片麻痺回復のための運動療法[DVD付] 第3版
促通反復療法「川平法」の理論と実際
より見やすく、より分かりやすく、待望の改訂第3版
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脳卒中後の片麻痺に対する運動療法として広く認知されている「川平法」こと、促通反復療法について基礎編/実践編の2部構成、フルカラーで解説。基礎編では臨床研究とエビデンス、実践編では治療者がどのように患者に手技を行うかについて1コマ1コマの写真を用いて丁寧に解説。前版から好評のDVDも内容をすべて見直し、上肢・下肢を中心に70手技の動画を収録、読者のさらなる理解が得られるよう工夫されている。
英語版・中国語版・台湾語版にて全世界に向けて情報発信中。
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序文
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第3版 序
筆者が提唱している促通反復療法(Repetitive Facilitative Exercise:RFE)は,新たな促通手技によって患者の意図した運動を実現し,それを反復することによって随意運動を実現するために必要な神経路を再建/強化することを目的とした神経路強化的促通法(neuronal net constructive therapy)である。促通反復療法はこれまで治療が難しかった片麻痺上肢,特に個々の手指の運動の回復だけでなく,従来の治療法の限界が明らかであった下肢麻痺と歩行障害の回復にも,健側立脚の重視と歩行中の促通療法の開発で大きな展望を開いた。促通反復療法は損傷された神経路の再建と強化を含む特定の神経路の選択強化(学習の促進)を基本的な治療原理としているため,脳卒中や脊髄損傷,末梢神経障害による麻痺や感覚障害へのリハビリテーションの有力な手法となる。
近年,この神経路レベルで強化できる促通反復療法の効果が回復期だけでなく,急性期,慢性期でも実証的な検証で確認されている。さらに,効果を高める持続的電気刺激法や振動刺激痙縮抑制法,経頭蓋磁気刺激法,ボツリヌス療法,ロボットなどとの併用療法の有効性が次々と報告されている。今後,神経系の再生医療後のリハビリテーションでは,目標の神経路を選択的に再建/強化できる促通反復療法と,それをより効果的にする手法との併用療法が不可欠のものとなろう。
この目標の神経路を効率的に強化する促通反復療法が考え出された背景には,サルなどでの基礎研究やヒトでのfMRIやPET,脳磁図(MEG)などを用いた臨床研究によって明らかにされた脳の機能局在と情報処理,脳損傷後の可塑性発現がある。これらの新たな事実は,片麻痺の回復を促進する治療にも新しい視点と理論的な発展をもたらし,脳卒中などの中枢神経障害による麻痺や失行に対する運動療法や作業療法の方向性を一変させた。つまり,障害を反射説に基づいて解釈し治療法を組み立てる従来の方法から,機能局在や中枢プログラム,ニューラルネットを基盤として,シナプス形成や伝達効率の向上による神経路形成を重視した科学的な治療法を考えるようになり,このことなしには新たな治療法の発展は期待できない時代となった。
本書では,促通反復療法を理解してもらうために,まずその基盤となっている機能局在,随意運動,可塑性,神経側芽などの神経路形成/強化のメカニズムなどを簡潔に説明している。続いて,促通反復療法の治療効果を実証的に述べ,最後に基本的な治療手技と併用療法について述べていく。
今回の改訂に当たって注力した点は,(1)下堂薗恵先生,野間知一先生の執筆による内容の拡充,(2)促通反復療法の治療手技の写真や図,表のカラー化と付録DVDの更新,(3)併用療法を含めた治療効果の科学的な証明の追加による合理的な治療戦略の解説, (4)歩行障害への治療の解説である。
ただ,付録DVDに収載した動画には多くの手技から日常の臨床で重要なものを選択せざるをえなかったこと,治療効果の科学的な証明は多くの論文があることに加えて,新たな論文が次々に発表されるために多くは紹介できなかったことはお許しを願いたい。
