欠乏性ニューロパチー
   パラプロテイン血症によるニューロパチー
   POEMS症候群
   サルコイドニューロパチー
   悪性腫瘍に伴うニューロパチー
   ポルフィリアに伴うニューロパチー
   甲状腺疾患に伴うニューロパチー
   先端巨大症に伴うニューロパチー
   尿毒症性ニューロパチー

 第12章 中毒性ニューロパチー
   薬剤性ニューロパチー
   金属によるニューロパチー
   有機化合物によるニューロパチー

 第13章 感染症によるニューロパチー
   Hansen病
   HIV感染症
   HTLV-1感染症
   ライム病
   ジフテリア

 第14章 末梢神経の腫瘍
   神経鞘腫〔シュワノーマ(schwannoma)〕

 第15章 神経変性疾患
   筋萎縮性側索硬化症(ALS)
   多系統萎縮症(MSA)
   Parkinson病
   脊髄小脳失調症(SCA)
   神経核内封入体病
   色素性乾皮症
   Cockayne症候群
   有棘赤血球舞踏病(chorea-acanthocytosis)
   巨大軸索性ニューロパチー

実践編
 第16章 末梢神経生検レポートの書き方
   「I.所見」
   「II.病理学的診断」
   「III.コメント」
   レポートの実例

 第17章 腓腹神経生検標本をどのように読むか
   問題1
   問題1の正解/解説
   問題2
   問題2の正解/解説
   問題3
   問題3の正解/解説
   問題4
   問題4の正解/解説

文献
索引

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病理医にこそ,今読んでほしい一冊
書評者:西村 広健(川崎医大病理学/病院病理部)

 本書を読んだ感想,発刊への感謝を述べるには“1万文字”あっても足りませんので,特に心引かれた[章]を紹介します。

 [第4章:末梢神経の正常像]エポン包埋トルイジンブルー標本に加えて電顕写真もたくさんあり,無髄線維の見え方まで教えてくれます! 血管1つとっても理解が深まりました。

 [第8章:剖検での末梢神経の検索]とにかく衝撃を受けました。「C7の前根ってこうなってんの? Th2は全然違うじゃん!」「近位と遠位の病理の大きな違い」など今後の検索に極めて重要な知識です。

 [第10章:炎症性/自己免疫性ニューロパチー]多くの読者が一番読みたかった内容でしょう。脱髄の現場をリアルタイムで動画を見ているかのように感じる“ダイナミックな写真”です。

 [第11章:内科疾患に伴うニューロパチー]よく知っていたつもりの血管炎でも実は大きな発見がありました(引用論文リストも,とても参考になります)。

 [「実践編」の第16・17章]一般病理診断レポートを毎日書いている私にとって,日々の病理診断を見つめ直すきっかけになりました。

 さて,あまりにも写真がきれいで大きくってわかりやす過ぎるため「これは実際の標本を見ているのと同等,いや,それ以上だ!」と思い,写真の説明や本文を読む前に,まず自分で写真だけみて“病理所見・病態”を推察しながら読み進めました。「だいぶわかるようになってきたぞ」と最終第17章のクイズにたどり着き……。すんません! もう一周,読み直します!(※第2弾として「200問の練習問題集」を出してくれないかなー……。)

 脳神経内科の先生方はもちろん,病理医にも本書を読んで欲しいです。われわれ病理医にとってアンタッチャブルな分野ですが,本書を読めば末梢神経病理の美しさに目を奪われ検索したくなること間違いなし!(自施設の脳神経内科の先生に早速ご相談を)。分子病理診断がメインとなりつつある今日この頃ですが,“電顕写真一発で診断できる!”っていう若い病理医には初めての経験を味わえるかもしれません。本書で末梢神経病理を勉強する中で,日々の病理診断にどう向き合うべきか,病理医にとって参考になるヒントがちりばめられています。ぜひ本書を読破してください(驚くほど「あっ」という間に読み終えてしまいますヨ)。


美しすぎる! 末梢神経
書評者:柿田 明美(一般社団法人日本神経病理学会理事長/新潟大脳研究所教授・神経病理学)

 あえてもはや古くさいコピーをパクってしまいました。

 『末梢神経病理―どう作り,どう読み,どう臨床に生かすか』は,読者にふとこんな感想を抱かせるほど,圧倒的な美しさで迫るニューロパチー診療の実践の書です。

 私たちは知らないことは見えない。でも知るほどに,目の前の事象が内在する意味を深く読み解けるようになるのでしょう。

 本書は,私が尊敬する博学才穎の神田隆先生と,彼のお弟子さんでありこの分野を代表する医学者である佐藤亮太先生との共著です。掲載されている写真は,神田先生が40年以上にわたり取り組んでこられた末梢神経病理標本から選ばれた特に“美しい”秀逸なものばかりです。しかも1ページに2枚を原則に拡大して掲載されています。これってあまり他に類を見ない,とてもぜいたくなレイアウトですよね。圧倒されます。この企画を実現された医学書院さん。著者の意図をよく理解され,よくぞこの良書を世に出してくださいました。

