QOLを高める
認知症リハビリテーションハンドブック
対象者の気持ちに寄り添うために、いまリハビリテーションができること。
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認知症のリハビリテーションとはなにか。本書は、認知症という病気を医学ベースで整理したうえで、効果的なリハビリテーション評価および治療の方法を学ぶことができる。臨床において実用性の高い評価スケールを厳選して紹介。治療については手段や戦略、またその効果に至るまで具体的に言及。臨床現場での活用をイメージできる症例も収載。目の前の対象者に寄り添い、家族を含めたQOLを高めるためのエッセンスをまとめた1冊。
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- 序文
- 目次
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序文
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序
世界一の高齢化が進むわが国では,今後認知症になる高齢者の益々の増加が予測されている.そのため,認知症に対する治療法の開発や社会の環境整備が喫緊の課題となっている.
認知症は脳の病気によって起こる症状の総称である.その特徴は,原因疾患の多くが進行性で悪くなること,そしてそれらに対する根治的な治療法が見つかっていないことに集約される.それでもわれわれ医療や介護の専門職は誰よりも先にできるだけよい治療を提供し,認知症の症状の進行を遅らせなければならない.それは目の前にいる認知症の対象者のQOLを少しでも高め,家族の気持ちに少しでも寄り添いたいと思うからである.
それではわれわれは,どのようにして症状の進行を遅らせたらよいのか,そもそも症状をどのようにとらえたらよいのであろうか.
本書はこのような素朴な疑問に答えたいという思いから,日常の臨床現場で認知症の対象者に向き合っている専門職とこれから認知症のリハビリテーションを学ぼうとする学生のみなさんに向けて,今必要とされている情報をできるだけコンパクトにまとめたものである.通読することで,認知症という病気の症状の基礎をもう一度整理し,症状をさまざまな角度と手段から評価し,より効果が得られる治療を学べるようになっている.すなわち,本書のタイトルにもなっているようにハンドブックとしての役割,つまり病気の診断から評価,治療に至る一連の過程を網羅し,実践例を参考にしながら臨床で用いることができるような機能を有している.決してマニュアルではなく,現時点における最良のリハビリテーションハンドブックであり,認知症の対象者を実際に担当し,試行錯誤を繰り返してきた研究と実践が集約されたものになっていることこそが本書の特徴といえる.
とはいえ,よりよい治療を提供するためには,まずは目の前の対象者に向き合うことが大切である.対象者の声に耳を傾け,対象者のことを理解しようと努力することがすべての治療の前提としてあるべきであろう.その意味で,自らが認知症になったその道の権威が語っていた内容がとても参考になる.その権威によると,認知症のやっかいなところは自身で「心配になる気づきがない」ことだという.これは病識が得にくいことを表しているが,その一方で,「認知症になったとしても見える景色は変わらない」とも述べている.この言葉は認知症になる前の自分自身を失っていないことの証であろう.そうであるなら,そのことに気づくことのできるわれわれ専門職が対象者や家族の心配を取り除き,見えている景色が決して消えることのないように寄り添っていくしかない.
このようなわれわれの願いに思いを馳せて,本書を手に取っていただけると幸いである.
2020年4月
今村 徹,能登真一
世界一の高齢化が進むわが国では,今後認知症になる高齢者の益々の増加が予測されている.そのため,認知症に対する治療法の開発や社会の環境整備が喫緊の課題となっている.
認知症は脳の病気によって起こる症状の総称である.その特徴は,原因疾患の多くが進行性で悪くなること,そしてそれらに対する根治的な治療法が見つかっていないことに集約される.それでもわれわれ医療や介護の専門職は誰よりも先にできるだけよい治療を提供し,認知症の症状の進行を遅らせなければならない.それは目の前にいる認知症の対象者のQOLを少しでも高め,家族の気持ちに少しでも寄り添いたいと思うからである.
それではわれわれは,どのようにして症状の進行を遅らせたらよいのか,そもそも症状をどのようにとらえたらよいのであろうか.
