Evidence Based で考える 認知症リハビリテーション
ナラティブを超えたエビデンスベースのリハビリテーション介入戦略
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認知症のリハビリテーションが医療現場に浸透するなか、以前にも増して、根拠に基づいた評価や介入の実施がセラピストに求められている。そこで本書では、エビデンスがあり、かつ、適応と限界、アウトカムとの関連が明確に示されている最新の認知症リハビリテーションの評価法、介入法を、先行研究を踏まえて紹介している。さまざまな時期・場所における介入戦略の実例も豊富に提示。「臨床」と「研究」をつなぐための1冊。
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- 目次
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序文
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序
近年,認知症のリハビリテーションに関連する研究報告は急速に増加しています.そうした新しい知見を臨床現場に伝えたい,そして活用してほしい.そのような純粋な思いから本書を企画しました.
2015年に策定された新オレンジプランのなかで,適切な認知症リハビリテーションと称し,「認知症の人に対するリハビリテーションについては,実際に生活する場面を念頭に置きつつ,有する認知機能等の能力をしっかりと見極め,これを最大限に活かしながら,ADL(食事,排泄等)やIADL(掃除,趣味活動,社会参加等)の日常の生活を自立し継続できるよう推進する.このためには認知機能障害を基盤とした生活機能障害を改善するリハビリテーションモデルの開発が必須であり,研究開発を推進する」としています.つまり,リハビリテーションの最大の対象は生活障害なのです.可能な限り本人や家族が望む生活習慣,生活環境,生活行為の実現に向けて介入する必要があるといえるでしょう.そのためには,生活障害の特徴をとらえ,その基盤となる疾患や症候,重症度,認知機能との関連を考察することは不可欠といえます.ほかにも,運動障害,感覚器障害,栄養状態,身体合併症など高齢者特有の複合疾患・機能障害の問題や,家族介護者や居住場所など人的・物理的環境は生活障害に密接に関係しています.
本書の1つ目の特徴は,適切なリハビリテーションを実施するうえで重要な基礎的知見,生活障害に関係する因子を網羅し,先行研究に基づいて解説している点にあります.したがって,本書ではあえて「認知症とは」,「アルツハイマー病とは」,「認知症の人とのかかわりかたとは」などといった定義的なことや,教科書的なことは最小限にしか記載していません.
2つ目の特徴として,介入では生活障害,活動,栄養,運動,認知機能,家族支援などこれまで重要とされてきた項目に最新の知見を加えて整理しました.そのうえで「適応と限界」を記載しています.どのような状態(重症度や症候)や環境(病院,自宅など)にある方が適応で,限界はどこなのか,これを理解することが介入選択の判断材料として重要であり,本書はそのことに貢献できると考えています.
また,認知症の方と出会うさまざまな場所での介入戦略を整理している点も大きな特徴です.時期や場所で認知症の症候や重症度,身体合併症などの特徴に違いがあることから,それぞれの特徴を知り,症例報告によって具体性をもたせることで,臨床での介入戦略に役立てることができると思います.
一方,エビデンスベースを強調しているため認知症の方に重要であるナラティブな側面や理論的側面については,本書では紙面の都合上あまり触れていない点はご了承ください.
認知症の非薬物療法やリハビリテーションに関する臨床の知見を研究として蓄積し,研究の知見を臨床に応用することができる「臨床と研究をつなぐ」ための1冊として,本書をぜひご活用いただきたいと思っています.そしてわれわれも,読者の皆様に負けないよう,これからもエビデンスを重ね「認知機能障害を基盤とした生活機能障害を改善するリハビリテーションモデルの開発」に邁進していく決意でいます.
「認知症のリハビリテーション」とは? という難題に本書は答えられているでしょうか? ぜひご一読いただき,感想をお寄せいただければ幸いです.
本書は,発刊までに多くの方にご尽力いただきました.執筆のみならず校正段階でもわれわれからの無理な注文にも快く応えてくださいました執筆者の諸先生方にまずはお礼を申し上げます.そして企画から発行に至るまで,何度も大阪まで行き来し,われわれの意見を尊重していただいた医学書院の北條立人氏に心より感謝申し上げます.
2019年8月
田平隆行,田中寛之
近年,認知症のリハビリテーションに関連する研究報告は急速に増加しています.そうした新しい知見を臨床現場に伝えたい,そして活用してほしい.そのような純粋な思いから本書を企画しました.
