薬剤師のための栄養療法管理マニュアル
患者の症状や疾患に応じた最適な栄養療法を進める時の心強い相棒!
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薬剤師が知っておきたい栄養療法の知識をコンパクトにまとめたマニュアル。総論は経腸栄養、末梢栄養、中心静脈栄養について「投与法」「薬剤との相互作用・配合変化」「アセスメント」のポイントを解説。各論は下痢、便秘、肝疾患、腎疾患、悪性腫瘍など主要な22の症状・疾患について、「栄養管理」「食事療法」「薬物療法」の各ステップの介入ポイントを提示。患者の症状や疾患に応じた最適な栄養療法を進める時の心強い相棒!
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序
適切な栄養管理はすべての医療の基本であり,糖尿病,がん,心疾患などのさまざまな疾患の予防や適切な治療において栄養的側面からのアプローチが重要である.低栄養状態では,合併症の発現増加,創傷治癒遅延や感染リスクが高まることが知られている.患者の栄養状態をアセスメントし,栄養状態に応じた栄養管理をプランニングすることが必要となる.栄養療法には,主に経腸栄養,末梢静脈栄養,中心静脈栄養があり,それぞれ適応の違い,メリット,デメリットがある.また,新たな輸液製剤や栄養製剤が開発され,病態に特化したものなど多様化している.適切な栄養療法を提供するためにも,消化管機能などの患者状態や栄養療法の施行期間なども考慮し,各製剤の特徴を理解した上で,患者に応じた適切な栄養療法を行うことが求められている.
臨床の現場では,栄養サポートチーム(NST:nutrition support team)に代表されるように組織横断的な活動が展開されており,医師,薬剤師,看護師,管理栄養士をはじめとする多職種で栄養管理・栄養療法に取り組む体制にある.栄養管理は,入院患者に対するNST回診の際やベッドサイドでの対応,周術期だけでなく,抗がん薬治療を行っている外来がん患者においてもその充実が求められている.特に,がん医療においては管理栄養士の配置も診療報酬算定の要件になっており,栄養状態の改善は抗がん薬治療の継続性を高めるとされ,抗がん薬による副作用への対応も含め多職種での栄養指導や栄養管理が実施されている.さらに,在宅における患者対応も今後より重要になってくると考えられる.いずれにせよ,栄養療法は医療の基本であり,栄養療法の基礎知識を習得し,患者の症状や疾患に応じた最適な栄養療法を提供することがチーム医療のメンバーである薬剤師にも求められている.
本書は2部構成になっている.前半の第I部では,栄養療法の基礎知識として経腸栄養,末梢静脈栄養,中心静脈栄養について,投与法,薬剤との相互作用・配合変化,アセスメントのポイントなどを解説している.また,臨床検査値や簡易懸濁法,在宅栄養などについても取り上げている.後半の第II部では,症状別および疾患別の栄養介入ポイントとして,原因,対応策,薬物療法時の確認事項などを解説している.症状別としては,食欲不振,下痢,便秘,味覚障害,摂食・嚥下障害などを,疾患別としては,肝疾患,腎疾患,心疾患,呼吸器疾患,消化器疾患,糖尿病,感染症,悪性腫瘍などを取り上げ,症例も提示してわかりやすく記載している.さらに,高齢者や小児における介入ポイントにも触れ,臨床において栄養管理を行う上での評価方法や必要事項が網羅されている.
本書を活用することで,栄養療法の対応ポイントを理解でき,患者の症状や疾患に応じた最適な栄養療法を提供することに繋がることを期待したい.本書が栄養療法に携わるみなさんにとって,臨床における積極的な患者支援の一助になれば幸いである.