本書はこのような素朴な疑問に答えたいという思いから,日常の臨床現場で認知症の対象者に向き合っている専門職とこれから認知症のリハビリテーションを学ぼうとする学生のみなさんに向けて,今必要とされている情報をできるだけコンパクトにまとめたものである.通読することで,認知症という病気の症状の基礎をもう一度整理し,症状をさまざまな角度と手段から評価し,より効果が得られる治療を学べるようになっている.すなわち,本書のタイトルにもなっているようにハンドブックとしての役割,つまり病気の診断から評価,治療に至る一連の過程を網羅し,実践例を参考にしながら臨床で用いることができるような機能を有している.決してマニュアルではなく,現時点における最良のリハビリテーションハンドブックであり,認知症の対象者を実際に担当し,試行錯誤を繰り返してきた研究と実践が集約されたものになっていることこそが本書の特徴といえる.
とはいえ,よりよい治療を提供するためには,まずは目の前の対象者に向き合うことが大切である.対象者の声に耳を傾け,対象者のことを理解しようと努力することがすべての治療の前提としてあるべきであろう.その意味で,自らが認知症になったその道の権威が語っていた内容がとても参考になる.その権威によると,認知症のやっかいなところは自身で「心配になる気づきがない」ことだという.これは病識が得にくいことを表しているが,その一方で,「認知症になったとしても見える景色は変わらない」とも述べている.この言葉は認知症になる前の自分自身を失っていないことの証であろう.そうであるなら,そのことに気づくことのできるわれわれ専門職が対象者や家族の心配を取り除き,見えている景色が決して消えることのないように寄り添っていくしかない.
このようなわれわれの願いに思いを馳せて,本書を手に取っていただけると幸いである.
2020年4月
今村 徹,能登真一
目次
開く
第1章 認知症の基礎知識
1 定義と症状
1 認知症とは
2 認知症の診断
3 症状の各論
2 疾患の特徴
1 アルツハイマー病
2 レビー小体型認知症
3 前頭側頭型認知症
4 軽度認知障害
5 脳血管性認知症
3 治療の方法
1 薬物療法
2 非薬物療法
4 国の認知症対策
1 意思決定支援
2 認知症初期集中支援チーム
3 認知症カフェ
4 認知症ケアパス
第2章 リハビリテーション評価
1 評価の手順と考えかた
1 評価の枠組み
2 評価の手順
3 評価の役割,位置づけ
2 認知機能評価
1 認知機能評価のポイント
2 認知機能評価の注意点
3 行動面,ADL・IADLの評価
1 行動面,ADL・IADLの評価のポイント
2 観察評価
3 介護者など(informant)へのインタビュー評価
4 行動・心理面(BPSD)の評価
5 ADL・IADL評価
6 QOL評価
4 家族・介護者の問題の評価
1 介護負担感
第3章 リハビリテーションアプローチ
1 治療の枠組みとセラピストの役割
2 非薬物療法とそのエビデンス
3 心身機能
1 認知リハビリテーション
2 学習療法
3 運動療法(筋力トレーニング,有酸素運動)
4 言語リハビリテーション
4 活動と参加
1 アクティビティ
2 日常生活活動(ADL),手段的日常生活活動(IADL)
3 コミュニケーション支援
4 回想法
5 レクリエーション
6 芸術・刺激療法
5 環境因子
1 家族介護者への指導および支援(エンパワメント)
2 チームアプローチ
3 ピアサポート(患者家族会)
4 制度の利用(成年後見制度)
第4章 QOLが向上した症例紹介
1 アルツハイマー病①
趣味や性格を生かしたかかわりにより,徘徊や入浴拒否が軽減し,
自分の居場所ができた症例
2 アルツハイマー病②
本人が希望する生活行為をデイサービスでも継続できるよう連携した症例
3 アルツハイマー病③
メモリーブックを使ったグループでの介入により,
言語機能,対人交流,意欲に変化のみられた症例
4 脳血管性認知症
状態の変動と意欲低下にアプローチした症例
5 レビー小体型認知症
認知機能変動のdown状態時に,非常に強い妄想症状を呈していた症例
6 前頭側頭型認知症
常同行動を活用して活動量低下・意欲低下に介入した症例
索引
column
物盗られ妄想
ユマニチュード
夕暮れ症候群
誤認妄想
常同行動
幻視
1 定義と症状
1 認知症とは
2 認知症の診断
3 症状の各論
2 疾患の特徴
1 アルツハイマー病
2 レビー小体型認知症
3 前頭側頭型認知症
4 軽度認知障害
5 脳血管性認知症
3 治療の方法
1 薬物療法
2 非薬物療法