2015年に策定された新オレンジプランのなかで,適切な認知症リハビリテーションと称し,「認知症の人に対するリハビリテーションについては,実際に生活する場面を念頭に置きつつ,有する認知機能等の能力をしっかりと見極め,これを最大限に活かしながら,ADL(食事,排泄等)やIADL(掃除,趣味活動,社会参加等)の日常の生活を自立し継続できるよう推進する.このためには認知機能障害を基盤とした生活機能障害を改善するリハビリテーションモデルの開発が必須であり,研究開発を推進する」としています.つまり,リハビリテーションの最大の対象は生活障害なのです.可能な限り本人や家族が望む生活習慣,生活環境,生活行為の実現に向けて介入する必要があるといえるでしょう.そのためには,生活障害の特徴をとらえ,その基盤となる疾患や症候,重症度,認知機能との関連を考察することは不可欠といえます.ほかにも,運動障害,感覚器障害,栄養状態,身体合併症など高齢者特有の複合疾患・機能障害の問題や,家族介護者や居住場所など人的・物理的環境は生活障害に密接に関係しています.
本書の1つ目の特徴は,適切なリハビリテーションを実施するうえで重要な基礎的知見,生活障害に関係する因子を網羅し,先行研究に基づいて解説している点にあります.したがって,本書ではあえて「認知症とは」,「アルツハイマー病とは」,「認知症の人とのかかわりかたとは」などといった定義的なことや,教科書的なことは最小限にしか記載していません.
2つ目の特徴として,介入では生活障害,活動,栄養,運動,認知機能,家族支援などこれまで重要とされてきた項目に最新の知見を加えて整理しました.そのうえで「適応と限界」を記載しています.どのような状態(重症度や症候)や環境(病院,自宅など)にある方が適応で,限界はどこなのか,これを理解することが介入選択の判断材料として重要であり,本書はそのことに貢献できると考えています.
また,認知症の方と出会うさまざまな場所での介入戦略を整理している点も大きな特徴です.時期や場所で認知症の症候や重症度,身体合併症などの特徴に違いがあることから,それぞれの特徴を知り,症例報告によって具体性をもたせることで,臨床での介入戦略に役立てることができると思います.
一方,エビデンスベースを強調しているため認知症の方に重要であるナラティブな側面や理論的側面については,本書では紙面の都合上あまり触れていない点はご了承ください.
認知症の非薬物療法やリハビリテーションに関する臨床の知見を研究として蓄積し,研究の知見を臨床に応用することができる「臨床と研究をつなぐ」ための1冊として,本書をぜひご活用いただきたいと思っています.そしてわれわれも,読者の皆様に負けないよう,これからもエビデンスを重ね「認知機能障害を基盤とした生活機能障害を改善するリハビリテーションモデルの開発」に邁進していく決意でいます.
「認知症のリハビリテーション」とは? という難題に本書は答えられているでしょうか? ぜひご一読いただき,感想をお寄せいただければ幸いです.
本書は,発刊までに多くの方にご尽力いただきました.執筆のみならず校正段階でもわれわれからの無理な注文にも快く応えてくださいました執筆者の諸先生方にまずはお礼を申し上げます.そして企画から発行に至るまで,何度も大阪まで行き来し,われわれの意見を尊重していただいた医学書院の北條立人氏に心より感謝申し上げます.