この出版に際して,多くの方のご支援を頂いた。写真と動画撮影のモデルを引き受けてくれた作業療法士の守永郁美さん,研究データを提供してくれた衛藤誠二先生,緒方敦子先生,松元秀次先生,さらに動画撮影の際に機材を提供頂いたオージー技研株式会社,伊藤超短波株式会社に心より感謝したい。また,何回もの修正をお許し頂いた医学書院の大野智志さん,田邊祐子さんにも御礼を申し上げる。
2017年4月
川平和美
筆者が提唱している促通反復療法(Repetitive Facilitative Exercise:RFE)は,新たな促通手技によって患者の意図した運動を実現し,それを反復することによって随意運動を実現するために必要な神経路を再建/強化することを目的とした神経路強化的促通法(neuronal net constructive therapy)である。促通反復療法はこれまで治療が難しかった片麻痺上肢,特に個々の手指の運動の回復だけでなく,従来の治療法の限界が明らかであった下肢麻痺と歩行障害の回復にも,健側立脚の重視と歩行中の促通療法の開発で大きな展望を開いた。促通反復療法は損傷された神経路の再建と強化を含む特定の神経路の選択強化(学習の促進)を基本的な治療原理としているため,脳卒中や脊髄損傷,末梢神経障害による麻痺や感覚障害へのリハビリテーションの有力な手法となる。
近年,この神経路レベルで強化できる促通反復療法の効果が回復期だけでなく,急性期,慢性期でも実証的な検証で確認されている。さらに,効果を高める持続的電気刺激法や振動刺激痙縮抑制法,経頭蓋磁気刺激法,ボツリヌス療法,ロボットなどとの併用療法の有効性が次々と報告されている。今後,神経系の再生医療後のリハビリテーションでは,目標の神経路を選択的に再建/強化できる促通反復療法と,それをより効果的にする手法との併用療法が不可欠のものとなろう。
この目標の神経路を効率的に強化する促通反復療法が考え出された背景には,サルなどでの基礎研究やヒトでのfMRIやPET,脳磁図(MEG)などを用いた臨床研究によって明らかにされた脳の機能局在と情報処理,脳損傷後の可塑性発現がある。これらの新たな事実は,片麻痺の回復を促進する治療にも新しい視点と理論的な発展をもたらし,脳卒中などの中枢神経障害による麻痺や失行に対する運動療法や作業療法の方向性を一変させた。つまり,障害を反射説に基づいて解釈し治療法を組み立てる従来の方法から,機能局在や中枢プログラム,ニューラルネットを基盤として,シナプス形成や伝達効率の向上による神経路形成を重視した科学的な治療法を考えるようになり,このことなしには新たな治療法の発展は期待できない時代となった。
本書では,促通反復療法を理解してもらうために,まずその基盤となっている機能局在,随意運動,可塑性,神経側芽などの神経路形成/強化のメカニズムなどを簡潔に説明している。続いて,促通反復療法の治療効果を実証的に述べ,最後に基本的な治療手技と併用療法について述べていく。
今回の改訂に当たって注力した点は,(1)下堂薗恵先生,野間知一先生の執筆による内容の拡充,(2)促通反復療法の治療手技の写真や図,表のカラー化と付録DVDの更新,(3)併用療法を含めた治療効果の科学的な証明の追加による合理的な治療戦略の解説, (4)歩行障害への治療の解説である。
ただ,付録DVDに収載した動画には多くの手技から日常の臨床で重要なものを選択せざるをえなかったこと,治療効果の科学的な証明は多くの論文があることに加えて,新たな論文が次々に発表されるために多くは紹介できなかったことはお許しを願いたい。
この出版に際して,多くの方のご支援を頂いた。写真と動画撮影のモデルを引き受けてくれた作業療法士の守永郁美さん,研究データを提供してくれた衛藤誠二先生,緒方敦子先生,松元秀次先生,さらに動画撮影の際に機材を提供頂いたオージー技研株式会社,伊藤超短波株式会社に心より感謝したい。また,何回もの修正をお許し頂いた医学書院の大野智志さん,田邊祐子さんにも御礼を申し上げる。
2017年4月
川平和美
目次
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基礎編
I 促通反復療法の理論的背景
A 機能局在
B 随意運動
1.随意運動のメカニズム
2.随意運動の中枢プログラムと反射説
C 運動学習
1.「誤りなき学習」~目標の神経路へ興奮伝導を反復
2.興奮伝導によるシナプスの伝達効率向上と組織的結合強化
