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PT・OT・STのための
これで安心 コミュニケーション実践ガイド 第3版

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好評を博したコミュニケーションテキストの改訂第3版。初版、第2版で読者対象としていたPT・OTに加え、今版から対象にSTを加えている。養成教育で重要とされる「人間関係論」「コミュニケーション論」などの講義に最適のテキストで、臨床実習や卒後の臨床にも役立つ内容である。対人援助者である医療者にとって大切な「人間愛(仁)」「倫理観」「自律性」を基盤にした、コミュニケーション能力を高めるための珠玉の1冊。

山口 美和
発行 2024年03月判型:B5頁:304
ISBN 978-4-260-05351-8
定価 3,300円 (本体3,000円+税)

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推薦のことば/はじめに(第3版)

推薦のことば

コミュニケーション能力を高め,より良い臨床家となるために

 医療職は人と関わり,その人を支援することが仕事です。したがいまして,対象となる人をしっかりと把握し,適切な対応を遂行するために,「コミュニケーション」を欠くことはできません。
 さて,「医療の専門家にとって大切なことは何か」という問いに,皆さんはどのように答えるでしょうか。私は「専門職としての知識・技術の修得」と「対象者のために考える臨床思考能力の向上」の2つをあげたいと思います。前者は基礎知識と最新・最良のエビデンスを修得することですが,専門家として当然の責務であると考えます。一方,後者の「臨床思考」とは,目の前の患者さんのために,最適な科学的根拠とその人の希望・価値観,そして自己の能力などを総合的に解釈したうえで,最善の介入方法を考えることです。これはEBM(根拠に基づく医療)の概念に通じるものであると思いますが,この「臨床思考」のためには,患者さんや他の医療スタッフとの対話=コミュニケーションが極めて大切であると考えています。とりわけ,リハビリテーション専門職の仕事は,治療目標や治療プログラムの立案などの意思決定場面,評価や治療に取り組む場合など,すべての段階において患者さんの協力は必須であり,コミュニケーション能力は欠くことのできない重要な要件となります。
 ところが,多くの臨床家はコミュニケーションの重要性を十分に認識しつつも,その能力を高めるための学びを実践してきたという人は少ないのではないでしょうか。本書は第3版へとブラッシュアップがなされて,「コミュニケーションが苦手」という学生から,患者さんとの関係づくりに悩んでいる方まで,幅広い活用が期待されます。著者の山口美和氏には,学生への授業や卒後研修の講師をお願いしていますが,その講義は軽妙な語り口から,演習に進展し,参加者の相互交流により自然体でコミュニケーションスキルを学べるように構成されています。本書はそのエッセンスを盛り込みながら,自己の理解から実践的なコミュニケーション技法の応用編までが網羅されており,具体例を交えながら解説されているため,自身の経験と照合して学べるようになっています。また,随所に「Work」や「○○してみよう」という課題が設定され,能動的学習とグループ演習を効率的に進められるような工夫も施され,「コミュニケーション」の基礎理論から実践までを学ぶことができる至高の一冊であると思います。
 本書を通じ,医療職を志す学生および臨床家の皆さんが,それぞれの立場でコミュニケーション能力を高められることを願い,ここに推薦いたします。

 2023年12月
 富士リハビリテーション大学校
 学校長 内田成男


はじめに(第3版)

“人との関係の数だけ自己成長ができるような生きかたをしたいです”