4 国の認知症対策
1 意思決定支援
2 認知症初期集中支援チーム
3 認知症カフェ
4 認知症ケアパス
第2章 リハビリテーション評価
1 評価の手順と考えかた
1 評価の枠組み
2 評価の手順
3 評価の役割,位置づけ
2 認知機能評価
1 認知機能評価のポイント
2 認知機能評価の注意点
3 行動面,ADL・IADLの評価
1 行動面,ADL・IADLの評価のポイント
2 観察評価
3 介護者など(informant)へのインタビュー評価
4 行動・心理面(BPSD)の評価
5 ADL・IADL評価
6 QOL評価
4 家族・介護者の問題の評価
1 介護負担感
第3章 リハビリテーションアプローチ
1 治療の枠組みとセラピストの役割
2 非薬物療法とそのエビデンス
3 心身機能
1 認知リハビリテーション
2 学習療法
3 運動療法(筋力トレーニング,有酸素運動)
4 言語リハビリテーション
4 活動と参加
1 アクティビティ
2 日常生活活動(ADL),手段的日常生活活動(IADL)
3 コミュニケーション支援
4 回想法
5 レクリエーション
6 芸術・刺激療法
5 環境因子
1 家族介護者への指導および支援(エンパワメント)
2 チームアプローチ
3 ピアサポート(患者家族会)
4 制度の利用(成年後見制度)
第4章 QOLが向上した症例紹介
1 アルツハイマー病①
趣味や性格を生かしたかかわりにより,徘徊や入浴拒否が軽減し,
自分の居場所ができた症例
2 アルツハイマー病②
本人が希望する生活行為をデイサービスでも継続できるよう連携した症例
3 アルツハイマー病③
メモリーブックを使ったグループでの介入により,
言語機能,対人交流,意欲に変化のみられた症例
4 脳血管性認知症
状態の変動と意欲低下にアプローチした症例
5 レビー小体型認知症
認知機能変動のdown状態時に,非常に強い妄想症状を呈していた症例
6 前頭側頭型認知症
常同行動を活用して活動量低下・意欲低下に介入した症例
索引
column
物盗られ妄想
ユマニチュード
夕暮れ症候群
誤認妄想
常同行動
幻視
書評
開く
認知症の対象者や家族に「寄り添う」ための必読書
書評者: 網本 和 (東京都立大教授・理学療法学)
あまたある高次脳機能障害の中でも「認知症」ほど,その理解と対応に難渋するものはないというのが評者の正直な印象です。これまでの評者のグループが行ってきた研究でも,対象の選択基準には重度な「認知症がないこと」とする場合がほとんどで,真正面からこの課題に向き合ってきたわけではありません。しかしながら,本書の編著者が述べているように高齢化社会の進むわが国では,「認知症に対する治療法の開発や社会の環境整備が喫緊の課題である」という認識は多くの関係者が共有していることと思います。
このような切実な危機感を背景として,今村徹先生,能登真一先生によって本書が上梓されたことは大きな喜びであり福音というべきものです。本書は,第1章「認知症の基礎知識」,第2章「リハビリテーション評価」,第3章「リハビリテーションアプローチ」,そして第4章「QOLが向上した症例紹介」から構成されています。例えば,第1章では「認知症とは」の項で,一般人が陥りやすい認識である「ぼけ」=認知症ではないことが明確に定義され,続く「認知症の診断」の項では,症状,病因,障害の診断について平易に解説されています。第2章では評価について詳説されており,「評価の枠組み」の項では,認知機能面の評価と行動面の評価に大きく分けられることが指摘され,評者のような初学者にとってもわかりやすいフレームが示されています。第3章では治療アプローチについてまとめられており,特に「非薬物療法とそのエビデンス」は,認知リハビリテーション,学習療法,運動療法,言語リハビリテーションについて具体的な手続きの紹介を交えて示されています。「運動療法(筋力トレーニング,有酸素運動)」の項では行動変容を基盤とした方法が紹介されていて,評者は理学療法士ということもあり大変興味深く読ませてもらいました。第4章の症例紹介では,アルツハイマー病,脳血管性認知症,レビー小体型認知症が例示されています。これ以外に,本書の随所にちりばめられた物盗られ妄想,ユマニチュードなどといった「column」も,わかりやすいイラストと相まって読者の理解を助けるものと思います。
