認知症早期発見のための
CDR判定ハンドブック
国際的評価法「臨床的認知症尺度」(CDR)による認知症判定の手引書
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『《神経心理学コレクション》痴呆の臨床』の著者が認知症ケア最前線の保健・看護・介護スタッフに贈る、国際的評価法「臨床的認知症尺度」(CDR)による認知症判定の手引書。認知症の基礎知識やCDR判定ルールの解説と、実際の事例に基づいた判定トレーニングで、患者の早期発見から専門医・かかりつけ医と連携しての包括的ケアプラン作成までの流れを理解できる。
著 | 目黒 謙一 |
---|---|
発行 | 2008年09月判型:B5頁:114 |
ISBN | 978-4-260-00656-9 |
定価 | 3,080円 (本体2,800円+税) |
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序文
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序
地域在住の高齢者が認知症かどうかの判定は,基礎知識と経験が豊富な保健・看護・介護スタッフが「臨床的認知症尺度」(Clinical Dementia Rating ; CDR)を活用すれば,医師でなくてもある程度可能である。また,認知症の原因疾患(アルツハイマー病や血管性認知症など)の診断には専門医の診察が必要不可欠であるが,専門医に提示すべき情報の整理にもCDRが有用である。このように,CDR判定は,相談を受けた高齢者の状態をどう判断するか迷ったときに情報を整理し,その後に専門医と協力して保健医療福祉の包括的マネジメントに乗せるためのツールとして活用すべきものである。
筆者が,前著「痴呆の臨床─CDR判定用ワークシート解説」を上梓してから,4年になる。「神経心理学コレクション」シリーズということもあって,主に神経基盤・神経心理学的基礎を合わせて専門的に解説したが,「単なるワークシートの解説ではない」という意味で,いろいろな方から評価を頂いた。特に嬉しかったことは,某テスト方式で認知症の重症度を判定していたある地域の保健師の感想文である。
教育歴の高い高齢者が答えたテストの点数は高く,「問題なし」と判定されていた。しかし訪問した際,家庭生活の水準が以前より低下し「いつもの○○さんではない」ことに気づき,注意してCDRを判定したところ,認知症の早期状態であることがわかった事例。また,逆にテストの点数は低いものの,CDRで観察した日常生活は特に問題がないことがわかり,時期をみてテストで再評価したところ点数がよく,以前の低得点はたまたま体調(機嫌?)が悪かったためであることがわかった事例。この2事例を通じて,認知症の診断は日常生活の観察が基本であることが理解できた,というものである。これらの事例は,医師でなくても認知症の基礎知識のある保健師がCDRを利用すれば,独自に判断ができることを示唆している。
筆者が仕事をしている旧・宮城県田尻町(現・大崎市)での事例である。ある家族が,同居している高齢者の認知症の症状に悩んでいると,わざわざ隣の住民を連れて(!)涙ながらに訴えてきた。しかし,疑問を感じた外来看護師がCDR判定を行ったところ,認知症ではなくCDR 0.5(認知症疑い)で,特にその家族のいうような症状は認められなかった。その家族は高齢者と折り合いが悪いことが後でわかった。
忙しい診療の中で,専門医としては,コメディカルの仲間からこのような客観的な情報の提示があれば,これ程ありがたいことはない。認知症に限らず医師の診察全般にとって,信頼できるコメディカルからの情報は「命綱」であるからである。実際,CDRを作成したワシントン大学アルツハイマー病センターのCDR判定責任者はジョン・モリス名誉教授であるが,副責任者は「臨床専門看護師」(Clinical Nurse Specialist)のメアリー・コートである。
もちろん,忙しい日常業務のなかで保健・看護・介護スタッフが時間をかけて地域の高齢者を評価することは,そう容易ではない。しかしあえて強調したいことは,長年地域で生活してきた個人差の大きい高齢者を,認知症かどうか検討するわけであるから,時間がかかって当然ということである。あたかもリトマス試験紙のように「簡便かつ短時間に」,認知症かどうかを判定できるテストを探し求める態度は,正しくない。
