看護現場を変える0~8段階のプロセス
コッターの企業変革の看護への応用
看護現場をよりよく変えたい看護管理者に。成功の秘訣となる0~8段階を解説。
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新しい取り組みを導入したい、看護現場の業務改善を行いたいなど、何かを「変えたい」とき、どのようにしたらうまくいくのだろうか。企業で組織変革をおこし、それを定着させる代表的な理論が「コッターの企業変革8段階」である。これを看護に応用し、看護独自の視点を加えて、現場の「変える」を確実に成功させるプロセスを解説。周りを味方につけ、周りのやる気をかきたてるコツが詰まった1冊。
著 | 倉岡 有美子 |
---|---|
発行 | 2018年09月判型:A5頁:152 |
ISBN | 978-4-260-03663-4 |
定価 | 2,750円 (本体2,500円+税) |
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- 序文
- 目次
- 書評
- 付録・特典
序文
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はじめに
リーダーシップの本質としての変革
本書は,米国ハーバードビジネススクール教授(現・名誉教授)のジョン・P・コッターの著作『ジョン・コッターの企業変革ノート』(日経BP社,2002)を看護現場に応用できるように解説した,いわば,「看護現場の変革ノート」です。なぜ,“企業変革”という医療や看護とは関係のなさそうな内容を看護現場に応用しようと考えたのか,私の意図を説明します。
コッターとの出会い
まず,私とコッターとの出会いまでさかのぼります。出会いといっても,私は,コッターに直接会ったことはなく,あくまで彼の著作に出会ったという意味です。私が,はじめてコッターの著作に出会ったのは,聖路加看護大学(当時)の修士課程(看護管理学専攻)の受験を検討していた20代後半のころです。
当時,私は,入試に合格した後に師事する看護管理学教授の井部俊子先生の看護管理に対する考え方を知りたいという思いと,入試に役だつかもしれないという“下心”で,先生の著作を読みふけっていました。そのなかでもとくに興味深かった著書が『マネジメントの魅力』でした。『マネジメントの魅力』は,聖路加国際病院の看護部長時代の井部先生のナーシング・トゥデイ誌連載「井部俊子のマネジメント日誌」を本にしたもので,管理者経験のなかった私は,看護部長の頭のなかをのぞき見るような思いでわくわくしながら読んだことを思い出します。
リーダーの条件
前置きが長くなりましたが,『マネジメントの魅力』のなかの1つの記事に「リーダーの条件」があり,そこで私ははじめて,コッターを知ります。「リーダーの条件」で,井部先生は「私の経験からすると,リーダーシップは素質が40%,学習が60%であると思っている。アルコールを分解する酵素をもっていない人にお酒を勧めることが危険なように,“リーダーシップ酵素”の少ない人にリーダーを勧めるのは危険であると思うのである」と鋭く指摘しています。さらに,井部先生は「追記」として,「“リーダーシップ酵素”の話は,ジョン・P・コッターの著作物でも論じられている。コッターは素質というよりも遺伝的要因と発達段階初期の環境的要因という表現をしている」と述べ,コッターの著作を引用しました。
当時の私は,すぐれた看護管理者とはどのような人で,すぐれた看護管理者を育成するにはどうしたらよいのか,という問いをもって大学院で研究しようと考えていたので,井部先生とコッターのリーダーシップ酵素の話は,私のこの問いに答える1つのヒントになると思い,とても印象に残りました。
コッター(1991)は,リーダーシップの起源として,「遺伝的要因と子ども時代の経験」「キャリアから得られる経験」「企業文化からの影響」の3つを挙げています。コッターの考え方を看護に応用すると,すぐれた看護管理者を育成するには,リーダーとしての素質をもった候補者を見きわめることが重要であり,かつ,仕事の経験と組織文化によってリーダーシップを培うことができると言えます。
コッターの理論を看護現場へ