評者が長く臨床で勤務していた聖マリアンナ医大の元学長であり,わが国における「認知症」研究の泰斗であった長谷川和夫先生は,後年自らが「認知症」であることを告白し,そのインタビューにおいて「認知症になった自分とそうじゃなかった自分には,そんなに大きな差がない。連続性がある。だから,認知症の人に接するときは,自分と同じ人だと思って接したほうがいいと思う」と述べています。この発言に関連して本書の序には,「そうであるなら(中略)われわれ専門職が対象者や家族の心配を取り除き,見えている景色が決して消えることがないように寄り添っていく」という決意が掲げられているのです。
良質でわかりやすい本書は,「寄り添う」ことへの心強いハンドブックであることを確信しています。
対象者と向き合う現場で頼りになるハンドブック
書評者: 村田 和香 (群馬パース大教授・理学療法学/リハビリテーション学部開設準備室室長)
認知症の患者さんと初めて会うとき,私がいつも気になるのは「この方はどんな人生を歩いてこられたのだろう」ということ。何を大切にして何を守ってきたのだろうか,何が好きだったのだろうか,何が得意だったのだろうか,どのような状況でどのような判断をしてきた人だったのだろうか,などと思いをはせる。お話を伺うことができるならば,ご本人はもちろんご家族にもじっくり伺いたい。そして,できることならば,この方のこれまでの物語の流れに沿った人生の続きを,周りの人と一緒に過ごす時間を少しでも確保したいと強く願う。そのため,本書の「序」の,「よりよい治療を提供するためには,まずは目の前の対象者に向き合うことが大切である。対象者の声に耳を傾け,対象者のことを理解しようと努力することがすべての治療の前提としてあるべきであろう」という部分を読んだとき,まさにそのとおりと感じた。そのようなことに思いを巡らし,本書を読んだ。
本書は,認知症の症状やそれぞれの特徴,治療方法や国の対策などの基礎知識からはじまり,リハビリテーションの評価,アプローチ,そして症例紹介で構成されている。
基礎知識はコンパクトにまとまっている。そのため,学生が知識を整理するのに助かるものとなっている。続く評価は,その役割と位置付けが書かれている。主治医との連携の重要性が大切なことと強調されている。認知症の評価の大きな役割が明快である。
また,それぞれのリハビリテーションアプローチには,治療の戦略とメカニズムがまとめられている。これはそれぞれのアプローチに記載されたものに限らず,発展の方向性を示してくれていて,魅力的である。なお,活動と参加に「アクティビティ」の項があるが,作業療法の世界では,確かに日常的にアクティビティという言葉が使われてきた歴史がある。しかし,ICFを使って説明する症例が後に続くため,混乱を来すかもしれない。作業療法士以外の職種のことを考えるとクラフトなどにしたほうがよいのかもしれない。
最後の「QOLが向上した症例紹介」では,ICFに基づいた評価のまとめがチームアプローチの実践に役立つと感じる。認知症を全体的に捉えるという点でもわかりやすい。
認知症を抱える現場にとって頼りになる,まさにハンドブックである。
人生100年時代の認知症者対応に
書評者: 内山 量史 (春日居サイバーナイフ・リハビリ病院・言語療法部長)
人生100年時代が到来しました。この超高齢社会においては全ての人が元気に活躍し続けられる社会,安心して暮らすことのできる社会をつくることが重要な課題となっています。特に増加傾向にある認知症者への対応は重要な施策として国を挙げて取り組まれています。
本書は認知症の方へのリハビリテーションに従事し,日々のかかわりや研究に汗を流されている14名の執筆者によってまとめられたハンドブックであり,全体で4章から構成されています。
第1章では認知症の基礎知識として定義と症状,疾患の特徴などがわかりやすく記載されています。また,国の認知症施策についてもまとめられており,認知症初期集中支援チームの果たす役割についても記載されています。認知症の方やその家族が集える場所として最近注目されている認知症カフェについても紹介されており,地域で認知症の方を見守り支援することの重要性を再確認できます。
第2章はリハビリテーションの評価について,臨床上使用されることの多い検査の実施方法や解釈に至るまで記載されています。また,机上での検査だけではなく行動を伴う場面での評価についても詳細に説明されており,行動面の観察も評価には重要であることが学べます。
第3章のリハビリテーションアプローチでは,心身機能へのリハビリテーションから活動と参加へのアプローチ,コミュニケーション支援などが表やイラスト,写真を使用して具体的に記述されており臨床現場ですぐに活用できる多くのヒントを得ることができます。また,家族介護者の指導や支援の重要性,ピアサポートの果たす役割についての学びを深められるのは本書ならではです。
