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看護のためのポジティブ心理学

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人間心理のポジティブな面に注目して,それが健康や幸福にどのように関わるのかを科学的に研究するポジティブ心理学。そのうち,「ウェルビーイング」や「マインドフルネス」「レジリエンス」といった看護に関連する重要な15の概念について、心理学の研究者が解説をしたうえで、看護における活用を看護職の著者が考察する。その知見が患者のケア、看護師自身のセルフケア、看護管理などの看護実践に活かせることが示されており,さまざまな視点から看護の質を高めるのに役立つ1冊。

編集 秋山 美紀 / 島井 哲志 / 前野 隆司
発行 2021年02月判型:A5頁:352
ISBN 978-4-260-04145-4
定価 2,970円 (本体2,700円+税)

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はじめに

 個人や地域や組織を,もっと豊かに,もっと繁栄させるにはどうしたらよいかということを科学として探求したのがポジティブ心理学である。筆者が看護職を対象にポジティブ心理学関連の講演や研修を行うと,「もっと知りたい」「どのように学べばよいか」という声がよく聞かれた。その声に応えるべく本書『看護のためのポジティブ心理学』を企画した。
 しかし,その後の2020年初頭からの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大の下では,このような状況で「もっと繁栄するには」というポジティブ心理学の本を出版してよいのであろうかと,悩むこともあった。
 そんな時に,この状況下で頑張っている看護職の心の持ち方に関する文章を依頼される機会があった。その文章で筆者が伝えたのは,「目の前のことに集中する」「希望を持ち続ける」「自分に思いやりを持つ」の3つであり,これらはすべてポジティブ心理学で学んだことであった。そして筆者は,このような状況だからこそ,ポジティブ心理学は大切なのだと思いなおしたのである。
 ナイチンゲールは,病気は回復過程である,と述べている。それは,他の考え方をすれば,病気であるその人の持っている力を信じている,ということだと思う。その持っている力をどう活かしていけばよいのか,ということを考えるのは,ポジティブ心理学の考え方に似ている。とすると,ストレングス(強み)に焦点を当てるポジティブ心理学は新しいものではなく,むしろ看護がもともともっていたものなのではないか。
 もちろん従来から行われてきた,問題点に着目するアプローチも,特に急性期においては大切である。したがってこの本の立場は,問題点に着目するアプローチを否定するものではない。ただ,従来のアプローチだけでは,あまりにも「不足するものを満たす」ということに目が向けられていて,その人の「健康な部分や徳性を活かす」ためのアプローチがどこか脇に追いやられていた印象があった。不足を補うことも大切であるし,より豊かになることも大切である。その両方が伴ってはじめて「看護に必要なアプローチ」となるのだと思う。よってポジティブ心理学の視点をもつと
いうことは,あなたの看護をより豊かにするものだと思っている。
 この本を発行することにおいて,2つのこだわりがある。
 1つは,ポジティブ心理学が題材とする概念において精通している心理学の研究者と,その概念と関連して活躍する看護学の研究者とのコラボレーションによって作成するということである。ポジティブ「心理学」なので,やはり概念部分はそれを専門とする心理学の研究者に執筆していただき,正しい知識を普及するということにはこだわった。そこで日本にポジティブ心理学を紹介した島井哲志先生に編集をお願いした。
 もう1つのこだわりは,この本を読んで看護職に自身の幸せをもっと追求してほしいと思ったことである。かつての教育では,患者への献身が美徳とされた時代もあったが,看護職も人間である。生活もあり家庭もある。他者への献身だけでは疲弊してしまうであろう。患者に質の高いケアを提供するには,看護職自身も幸せで健康であることが必要だと思う。よって,各概念に「ケアを提供する人自身への活用」という項目を入れた。そして,人々の幸せのために研究・活動されている前野隆司先生にも編集をお願いした。
 お二人の英知と,各概念を執筆された多くの心理学研究者と看護学研究者の力をお借りして,この本が生まれた。この本のタイトルは「看護のための」となっているが,看護職だけではなく,すべての「人にケアをする人」にとってのポジティブ心理学の本になったと思う。
 この本の構成は,大きく3つに分かれている。
 第1章「ポジティブ心理学とは」では,編者らがそれぞれの立場からポジティブ心理学について述べた。「1.ポジティブ心理学とは」では,島井先生から,ポジティブ心理学そのものの説明,そして発祥から発展までの過程を概説していただいた。「ポジティブ心理学って何?」と思う読者にはぜひ読んでいただきたい。「2.日本におけるポジティブ心理学応用の現状」では,前野先生から現在の日本でのポジティブ心理学の現状を述べていただいた。わが国ではどのように活用できるのか,と模索している読者にはぜひ読んでいただきたい。そして「3.ポジティブ心理学の看護学への応用」では,文字通り,看護へどのような応用ができるか,その可能性を述べている。
 第2章「看護実践に活かす概念」では,ポジティブ心理学の研究対象となってきた主要な15概念,すなわち「ポジティブ感情」「ウェルビーイング」「ストレングス(強み)」「親切心」「マインドフルネス」「セルフ・コンパッション」「レジリエンス」「エンゲイジメント」「尊敬」「感謝」「ゆるし」「希望」「フロー」「意味」「心的外傷後成長」について,心理学の研究者からの「概説」と,看護の研究者からの「看護への応用の可能性」について述べられている。看護学の部分では,「そこで説明している概念と看護との関わり」「ケアの対象となる人への活用」「ケアを提供する人自身への活用」「組織への活用」の視点から述べられている。第2章はどこから読んでいただいてもよく,知りたい概念があれば,辞書のように使っていただければと思う。ただ,じっくり学んでいこうと思っている方には,順番に読んでいくことが理解をより助けてくれると思う。
 第3章「ポジティブ心理学の看護への活用」では,「看護師のセルフケア」「患者ケア」「公衆衛生」「看護教育」「看護組織」において,早くからポジティブ心理学を活かして研究・実践されている研究者に依頼して執筆していただいた。第2章で紹介した概念が,看護の場面でどのように活かされているか,または活かされる可能性があるのかが第3章では述べられている。
 ぜひ,これからのページをめくっていって,患者の幸せ,組織の幸せ,そして自分自身の幸せについて一緒に考えていければ,編者にとっても幸せなことである。