大学院を修了し,公立病院で2年間看護師長として勤務したのち,私は,母校に教員として戻ってきました。そこで,現任の看護管理者やその候補者の方を対象とした研修会の講師を担い,リーダーシップについて教えるようになりました。私は,コッターの影響を大きく受けて,“リーダーシップ=変革”といっても過言ではない,と考えており,授業内容にコッターの企業変革の理論を含めました。ここで,使用した書籍は『ジョン・コッターの企業変革ノート』です。この書籍は,2003年に出版されてから,世界で120の言語に翻訳され,世界中の経営者の変革バイブルと言われています。
はじめの数年間は,研修会でコッターの企業変革に加えて,他の研究者の変革理論や組織論を紹介していました。リーダーシップは,組織論に含まれる理論の1つであり,これまで多くの研究者を魅了し,研究者の数だけ定義があると言われています。しかし,私は,同じような理論を広く浅く教えるよりも特定の理論に絞り,受講者が自分のものとして理解して使いこなせるようになることを目指すほうがよい,つまり,看護管理者の管理実践に役だつスキルとなるように教える必要があると考えるようになりました。
次の年から,授業内容をコッターの企業変革に絞り,ワークシートを用いて,受講者に自身の変革計画を立案してもらい,発表し意見交換をするという方法を取り入れました。授業後に,立案した変革計画について,受講者から個別に相談を受けることが増えたため,授業とは別に変革計画に関するコンサルテーションの時間を設けるようになりました。受講者とは数か月後の研修会の修了式で再会するのですが,変革計画の相談にのった受講者から,「計画通り実施して,うまくいった」や「自部署で提供している看護を変えることができた」といった声を聞くことができました。
このように教員としての試行錯誤を経て,私は,コッターの企業変革の理論を看護現場に応用することができ,かつ,成果をあげられるという手応えを得ることができました。
そこで,私は,研修会の受講者のテキストとしてだけでなく,今まさに看護の現場で変革に取り組まれている看護管理者や看護師の方々に役だつことを願って,本書をしたためることを決意しました。
リーダーシップの本質としての変革
本書は,米国ハーバードビジネススクール教授(現・名誉教授)のジョン・P・コッターの著作『ジョン・コッターの企業変革ノート』(日経BP社,2002)を看護現場に応用できるように解説した,いわば,「看護現場の変革ノート」です。なぜ,“企業変革”という医療や看護とは関係のなさそうな内容を看護現場に応用しようと考えたのか,私の意図を説明します。
コッターとの出会い
まず,私とコッターとの出会いまでさかのぼります。出会いといっても,私は,コッターに直接会ったことはなく,あくまで彼の著作に出会ったという意味です。私が,はじめてコッターの著作に出会ったのは,聖路加看護大学(当時)の修士課程(看護管理学専攻)の受験を検討していた20代後半のころです。
当時,私は,入試に合格した後に師事する看護管理学教授の井部俊子先生の看護管理に対する考え方を知りたいという思いと,入試に役だつかもしれないという“下心”で,先生の著作を読みふけっていました。そのなかでもとくに興味深かった著書が『マネジメントの魅力』でした。『マネジメントの魅力』は,聖路加国際病院の看護部長時代の井部先生のナーシング・トゥデイ誌連載「井部俊子のマネジメント日誌」を本にしたもので,管理者経験のなかった私は,看護部長の頭のなかをのぞき見るような思いでわくわくしながら読んだことを思い出します。
リーダーの条件
前置きが長くなりましたが,『マネジメントの魅力』のなかの1つの記事に「リーダーの条件」があり,そこで私ははじめて,コッターを知ります。「リーダーの条件」で,井部先生は「私の経験からすると,リーダーシップは素質が40%,学習が60%であると思っている。アルコールを分解する酵素をもっていない人にお酒を勧めることが危険なように,“リーダーシップ酵素”の少ない人にリーダーを勧めるのは危険であると思うのである」と鋭く指摘しています。さらに,井部先生は「追記」として,「“リーダーシップ酵素”の話は,ジョン・P・コッターの著作物でも論じられている。コッターは素質というよりも遺伝的要因と発達段階初期の環境的要因という表現をしている」と述べ,コッターの著作を引用しました。
