看護倫理 第2版
見ているものが違うから起こること

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なぜ患者さんはわかってくれないの? それは、患者が見ている世界と、看護師の見ている世界が異なるから。看護師と患者の体験世界の違いがどこから生じ、論点がどこにあるかを考えることが、倫理的な看護の第一歩です。
「あとでっていつ?」「決めつけないで」──患者さんの声の背景には、大切なストーリーがあります。漫画を通じ、患者、家族のリアリティを体験してください。
視点を変えて看護倫理を考える『看護倫理』の第2版。

吉田 みつ子
発行 2024年12月判型:A5頁:224
ISBN 978-4-260-05697-7
定価 2,530円 (本体2,300円+税)

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はじめに──第2版の発行に寄せて

 初版から10年を経て、読者の皆さまに、ここから先も手に取ってもらえる本にしたいと、第2版を作ることになりました。改訂にあたっては、一つひとつの事例を読み返し、医療や社会の変化に応じて、追加修正が必要な内容を確認していきました。その結果、取り上げるべき内容はほとんど変わらないことがわかりました。
 それは、意外な結果ではありませんでした。なぜなら、本書はeveryday ethics(日常倫理)を取り扱っているからです(日常倫理については、新たに追加したColumn⇒p.89をご参照ください)。10年の間に、私たちの生活に大きな影響をもたらした出来事の1つに、感染症のパンデミックがあります。パンデミックによって、私たちは医療資源、医療サービスには限りがあることを目の当たりにし、命の優先順位について考えさせられました。このようなドラマチックな倫理は、社会全体に重要な課題を投げかけました。
 一方、日常倫理の問題はいつの時代も目立つことはありませんが、放っておくと知らぬ間に人々の尊厳を蝕み続けます。本書を通して、日常倫理に目を向けることの大切さが伝わることを願っています。
 このたびの改訂で書籍のサイズを小さくするのに伴い、漫画家の横谷順子さんは全面的に漫画を描き起こしてくださいました。横谷さんが描く登場人物の世界によって、読者の想像力がより刺激されることは間違いありません。
 また、10年前に看護倫理の本を書いてみたらと勧めてくださった川嶋みどり先生、そして、いつも示唆に富む助言をくださり、導いてくださる医学書院の品田暁子さんに心から感謝いたします。

 2024年10月
 吉田みつ子

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Chapter1 社会から求められるプロフェッショナリズム・自己研鑽
 Scene1 全部聞こえてますよ~
  看護師のストーリー
  患者のストーリー
  論点と対応
 Scene2 どうして皆、知ってるんだ?
  看護師のストーリー
  患者のストーリー
  論点と対応
 Scene3 いいって言ったけど……
  看護師のストーリー
  患者のストーリー
  論点と対応

Chapter2 高度な技術化、ケアシステムの中での看護
 Scene4 温かいお湯で身体を拭いてもらいたいけど……
  看護師のストーリー
  患者のストーリー
  論点と対応
 Scene5 「あとで」っていつですか?
  看護師のストーリー
  患者のストーリー
  論点と対応
 Scene6 私はスーパーの商品!?
  看護師のストーリー
  患者のストーリー
  論点と対応

Chapter3 ケアの質の保証と安全
 Scene7 母がどうして、ここで食事を?
  看護師のストーリー
  患者のストーリー
  論点と対応
 Scene8 はずしてください!
  新人看護師のストーリー
  先輩看護師のストーリー
  患者のストーリー
  論点と対応
 Scene9 そのまましちゃって大丈夫!?
  看護師のストーリー
  患者のストーリー
  論点と対応

Chapter4 患者の苦痛に向き合う
 Scene10 ナースコールは押せません
  看護師のストーリー
  患者のストーリー
  論点と対応
 Scene11 「また出てる!」私だって情けないのに……
  看護師のストーリー
  患者のストーリー
  論点と対応
 Scene12 とにかく痛い、動きたくない
  看護師のストーリー
  患者のストーリー
  論点と対応
 Scene13 「行動を変えられない人」と決めつけないで
  看護師のストーリー
  患者のストーリー
  論点と対応
 Scene14 リハビリしたいんです
  看護師のストーリー
  患者のストーリー
  論点と対応