 美しい標本にこだわるのは体裁のためではありません。美しくなければ読み解けない所見,つまり踏み込めない意味があるからです。末梢神経生検は,患者さんにある程度の侵襲を承知していただく検査手技です。検体の取り扱いや標本作製に,末梢神経ならではの特殊な手法も必要です。本書にはそうした手技・手法を実施する際に役立つ,コツやチップスも惜しみなく紹介されています。患者さんからお預かりした標本から,診療に直結する重要な知見を引き出そうとする著者らの並々ならぬ気迫が現れています。

 本書は,総論,各論,実践編で構成されています。

 総論では,腓腹神経生検の手技や標本の作り方,そこから得られる像の読み方や病的変化の意味が,具体的かつ丁寧に解説されています。臨床病理の現場は常に標本のアーチファクトとの戦いでもあります。著者らはこの現実にも真正面から向き合い,章を1つ立て解説しています。剖検の際にも末梢神経を検索することの意義についても詳しく述べられています。読者は総論を読み進むにつれ,次第に標本を読む基礎が身についてくることでしょう。

 各論ではさまざまなニューロパチーが紹介されています。もうここまで読み進めますと,これら美しい標本からいったい何が読み解けるのか,読者はソファーでくつろぎながらクイズを解く感覚で楽しみつつ,疾患の特徴を学習することができるのではないでしょうか。

 実践編では,総論と各論の内容を踏まえ,代表的疾患が問題形式で出題されています。

 末梢神経生検の機会は減っているのが実情です。経験する機会そのものが少ない。そのため,生検が必要とは認識していても実施がためらわれる,そんな状況もやや危惧されるところです。本書は,日本神経学会専門医や日本神経病理学会認定医をめざす先生方はもちろんのこと,末梢神経障害の患者さんを診療する臨床医や病理医にぜひお薦めしたいガイドブックです。冒頭のコピーは,古くさくない,むしろ今知っておきたい末梢神経の本:ニューロパチーが見えるようになる実践の書,の意味を込めたつもりです。


まるで美術書,一級の形態学図譜
書評者:井上 聖啓(福島医大会津医療センター特任教授)

 2022年,神田隆編集『末梢神経障害――解剖生理から診断,治療,リハビリテーションまで』が医学書院から上梓されました。末梢神経疾患を語る上でその組織学的,病理学的知見は論をまたず極めて大切です。それ故に,前著『末梢神経障害』の中でも15ページを割いてそのエッセンスが記載されていました。今回,この部分が180ページに拡大され1冊の本となりました。題して『末梢神経病理――どう作り,どう読み,どう臨床に生かすか』,著者の膨大な経験と知見に基づいた教科書が生まれました。

 「神経生検とはどういうものか」から始まり,標本作成の「手技」,さらに標本作成上の「アーチファクト」,その「正常像」,時に生検時に皮膚,筋まで採取する指南まで含めて,著者自身の生検に対する“考え方と姿勢”がにじみ出る記載に引き込まれます。

 標本の顕微鏡写真はハガキ大で,色彩も自然で焦点もよく合って,これが見開きに4枚並び,その全てが何かを訴えかける写真で,まるで美術書のようでもあります。形態学の図譜としては一級です。

 読者にはまず,総論の約70ページを熟読されることをお勧めします。病理形態学は,時に「絵解き」のような一面があります。本書の写真一つひとつを頭にたたきこむ。目を閉じても写真が浮かぶように何回も時間をかけてよく見る。この姿勢は顕微鏡を見るときにも,さらに患者を診るときにも当てはまることでしょうが,それくらい本書に使われた写真は1枚1枚が見る者を魅了し,自然と脳裏に焼き付くものばかりです。教育的であり,応用が効き,頭にたたき込んでおくに値するものばかりなのです。

 各論では,日常臨床の場で,そうめったには遭遇しない症例も多く取り上げられています。このような疾患を丸暗記して覚えておくことは,味気なく,つらいものですが,神経生検標本の特徴を画像的,視覚的に覚えておけば,より身近なものに感じられるかもしれません。教科書を読んだだけでは疾患概念は単なる知識でしかありません。さまざまな症例を実体験して初めて疾患の本質が記憶されるものです。ですから,この図譜を「見る」という視覚体験を通して記憶してしまえば,しめたものでしょう。これらの写真はどれも美しく,その特徴をとらえきっているからです。

 この本は図書館などで時々見る本ではありません。座右に置いて,時間のあるときに,どの頁でもよいから写真を眺めて,頭に刻み込むことを目的とした書物なのです。

 神田隆,佐藤亮太両先生は,多くの神経疾患を,神経生検を通して身近なものとしてとらえてこられたことと思います。いまその蓄積をこの書籍の中で,私たちの前に公開していただいたことに敬服するとともに感謝する次第です。大いに活用させていただきたいものです。

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