当時の私は,すぐれた看護管理者とはどのような人で,すぐれた看護管理者を育成するにはどうしたらよいのか,という問いをもって大学院で研究しようと考えていたので,井部先生とコッターのリーダーシップ酵素の話は,私のこの問いに答える1つのヒントになると思い,とても印象に残りました。
コッター(1991)は,リーダーシップの起源として,「遺伝的要因と子ども時代の経験」「キャリアから得られる経験」「企業文化からの影響」の3つを挙げています。コッターの考え方を看護に応用すると,すぐれた看護管理者を育成するには,リーダーとしての素質をもった候補者を見きわめることが重要であり,かつ,仕事の経験と組織文化によってリーダーシップを培うことができると言えます。
コッターの理論を看護現場へ
大学院を修了し,公立病院で2年間看護師長として勤務したのち,私は,母校に教員として戻ってきました。そこで,現任の看護管理者やその候補者の方を対象とした研修会の講師を担い,リーダーシップについて教えるようになりました。私は,コッターの影響を大きく受けて,“リーダーシップ=変革”といっても過言ではない,と考えており,授業内容にコッターの企業変革の理論を含めました。ここで,使用した書籍は『ジョン・コッターの企業変革ノート』です。この書籍は,2003年に出版されてから,世界で120の言語に翻訳され,世界中の経営者の変革バイブルと言われています。
はじめの数年間は,研修会でコッターの企業変革に加えて,他の研究者の変革理論や組織論を紹介していました。リーダーシップは,組織論に含まれる理論の1つであり,これまで多くの研究者を魅了し,研究者の数だけ定義があると言われています。しかし,私は,同じような理論を広く浅く教えるよりも特定の理論に絞り,受講者が自分のものとして理解して使いこなせるようになることを目指すほうがよい,つまり,看護管理者の管理実践に役だつスキルとなるように教える必要があると考えるようになりました。
次の年から,授業内容をコッターの企業変革に絞り,ワークシートを用いて,受講者に自身の変革計画を立案してもらい,発表し意見交換をするという方法を取り入れました。授業後に,立案した変革計画について,受講者から個別に相談を受けることが増えたため,授業とは別に変革計画に関するコンサルテーションの時間を設けるようになりました。受講者とは数か月後の研修会の修了式で再会するのですが,変革計画の相談にのった受講者から,「計画通り実施して,うまくいった」や「自部署で提供している看護を変えることができた」といった声を聞くことができました。
このように教員としての試行錯誤を経て,私は,コッターの企業変革の理論を看護現場に応用することができ,かつ,成果をあげられるという手応えを得ることができました。
そこで,私は,研修会の受講者のテキストとしてだけでなく,今まさに看護の現場で変革に取り組まれている看護管理者や看護師の方々に役だつことを願って,本書をしたためることを決意しました。
目次
開く
はじめに
リーダーシップの本質としての変革
第1章 “変革”をどう捉えるか
1 変革とは
医療・看護の現場での変化と変革
2 変革主導者に求められるリーダーシップ
リーダーシップと変革との関係
リーダーシップとマネジメントの区別
3 本書で想定する変革とはどのようなものか
変革の主導者
変革を実現させるための期間
第2章 “変革”を成功に導くための構成要素
1 変革を成功させるための行動指針となる4つの要素
ビジョン
戦略と計画,予算
2 変革を促す“感情”
変革を成功に導く核心
看護現場で「見て,感じて,変化する」ためには
第3章 コッターの企業変革8段階─看護の現場への応用
1 コッターの企業変革8段階とは
2 看護に寄せて読み替えてみると
変革の規模
変革の主導者と変革に関係する人々
コッターの企業変革8段階─看護現場へのアレンジ
第4章 看護現場での変革を成功に導く0~8段階のプロセス
第0段階 問題の証拠を集める─本当に変革すべき問題なのですか?
問題を明確にする段階の重要性
問題の証拠はSデータとOデータに分けて集める
Exercise 第0段階
第1段階 危機意識を高める─問題と思っているのはあなただけではないですか?
1人だけで行動に移さない
危機意識が共有されているとは限らない
看護の現場で危機意識を高めるには
Exercise 第1段階
第2段階 変革推進チームをつくる─味方はいますか?