Chapter5 患者の希望、家族の思いに看護師がどこまで踏み込むか
 Scene15 帰れるものなら帰りたい
  看護師のストーリー
  患者のストーリー
  家族のストーリー
  論点と対応
 Scene16 「これからのこと」って何?
  看護師のストーリー
  患者のストーリー
  論点と対応

column
 看護は本当に専門職か?
 「看護手順」「看護業務基準」と看護倫理の密接な関係
 ロボットやAIに看護実践はできるか?
 “everyday ethics”に目を向けよう
 道徳的苦悩、道徳的負傷・傷つきという言葉を知っていますか?
 病いを語る言葉
 日々の実践の振り返りが倫理的知識開発の第一歩
 苦痛に耐えるか否かを決めるのは私自身
 パターナリズムからシェアード・ディシジョン・メイキングへ
 「看護師」以外の「わたし」をもつことの意味

索引

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臨床は常に態度を決する仕事
書評者:宮子 あずさ(看護師/作家)

 1987年から臨床で働いていて,看護という仕事は,常に自らの態度を決めなければならない仕事だと感じています。それを初めて強く意識したのは,新人時代,肺がんの終末期の患者さんが痰がらみで窒息しそうになり,痰を吸引するかしないかを迷った場面でした。

 吸引の刺激でも,呼吸が止まるかもしれない。かといって,吸引しなければ,痰で窒息してしまうでしょう。悩んだ末,私は吸引を選び,腫瘍からの出血を引き起こしました。あの時の出血のすごさは今も記憶に残っています。

 このように,臨床には,どちらを選んでもそれぞれに悪い結果があり得る,ギリギリの選択を迫られる場面があります。そして,この選択という軸でさまざまな出来事を見ていくと,もっと日常的でささいなことから,私たちは選択を迫られていると感じます。

 例えば,不機嫌な声で患者さんから呼ばれたとき,どのような表情や言葉で応ずるか。あるいは,「副作用が怖くて薬を飲みたくない」と言われたときに,なんと答えを返すのか。あるいは,親族に遠慮して自分の気持ちを話せない患者さんに気付いた時,どのように行動するのか……。

 こうした場面で,私たちは何を手掛かりに自らの態度を選択するのでしょうか。そこには個人の価値観や組織の規範なども当然あるわけですが,看護職としては,看護倫理を押さえないわけにはいきません。

 そして,臨床で働きつつ看護倫理を学ぶテキストとして最適なのが,『看護倫理―見ているものが違うから起こること 第2版』。ここで著者は日常生活援助に潜む倫理的課題に注目し,臨床で日常的に起こる事例を取り上げています。

 事例の提示は,「看護師のストーリー」「患者のストーリー」など,それぞれの登場人物の目から見えたストーリーとしてつづられます。立場の違いは,見え方の違い。同じ出来事であっても,それぞれにとらえ方が違うことが,事例を通して繰り返し描かれていきます。

 看護師の立場から「患者のストーリー」を読めば,「そこまで求められても……」とため息が出る箇所もあるかもしれません。けれども,そうした箇所こそ,大事に読まれる必要があります。

 仮に同意できなかったとしても,患者のストーリーの存在を認め,内容を理解するのは私たちに課された責任。倫理は,自分とは立場が違う人,価値観が違う人を尊重しなければならない時こそ,守るべき枠として力を発揮します。

 そして,倫理的葛藤がこの仕事の道連れだからこそ,私たちはタフに考え続けねばなりません。最後に書かれたコラム〈「看護師」以外の「わたし」をもつことの意味〉は,著者から後輩への,温かいエールと読みました。

 新人から,ちょっと看護に疲れたベテランまで,お薦めできる一冊です。

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