 秋山美紀


 本書を手に取っていただいている読者の多くは,看護の専門職の方々だと思う。まずは,ポジティブ心理学を専門としている人間として,この本に興味をもっていただいたことに心から感謝を申し上げたいと思う。ポジティブ心理学は,看護実践を支える重要な理論的な枠組みの1つとなる可能性があり,効果的に用いることで,私たちが援助する多くの人たちの幸福とウェルビーイングを実現するものである。
 私は,あわせると20年以上にわたって,医師と看護師という医療職を養成する仕事をしてきた。そこでは,主として行動的要因に関わる疫学や公衆衛生の教育研究にあたってきた。したがって,心理学を得意なツールとしているものの,私の関心は健康を守ることにあり,広い意味で医療を支えるメンバーの一員というアイデンティティのもとにある。
 この立場からの興味の中心としては,ライフスタイルのリスク要因となる喫煙行動や,不規則で偏った食行動とその結果としての体型,そして,日常身体活動の不足などの不健康行動にある。これは健康心理学という心理学領域の一部ともされており,この心理学の大部分はほとんど医療領域ということができる。
 そして,健康を守ることに携わる人間の共通の目標は,ウェルビーイングの達成であり,幸福な状態が維持されることにある。ポジティブ心理学は,この幸福を支える諸要因についての科学的研究を通じて,幸福の実現のためには,その人に何が必要なのかを示すことができる。社会政策を計画するにあたって,目標とするべきQOLを反映する健康寿命をより精密に評価することもできるだろう。
 自分の身の回りのことができたり自分で買い物に行ったり食事を準備したりできることが,親しい人たちとお酒を飲んだりすることと,どのくらいなら釣り合って,その人の幸福を支えるのかも明確にできるはずである。
 看護の実践でめざされているのは,目の前の人に寄り添っているというだけではなく,最終的な目標につながる見通しのもとで,いま必要な支援を提供することである。この時に,幸福やウェルビーイングを実証的科学的に理解していることは,次に進む道筋を照らすものとなる。これが,ポジティブ心理学が看護に役立つと私が考える第一の点である。
 第二の点は,心理学全体が看護にもっと貢献することができるはずだと私が考えていることであり,そして,心理学の中でも,特にポジティブ心理学が果たすことのできる貢献の大きな可能性である。
 私の以前の職場であった看護大学の同僚にも大学院で心理学を専攻した経歴のある人たちがいたし,私も大学院で看護職の人たちを指導することが少なくない。これは,私の周辺の話というわけではない。パトリシア・ベナーは,ストレス対処で著名な心理学者のリチャード・ラザルスのもとで学位を取得したことからも示されているように,近年の看護実践の枠組みでは,心理社会的な要因が重視されており,心理学は看護を支える役割を果たしてきたといえる。
 その1つの側面は,看護職自身についての,そして,看護師-患者関係についての理解が深まるという点である。看護という行為は,共感性を基礎としたポジティブな感情の発露である。この点は,これまで,感情労働としてネガティブな側面があることも指摘されてきたが,ポジティブ心理学の観点に立てば,エビデンスに基づいて,共感性の効果と限界を明確にし,相互のポジティブな関係を形成することが可能になると考えられるのである。
 しかし,私がそれよりも重要かもしれないと考えている,もう1つの側面は,ポジティブ心理学の基礎には,人間のもつポジティブな側面への畏敬と尊重があることである。その信頼から,さまざまな理論や技法が生み出されるのであり,それは,ナイチンゲールから始まる看護において大切にされてきた,人間のもつ大きな力を信頼し,それを活かすということにつながると私には思われるのである。
 現在,ポジティブ心理学は,隣接したさまざまな領域に影響を与えており,ポジティブな教育やポジティブな組織づくり,ポジティブな精神医学も試みられている。しかし,看護こそが,ポジティブ心理学のコアにある部分を共有し,幸福を実現する実践につながると私には思われるのである。少し言い過ぎてしまったかもしれないが,看護実践がより充実したものとなるために,ポジティブ心理学が少しでも役割を果たすことへの期待が大きいということを伝えようとしていると理解していただければと思う。
 2020年は,新型コロナウイルス感染症の流行に世界中が直面する年となった。歴史としてスペインかぜの流行と比較すると,情報の共有など,医療における前進の力強さを感じる側面もある。一方で,医療職自身のメンタルヘルスを含めて,さまざまな心理社会的側面への社会的な対応が不足していることを痛感する。この問題にも,ポジティブ心理学的観点からの看護職の取り組みが社会から求められていると強く感じる。