 初版から11年,第2版から7年が過ぎてこのたび第3版を上梓することとなり,これまで本書が支持をいただいてきたことに大きな意味を感じてきました。この間には指定規則の改正があり,PT・OTでは2020年度から,STでは2024年度より,人間関係やコミュニケーションについて学ぶことが定められました。これらの教育内容がリハビリテーションの専門職にようやく標準化されるに至ったことは,筆者として大変喜ばしいことでした。この流れを受けて,今回の改訂ではSTも読者の対象とさせていただきました。
 本書の特徴は一貫して自己成長(心の成長)をテーマにしていることです。これは「自律性を持ってコミュニケーション力を発揮できる自己(心)が備わっていなければ,持っている専門知識も技術も十分に活かされない」という考えに基づいています。私はPT・OTの養成教育に携わって20年以上になりますが,その当初から今も変わらないことは,学生の多くは自己肯定感が低く,人との関わりに臆病であるということです。人と関わることは時に痛みを伴います。価値観の異なる相手との関係には,対立や負の感情を抱くこともあります。しかし医療者として責任を持って患者や他職種の人々と向き合うためには,時に考え方の異なる相手に言いにくいことを伝える必要があります。そこで必要なのは自分も相手も大切にする「肯定的相互尊重」の姿勢であり,自己保身ではなく,「三方よし」で行動できる在りかたです。
 2020年から世界中を騒がせた新型コロナウイルス感染症によって,私たちは人と直接出会うことやふれ合うことの大切さを改めて学びました。対話を重ね,知り合っていく中で私たちは互いの違いを認め合い,理解し合うことができます。人間は関わり合うことによってさまざまなことを学び,心はふれ合うことによって成長するのです。社会が多様な価値観にあふれ,コミュニケーションスタイルも多様化しているなかで,大切なのは人と直接関わり合うことを避けずに対話を通じて理解し合うことです。
 冒頭の文章は,大学1年生の学生が私の授業の感想の中で書いてくれた言葉です。人間関係を学ぶこと,コミュニケーションについて学ぶことは,自分自身について知る取り組みであり,他者とのより良い関係性を大切にする生きかたを学ぶことです。「肯定的相互尊重」の姿勢を持った医療者を育成するために,本書がPT・OT・STのみならず,医療職全体の人間関係やコミュニケーションに関する教育の発展に少しでも寄与できることを願ってやみません。

 2023年12月
 山口美和

自分も相手も社会の人々の幸福もすべてを大切にする考えかた

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推薦のことば
はじめに(第3版)
はじめに(第1版)
本書の概要と使いかた
Web付録(ワークシート)のご案内

第Ⅰ編 学内編 医療者になるための準備──自分づくり──
 序章 医療者になるために必要なこと
  第1回 医療者を目指すあなたへ
 第1章 自分を理解する~対人援助者としての準備~
  第2回 自分を知る
  第3回 他者から見た自分
  第4回 自分の態度
 第2章 人間関係と対人コミュニケーション
  第5回 人間の心を理解する
  第6回 対人コミュニケーション分析
  第7回 人間関係の基本「ストローク」
 第3章 コミュニケーション能力を向上させよう
  第8回 コミュニケーションの基本的知識
  第9回 相手を知るための観察のしかた
  第10回 よい聴き手になるための聴きかた
  第11回 伝わる伝えかた
  第12回 自分も相手も大切にした伝えかた
 第4章 自律した自分になるために
  第13回 自己管理①(時間管理と健康管理)
  第14回 自己管理②(感情管理)
  第15回 自己存在と自己実現

第Ⅱ編 臨床編 どんな相手でもOKのプロを目指そう
 第5章 マナーとしてのコミュニケーション
  第16回 挨拶~人との出会いかた~
  第17回 訪問~相手の空間に入るということ~
  第18回 電話のマナー
  第19回 電子メールのマナー
  第20回 オンラインでのコミュニケーション
  第21回 実習先へのお礼状の書きかた
 第6章 臨床で役立つコミュニケーションの技法
  第22回 医療面接
  第23回 質問のしかた
  第24回 「話す」技術~話題と会話~
  第25回 「聴く」技術~傾聴~
  第26回 困ったコミュニケーション
  第27回 認知症の方とのコミュニケーション
  第28回 失語症の方とのコミュニケーション
  第29回 患者さんの家族とのコミュニケーション
  第30回 スーパーバイザーとのコミュニケーション