今回,地域医療の現場でCDRをより活用するために,保健・看護・介護スタッフが独自で判断でき,かつ実用的な「普及版」を作成したつもりである。特に,本文6~8ページに示した「訪問調査票」は,実際に旧・宮城県田尻町において保健師が日常業務として行っている調査票を改訂したものである。対象は,地域在住の高齢者であるが,CDRにより健常・軽度認知障害・認知症状態を判定し,できるだけ早期に保健医療福祉の包括システムをデザインすることを希望する。認知症はその疾患の特性上,多くのスタッフが連携して対処しなければならないからである。ゲーテの名文に,「Die Medizin beschäftigt den ganzen Menschen, weil sie mit dem ganzen Menschen beschäftgt.(医学・医療は人間の総体を扱うものであるから,人間の総体をもって当たらなければならない)」があるが,これが最も当てはまる病気の1つが認知症である。本書が,保健・看護・介護スタッフとかかりつけ医・専門医が協力し合って,地域在住高齢者における認知症の早期発見と,その後の包括的マネジメントのために活用されることを期待している。
2008年8月
東北大学大学院 教授 目黒謙一
地域在住の高齢者が認知症かどうかの判定は,基礎知識と経験が豊富な保健・看護・介護スタッフが「臨床的認知症尺度」(Clinical Dementia Rating ; CDR)を活用すれば,医師でなくてもある程度可能である。また,認知症の原因疾患(アルツハイマー病や血管性認知症など)の診断には専門医の診察が必要不可欠であるが,専門医に提示すべき情報の整理にもCDRが有用である。このように,CDR判定は,相談を受けた高齢者の状態をどう判断するか迷ったときに情報を整理し,その後に専門医と協力して保健医療福祉の包括的マネジメントに乗せるためのツールとして活用すべきものである。
筆者が,前著「痴呆の臨床─CDR判定用ワークシート解説」を上梓してから,4年になる。「神経心理学コレクション」シリーズということもあって,主に神経基盤・神経心理学的基礎を合わせて専門的に解説したが,「単なるワークシートの解説ではない」という意味で,いろいろな方から評価を頂いた。特に嬉しかったことは,某テスト方式で認知症の重症度を判定していたある地域の保健師の感想文である。
教育歴の高い高齢者が答えたテストの点数は高く,「問題なし」と判定されていた。しかし訪問した際,家庭生活の水準が以前より低下し「いつもの○○さんではない」ことに気づき,注意してCDRを判定したところ,認知症の早期状態であることがわかった事例。また,逆にテストの点数は低いものの,CDRで観察した日常生活は特に問題がないことがわかり,時期をみてテストで再評価したところ点数がよく,以前の低得点はたまたま体調(機嫌?)が悪かったためであることがわかった事例。この2事例を通じて,認知症の診断は日常生活の観察が基本であることが理解できた,というものである。これらの事例は,医師でなくても認知症の基礎知識のある保健師がCDRを利用すれば,独自に判断ができることを示唆している。
筆者が仕事をしている旧・宮城県田尻町(現・大崎市)での事例である。ある家族が,同居している高齢者の認知症の症状に悩んでいると,わざわざ隣の住民を連れて(!)涙ながらに訴えてきた。しかし,疑問を感じた外来看護師がCDR判定を行ったところ,認知症ではなくCDR 0.5(認知症疑い)で,特にその家族のいうような症状は認められなかった。その家族は高齢者と折り合いが悪いことが後でわかった。
忙しい診療の中で,専門医としては,コメディカルの仲間からこのような客観的な情報の提示があれば,これ程ありがたいことはない。認知症に限らず医師の診察全般にとって,信頼できるコメディカルからの情報は「命綱」であるからである。実際,CDRを作成したワシントン大学アルツハイマー病センターのCDR判定責任者はジョン・モリス名誉教授であるが,副責任者は「臨床専門看護師」(Clinical Nurse Specialist)のメアリー・コートである。