 島井哲志


 看護のためのポジティブ心理学の書籍が日本で初めて刊行される運びになったことをうれしく思う。私は,ポジティブ心理学をはじめとする,人々の幸せに資するさまざまな研究成果を,人々の幸せのために適用することに邁進してきた工学者である。工学とは,さまざまな知見を利用して,製品やサービスを設計し人々に提供するための学問である。私は,心理学と工学をブリッジする学問を「幸福学」と呼び,その発展と裾野の拡大を担ってきた。つまり,人々を幸せにするモノづくり(工学),コトづくり(サービス工学),街づくり(地域活性学),組織づくり(経営学・組織学),人づくり(教育学)などの研究とその実践を行ってきた。看護のためのポジティブ心理学とは,幸せな組織づくりや人づくりに深く関わる1つの応用分野であるので,この発展を大いに期待する1 人である。
 私はさまざまなwell-being(幸せ,健康)研究を行ってきたが,そのなかの1つの試みとして,最近,幸せと何が相関するのかを,改めてアンケート調査してみた。幸せに影響する事象としては多くの事柄が知られているが,そのうちの一部を対象に,一般の550名にアンケート調査をした結果である。その結果,SWLS(人生満足尺度)と相関の高かったベスト10は,高い順に,1.自己肯定感(0.68),2.社会的地位(0.63),3.実績(0.61),4.強み(0.60),5.感謝(0.56),6.外向性(0.53),7.信頼関係構築力(0.51),8.財産(0.51),9.収入(0.48),10.知的好奇心(0.46)であった。2,3,8,9は地位財(他人と比較できる財)であり,6と10は,性格(ビッグファイブのうちの2つ)である。そのほかの1,4,5,7が心理的な側面であるといえよう。興味深いのは,地位財,性格,心理的側面のいずれもほどほどに幸せに寄与するという結果となった点である。この結果から言えることは,人が幸せになるためには,まず,エネルギッシュ(6)かつ好奇心いっぱい(10)に活動すべきなのである。そして,強みを見つけ(4),自己肯定感を高め(1),他の人々との信頼関係を構築し(7),さまざまな事柄に感謝する(5)ことが重要である。その結果として,地位(2)と実績(3)と収入(9)と財産(8)が得られるのである。皆さんは,今,何を持っていて,何を持っていないだろうか。幸福度を高めるためには,上の文章の流れの中の原因系(6,10,4,1,7,5)にまずは注力すべきであろう。ちなみに,別の私の調査では,当然ながらレジリエンス(困難から回復する力)と幸福度は比例した。つまり,レジリエンスが強い人は,結果として幸せになると考えられる。
 幸福度を高め,幸せになるためのこれらのヒントに満ちているのがポジティブ心理学である。本書をお読みになると,いかにして幸福度を高め,レジリエンスを高めるかについての,さまざまなヒントが書かれている。ぜひ座右の書としてお楽しみいただければと願う。
 なお,本書のタイトルは「看護のためのポジティブ心理学」であるが,応用的学問である工学が専門の私から見ると,「〇〇のためのポジティブ心理学」と読み替えても有益であると思う。〇〇には何が入っても良い。アナロジーである。看護の部分を,他の専門分野や領域に置き換えて読むことによって,実は,本書は,あらゆる分野の問題解決に適用できるのである。また,すべての人は,何かの専門家であるとともに,何の専門性もない生活者である。そこには広い意味での「看護」がある。「看て,護る」こと。あらゆる人は,ともに,看つつ看られ,護りつつ護られて生きている。そういう意味からも,本書はすべての人のためのポジティブ心理学であるとも言えよう。
 あらゆる観点から本書をお楽しみいただければ幸いに思う。