変革推進チームのメンバーをどのようにするか
Exercise 第2段階
第3段階 適切なビジョンをつくる
─あなたが変革したいことを分かりやすい言葉で表現できていますか?
ビジョンを提示するタイミング
魅力的なビジョンとは
具体的かつ簡潔なビジョン
Exercise 第3段階
第4段階 変革のビジョンを周知徹底する
─あなたが改善したいことを周りの人は知っていますか?
ビジョンを周知徹底するために
Exercise 第4段階
第5段階 従業員の自発的な行動を促す─周りの人たちもやる気になっていますか?
変革を阻む上司
あきらめて自分たちだけで変革をすすめようとしない
自発的な行動を促す制度
看護師個人の業績として評価
優れた実践を病棟カンファレンスで発表してもらう
看護現場特有の変革を阻む要因と配慮
Exercise 第5段階
第6段階 短期的な成果を生む─取り組んでみたことで変化はおきましたか?
短期的な成果と焦点の絞り込み
成果が明確に見えるように工夫する
Exercise 第6段階
第7段階 さらに変革を進める─なかだるみしていませんか?
看護の現場で変革をさらに進めるには
変革推進チームの負担を考慮する
Exercise 第7段階
第8段階 変革を根づかせる─いつのまにか,元のやり方に戻っていませんか?
変革の定着と中心人物
変革を根づかせる方法
新しく組織に加わった看護師への訴えかけ
Exercise 第8段階
付録 変革計画シート 記載例とポイント
あとがき
索引
リーダーシップの本質としての変革
第1章 “変革”をどう捉えるか
1 変革とは
医療・看護の現場での変化と変革
2 変革主導者に求められるリーダーシップ
リーダーシップと変革との関係
リーダーシップとマネジメントの区別
3 本書で想定する変革とはどのようなものか
変革の主導者
変革を実現させるための期間
第2章 “変革”を成功に導くための構成要素
1 変革を成功させるための行動指針となる4つの要素
ビジョン
戦略と計画,予算
2 変革を促す“感情”
変革を成功に導く核心
看護現場で「見て,感じて,変化する」ためには
第3章 コッターの企業変革8段階─看護の現場への応用
1 コッターの企業変革8段階とは
2 看護に寄せて読み替えてみると
変革の規模
変革の主導者と変革に関係する人々
コッターの企業変革8段階─看護現場へのアレンジ
第4章 看護現場での変革を成功に導く0~8段階のプロセス
第0段階 問題の証拠を集める─本当に変革すべき問題なのですか?
問題を明確にする段階の重要性
問題の証拠はSデータとOデータに分けて集める
Exercise 第0段階
第1段階 危機意識を高める─問題と思っているのはあなただけではないですか?
1人だけで行動に移さない
危機意識が共有されているとは限らない
看護の現場で危機意識を高めるには
Exercise 第1段階
第2段階 変革推進チームをつくる─味方はいますか?
変革推進チームのメンバーをどのようにするか
Exercise 第2段階
第3段階 適切なビジョンをつくる
─あなたが変革したいことを分かりやすい言葉で表現できていますか?
ビジョンを提示するタイミング
魅力的なビジョンとは
具体的かつ簡潔なビジョン
Exercise 第3段階
第4段階 変革のビジョンを周知徹底する
─あなたが改善したいことを周りの人は知っていますか?
ビジョンを周知徹底するために
Exercise 第4段階
第5段階 従業員の自発的な行動を促す─周りの人たちもやる気になっていますか?
変革を阻む上司
あきらめて自分たちだけで変革をすすめようとしない
自発的な行動を促す制度
看護師個人の業績として評価
優れた実践を病棟カンファレンスで発表してもらう
看護現場特有の変革を阻む要因と配慮
Exercise 第5段階
第6段階 短期的な成果を生む─取り組んでみたことで変化はおきましたか?
短期的な成果と焦点の絞り込み
成果が明確に見えるように工夫する
Exercise 第6段階
第7段階 さらに変革を進める─なかだるみしていませんか?