第4章ではQOLが向上した6症例が紹介されています。介入方法や経過が具体的に記述されており,実践例を通じて認知症の方の生活全体をみる視点や各専門職のかかわりを知ることで多職種連携の重要性が理解できます。さらには,コラムとして物盗られ妄想や夕暮れ症候群など認知症によくみられる症状と実際の対応策が紹介されており,認知症の方への対応の一助となるはずです。
私も言語聴覚士として臨床現場で30年以上携わっていますが,認知症の方々に対するコミュニケーションや食事などにかかわる機会は明らかに増えてきています。高齢者は複数の疾患を有している場合が多く,単一疾患におけるリハビリテーションだけでは十分なリハビリテーションが提供できないケースが多々あり,認知症への対応は喫緊の課題であると実感しています。基礎的な知識や実践例を通じて認知症の方への介入方法をはじめ家族支援や地域での支援の在りかたまでを学ぶことができる本書を多くのリハビリテーション従事者に紹介したいと思います。
書評者: 網本 和 (東京都立大教授・理学療法学)
あまたある高次脳機能障害の中でも「認知症」ほど,その理解と対応に難渋するものはないというのが評者の正直な印象です。これまでの評者のグループが行ってきた研究でも,対象の選択基準には重度な「認知症がないこと」とする場合がほとんどで,真正面からこの課題に向き合ってきたわけではありません。しかしながら,本書の編著者が述べているように高齢化社会の進むわが国では,「認知症に対する治療法の開発や社会の環境整備が喫緊の課題である」という認識は多くの関係者が共有していることと思います。
このような切実な危機感を背景として,今村徹先生,能登真一先生によって本書が上梓されたことは大きな喜びであり福音というべきものです。本書は,第1章「認知症の基礎知識」,第2章「リハビリテーション評価」,第3章「リハビリテーションアプローチ」,そして第4章「QOLが向上した症例紹介」から構成されています。例えば,第1章では「認知症とは」の項で,一般人が陥りやすい認識である「ぼけ」=認知症ではないことが明確に定義され,続く「認知症の診断」の項では,症状,病因,障害の診断について平易に解説されています。第2章では評価について詳説されており,「評価の枠組み」の項では,認知機能面の評価と行動面の評価に大きく分けられることが指摘され,評者のような初学者にとってもわかりやすいフレームが示されています。第3章では治療アプローチについてまとめられており,特に「非薬物療法とそのエビデンス」は,認知リハビリテーション,学習療法,運動療法,言語リハビリテーションについて具体的な手続きの紹介を交えて示されています。「運動療法(筋力トレーニング,有酸素運動)」の項では行動変容を基盤とした方法が紹介されていて,評者は理学療法士ということもあり大変興味深く読ませてもらいました。第4章の症例紹介では,アルツハイマー病,脳血管性認知症,レビー小体型認知症が例示されています。これ以外に,本書の随所にちりばめられた物盗られ妄想,ユマニチュードなどといった「column」も,わかりやすいイラストと相まって読者の理解を助けるものと思います。
評者が長く臨床で勤務していた聖マリアンナ医大の元学長であり,わが国における「認知症」研究の泰斗であった長谷川和夫先生は,後年自らが「認知症」であることを告白し,そのインタビューにおいて「認知症になった自分とそうじゃなかった自分には,そんなに大きな差がない。連続性がある。だから,認知症の人に接するときは,自分と同じ人だと思って接したほうがいいと思う」と述べています。この発言に関連して本書の序には,「そうであるなら(中略)われわれ専門職が対象者や家族の心配を取り除き,見えている景色が決して消えることがないように寄り添っていく」という決意が掲げられているのです。
良質でわかりやすい本書は,「寄り添う」ことへの心強いハンドブックであることを確信しています。
対象者と向き合う現場で頼りになるハンドブック
書評者: 村田 和香 (群馬パース大教授・理学療法学/リハビリテーション学部開設準備室室長)
認知症の患者さんと初めて会うとき,私がいつも気になるのは「この方はどんな人生を歩いてこられたのだろう」ということ。何を大切にして何を守ってきたのだろうか,何が好きだったのだろうか,何が得意だったのだろうか,どのような状況でどのような判断をしてきた人だったのだろうか,などと思いをはせる。お話を伺うことができるならば,ご本人はもちろんご家族にもじっくり伺いたい。そして,できることならば,この方のこれまでの物語の流れに沿った人生の続きを,周りの人と一緒に過ごす時間を少しでも確保したいと強く願う。そのため,本書の「序」の,「よりよい治療を提供するためには,まずは目の前の対象者に向き合うことが大切である。対象者の声に耳を傾け,対象者のことを理解しようと努力することがすべての治療の前提としてあるべきであろう」という部分を読んだとき,まさにそのとおりと感じた。そのようなことに思いを巡らし,本書を読んだ。