 前野隆司

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第1章 ポジティブ心理学とは
 1 ポジティブ心理学とは
  ポジティブ心理学の歴史
  ポジティブ心理学の発展
  ポジティブ心理学の実践
  ポジティブ心理学の将来とまとめ
 2 日本におけるポジティブ心理学応用の現状
  日本における学問分野の中での位置づけ
  ウェルビーイングに関する研究の動向
 3 ポジティブ心理学の看護学への応用
  ケアの原点とポジティブ心理学
  看護でポジティブな側面をとらえる意義
  ポジティブ心理学の視点を看護に取り入れるために

第2章 看護実践に活かす概念
 1 ポジティブ感情 Positive Emotion
  ポジティブ感情とは
  ポジティブ感情はどのように看護に活かせるか
 2 ウェルビーイング Well-Being
  ウェルビーイングの意味
  ウェルビーイングの研究
  ウェルビーイングはどのように看護に活かせるか
 3 ストレングス(強み) Strength
  ストレングス(強み)とは
  ストレングスはどのように看護に活かせるか
 4 親切心 Kindness
  親切心とは
  親切心はどのように看護に活かせるか
 5 マインドフルネス Mindfulness
  マインドフルネスとは
  マインドフルネスはどのように看護に活かせるか
 6 セルフ・コンパッション Self-Compassion
  セルフ・コンパッションとは
  セルフ・コンパッションはどのように看護に活かせるか
 7 レジリエンス Resilience
  レジリエンスとは
  レジリエンスはどのように看護に活かせるか
 8 エンゲイジメント Engagement
  エンゲイジメントとは
  エンゲイジメントはどのように看護に活かせるか
 9 尊敬 Respect
  尊敬とは
  尊敬はどのように看護に活かせるか
 10 感謝 Gratitude
  感謝とは
  感謝はどのように看護に活かせるか
 11 ゆるし Forgiveness
  ゆるしとは
  ゆるしはどのように看護に活かせるか
 12 希望 Hope
  希望とは
  希望はどのように看護に活かせるか
 13 フロー Flow
  フローとは
  フローはどのように看護に活かせるか
 14 意味 Meaning
  意味とは
  意味はどのように看護に活かせるか
 15 心的外傷後成長 Posttraumatic Growth(PTG)
  心的外傷後成長(PTG)とは
  心的外傷後成長(PTG)はどのように看護に活かせるか

第3章 ポジティブ心理学の看護への活用
 1 ポジティブ心理学を看護師のセルフケアに活かす
  ポジティブ心理学を用いたストレス対策の特徴
  レジリエンスプログラムの活用によるセルフケア
  レジリエンスプログラムを活用するうえでの留意点
 2 ポジティブ心理学を患者ケアに活かす
  ポジティブ心理学やその特徴について知る
  患者ケアに活かす前に看護師が自身に活用してみる
  患者との間にポジティブな関係性を築く
  まとめ:ポジティブ心理学を患者ケアに活かすには
 3 ポジティブ心理学を公衆衛生に活かす
  保健師活動への応用
 4 ポジティブ心理学を看護教育に活かす
 5 ポジティブ心理学を看護組織に活かす
  組織メンバーのポジティブな感情は組織の機能に影響する
  ポジティブ心理学を活かした組織管理の事例――「Nurseの代表者会議」から考える
  事例から学ぶ,ポジティブ心理学を活かした組織管理のポイント
  おわりに

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