看護ケアの質評価と改善

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「優れた看護ケアとは?」「看護ケアの質とは何か?」  日本看護質評価改善機構では、看護ケアの質の測定、そのデータをどのように評価し、改善につなげるか、このテーマを継続的にぶれずに探求しつづけている。本書の巻末には、日本看護質評価改善機構の「評価項目一覧」を掲載。質評価の受審を検討している施設だけでなく、受審しなくてもそれぞれの施設で質の改善に活かせるように工夫を凝らした1冊。

編集 一般社団法人日本看護質評価改善機構
発行 2022年07月判型:B5頁:176
ISBN 978-4-260-04863-7
定価 3,300円 (本体3,000円+税)

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はしがき

 1993年に,片田範子氏を研究班長に厚生省(当時)看護対策研究事業として,看護ケアの質とは何かという壮大な課題に取り組んだことが,研究活動,質評価事業,そして質改善につながる取り組みの出発点です。
 「看護ケアの質の評価基準に関する研究」という課題のもと,看護ケアの質とは何か,看護ケアの質はどのように“測る”か,測定したデータをどのように“評価”するか,そして,2008年からは質の評価に基づきどのように“改善”に活かすか,看護ケアの質の向上に向けて発展的に取り組み,現在に至っています。研究の課題にあるように,私たちは“看護ケア”すなわち看護の実践の評価にこだわり,ブレずに取り組んできました。
 研究の初期の段階で,看護ケアの質を測る6領域(患者への接近,内なる力を強める,家族の絆を強める,直接ケア,場をつくる,インシデントを防ぐ)と評価指標を導き出しましたが,現在もこの6領域が看護ケアの質を構成する要素と評価の基本的な枠組みになっています。この評価の枠組みは開発以来28年の時を経ているものの,時代遅れの古ぼけた看護の枠組みではなく,看護ケアの根幹となる概念として活き活きとさらにその必要性を増していると強く感じます。日本看護質評価改善機構(以下,本機構)の評価は,構造評価,過程評価,アウトカム評価の3 つの観点から総合的に評価をするものですが,過程評価,すなわち看護ケアの評価を行うことができるという点でほかに類を見ない評価ツールです。
 改善に取り組むとなると,悪い部分を改めることや,足りない部分を補足するという,ネガティブな部分に焦点が当たることが多いように思います。しかしながら,改善に至る最初のステップで,自分たちの行っている看護ケアを新たな観点から見直すことによって,普段気が付かずに行っている優れた看護ケアや,患者に良い結果をもたらすことができた看護ケアなど,優れた部分に目を向けることができます。また,直接的な看護ケアの改善に資する可能性を持っているのが大きな特徴です。
 ところで,優れた看護ケアとはどういうものか,優れた看護ケアが目に見える形になったとして,その普及の状況はどうなのか,結果的に看護の質は向上したのかという問いについては,まだ多くの課題が残っています。また,今あるものの“改善”にとどまらず,看護の研究的活動の成果として看護ケアの革新(Innovation)が起こっています。私たちは,“改善(Improvement)”と“革新(Innovation)”の双方に注意を払いながら看護ケアの質の向上に取り組んでいきたいと思います。
 看護ケアの質を測り改善に活かすという歩みは,過去を振り返るだけではなく,将来に向けて実に多くの示唆を与えてくれます。『評価は過去のものに対して行われるものであって,未来を保証するものではない。しかし未来に向けた糧となる』といわれます。未来に向けて評価することは改善につながり,そして看護ケアの対象となる人々のアウトカム,すなわち,健康回復や満足におおいに貢献できると思っています。
 この本を多くの方々に手に取っていただき,そして看護ケアの質の向上に少しでも役に立つことを願っています。

 2022年6月
 一般社団法人 日本看護質評価改善機構 代表理事
 上泉和子

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はしがき

Chapter 1 看護ケアの質評価と改善活動の動向・改善への取り組み
  A 質評価と改善活動の動向
   1 米国を中心とした質評価と改善の歴史的変遷
   2 わが国における質評価と改善への取り組みの動向
  B 質の評価・改善の概念とその方法
   1 量と質
   2 Art and Science(技と科学)
   3 マネジメント
   4 質評価の方法論
  C 看護の質を評価するとは
   1 看護の質 Quality of Nursing Care とは何か
   2 質の評価と質の指標 Quality Indicator
   3 看護の質に敏感に反応する指標 Nursing-Sensitive Indicator
  D 日本看護質評価改善機構(JINQI:Japan Institute for Nursing Quality Improvement)の取り組み
   1 日本看護質評価改善機構(JINQI)は何をするところ?
   2 看護ケアの質評価・改善システム(看護QIシステム)について
   3 評価の単位
   4 評価の実際
   5 この指標で何を測れるか,本指標の特徴,本評価ができること

Chapter 2 看護ケアの質の評価
 Ⅰ 評価の概要

 Ⅱ 評価項目の内容と評価方法
  A 構造(Stucture)の評価
   1 構造評価の目的
   2 評価項目
   3 構造評価の実際
   4 構造評価の結果(例)
  B 過程(Process)の評価
   1 過程評価の目的
   2 評価項目
   3 過程評価の実際
   4 過程評価の結果(例)
  C アウトカム(Outcome)の評価
   1 アウトカム評価の目的
   2 評価項目
   3 アウトカム評価の実際
   4 アウトカム評価の結果(例)
  D 構造・過程・アウトカムの関係
   1 アウトカム指標の影響要因
   2 指標の活用と今後の課題