D 可塑性の証明
E 機能回復のメカニズムと可塑性
1.脳の可塑性
2.非障害側半球での機能再構成
F 可塑性のメカニズム
1.神経側芽(sprouting)
2.アンマスキング(unmasking)
G 片麻痺回復促進と神経筋促通法の問題点
H 片麻痺回復促進のための4 つの視点
I 促通反復療法の治療成績
1.片麻痺上肢の治療成績
2.片麻痺体幹の治療成績
3.片麻痺下肢の治療成績
J 促通反復療法を基軸とした併用療法
1.併用療法の理論背景
2.神経筋電気刺激(neuromuscular electrical stimulation:NMES)
3.振動刺激
4.持続的電気刺激/振動刺激との併用療法
5.経頭蓋磁気刺激
K 視野欠損への反復視覚刺激療法
実践編
II 促通反復療法の原則と基本手技
A 促通反復療法の原則
B 促通反復療法の基本的手技
C 意図した運動の実現
D 麻痺の改善(共同運動分離)
E 痙縮コントロールの原則
III 治療プログラムの立案
A 促通反復療法を含む治療プログラム作成上の留意点
B 患者の集中力を維持するための工夫
1.片麻痺上肢の治療内容と留意点
2.片麻痺手指の治療内容と留意点
3.片麻痺下肢の治療内容と留意点
C 促通反復療法の治療目標
1.麻痺の回復
2.上肢の実用的目標
3.下肢の実用的目標
IV 上肢への促通反復療法
A 上肢の運動療法の原則
B 基本的治療手技と肩の痛みの予防
1.肩関節屈曲と操作法
2.手指と前腕の屈筋痙縮を抑制する操作(背臥位)
3.目標の神経路の興奮水準を高める操作
C 上肢の運動療法の進め方
D 肩の促通法
E 上肢全体の促通法
F 肘の促通法
G 手関節の促通法
H 手指の促通法
V 下肢への促通反復療法
A 下肢の運動療法の原則
B 基本的治療手技
C 下肢の運動療法の進め方
D 股関節の促通法
E 下肢全体の促通法
F 膝の促通法
G 足関節の促通法
VI 麻痺側下肢の機能をいかす歩行訓練
A 立位バランスの訓練
1.目的
2.立位不安定例への治療
B 下肢装具と杖
1.下肢装具の適応
2.杖の選択と使用法
3.健側下肢への補高
C 歩行訓練
1.歩行パターン訓練
2.トレンデレンブルク歩行,挟み足歩行などへの介助法
3.階段昇降の介助法
VII 合理的な基本動作(寝返り,起座,立ち上がり,座り)
終わりに
A 神経筋促通法/促通反復療法のこれからの課題
B 促通反復療法が目指すべき方向性
C まとめ
索引
I 促通反復療法の理論的背景
A 機能局在
B 随意運動
1.随意運動のメカニズム
2.随意運動の中枢プログラムと反射説
C 運動学習
1.「誤りなき学習」~目標の神経路へ興奮伝導を反復
2.興奮伝導によるシナプスの伝達効率向上と組織的結合強化
D 可塑性の証明
E 機能回復のメカニズムと可塑性
1.脳の可塑性
2.非障害側半球での機能再構成
F 可塑性のメカニズム
1.神経側芽(sprouting)
2.アンマスキング(unmasking)
G 片麻痺回復促進と神経筋促通法の問題点
H 片麻痺回復促進のための4 つの視点
I 促通反復療法の治療成績
1.片麻痺上肢の治療成績
2.片麻痺体幹の治療成績
3.片麻痺下肢の治療成績
J 促通反復療法を基軸とした併用療法
1.併用療法の理論背景
2.神経筋電気刺激(neuromuscular electrical stimulation:NMES)
3.振動刺激
4.持続的電気刺激/振動刺激との併用療法
5.経頭蓋磁気刺激
K 視野欠損への反復視覚刺激療法
実践編
II 促通反復療法の原則と基本手技
A 促通反復療法の原則
B 促通反復療法の基本的手技
C 意図した運動の実現
D 麻痺の改善(共同運動分離)
E 痙縮コントロールの原則
III 治療プログラムの立案
A 促通反復療法を含む治療プログラム作成上の留意点
B 患者の集中力を維持するための工夫
1.片麻痺上肢の治療内容と留意点
2.片麻痺手指の治療内容と留意点
3.片麻痺下肢の治療内容と留意点
C 促通反復療法の治療目標
1.麻痺の回復
2.上肢の実用的目標
3.下肢の実用的目標
IV 上肢への促通反復療法
A 上肢の運動療法の原則
B 基本的治療手技と肩の痛みの予防
1.肩関節屈曲と操作法
2.手指と前腕の屈筋痙縮を抑制する操作(背臥位)