2023(令和5)年4月
編集者を代表して
岐阜薬科大学教授・病院薬学研究室
吉村知哲
目次
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略語・欧文用語集
I 栄養療法の基礎知識
1 栄養療法の総論
2 経腸栄養剤
3 末梢静脈輸液
4 TPN(中心静脈栄養)
5 アルブミン製剤
6 臨床検査値
7 水分,電解質
8 簡易懸濁法
9 在宅栄養
II 症状別・疾患別の栄養介入のポイント
10 食欲不振
11 下痢
12 便秘
13 味覚障害
14 摂食・嚥下障害
15 肝炎,肝硬変
16 AKI(急性腎障害),CKD(慢性腎障害)
17 心不全
18 喘息,COPD(慢性閉塞性肺疾患)
19 潰瘍性大腸炎,クローン病,短腸症候群
20 急性膵炎,慢性膵炎
21 糖尿病
22 肥満症
23 脳血管疾患
24 周術期
25 感染症
26 悪性腫瘍
27 悪液質
28 褥瘡
29 外傷,熱傷
30 高齢者
31 小児
索引
書評
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輸液・栄養療法で活躍する薬剤師のノウハウを共有できる
書評者:室井 延之(神戸市立医療センター中央市民病院薬剤部長)
医療の高度化・専門分化とセーフティマネジメントの観点から,薬剤師が輸液・栄養療法にかかわる必要性はますます高まっている。さらに,地域完結型医療の実現に向けて,「2次医療圏での基幹病院は高度専門・急性期医療を担い,地域の暮らしを支える中小病院は市区町村単位での医療・介護サービスを連携していく」役割分担が進んでいる。入院医療の「前」と「後」を支え,地域と病院との薬物療法を間断なくつないでいくために,薬剤師は患者の生活を考慮した服薬管理,さらには自立支援にもかかわることが大切である。地域の保険薬局では在宅医療の充実に向けて,在宅患者の輸液・栄養療法へ参加する機会が増えていくと見込まれる。在宅医療の中心となる薬物療法,栄養療法は薬剤師の出番である。
本マニュアルのコンセプトは,「輸液・栄養療法の最前線で活躍する薬剤師が臨床業務で幾度も疑問や問題点にぶつかり,そのたびに薬学的視点で解決してきたノウハウを共有すること」であり,その記載内容はプラクティカルに徹している。目次は大きく,「I 栄養療法の基礎知識」と「II 症状別・疾患別の栄養介入のポイント」の2部構成となっている。
前半の約1/3を占める「I 栄養療法の基礎知識」では,栄養アセスメント,栄養投与経路の選択,栄養素の投与量の算出方法など,静脈・経腸栄養を安全に行うために必要な情報が図表を用いてわかりやすく的確にまとめられている。また,輸液・栄養療法においては,医薬品のみならず医療材料の的確な選択と適正な使用が不可欠なものとなっており,在宅栄養の項目に薬剤投与に用いる医療材料ついての特徴や適正使用のポイントなどの情報がまとめられているのはうれしい。
そして本書の各論である「II 症状別・疾患別の栄養介入のポイント」では,「下痢」「糖尿病」「悪性腫瘍」など22の症状や疾患を取り上げている。各病態の理解を深めた上で,製剤学的特性を考慮した「静脈・経腸栄養療法のアプローチ」をするための最適な手引きとなっており,読者は処方設計支援などの栄養療法プランニングや有害事象のモニタリングを実践することができる。
本マニュアルを病院薬剤師や保険薬局薬剤師が傍らに置いて活用することで,病院の栄養サポートチーム(NST)から保険薬局への連携が深まり,その結果,オール薬剤師としてこの領域でさらに大きな力を発揮していくことを期待したい。
患者の症状や疾患に応じた最適な栄養療法を進めるときの心強い相棒(マニュアル)
書評者:松尾 宏一(福岡大薬学部教授・腫瘍・感染症薬学)
病態による食欲不振や下痢症状の持続などから,経口摂取が困難な状況に陥る場面がある。このような患者に対して適切な栄養管理を怠ると,各種の栄養素やミネラル,ビタミンの欠乏症,さらにそれらを原因とした免疫力の低下や術後の創傷治癒の遷延などの深刻な症状を招きかねない。このような状況では,治療に対する効果が十分に発揮されないだけでなく,他の疾患を併発して追加の治療が必要となる場合すらある。つまり,医療の現場では日ごろから適切な栄養療法を心掛けて実施することが,各種の疾患の治療や合併症の予防となり,結果として患者の予後や全身状態,生活の質(QOL)の改善につながるのである。