文献
巻末資料
おわりに
索引


Work
 1 わたしの気持ち
 2 「Who am I?」テスト(WS②)
 3 わたしの長所(WS③)
 4 エゴグラムチェックリスト
 5 逆エゴグラム(WS④)
 6 ポジティブフィードバック(WS⑤)
 7 ディスカウント
 8 相談を受ける
 9 自我状態の機能(1)
 10 自我状態の機能(2)
 11 自我状態の機能(3)
 12 わたしの交流パターン
 13 つなぎ直しのコミュニケーション
 14 否定的ストローク
 15 健全なストローク交換
 16 あいさつの語調バリエーション
 17 ブラインドウォーク(WS⑥)
 18 わたしのコミュニケーション能力(WS⑦)
 19 9つのドット
 20 観察力チェックリスト
 21 ミラーリング
 22 ペーシング
 23 聴き手として認めてもらえる自分づくり
 24 「聴く」
 25 頷き
 26 名画制作
 27 図形ゲーム
 28 「アイメッセージ」(WS⑧)
 29 要求について
 30 自分の課題を見つける
 31 アサーティブな自分で伝えてみる(WS⑨)
 32 あなたへの質問
 33 わたしの時間管理(WS⑩)
 34 スケジュール管理チェックリスト
 35 エラーパターン診断テスト(WS⑪)
 36 わたしの健康管理法
 37 わたしの立ち直り法
 38 わたしの生活習慣
 39 わたしの気持ち
 40 わたしの怒り
 41 6段階の自己意識(WS⑫)
 42 ビジョンを描く(WS⑬)
 43 わたしの夢と目標(WS⑭)
 44 誰かの夢と目標
 45 職業への意識
 46 挨拶・声がけチェックリスト
 47 お辞儀チェックリスト
 48 こんなときはどうしたらよい?
 49 よく使われるフレーズを使ってメールを作成してみよう
 50 物語から読み取る
 51 質問
 52 リーディング
 53 バックトラッキング
 54 あなたなら何と言う?(その1)
 55 あなたなら何と言う?(その2)
 56 傾聴
 57 リフレーミング(WS⑰)
 58 症例検討

One Point
 1 もしも自分がリアリティ・ショックに陥っていると感じたら…?
 2 「燃え尽き症候群」
 3 自分を犠牲にしてまで頑張ってしまう人へ
   「共依存」とは
 4 “バーンアウトにならない心”を育てる,自分へのメッセージ
 5 もしも不当なフィードバックを受けたら?
 6 人情の「機微」に通じた人間になろう(なるために)
 7 医療者マインドを育もう
 8 「聞く」と「聴く」の違いはこうやって覚えよう!
 9 ニューロロジカルレベルの活用法
 10 「挨拶」の意味
 11 「目配り・気配り・心配り」とは
 12 お世話になった方に院内で再会したら…?
 13 確認事項の代表例
 14 “確認メール”の必要性を見極めよう!
 15 オンライン面接のポイント その①
 16 オンライン面接のポイント その②
 17 センタリングの方法
 18 話題に困ったときには?
 19 PT・OT・STとしての責任って…?
 20 聴き手に必要な心構え十か条
 21 相手を受容的に受け止めるためのポイント
 22 挨拶の言葉を何度も言わせるのって…?
 23 もしも本当にやる気がなかったら…?
 24 行動選択の基準は“自分のために”

Column
 1 恋愛力はメタ認知能力と関係してる?
 2 守破離
 3 美しい人は良い人?
 4 ヒンズー教の教え
 5 円環的思考とは?
 6 映画「セカンドチャンス」スーザンのストーリー
 7 「言った」「聞いてない」をなくすには?
 8 対人距離
 9 リフレージング
 10 相づちは文化である
 11 「ほうれんそう」とは?
 12 つうでんけいアプローチ
 13 走る日本人!?
 14 うっかりミスは何のせい!?
 15 レジリエンスとは?
 16 感情労働について知っておこう
 17 マインドフルネス瞑想
 18 名刺交換
 19 “ホスピタリティ”って?
 20 “クッション言葉”って?
 21 フィラー言葉って?
 22 ラポールとは
 23 “ベイビートーク”とは
 24 マンダラート活用法
 25 マインドマップ活用法
 26 人の意欲を引き出す“感謝の言葉”+“次につなげる言葉”
 27 リハビリ意欲を引き出す関わりかた“本当は話したい”
 28 リハビリ拒否に対応する関わりかたを考えてみよう
 29 リフレーミングの天才──ヴィクトール・フランクル
 30 沈黙は怖いもの!?
 31 “パーソンフッド”ってなに?
 32 認知症ケアの技法「ユマニチュード」
 33 絵を効果的に使おう

学生相談室
 1 自分がこの仕事に本当に向いているのか,勉強にもついていかれるのか不安になっています。
 2 初対面の人と話をするときに沈黙してしまうのですが,どうしたらよいですか?
 3 長所を増やす方法はありますか?
 4 自己肯定感を上げるためにはどうしたらよいですか?
 5 人の目を見て話すことができないのですが,どうすれば見られるようになりますか?
 6 どうしたら聴くことや話すことが上手になれますか?
 7 人前で話をしたり発表したりするときに緊張しない方法はありますか?
 8 自分から人に話しかけることができません。どうしたらよいですか?
 9 友達からの誘いや目上の人からの頼まれごとを断ることができないのですが,何か方法(上手な断りかた)はありますか?
 10 話題を広げられず,すぐに会話が終わってしまうのですが,どうしたらよいですか?
 11 敬語が使えません。どのようにしたら使えるようになれますか?
 12 自分の言いたいことが上手くまとまらないのですが,どうしたらよいですか?