看護の現場で変革をさらに進めるには
変革推進チームの負担を考慮する
Exercise 第7段階
第8段階 変革を根づかせる─いつのまにか,元のやり方に戻っていませんか?
変革の定着と中心人物
変革を根づかせる方法
新しく組織に加わった看護師への訴えかけ
Exercise 第8段階
付録 変革計画シート 記載例とポイント
あとがき
索引
書評
開く
激動する医療情勢の中,変革を志す人に手に取ってもらいたい一冊
書評者: 別府 千恵 (北里大病院副院長・看護部長)
ジョン・P・コッターの著書は,日本でも何冊も翻訳され,ビジネスパーソンにはなくてはならない本の1つです。私自身も管理者になり,コッターの著作は,自分の管理を分析するには有用だったため,スタッフにも紹介してきました。しかしながら,翻訳ものであることや,聞きなれない経営用語が多用されていることから,読むのを尻込みしたり,よくわからなかったという感想を聞き,がっかりしたものです。
この本の特徴は,コッターの変革の理論を看護の臨床に置き換えて説明していることで,臨床で働く看護師にとって理解しやすくなっています。著者が研修などで教員として試行錯誤を重ねながら,看護管理者にコッターの理論が有効活用されるように仕上げた努力の結果であると思います。さらにこの本では,著者自身が看護師長であったという強みを生かし,その時に取り組んだ変革のエピソードが,変革の段階を追って記載されています。それにより,コッターの理論が身近なものとして感じられます。
この本で著者は,コッターが8段階で説明している変革の段階に,0段階を加えて説明しています。0段階とは,看護管理者が陥りやすい「問題の明確化」です。「本当に変革すべき問題なのですか?」と,思い込みや情報の不十分な分析による独り善がりな変革にならないように,変革に取りかかる前に一旦止まって問題の証拠を集めましょうと呼びかけています。この0段階を加えたことが,この本のもう1つの特徴になっています。問題の明確化が進まないまま,勢いで変革に取りかかり,徒労に終わることはよくあることです。その落とし穴に落ちないように,0段階を加えてあるのです。
0段階の「本当に変革すべき問題なのですか?」と同様に,各段階の表題も,第1段階の「危機意識を高める」を「問題と思っているのはあなただけではないですか?」,第2段階の「変革推進チームをつくる」を「味方はいますか?」のようにわかりやすく読者に問いかける表現に言い換えてあり,読む人を引き付けます。この本の読者は,看護管理者が多いと考えられますが,リーダーシップを取ることを期待されているスタッフナースにも読みやすい内容になっています。
激動する今後の医療情勢を考えると,コッターのいうマネジメント(安定性や持続性を維持する)だけでは,太刀打ちできません。リーダーシップ(組織の変化を生み出す)の機能なしには,生き残っていけないのです。現場の変革を志す人が手に取り,ぜひより良い現場を作っていただきたいと思います。さらに,この本でコッターを知り,コッターの著書にトライするきっかけになるのではないでしょうか。
変革に対する期待と「ワクワク感」を与えてくれる1冊(雑誌『看護管理』より)
書評者: 佐々木 菜名代 (学校法人聖マリアンナ医科大学/川崎市立多摩病院・医療安全管理室副室長)
本書は,日々悩み,臨床で起きる問題と格闘する看護管理者に「看護現場での変革成功への道しるべ」としてぜひお薦めしたい。「問題解決のために現場を変えなければいけないけれど,何から手をつけたらよいのか分からない」――そんなとき本書を手にすれば,問題山積で混沌とした状況の向こう側に光明を見出せることは間違いない。
著者は大学院で看護管理学を専攻し,公立病院の看護師長として数々の変革を成し遂げた経験を持つ。また,大学教員としてさまざまな看護管理者教育にも携わってきた。米国ハーバードビジネススクール教授(現・名誉教授)のジョン・P・コッターの影響を受けた著者は,「リーダーシップ=変革」と捉えており,看護管理者教育においてもコッターの企業変革の理論を取り入れた。
授業では,受講者が自分自身の現場における変革計画を立案し,発表,意見交換が行われた。また,授業以外でも,変革計画について数多くの悩める看護管理者の個別コンサルテーションを行ってきた。そのような経験から著者は,「コッターの企業変革の理論は看護現場に応用することができ,かつ,成果をあげられる」との手応えを得て,本書の執筆に至った。
コッターは変革の成功事例に共通した特徴を見出し,変革を8つの段階に整理した。コッターの企業変革は一般企業を対象としていることから,著者はこれを看護現場に合うようにアレンジした。また,その表現は以下のように,読者に問いかける形になっていることから,読者がその問いに答えていくことで,変革がうまく進んでいくしくみになっている。
第1段階:危機意識を高める
→問題と思っているのはあなただけではないですか?