3.目標の神経路の興奮水準を高める操作
C 上肢の運動療法の進め方
D 肩の促通法
E 上肢全体の促通法
F 肘の促通法
G 手関節の促通法
H 手指の促通法
V 下肢への促通反復療法
A 下肢の運動療法の原則
B 基本的治療手技
C 下肢の運動療法の進め方
D 股関節の促通法
E 下肢全体の促通法
F 膝の促通法
G 足関節の促通法
VI 麻痺側下肢の機能をいかす歩行訓練
A 立位バランスの訓練
1.目的
2.立位不安定例への治療
B 下肢装具と杖
1.下肢装具の適応
2.杖の選択と使用法
3.健側下肢への補高
C 歩行訓練
1.歩行パターン訓練
2.トレンデレンブルク歩行,挟み足歩行などへの介助法
3.階段昇降の介助法
VII 合理的な基本動作(寝返り,起座,立ち上がり,座り)
終わりに
A 神経筋促通法/促通反復療法のこれからの課題
B 促通反復療法が目指すべき方向性
C まとめ
索引
書評
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脳卒中片麻痺者への支援アイテムとなる良書
書評者: 岩瀬 義昭 (北海道医療大教授・作業療法学/鹿大名誉教授)
脳卒中による障害は,運動麻痺や感覚障害,高次脳機能障害などさまざまなものがある。とりわけ片側の運動麻痺は,中枢性神経麻痺の特徴が大きく現れる。単に力が弱まるのではなく,変な力が入り硬く痛くなる,動作をするのに余分な関節が一緒に動く,体の各部分の位置関係がおかしくなる,などである。そのため,中枢性運動麻痺は生活の遂行に大きく影響する。日常生活活動では,朝夕の寝起きから洗顔・歯磨き,食事やトイレ動作,入浴などさまざまな活動の遂行に影響する。それは運動・動作の問題だけでなく,「実行することに時間がかかる」「終わった途端に疲れ切ってしまい,次にやりたい事に取りかかる気持ちが薄れた」など生活の質にも影響している。さらに,職業や学業生活,家庭生活などの生活関連活動にも影響を与える。そのため,罹患された方は,おのれの運動障害を何とか回復させて欲しい,そして社会や家庭に復帰させて欲しいと医療従事者に切望する。
一方,医療従事者,特にリハビリテーション医療に従事する者は,その患者さんの声に何とか応えたいと感じているであろう。しかし,神経解剖・生理学を養成課程で学んだわれわれ療法士をはじめとするリハビリテーション医療従事者は,脳を含む神経系の損傷は治癒に限界があると考えてきた。
本書初版は,脳卒中に対する治療・研究の場で活躍してきた川平和美氏(前・鹿児島大大学院教授/鹿児島大附属病院霧島リハビリテーションセンター長)が2006年に著したものである。川平氏らが所属する霧島リハビリテーションセンターでの取り組みは公共放送でも取り上げられ,全国各地の麻痺回復に悩む脳卒中片麻痺者からの問い合わせへの対応に苦労されたと聞く。その後,川平氏は2010年5月に第47回日本リハビリテーション医学会学術総会を大会長として鹿児島で開催した。ここでは,エビデンスのある治療方法のセッションが組まれてあったが,多くの医師で満員となっていた。また,霧島リハビリテーションセンターで開催される実技研修にも全国からの参加者が多く盛会であり,本書も初版,2版とも増刷を重ねていたと聞いている。
この間に本書は進化を続け,共著者である現リハビリテーション医学講座の下堂園恵教授,霧島リハビリテーションセンター作業療法士の野間知一氏や講座に所属される研究者により,神経系の回復メカニズムや治療介入の効果研究が蓄積されて,エビデンスレベルも上がっている。
本書の構成は,基礎編,実践編の2部構成となっている。実践編はカラー写真になり,DVDも新たに撮り直した映像が載せられ,わかりやすくなった。しかし,本書は基礎編からじっくり読み進めて欲しいし,引用文献に記載されている原著も読んで欲しい研究書でもある。
本書は,臨床で脳卒中片麻痺者の回復に取り組む医師や療法士にはぜひ一読していただきたい良書である。
カラーになって格段に理解しやすくなった第3版
書評者: 前田 眞治 (国際医療福祉大大学院教授・リハビリテーション学)
