経験から学ぶ看護師を育てる
看護リフレクション

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経験から学べる看護師を育てることは、人材育成に携わる看護師の共通課題。著者は、経験学習モデルを取り入れて、実践の振り返り(リフレクション)を通して気づきを促すことで、卓越した実践家としての看護師を育てる試みを長く行ってきた。看護師長をはじめとする看護管理者が、看護リフレクションを通じてスタッフの成長を支援するための方法論を示す。

東 めぐみ
発行 2021年04月判型:A5頁:176
ISBN 978-4-260-04172-0
定価 2,750円 (本体2,500円+税)

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  • 序文
  • 目次
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まえがき

 本書は,雑誌『看護管理』の連載「ファシリテーターのための看護リフレクション――経験から学べる看護師を育てる」(2017年4月号〜2018年2月号)をもとに加筆と修正を加えてまとめたものです。
 Part 1とPart 2の2部構成であり,Part 1は「看護リフレクションを通して『経験から学ぶ』ことを支援するために」,Part 2では「看護リフレクションにおけるファシリテーターの役割と実践」について述べています。主に,看護の現場でリフレクションを推進するファシリテーターの皆さんに読んでいただきたいと考えています。

リフレクションへの変わらない思い
 看護師1人ひとりがリフレクションを行うためには,それを支援する看護管理者やファシリテーターの存在が必要である,という考えから上記の連載は始まり,本書につながりました。本書におけるファシリテーターとは,看護管理者や教育的立場にある皆さんのみならず,これまでリフレクションの大切さに気がついてこられた方,全てであると考えています。
 前述の連載中は,リフレクションやファシリテーションの事例だけでなく,リフレクションに関わる学問的な潮流を整理しつつお伝えしたいとの思いがありました。しかし,本書を読み直してみますと,学問的な潮流も概念も整理しきれなかったという思いが湧いてきます。教育学や経営学,そして看護学の専門家の方々から見ると,私はあまりに初心者で,ルサンチマンな内容として目に映ると思います。恥ずかしい思いでいっぱいなのですが,勇気を持って本著を皆さんに届けようと思っています。なぜなら,臨床家として長く臨床現場にいた私にとって,今も変わっていない核心ともいうべき思いが存在するからです。
 その核心の1つ目は,看護師が日々真摯に患者と向き合う中で時として沸き起こる,「私はどうしたらよかったのか」という問いを大切にしたいとの思いです。これまで,その問いの多くは,看護師の心の中にしまわれてきました。
 2つ目は,看護師が専門職として提供したケアが,患者にとってどういういう意味や価値があるのかが見えにくくなっていることが悔しいという思いです。
 3つ目に,現場で看護師同士がお互いから学ぶ機会があるにもかかわらず,その大切さがあまり意識されていないことがもったいないという思いです。
 そして4つ目に,看護の実践や経験から学ぶことへの支援方法が明確ではないことが残念だという思いです。看護管理者や教育的役割にある看護師にその重要性が認識されていないため,内省的支援が起こりにくいのです。
 これらの思いから,リフレクションを推進するファシリテーターの支援があれば,看護師が日々の実践を言語化しその意味や価値を考えることが促され,「私の実践はこれでよかったんだ」との思いにつながり,次の実践に向き合っていくことが可能になると考えました。私のこれまでの経験から,看護師がリフレクションを行うことで,新たな対話が生まれ,自己を成長に導く突破口になると信じているからです。