第2段階:変革推進チームをつくる
→味方はいますか?
第3段階:適切なビジョンをつくる
→あなたが変革したいことを分かりやすい言葉で表現できていますか?
第4段階:変革のビジョンを周知徹底する
→あなたが改善したいことを周りの人は知っていますか?
第5段階:従業員の自発的な行動を促す
→周りの人たちもやる気になっていますか?
第6段階:短期的な成果を生む
→取り組んでみたことで変化はおきましたか?
第7段階:さらに変革を進める
→なかだるみしていませんか?
第8段階:変革を根づかせる
→いつのまにか,元のやり方に戻っていませんか?
さらに,変革(これまでのやり方と何かを変えること)とは,「問題(=変革すべきこと)の明確化+解決策の立案・実施・定着」であると考える著者は,第0段階として「問題の証拠を集める→本当に変革すべき問題なのですか?」を加えた。本書では,この「看護現場での変革を成功に導く0~8段階のプロセス」が,看護管理者が日常体験する身近な事例を用いながら解説されている。
解説にある事例は,著者自身や著者が関わった看護管理者の現場における生の体験であることから,1つの物語として引き込まれ,事例を読み進めることで,変革成功の疑似体験をしたような感覚さえ得ることができた。
本書は,問題に立ち向かおうとしている看護管理者にとって,「変革の道しるべ」となるだけでなく,変革に対する不安や緊張,不確かさをはるかにしのぐ,期待と変革に取り組む「ワクワク感」を与えてくれるであろう。
(『看護管理』2018年12月号掲載)
書評者: 別府 千恵 (北里大病院副院長・看護部長)
ジョン・P・コッターの著書は,日本でも何冊も翻訳され,ビジネスパーソンにはなくてはならない本の1つです。私自身も管理者になり,コッターの著作は,自分の管理を分析するには有用だったため,スタッフにも紹介してきました。しかしながら,翻訳ものであることや,聞きなれない経営用語が多用されていることから,読むのを尻込みしたり,よくわからなかったという感想を聞き,がっかりしたものです。
この本の特徴は,コッターの変革の理論を看護の臨床に置き換えて説明していることで,臨床で働く看護師にとって理解しやすくなっています。著者が研修などで教員として試行錯誤を重ねながら,看護管理者にコッターの理論が有効活用されるように仕上げた努力の結果であると思います。さらにこの本では,著者自身が看護師長であったという強みを生かし,その時に取り組んだ変革のエピソードが,変革の段階を追って記載されています。それにより,コッターの理論が身近なものとして感じられます。
この本で著者は,コッターが8段階で説明している変革の段階に,0段階を加えて説明しています。0段階とは,看護管理者が陥りやすい「問題の明確化」です。「本当に変革すべき問題なのですか?」と,思い込みや情報の不十分な分析による独り善がりな変革にならないように,変革に取りかかる前に一旦止まって問題の証拠を集めましょうと呼びかけています。この0段階を加えたことが,この本のもう1つの特徴になっています。問題の明確化が進まないまま,勢いで変革に取りかかり,徒労に終わることはよくあることです。その落とし穴に落ちないように,0段階を加えてあるのです。
0段階の「本当に変革すべき問題なのですか?」と同様に,各段階の表題も,第1段階の「危機意識を高める」を「問題と思っているのはあなただけではないですか?」,第2段階の「変革推進チームをつくる」を「味方はいますか?」のようにわかりやすく読者に問いかける表現に言い換えてあり,読む人を引き付けます。この本の読者は,看護管理者が多いと考えられますが,リーダーシップを取ることを期待されているスタッフナースにも読みやすい内容になっています。