本書は,認知症の症状やそれぞれの特徴,治療方法や国の対策などの基礎知識からはじまり,リハビリテーションの評価,アプローチ,そして症例紹介で構成されている。
基礎知識はコンパクトにまとまっている。そのため,学生が知識を整理するのに助かるものとなっている。続く評価は,その役割と位置付けが書かれている。主治医との連携の重要性が大切なことと強調されている。認知症の評価の大きな役割が明快である。
また,それぞれのリハビリテーションアプローチには,治療の戦略とメカニズムがまとめられている。これはそれぞれのアプローチに記載されたものに限らず,発展の方向性を示してくれていて,魅力的である。なお,活動と参加に「アクティビティ」の項があるが,作業療法の世界では,確かに日常的にアクティビティという言葉が使われてきた歴史がある。しかし,ICFを使って説明する症例が後に続くため,混乱を来すかもしれない。作業療法士以外の職種のことを考えるとクラフトなどにしたほうがよいのかもしれない。
最後の「QOLが向上した症例紹介」では,ICFに基づいた評価のまとめがチームアプローチの実践に役立つと感じる。認知症を全体的に捉えるという点でもわかりやすい。
認知症を抱える現場にとって頼りになる,まさにハンドブックである。
人生100年時代の認知症者対応に
書評者: 内山 量史 (春日居サイバーナイフ・リハビリ病院・言語療法部長)
人生100年時代が到来しました。この超高齢社会においては全ての人が元気に活躍し続けられる社会,安心して暮らすことのできる社会をつくることが重要な課題となっています。特に増加傾向にある認知症者への対応は重要な施策として国を挙げて取り組まれています。
本書は認知症の方へのリハビリテーションに従事し,日々のかかわりや研究に汗を流されている14名の執筆者によってまとめられたハンドブックであり,全体で4章から構成されています。
第1章では認知症の基礎知識として定義と症状,疾患の特徴などがわかりやすく記載されています。また,国の認知症施策についてもまとめられており,認知症初期集中支援チームの果たす役割についても記載されています。認知症の方やその家族が集える場所として最近注目されている認知症カフェについても紹介されており,地域で認知症の方を見守り支援することの重要性を再確認できます。
第2章はリハビリテーションの評価について,臨床上使用されることの多い検査の実施方法や解釈に至るまで記載されています。また,机上での検査だけではなく行動を伴う場面での評価についても詳細に説明されており,行動面の観察も評価には重要であることが学べます。
第3章のリハビリテーションアプローチでは,心身機能へのリハビリテーションから活動と参加へのアプローチ,コミュニケーション支援などが表やイラスト,写真を使用して具体的に記述されており臨床現場ですぐに活用できる多くのヒントを得ることができます。また,家族介護者の指導や支援の重要性,ピアサポートの果たす役割についての学びを深められるのは本書ならではです。
第4章ではQOLが向上した6症例が紹介されています。介入方法や経過が具体的に記述されており,実践例を通じて認知症の方の生活全体をみる視点や各専門職のかかわりを知ることで多職種連携の重要性が理解できます。さらには,コラムとして物盗られ妄想や夕暮れ症候群など認知症によくみられる症状と実際の対応策が紹介されており,認知症の方への対応の一助となるはずです。
私も言語聴覚士として臨床現場で30年以上携わっていますが,認知症の方々に対するコミュニケーションや食事などにかかわる機会は明らかに増えてきています。高齢者は複数の疾患を有している場合が多く,単一疾患におけるリハビリテーションだけでは十分なリハビリテーションが提供できないケースが多々あり,認知症への対応は喫緊の課題であると実感しています。基礎的な知識や実践例を通じて認知症の方への介入方法をはじめ家族支援や地域での支援の在りかたまでを学ぶことができる本書を多くのリハビリテーション従事者に紹介したいと思います。
更新情報
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