 Ⅲ リコメンデーション(評価報告書)
   1 リコメンデーションの目的
   2 改善に結び付けるリコメンデーションの書き方
   3 リコメンデーションの読み方

Chapter 3 看護ケアの質改善──評価を改善につなげる 業務改善からケアの改善へ
 Ⅰ 評価を改善につなげる──看護QIシステムを用いた評価と改善のプロセス
   ステップ1 F(Find) 改善すべき看護行為または問題を特定する
   ステップ2 O(Organize) その「看護行為(プロセス)」
   ステップ3 C(Clarify) 改善すべき看護行為や問題の現在の状況を明確にする
   ステップ4 U(Understand) 過程を解釈
   ステップ5 S(Select) 継続的質改善のための計画を選択する
   ステップ6 P(Plan) 改善を実行して新しい看護ケアのやり方をテストする方法を計
   ステップ7 D(Do) 計画を実施する
   ステップ8 S(Study) 結果を調査,分析する.実行した結果から学ん
   ステップ9 A(Act) 利益を維持し,改善を継続するために行動する

 Ⅱ 評価と改善の事例
   事例1 「家族の絆を強める」領域の強化
   事例2 「患者への接近」領域の強化
   事例3 「場をつくる」領域の強化
   事例4 「内なる力を強める」「直接ケア」領域の強化
   事例5 痛みに対する看護の質改善への取り組み
   事例6 整形外科病棟における患者支援・退院調整の改善への包括的な取り組み

日本看護質評価改善機構(JINQI)の新しい取り組みと今後の展望
 人工知能(AI)を用いて自動評価する仕組みの研究開発
 看護の質の経済評価
 看護QIチャンピオンについて

用語解説
Q&A

評価項目一覧
 構造評価項目一覧
 過程評価項目一覧
 アウトカム評価項目一覧
 患者満足度調査「入院中の看護に関するアンケート」
 インシデント発生件数チェック票

おわりに
索引

開く

忙しい日々の中での質向上へのこだわりに希望が持てる1冊
書評者:佐々木 誠子(東京臨海病院 看護部長)

 東京臨海病院では,「Web版看護ケアの質評価総合システムを用いた看護の質評価に関する研究」(科学研究費助成事業)への協力(2006~2008年度)を経て,2010年度から隔年で12病棟が「看護ケアの質評価・改善システム(以下,看護QIシステム)」による質評価を受け,看護ケアの質改善に取り組んでいます。
 看護QIシステムでは,看護の質を,3つの側面(構造,過程,アウトカム)と,6つの領域(患者への接近,内なる力を強める,家族の絆を強める,直接ケア,場をつくる,インシデントを防ぐ)の評価指標を用いて評価します。6つの領域は,2000年以前の研究の初期段階に開発されたものですが,現在の臨床現場にも見事にマッチしています。また,このシステムは,看護ケアの“過程評価”を行うことができるのが大きな特徴であり,過程の厳密な評価により,看護ケアの質改善につなげることができると示されています。
 看護QIシステムでは,自己評価,患者の評価,第三者の評価のデータから,ケアの質についての評価結果と,質向上を目指した改善点についての報告書(リコメンデーション)を作成し受審施設にフィードバックします。

 本書では,評価指標の開発,評価の実際,看護ケアの質改善に向けてどのように取り組むかが,「看護ケアの質評価と改善活動の動向・改善への取り組み」「看護ケアの質の評価」「看護ケアの質改善」の3つのChapterで,詳細かつ分かりやすく示されています。
 Chapter 3で紹介されている,評価を改善につなげる「FOCUS PDSA」の9つのステップは,看護師長との学習会ですぐにでも共有したい内容となっています。また,実際に質改善に取り組んだ事例を基に,病棟での質改善のポイントを紹介している「評価と改善の事例」では,「看護師長さんの頭の中」という視点がとてもユニークでした。
 さらにChapter 1で「看護QIシステムにできること」として提示されている7つの項目(看護ケアの改善のポイントが明確になる,Unit Baseで評価できる,病棟の目標設定の方向性を検討できる,経営戦略やマネジメントに活用できる,評価対象の拡大,「業務改善」から「ケアの質向上」へ,ベンチマークとしてデータを示すことができる)にも着目する価値が大いにあります。

 今回,本書で,看護QIシステムの開発に至るまでの有用な知見や,評価の仕組み,改善につなげるための詳細な方策に触れ,2020年に受審した際の質評価報告書を見直しました。報告書では,「現在も続くコロナ禍での看護の質改善の糸口になるのではないか」「管理者育成に活用できるのではないか」,そう思わずにはいられない内容が網羅されていました。これこそが本書が誕生した意義ではないかと勝手に解釈しています。
 看護部長として,タスクに追われているスタッフの現状を受け止め,改善していくのはもちろんのこと,私たちは看護のプロであり,当然,看護の質向上へのこだわりは捨てられないと心底感じています。本書との出会いは,日頃悩まされている「なぜそうなる?」と思ってしまう現象が,看護の質評価と改善活動により,なんとかなるのではないかという期待を持たせてくれるものとなりました。

(「看護管理」Vol.33 No.3 掲載)

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