激動する今後の医療情勢を考えると,コッターのいうマネジメント(安定性や持続性を維持する)だけでは,太刀打ちできません。リーダーシップ(組織の変化を生み出す)の機能なしには,生き残っていけないのです。現場の変革を志す人が手に取り,ぜひより良い現場を作っていただきたいと思います。さらに,この本でコッターを知り,コッターの著書にトライするきっかけになるのではないでしょうか。
変革に対する期待と「ワクワク感」を与えてくれる1冊(雑誌『看護管理』より)
書評者: 佐々木 菜名代 (学校法人聖マリアンナ医科大学/川崎市立多摩病院・医療安全管理室副室長)
本書は,日々悩み,臨床で起きる問題と格闘する看護管理者に「看護現場での変革成功への道しるべ」としてぜひお薦めしたい。「問題解決のために現場を変えなければいけないけれど,何から手をつけたらよいのか分からない」――そんなとき本書を手にすれば,問題山積で混沌とした状況の向こう側に光明を見出せることは間違いない。
著者は大学院で看護管理学を専攻し,公立病院の看護師長として数々の変革を成し遂げた経験を持つ。また,大学教員としてさまざまな看護管理者教育にも携わってきた。米国ハーバードビジネススクール教授(現・名誉教授)のジョン・P・コッターの影響を受けた著者は,「リーダーシップ=変革」と捉えており,看護管理者教育においてもコッターの企業変革の理論を取り入れた。
授業では,受講者が自分自身の現場における変革計画を立案し,発表,意見交換が行われた。また,授業以外でも,変革計画について数多くの悩める看護管理者の個別コンサルテーションを行ってきた。そのような経験から著者は,「コッターの企業変革の理論は看護現場に応用することができ,かつ,成果をあげられる」との手応えを得て,本書の執筆に至った。
コッターは変革の成功事例に共通した特徴を見出し,変革を8つの段階に整理した。コッターの企業変革は一般企業を対象としていることから,著者はこれを看護現場に合うようにアレンジした。また,その表現は以下のように,読者に問いかける形になっていることから,読者がその問いに答えていくことで,変革がうまく進んでいくしくみになっている。
第1段階:危機意識を高める
→問題と思っているのはあなただけではないですか?
第2段階:変革推進チームをつくる
→味方はいますか?
第3段階:適切なビジョンをつくる
→あなたが変革したいことを分かりやすい言葉で表現できていますか?
第4段階:変革のビジョンを周知徹底する
→あなたが改善したいことを周りの人は知っていますか?
第5段階:従業員の自発的な行動を促す
→周りの人たちもやる気になっていますか?
第6段階:短期的な成果を生む
→取り組んでみたことで変化はおきましたか?
第7段階:さらに変革を進める
→なかだるみしていませんか?
第8段階:変革を根づかせる
→いつのまにか,元のやり方に戻っていませんか?
さらに,変革(これまでのやり方と何かを変えること)とは,「問題(=変革すべきこと)の明確化+解決策の立案・実施・定着」であると考える著者は,第0段階として「問題の証拠を集める→本当に変革すべき問題なのですか?」を加えた。本書では,この「看護現場での変革を成功に導く0~8段階のプロセス」が,看護管理者が日常体験する身近な事例を用いながら解説されている。
解説にある事例は,著者自身や著者が関わった看護管理者の現場における生の体験であることから,1つの物語として引き込まれ,事例を読み進めることで,変革成功の疑似体験をしたような感覚さえ得ることができた。
本書は,問題に立ち向かおうとしている看護管理者にとって,「変革の道しるべ」となるだけでなく,変革に対する不安や緊張,不確かさをはるかにしのぐ,期待と変革に取り組む「ワクワク感」を与えてくれるであろう。
(『看護管理』2018年12月号掲載)
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