近年,促通反復療法(川平法)はリハビリテーションの中で確固とした手法として認知され,広く臨床で使われている。これは,この治療法が確実に効果を上げていることが実証されてきていることと,実際の治療に確実な手ごたえがあると実感できることが根底にあるためと思われる。2006年に初版が出版されて以来,2版が2010年,本書3版が2017年に出版されていることは,確実に川平法が根付いてきていることを物語っている。第3版では,写真や図がカラー刷りになり,治療する際の具体的な動かし方や刺激の仕方,力の入れる方向などが格段に理解しやすくなった。DVDの動画説明もあり,読者にとって実際に川平先生から教わるような感覚で,実践できるようになった。
神経可塑性や機能回復のメカニズムがカラーで解説されていることも加わり,実際に治療に当たる理学療法士や作業療法士にわかりやすくなっている。本書の最初の部分を読むだけでも,機能局在やニューラルネットワークを基盤とし,シナプス形成や伝達効率を向上させることで神経路を新しく形成するという川平法の科学的治療の基本となっている部分が理解できる。
第3版の特徴の一つとして,一緒に研究されてこられた下堂薗恵先生が発表された論文などから,その治療成績を上肢,下肢,体幹別に示し,科学的裏付けを記述し,この治療が確実なものであることを客観的に示している。加えて,川平法が他の治療法との併用を行うことでさらに大きく飛躍する可能性があることを期待して,その理論的背景,振動・電気刺激/経頭蓋磁気刺激法との併用を,野間知一先生が書いていることも特筆すべきことである。
さらに,第2版では最後にあった視覚欠損に対する治療の項目が,第3版では最初に位置していることである。川平法が手足の麻痺だけでなく,脳幹部損傷による外眼筋麻痺などにも迷路性眼球反射を促通することで応用でき,手足の麻痺だけでなく,川平法の治療応用領域が大きく広がることが期待できることを示している。
実践編では,全ての写真を撮り直し,より具体的で詳細な説明が記載され,治療者目線での具体的な他動的な動かし方,抵抗のかけ方,刺激方向・方法などが,実際に開発された川平先生自身がモデルとなり提示していることで,読者に伝わりやすいものとなっている。また,上肢は肩,肘,手,各手指,下肢は股,膝,足関節,足指に至るまで多くのページを用いて細かに記載されている。加えて,立位バランス,装具併用療法,杖歩行,平行棒内歩行,階段昇降などの歩行訓練法,基本的動作としての寝返り,起座,立ち上がり,座りの具体的手法について写真を用いて具体的に解説しており,療法士にとってこの上ない書物である。
川平法は,患者の誤った試行錯誤を減らし,目標の神経路を刺激し興奮伝達の反復を行うことで過誤のない神経路を再建することをめざしている。新たなステージに入った中枢神経麻痺改善の担い手になるためにも,本書をかたわらに置いて,患者の麻痺改善に挑んでいただきたい。
書評者: 岩瀬 義昭 (北海道医療大教授・作業療法学/鹿大名誉教授)
脳卒中による障害は,運動麻痺や感覚障害,高次脳機能障害などさまざまなものがある。とりわけ片側の運動麻痺は,中枢性神経麻痺の特徴が大きく現れる。単に力が弱まるのではなく,変な力が入り硬く痛くなる,動作をするのに余分な関節が一緒に動く,体の各部分の位置関係がおかしくなる,などである。そのため,中枢性運動麻痺は生活の遂行に大きく影響する。日常生活活動では,朝夕の寝起きから洗顔・歯磨き,食事やトイレ動作,入浴などさまざまな活動の遂行に影響する。それは運動・動作の問題だけでなく,「実行することに時間がかかる」「終わった途端に疲れ切ってしまい,次にやりたい事に取りかかる気持ちが薄れた」など生活の質にも影響している。さらに,職業や学業生活,家庭生活などの生活関連活動にも影響を与える。そのため,罹患された方は,おのれの運動障害を何とか回復させて欲しい,そして社会や家庭に復帰させて欲しいと医療従事者に切望する。
一方,医療従事者,特にリハビリテーション医療に従事する者は,その患者さんの声に何とか応えたいと感じているであろう。しかし,神経解剖・生理学を養成課程で学んだわれわれ療法士をはじめとするリハビリテーション医療従事者は,脳を含む神経系の損傷は治癒に限界があると考えてきた。