2019年8月
田平隆行,田中寛之
目次
開く
chapter 1 リハビリテーションに役立つ 認知症の基礎知識
1 根拠に基づいた認知症リハビリテーション介入を行うために
2 リハビリテーションに役立つ認知症発症の関連因子
3 認知症の重症度別特徴
軽度認知障害・軽度認知症
中等度・重度認知症
chapter 2 根拠に基づいた 認知症のリハビリテーション評価
1 評価・介入の進めかた
認知症における目標設定
認知機能,ADL,BPSDおよび背景要因の関連性の評価
2 認知機能
軽度認知障害・軽度認知症の認知機能評価
中等度・重度認知症の認知機能評価
3 ADL
軽度認知障害・軽度認知症
中等度・重度認知症
4 BPSD
BPSDの出現モデルと評価
幻覚・妄想
agitation
睡眠―覚醒
食行動
うつ・アパシー
不安
異常行動
5 身体合併症
6 言語症状
7 栄養
8 感覚器
9 環境―治療戦略としての物理的環境評価
10 活動の取り組みかた(engagement)の評価
11 QOL(quality of life)
chapter 3 根拠に基づいた 認知症のリハビリテーション介入
1 知っておくべき薬物療法のメリット/デメリット
2 認知症者へのリハビリテーション介入
認知的介入
ADL介入
軽度認知障害・軽度認知症
中等度・重度認知症
作業療法介入
音楽介入(Music Therapy)
Simulated Presence Therapy
生活リズムアプローチ
運動介入
認知症者とのコミュニケーション
栄養介入
感覚器障害を併発した例への介入
家族介護者支援
パーソンセンタードケアの効果とその評価
介護ロボット介入
chapter 4 根拠に基づいた 症例への評価・介入
─時期別にみられる代表的認知症症例と評価・介入戦略の例
1 急性期病院で出会う認知症症例への評価・介入戦略
─せん妄を合併した認知症の疑いのある症例への包括的介入
2 回復期リハビリテーション病院で出会う認知症症例への評価・介入戦略
─ナースコール利用訓練と物理的環境支援を通して「している」と
「できる」ADLの乖離軽減に至った一例
3 医療療養型病院で出会う認知症症例への評価・介入戦略
─病前の生活環境を入院生活に反映できた一例
4 もの忘れ外来で出会う認知症症例への評価・介入戦略
─バスを利用した外出支援を行った一例
5 介護老人保健施設で出会う認知症症例への評価・介入戦略
─内科的疾患により入所に至った意欲低下を伴う一例
6 訪問リハビリテーションで出会う認知症症例への評価・介入戦略
─早期介入事業と訪問でかかわった前頭側頭型認知症者
7 認知症初期集中支援チームで出会う認知症症例への評価・介入戦略
─初期段階の認知症者に対する地域生活支援
8 精神科外来で出会う認知症症例への評価・介入戦略
─外来通院をする認知症患者へのリハビリテーション介入について
9 精神科急性期病棟で出会う認知症症例への評価・介入戦略
─ICFに基づく評価・介入による退院後の生活再建
10 精神科認知症治療病棟で出会う認知症症例への評価・介入戦略
─排泄介助の方法提案と活動介入を通して焦燥性興奮を軽減でき,
退院に向けた流れができた一例
索引
1 根拠に基づいた認知症リハビリテーション介入を行うために
2 リハビリテーションに役立つ認知症発症の関連因子
3 認知症の重症度別特徴
軽度認知障害・軽度認知症
中等度・重度認知症
chapter 2 根拠に基づいた 認知症のリハビリテーション評価
1 評価・介入の進めかた
認知症における目標設定
認知機能,ADL,BPSDおよび背景要因の関連性の評価
2 認知機能
軽度認知障害・軽度認知症の認知機能評価
中等度・重度認知症の認知機能評価
3 ADL
軽度認知障害・軽度認知症
中等度・重度認知症
4 BPSD
BPSDの出現モデルと評価
幻覚・妄想
agitation
睡眠―覚醒
食行動
うつ・アパシー
不安
異常行動
5 身体合併症
6 言語症状
7 栄養
8 感覚器
9 環境―治療戦略としての物理的環境評価
10 活動の取り組みかた(engagement)の評価
11 QOL(quality of life)
chapter 3 根拠に基づいた 認知症のリハビリテーション介入
1 知っておくべき薬物療法のメリット/デメリット
2 認知症者へのリハビリテーション介入
認知的介入
ADL介入
軽度認知障害・軽度認知症
中等度・重度認知症
作業療法介入
音楽介入(Music Therapy)
Simulated Presence Therapy
生活リズムアプローチ
運動介入
認知症者とのコミュニケーション
栄養介入
感覚器障害を併発した例への介入
家族介護者支援
パーソンセンタードケアの効果とその評価
介護ロボット介入
chapter 4 根拠に基づいた 症例への評価・介入
─時期別にみられる代表的認知症症例と評価・介入戦略の例
1 急性期病院で出会う認知症症例への評価・介入戦略
