医療データサイエンス入門

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「医療データ」は患者一人一人の “命の情報” であり、特に取り扱いに注意が必要なデータです。医療データサイエンスでは、このデータを分析・解析し、新たな医学的知見や医療技術を作り出します。本書は、「医療データサイエンティスト」を目指す読者に向け、基本的な教養や知識を体系的に紹介するものです。医療データサイエンスという新たな武器で未来の医療に貢献したいと考える人に、初めに手に取っていただきたい一冊です。

編集 黒田 知宏 / 森 由希子
発行 2025年10月判型:B5頁:376
ISBN 978-4-260-05320-4
定価 5,720円 (本体5,200円+税)

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まえがき

 「医療データサイエンス入門」を手に取っていただいてありがとうございます。
 本書は,病院などの医療現場で生まれるデータを分析・解析し,新しい医学的知見や新しい医療技術を作り出す「医療データサイエンティスト」を目指すあなたに,知ってほしいいくつかのことをまとめた書籍です。今あなたが医療,データサイエンス,もしくはそのどちらにも関わっていなかったとしても心配ありません。本書に最初から最後まで目を通していただければ,医療データサイエンスを始める,あるいは,学び始めるための準備はきちんとできるはずです。また,医療データサイエンスに少し関わっているという方にとっても,全体を俯瞰して改めて自分の知識を確認するためにも使っていただけると思います。
 世の中には,データサイエンスを学ぶためのたくさんの書籍がすでにあります。いずれの書籍でもデータの分析の技術については詳しく書いてくれていますが,本書で学んでほしい,医療データサイエンティストが知っておくべき基本的な「教養」や「知識」は書かれていないように見えます。データサイエンスのなかでも,医療データを扱う仕事はとても特別です。医療データは患者さん1人ひとりの命の記録ですし,分析によって得られた知識は命を救ったり,医療の仕組みを変えたりするために使われますので,その影響は甚大です。単に目の前にあるデータに,いくつかの分析手法を適用して,グラフを作って説明したら終わりというわけにはいきません。データの入口から出口まで,そのすべてについて責任をもたねばなりません。
 日本政府は,日本国内の医療データサイエンスが活性化されるように,「次世代医療基盤法1)」と呼ばれる法律を2017年5月に制定しました。この法律を公布するにあたって,日本政府は基本方針を2018年4月に閣議決定しますが,そのなかで「国が講ずるべき措置」として「データ利活用基盤を適切に構築・運営できる人材や,医療情報を適切に利活用できる人材の養成確保」のために「育成の場としての大学」などを活用することを宣言します。本書は,この基本方針に従って文部科学省が募集した「医療データ人材育成拠点形成事業」(2019~2023年度)の1つとして,関西の13大学2)が,関西の医療関係の産官学の集まりである関西健康・医療創生会議と協力して実施した「関西広域医療データ人材教育拠点形成事業(KUEP-DHI3))」の「医療データ取扱専門家育成コース」の教科書としてまとめられました。このコースは,図1のようなコースツリーで行われる医学系・情報学系の修士課程の学生向けの「履修証明書コース」ですが,本書はそのエッセンスを,医療データサイエンスに興味をもった初学者向けに優しくまとめたものです。
 データサイエンスという新しい武器を手にして,未来の医療をよくするために。さぁ,医療データサイエンスの扉を開きましょう。

 2022年9月
 黒田知宏

図1  KUEP—DHI 医療データ取扱専門家育成コースのコースツリー

 

1) 医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報に関する法律
2) 滋賀大学・滋賀医科大学・京都大学・京都府立医科大学・奈良県立医科大学・大阪大学・関西医科大学・近畿大学・和歌山県立医科大学・神戸大学・兵庫医科大学・兵庫県立大学・鳥取大学
3) Kansai Union/Kyoto University Education Program for Digital Health Innovation

 

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第1章 ガイドラインができるまで
 はじめに
 1.エビデンスってなあに?
   医療において「診療ガイドライン」がもつ意味とは
   根拠に基づく医療とは?
   診療ガイドラインはエビデンスから作られる
    [Column] 新薬が承認されるまで
   エビデンスは臨床データから作られる
    [Column] AIは「エビデンス」の申し子
 2.医療データサイエンティストが知っておくべきこと
   医療データの流れ
   データの使い方
   データの作り方
   もう1つ大切なこと

第2章 データの使い方
 はじめに
 1.ところで,「データ」ってなあに?
   データの形
    [Column] コンピュータが計算を間違える?
   データの入れもの
    [Column] トランザクション処理
   標準化と標本化
    [Column] 画像データの入れもの
   人が測ったデータ
    [Column] データ分析の落とし穴
 2.データを触ってみよう
   データを入れものに入れる
   データを並べ替える
   データを集計する
    [Column] データを取り扱うコンピュータ言語/データを扱う数学/データはどこで手に入るのか
   データを分析する
 3.データを処理してみよう
   SQLの基本操作
   Rの基本操作
   Pythonの基本操作
   まとめ

第3章 データの作り方
 はじめに
 1.カルテってなあに?
   診療行為の記録としてのカルテ
   申し送りの道具としてのカルテ
   医事会計の仕組みとカルテ
    [Column] レセプト病名/疾患別レポジトリ
 2.電子カルテのデータを見てみよう
   電子カルテの構造
    [Column] 宮中某重大事件と医療情報を機密にする意味
   オーダーと実施記録
    [Column] 医師法17条とCPOE,そして働き方改革
    [Column] IoT
   医事会計とレセプトデータ
    [Column] 医療情報部長の日常業務/ゲノム検査
 3.データの分け方・貯め方
   なぜ「分ける」必要があるの?
   MVC
   どんな「貯め方」があるの?
   目的に合ったデータの貯め方
   二次利用系システム
   まとめ
    [Column] データをつなぐ社会の仕組み

第4章 もう1つ大事なこと
 はじめに
 1.個人情報保護のルール
   倫理と法律
   個人情報とは何か?
   個人情報を扱うルール
   個人情報のプレイヤー
   研究時の特別ルール
    [Column] 次世代医療基盤法/研究計画書の書き方
 2.個人情報の守り方
   電子カルテの3要件
   電子保存に関するルール
   データの守り方
    [Column] ブロックチェーン

索引

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