もちろん,忙しい日常業務のなかで保健・看護・介護スタッフが時間をかけて地域の高齢者を評価することは,そう容易ではない。しかしあえて強調したいことは,長年地域で生活してきた個人差の大きい高齢者を,認知症かどうか検討するわけであるから,時間がかかって当然ということである。あたかもリトマス試験紙のように「簡便かつ短時間に」,認知症かどうかを判定できるテストを探し求める態度は,正しくない。
今回,地域医療の現場でCDRをより活用するために,保健・看護・介護スタッフが独自で判断でき,かつ実用的な「普及版」を作成したつもりである。特に,本文6~8ページに示した「訪問調査票」は,実際に旧・宮城県田尻町において保健師が日常業務として行っている調査票を改訂したものである。対象は,地域在住の高齢者であるが,CDRにより健常・軽度認知障害・認知症状態を判定し,できるだけ早期に保健医療福祉の包括システムをデザインすることを希望する。認知症はその疾患の特性上,多くのスタッフが連携して対処しなければならないからである。ゲーテの名文に,「Die Medizin beschäftigt den ganzen Menschen, weil sie mit dem ganzen Menschen beschäftgt.(医学・医療は人間の総体を扱うものであるから,人間の総体をもって当たらなければならない)」があるが,これが最も当てはまる病気の1つが認知症である。本書が,保健・看護・介護スタッフとかかりつけ医・専門医が協力し合って,地域在住高齢者における認知症の早期発見と,その後の包括的マネジメントのために活用されることを期待している。
2008年8月
東北大学大学院 教授 目黒謙一
目次
開く
はじめに:こんな相談が寄せられた─どのように考え,どう対処するか?
第1章 基礎知識
1.認知症の定義
2.認知症の評価法
3.臨床的認知症尺度(CDR)
4.認知症診断の手順
1)複数の認知機能障害 2)せん妄やうつ状態などの除外
3)社会生活の水準低下
第2章 CDR判定の実践
1.CDR各群のイメ-ジ
1)CDR 0 2)CDR 0.5 3)CDR 1 4)CDR 2 5)CDR 3
2.CDR判定のポイントと理論的根拠
1)記憶 2)見当識 3)判断力と問題解決 4)地域社会活動
5)家庭生活および趣味・関心 6)介護状況
3.CDR判定ル-ル
4.地域特性を考慮した質問表とCDRの関連
第3章 CDR 1+の場合─認知症と判定されたらどうするか?
1.包括的介入の方針
2.各原因疾患の特徴
1)アルツハイマー病 2)血管性認知症 3)皮質下血管性認知症
4)レビー小体型認知症 5)前頭側頭葉変性症
第4章 CDR 0.5の場合─軽度認知障害(MCI)と判定されたらどうするか?
1.MCIの概念
2.認知機能と生活障害の特徴
3.認知症への移行と包括的介入の方針
第5章 こんな相談が寄せられた─どのように考え,どう対処するか?
事例1
事例2
事例3
事例4
事例5
事例問題解答集
おわりに:認知症患者のQOL
引用文献
索引
第1章 基礎知識
1.認知症の定義
2.認知症の評価法
3.臨床的認知症尺度(CDR)
4.認知症診断の手順
1)複数の認知機能障害 2)せん妄やうつ状態などの除外
3)社会生活の水準低下
第2章 CDR判定の実践
1.CDR各群のイメ-ジ
1)CDR 0 2)CDR 0.5 3)CDR 1 4)CDR 2 5)CDR 3
2.CDR判定のポイントと理論的根拠
1)記憶 2)見当識 3)判断力と問題解決 4)地域社会活動
5)家庭生活および趣味・関心 6)介護状況
3.CDR判定ル-ル
4.地域特性を考慮した質問表とCDRの関連
第3章 CDR 1+の場合─認知症と判定されたらどうするか?
1.包括的介入の方針
2.各原因疾患の特徴
1)アルツハイマー病 2)血管性認知症 3)皮質下血管性認知症
4)レビー小体型認知症 5)前頭側頭葉変性症
第4章 CDR 0.5の場合─軽度認知障害(MCI)と判定されたらどうするか?
1.MCIの概念
2.認知機能と生活障害の特徴
3.認知症への移行と包括的介入の方針
第5章 こんな相談が寄せられた─どのように考え,どう対処するか?
事例1
事例2
事例3
事例4
事例5
事例問題解答集
おわりに:認知症患者のQOL
引用文献
索引