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コミュニケーションを極めるための全世代型実用書
書評者:高橋 哲也(順大教授・理学療法学)

 「医療従事者にはコミュニケーション能力が必要」と回答する受験生が多いわりに,入学後に他者とのコミュニケーションに悩む学生は少なくありません。

 理学療法士や作業療法士の養成課程では,2020年の指定規則改正により基礎分野「科学的思考の基盤,人間と生活,社会の理解」に「患者・利用者等との良好な人間関係の構築を目的に,人間関係論,コミュニケーション論等を学ぶ」と明記されました。これは養成課程におけるコミュニケーション能力成熟の期待の表れであり,臨床現場においてコミュニケーションが問題で生じているリスクへの危機感でもあると思います。

 人間関係の構築のためにコミュニケーションが重要とわかっていても,系統的に「コミュニケーション論」を学んだ経験のある人は少ないのではないでしょうか? 本書ではコミュニケーション論を系統的に学ぶためのシラバス案と共に,コミュニケーション能力の修得に必要な内容が詳細に示されています。自分を理解するところから始まり,ひとを理解する基本,よい聞き手になる方法や良い伝え方(言い方)などについて,多くの実例を基に詳細に解説されています。どれもわかりやすく,初年次教育として必要十分な内容が網羅されており,コミュニケーション論の最適なテキストです。特に要所要所に登場する「One point」や「Column」は秀逸で,コミュニケーション能力の理解と修得に大きく貢献してくれるはずです。

 一方,この分野は心理学や教育学に通ずる内容が多く,本書でも難解と感じてしまうカタカナ語が多く登場します。例えば,「アイメッセージ/ユーメッセージ」「アサーティブネス」「レジリエンス」「ラポール」「ベイビートーク」「オープン・クエスチョン/クローズド・クエスチョン」「マインドマップ」「リーディング」「バックトラッキング」「リフレージング/リフレーミング」などです。これらのカタカナ語は専門家でない私にはいささか難解と思って読んでおりましたが,山口美和氏の丁寧な解説にどれもコミュニケーションには極めて重要な言葉であることが理解できました。そして,読み進めると実はこの本は学生向けの実践テキストにとどまらず,新人や若手医療従事者の生涯学習テキストとしても機能することに気付かされました。さらに何よりも,若い世代とのジェネレーションギャップに悩む先輩や現場管理者のコミュニケーション実践ガイドとしての機能も持ち合わせる最高の手引書となっていることに感動すら覚えました。

 小さいながら「わたしの長所」を書き込むための120を超えるスペースは自己肯定感を少しずつ高めてくれることに役立ち,同じく120を超える「自分を成長させる言葉」のいずれかは学修者の心の扉を開いてくれるでしょう。本書の丁寧な作り込みから,「肯定的相互尊重の姿勢こそがコミュニケーションの基本」とする山口氏の熱い想いが伝わってきます。


学生・新人からベテランまで必携のコミュニケーションの実践書
書評者:飯塚 照史(奈良学園大教授・作業療法学)

 「コミュニケーションは経験によって洗練される」との認識は誤りではないだろう。確かに特別な指導を受けずとも長けた人はいる。しかしだからといって養成教育に携わる者として,実習で指摘を受けた学生に“経験を積んだらできるよ”というのでは状況は変わらない。さまざまな情報に簡単にアクセスできるようになった現代において,正しい情報を正しく伝えることは重要である。ましてや患者中心的医療(医療情報を共有し患者の“個”を尊重する医療)となった医療現場において,正しい情報を共有するためのコミュニケーションの重要性は非常に高いと言っても過言ではない。