本書初版は,脳卒中に対する治療・研究の場で活躍してきた川平和美氏(前・鹿児島大大学院教授/鹿児島大附属病院霧島リハビリテーションセンター長)が2006年に著したものである。川平氏らが所属する霧島リハビリテーションセンターでの取り組みは公共放送でも取り上げられ,全国各地の麻痺回復に悩む脳卒中片麻痺者からの問い合わせへの対応に苦労されたと聞く。その後,川平氏は2010年5月に第47回日本リハビリテーション医学会学術総会を大会長として鹿児島で開催した。ここでは,エビデンスのある治療方法のセッションが組まれてあったが,多くの医師で満員となっていた。また,霧島リハビリテーションセンターで開催される実技研修にも全国からの参加者が多く盛会であり,本書も初版,2版とも増刷を重ねていたと聞いている。
この間に本書は進化を続け,共著者である現リハビリテーション医学講座の下堂園恵教授,霧島リハビリテーションセンター作業療法士の野間知一氏や講座に所属される研究者により,神経系の回復メカニズムや治療介入の効果研究が蓄積されて,エビデンスレベルも上がっている。
本書の構成は,基礎編,実践編の2部構成となっている。実践編はカラー写真になり,DVDも新たに撮り直した映像が載せられ,わかりやすくなった。しかし,本書は基礎編からじっくり読み進めて欲しいし,引用文献に記載されている原著も読んで欲しい研究書でもある。
本書は,臨床で脳卒中片麻痺者の回復に取り組む医師や療法士にはぜひ一読していただきたい良書である。
カラーになって格段に理解しやすくなった第3版
書評者: 前田 眞治 (国際医療福祉大大学院教授・リハビリテーション学)
近年,促通反復療法(川平法)はリハビリテーションの中で確固とした手法として認知され,広く臨床で使われている。これは,この治療法が確実に効果を上げていることが実証されてきていることと,実際の治療に確実な手ごたえがあると実感できることが根底にあるためと思われる。2006年に初版が出版されて以来,2版が2010年,本書3版が2017年に出版されていることは,確実に川平法が根付いてきていることを物語っている。第3版では,写真や図がカラー刷りになり,治療する際の具体的な動かし方や刺激の仕方,力の入れる方向などが格段に理解しやすくなった。DVDの動画説明もあり,読者にとって実際に川平先生から教わるような感覚で,実践できるようになった。
神経可塑性や機能回復のメカニズムがカラーで解説されていることも加わり,実際に治療に当たる理学療法士や作業療法士にわかりやすくなっている。本書の最初の部分を読むだけでも,機能局在やニューラルネットワークを基盤とし,シナプス形成や伝達効率を向上させることで神経路を新しく形成するという川平法の科学的治療の基本となっている部分が理解できる。
第3版の特徴の一つとして,一緒に研究されてこられた下堂薗恵先生が発表された論文などから,その治療成績を上肢,下肢,体幹別に示し,科学的裏付けを記述し,この治療が確実なものであることを客観的に示している。加えて,川平法が他の治療法との併用を行うことでさらに大きく飛躍する可能性があることを期待して,その理論的背景,振動・電気刺激/経頭蓋磁気刺激法との併用を,野間知一先生が書いていることも特筆すべきことである。
さらに,第2版では最後にあった視覚欠損に対する治療の項目が,第3版では最初に位置していることである。川平法が手足の麻痺だけでなく,脳幹部損傷による外眼筋麻痺などにも迷路性眼球反射を促通することで応用でき,手足の麻痺だけでなく,川平法の治療応用領域が大きく広がることが期待できることを示している。
実践編では,全ての写真を撮り直し,より具体的で詳細な説明が記載され,治療者目線での具体的な他動的な動かし方,抵抗のかけ方,刺激方向・方法などが,実際に開発された川平先生自身がモデルとなり提示していることで,読者に伝わりやすいものとなっている。また,上肢は肩,肘,手,各手指,下肢は股,膝,足関節,足指に至るまで多くのページを用いて細かに記載されている。加えて,立位バランス,装具併用療法,杖歩行,平行棒内歩行,階段昇降などの歩行訓練法,基本的動作としての寝返り,起座,立ち上がり,座りの具体的手法について写真を用いて具体的に解説しており,療法士にとってこの上ない書物である。
川平法は,患者の誤った試行錯誤を減らし,目標の神経路を刺激し興奮伝達の反復を行うことで過誤のない神経路を再建することをめざしている。新たなステージに入った中枢神経麻痺改善の担い手になるためにも,本書をかたわらに置いて,患者の麻痺改善に挑んでいただきたい。