本書が目指すもの
 以上のことから,本書を通じて私が目指しているのは,実践現場での看護師の日常のやりとりの中にリフレクションとしての対話が生まれ,その対話を通して看護師が学び合うことです。
 業務のちょっとした合間にも,「患者のAさんがこう言っていて,私はこう返事をしたんだけれども,それについてどう思う?」「それって,Aさんにとってはこういうことではないかしら」「こういう考えもできるよね」「ナイチンゲールはこう言っているけど,それに近いのでは?」「じゃあ,次はこうしてみよう」というように,看護師の間で対話が行われることを期待しています。
 臨床現場では目に見える成果が優先されることも多く,看護師の置かれている状況は厳しいと感じています。だからこそ,よいか悪いか,AかBかではなく,仲間とともにリフレクションを行い,さまざまな見方を取り入れて,うまくいったこともそうではなかったことも学びにして成長を実感することが,看護の質の向上につながります。ぜひ,そのプロセスを共有してほしいと願っています。
 前著『看護リフレクション入門』(ライフサポート社,2009)を出版以降,全国の多くの臨床家の皆さんとの出会いがあり,共にリフレクションを行ってきました。本書にはその中で皆さんから提供していただいた事例も形を変えて掲載されています。この場を借りてお礼を申し上げます。
 最後になりましたが,私は,リフレクションの大切さに気が付き実践している多くの方に支えられてきました。本書も医学書院の編集者の小齋愛さんと伊藤恵さんの尽力によって上梓することができました。皆様に心より感謝の意を表します。

 東めぐみ

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まえがき

PART 1 看護リフレクションを通して「経験から学ぶ」ことを支援するために
 1.1 リフレクションとは何か
 1.2 実務経験を通じた専門家としての学びの特性
 1.3 リフレクティブな実践家とは何か
 1.4 リフレクションによって経験を知恵に結実させる
 1.5 リフレクションのスキルとしての「自己への気づき」
 1.6 看護リフレクションに必要な理論と枠組み

PART 2 看護リフレクションにおけるファシリテーターの役割と実践
 2.1 リフレクティブな実践家を育成するファシリテーターの役割
 2.2 看護リフレクションの構造①「6ステップ」によるリフレクションの支援
 2.3 看護リフレクションの構造②「10ステップ」による事例分析の支援
 2.4 看護リフレクションを用いた研修の計画と実施
 2.5 看護リフレクションに必要なスキル「ファシリテーション」
 2.6 生涯成長し続ける看護師を支えるリフレクション

あとがき
索引

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理論と実践の両面からリフレクションを深掘りする
書評者:松尾 睦(北大大学院教授・経済学)

 リフレクション(reflection)は,人が経験から学ぶ際に欠かせないプロセスであり,「内省」「省察」「反省」「振り返り」と訳されることがある。著者の東めぐみ氏によれば,看護リフレクションとは「看護実践を言語化し,そこにある意味や価値を見いだし,ある実践から何らかの学びを得て,それを次の実践に活かすためのプロセス」を指す(p.143)。このとき,看護を言語化し,意味や価値を引き出すことを支援する役割を果たすのが「ファシリテーター」である。

看護リフレクションの具体的な進め方を事例とともに解説
 本書の特徴は,豊富な事例を交えて,「看護経験が言語化され,看護の意味や価値が引き出されるプロセス」を丁寧に描き出している点にあると言えよう。前半(パート1)は,リフレクションの考え方やモデルを説明した理論編であり,後半(パート2)は,看護リフレクションの具体的な進め方を事例とともに解説した実践編となっている。

 著者は,看護リフレクションの基本的な進め方として6ステップモデルを提唱している。看護を語る会や研修を念頭に置くと,次のような流れとなる。すなわち,(1)印象に残っている患者との関わりを記述する,(2)書き上げた事例をグループ内で語る,(3)語られた看護の何が重要で,患者にとってどのような意味を持つのかについて意見交換する,(4)事例に描かれている患者の変化(アウトカム)を検討する,(5)変化を導いた看護の意味や価値を次の実践で生かすことを考える,(6)グループで検討した内容を発表し全体で共有する,という流れである。このとき,(3)「探求的な振り返り」,(4)「アウトカムの特定」,(5)「実践での活用」においてファシリテーターによる問いかけや導きが重要となる。