 コミュニケーションとは“相手を納得させる”といった会話術に限定されるものではなく,情報を適切に対人あるいは対社会に伝えるプロセスそのものを指す。例えば,「花見」と言えば桜の花の下で宴会をするイメージを持つであろう。しかし,日本を母国としない者は,単に花をじっと見ている姿を想像するかもしれない。つまり,会話は成立するが適切な情報は相手に伝わっておらず,これは前提としての共通理解が欠落していることが一因となっている。同様なことは医療現場でも起こっているものと想像される。脳や脊髄といった中枢神経の損傷に由来する麻痺は一定程度の改善を示すこともあるが,多くの場合は後遺症として残存する。これを背景として持ち合わせる医療者の「麻痺はよくなりますよ」という言葉を,患者は「完治する」ととらえるかもしれない。

 以上を踏まえれば,正しい情報を共有し相互理解を目的としたコミュニケーションが成立するための条件を知識として有することは,実践力の向上に資すると言える。一例を示すならば,病的体験に“共感”を示す医師における患者満足度が高いというエビデンスは,コミュニケーションを洗練することにつながるのではないだろうか。すなわち,冒頭で述べたようにコミュニケーションは“経験を積んだらできるよ”ではなく,涵養すべき必須の知識と技術であることに疑いの余地はない。

 本書を眺めれば,リハビリテーション関連職種で想定される場面におけるコミュニケーションの知識が網羅され,さらに演習を通して理解が深まるよう構成されている。著者の山口美和氏の信念として“自分も相手も大事にする”という「肯定的相互尊重」は本書の骨格であり,人間愛,倫理観,自律性を柱としてコミュニケーション能力があることを教えてくれる。これに基づいて『学内編』においては自身を理解し,円滑なコミュニケーションの前提となるエッセンスが示され,学生あるいは新人教育に有用な構成となっている。さらに『臨床編』では,マナーや医療面接あるいは疾患の特徴を踏まえたコミュニケーションについて解説されており,現場に身を置くビギナーからベテランにも必携の書となっている。今やコミュニケーションは医療現場にとって重要なキーワードであり,これの洗練化は医療者にとって責務である。本書を手に取ることで,その意識が強くなることは間違いない。


コミュニケーション実践における規範を示す書
書評者:菅原 憲一(神奈川県立保健福祉大保健福祉学部長/教授・理学療法学)

 「あなたが医療職種をめざす上で最も大切なものは何ですか?」という問いは,受験という場面で必ず聞かれる質問の一つではないかと思われます。私自身が教員となって30年近くの中で,受験に際して必ず聞いてきた質問でもあります。多くの受験生は「コミュニケーションである」ということを切々と話してくれます。医療者としてコミュニケーションが重要であることは,それをめざす方々は十分に理解していることがうかがえます。私も聞く側としていつも「なるほど」と,何気なく納得してそれを聞いています。しかし,それほど重要な“コミュニケーション”というものを人はどのように確立していくのか,と質問を重ねると,そこから先はさまざまな意見に分かれたり,答えに窮したりと人それぞれであるとともに,確信の得られる答えは少ないように思えます。そういう私自身も,自信を持って答えられる状況にはありません。

 医療職種は,専門的な技術を対象者に的確に提供することが必要です。技術は自らの不断の努力や成功,失敗を繰り返して向上していくものであり,コミュニケーションもきっとそのような経験が重要なものであることは論をまたないでしょう。対象者を前にしたとき,医療職種としての技術は十分とは言えないまでも,少なくとも卒前の実習その他で学習したものを持ち合わせています。一方でコミュニケーションはというと,それを体系的に学ぶ機会は少なく,何が正しくて何が間違いなのかということは,経験的なものに頼らざるを得ない状況にあります。対象者との関係の中で,その医療者の人格そのものが試されるのがコミュニケーションであると思います。人が人に対して行うのが治療と考えると,コミュニケーションはまさに人格と人格が相対する際の重要なツールであり,人の温もりが伝わる場面と言えます。それはマニュアル化されたものではなく,真に人が求めるものであり,その核心は忘れてはならないものだと思います。さらにその上で,医療者として備えていなければならない重要なコミュニケーションの能力,そしてそれを医療技術とともに切磋琢磨し鍛え上げていく考え方やその道筋は,実践の上に必要な「規範」と呼べるものです。

 山口美和氏の執筆による本書は,そのような実践としての規範を示す類まれな書籍であり,その充実した内容に敬服する次第です。「コミュニケーションとは何か?」というだけでなく,「それをどのように個人の中で発展させるのか?」という質問の答えは本書の中にあると言えます。そしてその答えだけでなく,「人の温もりを携えたコミュニケーションとは何か?」という質問の答えがこの書の中にあるということも申し添えたいと思います。

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