走り続けた看護師たち
新型コロナウイルス感染症パンデミックで起きたこと
知らないままで、終わらせない。
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2020年、日本中を覆った新型コロナウイルス感染症パンデミック。
医療は逼迫し、感染への警戒はケアのあり方を大きく変えた。
透析病棟、産婦人科病棟、訪問看護・・・・・・それぞれの現場で何が起きていたのか。
看護師自らが取材して描いた、戸惑い、悩み、傷つきながらも闘った看護師たちの記録。
著 | あさひ ゆり |
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発行 | 2025年03月判型:A5頁:152 |
ISBN | 978-4-260-05778-3 |
定価 | 1,980円 (本体1,800円+税) |
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目次
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Prologue
Episode1 コロナ専門病棟──当たり前の看護ができない
取材後記
おまけマンガ1
Episode2 透析病棟──看護師だって、強いわけじゃない
取材後記
おまけマンガ2
Episode3 産婦人科病棟──発熱があれば、帝王切開!?
取材後記
おまけマンガ3
Episode4 訪問看護──私たちが行くしかない
取材後記
おまけマンガ4
Episode5 それでも看護師を続ける理由──コロナ禍の看護を振り返る
Epilogue
書評
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名もなき看護師たちの物語が静かに問いかけるもの
書評者:坂本 史衣(板橋中央総合病院院長補佐/QIMSセンター副センター長)
『走り続けた看護師たち』で紹介されるエピソードの多くは,新型コロナウイルス感染症(以下,コロナ)の流行が国内で本格化した2020年春の医療現場を舞台としています。ワクチンはまだ存在せず,確立された治療法もなく,個人防護具,検査,病床,人員と,あらゆるものが不足していた時期でした。新興感染症のパンデミックに対応できる医療体制が整っていない中で,コロナ診療とそれまでの日常診療を両立させるというミッションをにわかに担うことになった医療現場は,それでも,いつものように,静かに回っていました。ベッドサイドには,ガウン,手袋,N95マスク,ゴーグルを身につけた看護師がいました。回復を促し,合併症や事故を防ぎながら,少しでも快適に,前向きな気持ちで過ごせるように,患者とその家族に伴走する専門職たちです。
プロフェッショナルは,どのようなときも淡々と業務を遂行します。しかし,未知の感染症が流行している状況で,心配事がないはずはありません。当時,感染管理に従事していた私は,コロナ対応に当たる看護師たちとコロナについて何でも質問できるQ&Aセッションを頻繁に開催していました。何が自身や家族の感染につながるのか,また,どのように防ぐことができるのか。さまざまな制約がある中で,患者や家族のニーズをどうすれば満たせるのか。患者に最も近い存在であるが故に看護師たちが抱える心配事を一つずつ解消していくことが,当時の私の最も大切な仕事でした。
本書は,戦車に竹やりで立ち向かうような看護師の自己犠牲を美化したフィクションではありません。パンデミックに対応するための医療体制を理論的に語る政策提言書でもありません。看護師と漫画家という二つのスペシャリティをもつ作者・あさひゆりさんは,コロナの現場にいた複数の看護師へのインタビューを通じて,早くも忘れられつつある「あのときの日常」を本書の中で見事に再現しています。読者は,コロナ専門病棟,透析病棟,産婦人科病棟,そして,訪問看護の現場を巡りながら,当時の空気を肌で感じ,あのときを再び生きるような感覚を味わうでしょう。そこに登場する看護師たちは,何かを声高に訴えることはありません。ただ,抑えた語り口で綴られる出来事や思いを通じて,私たちは何を学んだのだろうか,次に備えるには何が必要だろうかと読者にさりげなく問いかけてきます。あのとき,走り続けた名もない看護師たちの物語を,本書を通して共有することの意味は,その問いに耳を傾けることにあると私は考えています。過ぎ去った日々がよみがえることで,私たちは立ち止まり,考え,次に備えることができるのです。