「書く」「語る」「深める」プロセスで描き出す看護の核心
 上記の他に,10ステップモデルも紹介されているが,これらのモデルに共通することは「書く」→「語る」→「深める」というプロセスだ。例えば,本書には,「内科の主任看護師が,乳房全摘出術を受けて入院中の40代患者Sさんへのインフォームドコンセントを支援する事例」が紹介されているのだが,ファシリテーターの問いかけによって経験が深められ,学びが引き出されていることがわかる。当初,言語化しきれていなかった看護師の記述・語りに,「思い」「判断」「アウトカム」が追記されることで,「患者に寄り添う看護」の意味が明確になり,「私は間違っていなかった」という看護の核心となる様子が描き出されている。

 本書の後半では,看護経験を「書く」「語る」「深める」という流れに沿って,4~5年目以上の中堅看護師,および主任(副看護師長・係長)を対象にした研修の進め方が解説されており,すぐにでも活用することができる。

 これまで漠然と語られることが多かったリフレクションを,理論面と実践面の両方から深堀りした本書は,看護研究や看護実践に貴重なガイドラインを提供してくれるといえるだろう。


成長できる看護師を育てるヒントが得られる1冊(雑誌『看護管理』より)
評者:長谷川 吉子(いわき市医療センター 副院長兼看護部長)

 診療報酬改定による在院日数の短縮が進み,日々の看護業務は,入退院に係る対応や記録等に費やす割合が増えています。看護師との面談では,「検査や治療に追われ,患者に向き合う余裕がない」「看護をしている実感がない」等の声が聞かれ,実践している看護に価値を見いだし難くなっています。

 看護に「やりがい」を見いだせない看護師が,どうしたら「やりがい」を感じ,生き生きと働くことができるのか,そして看護の質を高めていけるのかは,看護管理者にとって大きな課題です。そこで,看護師のリフレクションを支援するヒントを得たいと思い,本書を読み進めました。

事例を通した具体的な支援の解説
 まずPart1では,看護リフレクションを「看護師が状況に沿った意図的な実践を行うために,一定の方法を用いて自己の看護実践を振り返り,実践に潜む価値や意味を見いだし,それを次の実践に生かすことによって,さらに状況に沿った意図的な実践を行うためのプロセス」と定義し,経験から学ぶための支援について解説しています。

 そしてPart2では,本書の「核」とも言えるファシリテーターの役割と実践が示されています。具体的に,「事例を書く」「事例を語る」「事例を探求的に振り返る」「事例のアウトカムを捉える」「現象の意味や価値を考える,また次の実践でどのように活用するか考える」「発表する」の6ステップで,看護リフレクションの進め方とファシリテーターの声かけの仕方が紹介され,研修に大いに活用できます。

 例えば,「事例のアウトカムを捉える」場合,まず,事例に潜んでいる看護のアウトカムは何かを検討することが必要です。アウトカムとは患者の「変化」であり,「笑顔」や「ありがとう」という言葉であることもあります。本書では,「患者にはケアによってどのような変化が見られているか」という問いを持つとアウトカムが捉えやすいなど,事例を通した具体的な支援が述べられています。

看護の質の向上とやりがいにつながる
 本書を読み終えた時は臨床現場の情景が目に浮かび,「患者の変化を捉え,看護ケアの意味に気づけるような言葉かけをすれば,きっと看護を語ってくれる」と思いました。また,何気なく行っていたケアがリフレクションにより言語化されることで,自分の行っている看護は患者にとって意味があるという気づきを生みます。

 「普段の看護」の価値に気づくことが,次の実践の検討につながり,その検討を通して実践が内的な体験へと変化し,看護の質の向上や看護の「やりがい」につながっていくことが理解できました。

 臨床家として長く臨床現場にいた東先生だからこそ,そのことを伝えたいという強い思いが感じられました。明日,「心に残った看護場面」「その時,考えたこと」「その時の患者の反応」を聞いてみよう,その時,看護師はどんな表情で語ってくれるのだろう,とワクワクした気持ちになりました。

 看護管理者として,看護師1人ひとりが経験から得た知識を次に生かし,成長できる看護師を育てるヒントが得られる1冊です。

(『看護管理』2021年8月号掲載)

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