栄養サポートは,医療と療養の基本である。栄養不良の早期発見と適切な栄養サポートが合併症の予防や早期回復につながるという考え方が浸透し,現在は多くの施設で栄養サポート体制が構築されるようになった。また栄養サポートに関するチーム医療の有効性が証明されてからは,診療報酬においても保険加算が認められ,各医療機関において多種職による管理体制が浸透した。このチームでは,医師,薬剤師,管理栄養士,看護師,言語聴覚士,臨床検査技師などの多職種が連携し,各職種の職能を発揮しながら多方面からアプローチする医療が成果を上げている。
このような状況において,薬剤師に求められる栄養療法の知識は,飛躍的に高度化しかつ多様化しているが,意外なことにこれまで薬剤師に特化した栄養療法の書籍は存在しなかった。本書は,薬剤師が知っておくべき栄養療法の知識を網羅しながらもコンパクトにまとめられ,実践的な知識を得られるマニュアルとしてその有用性は非常に高い。具体的な内容としては,前半の総論において,経腸・末梢静注,中心静脈栄養についての「投与法」「薬剤との相互作用・配合変化」「アセスメント」のポイントが的確に解説されている。また栄養療法を考える上での臨床検査値や水分・電解質の項も有用である。その後に続く各論では,食欲不振,下痢,便秘,肝疾患,悪性腫瘍などの全22の症状や疾患を取り上げ,それぞれについて,「栄養管理」「食事療法」「薬物療法」の各ステップの介入ポイントをわかりやすく提示している。このような多種の疾患に対して,各ステップでの栄養療法を非常に的確に解説している書籍は,病院での薬剤管理指導や栄養サポートチーム活動,保険薬局における在宅栄養指導などの各種の場面で重宝するものと確信している。
最後になるが,この書籍の帯にもあるように,患者の症状や疾患に応じた最適な栄養療法を進めるときの「心強い相棒(マニュアル)」として,ぜひ薬剤師業務において常備し,活用していただきたいと願っている。
病棟業務,チーム医療,在宅医療で活躍する薬剤師にとって頼りがいのある一冊
書評者:名德 倫明(大阪大谷大薬学部教授・実践医療薬学)
栄養療法は疾患の治療や合併症の予防に寄与し,患者の予後やQOLを改善する。多くの病院薬剤師や保険薬局に勤務する薬剤師(以下,薬局薬剤師)は,薬物療法に加えて栄養療法にも積極的に関与していく必要がある。しかし,薬剤師向けの栄養関連の書籍はほとんどなく,業務を行う上で,栄養療法の評価もあまりできていないのが現状である。本書は,薬剤師が病棟やチーム医療において栄養管理,さらには在宅医療に積極的に取り組めるように,薬剤師として必要な栄養の知識の他,栄養を評価する時に注意したい薬剤についてもまとめられている。病棟業務,チーム医療,在宅医療で活躍する薬剤師にとって,本書はとても頼りがいのある一冊である。
本書は,「栄養療法の基礎知識」と「症状別・疾患別の栄養介入のポイント」の2部から構成されている。前半の「栄養療法の基礎知識」では,薬剤師にとって必要な,栄養療法の総論,各栄養療法の特徴や投与法,注意点,臨床検査値,簡易懸濁法,在宅栄養についてわかりやすく解説している。これらは処方監査,処方提案,チーム医療に必要な知識であり,病院薬剤師だけでなく薬局薬剤師にも役立つ内容になっている。また,知っているようで知らない不確かな用語を「ひとことメモ」として解説しており,かゆいところに手の届く配慮がなされている。後半部の「症状別・疾患別の栄養介入のポイント」は,「病態と治療→症状・疾患と栄養→栄養管理の介入ポイント→食事療法の介入ポイント→薬物療法→薬物療法の介入ポイント→症例」の流れで構成されており,薬物療法の介入ポイントとして治療薬の副作用チェックをする際の注意点についてまとめられている。症例では,薬剤師がどのような点を介入ポイントとして提案していくかがわかりやすく解説されており,臨床現場で非常に役立つのは間違いない。
これまでの書籍と比べると,本書は「薬剤師目線で書かれている」点が大きな特色となっている。薬剤師が栄養療法にもっと興味を持ち,積極的に介入できるように,また医師や看護師などの医療職からの問い合わせにも回答できるように工夫されている。全編にわたって本文は重要なポイントを簡潔に記載するスタイルで貫かれており,読者は求めている内容をピンポイントで探しやすい。また,図表をふんだんに盛り込んだことで,とても理解しやすくなっている。さらに,薬剤師として情報が不足がちになる食事療法や食品栄養剤についても取り上げているのもうれしい。ポケットサイズのマニュアルなので,白衣に忍ばせておけば,いざという時の戦力となる。本書はまさに書籍のオビの惹句の通り,適切な栄養療法をサポートする心強い相棒といえよう。