─せん妄を合併した認知症の疑いのある症例への包括的介入
2 回復期リハビリテーション病院で出会う認知症症例への評価・介入戦略
─ナースコール利用訓練と物理的環境支援を通して「している」と
「できる」ADLの乖離軽減に至った一例
3 医療療養型病院で出会う認知症症例への評価・介入戦略
─病前の生活環境を入院生活に反映できた一例
4 もの忘れ外来で出会う認知症症例への評価・介入戦略
─バスを利用した外出支援を行った一例
5 介護老人保健施設で出会う認知症症例への評価・介入戦略
─内科的疾患により入所に至った意欲低下を伴う一例
6 訪問リハビリテーションで出会う認知症症例への評価・介入戦略
─早期介入事業と訪問でかかわった前頭側頭型認知症者
7 認知症初期集中支援チームで出会う認知症症例への評価・介入戦略
─初期段階の認知症者に対する地域生活支援
8 精神科外来で出会う認知症症例への評価・介入戦略
─外来通院をする認知症患者へのリハビリテーション介入について
9 精神科急性期病棟で出会う認知症症例への評価・介入戦略
─ICFに基づく評価・介入による退院後の生活再建
10 精神科認知症治療病棟で出会う認知症症例への評価・介入戦略
─排泄介助の方法提案と活動介入を通して焦燥性興奮を軽減でき,
退院に向けた流れができた一例
索引
書評
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認知症による生活障害支援のための評価・介入の指針書
書評者: 濱口 豊太 (埼玉県立大大学院教授・作業療法学)
認知症は脳実質または機能の障害によって生活障害が生じる。認知症の中核・周辺症状は,介護者と患者本人との生活にしばしば混乱と不安をもたらす。家族の顔やお互いの大切な思い出までも損なって生活することの凄まじさについて,その家族体験を知る者としてはいくらかでも和らげたいと願う。本書は作業療法を学術背景とした田平隆行氏と田中寛之氏により,認知症に対する評価と非薬物療法としての介入について多数の研究知見を定礎として編さんされた,リハビリテーション(以下リハ)の参考書である。
編者らは,リハの対象を「生活障害」とし,適切な評価と介入のための最新の知見を渉猟し掲載している。認知症者の日常生活を評価する指標は,これまでLawtonやBristolのスケールなどがよく用いられてきた。それらの評価結果をもとに認知機能の障害特徴に合わせて介入するためには,生活動作を工程に区分けして,重症度にも合わせて方略を定める必要がある。そのようなリハのプログラムに結合するための評価として,近年開発された生活行為工程分析表(PADA-D)が紹介されている。PADA-Dは生活がある程度可能な軽症者に用いられる。重症者の評価としては,動作の工程ごとに介助量で表記できるRefined-ADL Assessment Scaleが紹介されている。重度認知症者の能力の日内変動や,対応する介護者によって発揮される能力が変化することも,評価の研究によって臨床家の経験が裏付けられていることがわかる。介入も同様に,介入研究の論文を詳細に引用しながら,作業療法,認知行動療法,運動療法などの効果と用法が解説されている。例示された図表がシンプルでわかりやすいので,自ずと介入プロトコルの要点は理解できるはずだ。
リハ介入の手引き書として,一人ひとりの認知症者への実際のプログラムが妥当か,どのような根拠に基づいて評価を行い,介入が組み立てられているのかについてはさらなるアップデートを期待したい。例えば,chapter 4には,認知症初期集中支援チームの取り組みや,認知症専門外来で出会う認知症者への評価と介入の方法についての詳しい記述がある。それらの役割機能と患者の集団的特徴が本書のコンセプト通りにレビューされて,介入の目的や課題も整理されている。その上で患者の紹介がなされ,生活障害の評価と介入の要点が記述されている。この点は臨床実習や国家試験の参考書としても秀逸である。本書を臨床家が参考とするには,介入の根拠とされている認知症者の集団に効果があるという点だけでなく,その集団に効くとされた介入方法が個人に適用された場合の結果を追究したもう一つのアームが要る。
編者らは,認知症による生活障害の疫学的観点と,個人固有の障害視点とを分けて理解し,その見識に立って研究知見を積み上げる必要性にすでに気付いている。本書が認知症リハに対する評価と介入の指針となって,認知症による生活障害を支援していくことを応援したい。
認知症リハの研究と臨床実践との架け橋となる良書
書評者: 澤田 辰徳 (東京工科大准教授・作業療法学)
本書はわが国の認知症作業療法領域を牽引する研究者である田平隆之氏,田中寛之氏を編者に迎えた良書である。編者らの認知症リハビリテーションに対する熱意が本書の節々に感じられる。
本書の特筆すべき点は大きく2点あると考える。
第一に,認知症のリハビリテーションについて国内外の多くの知見をもとに論述している点である。本書に記載があるように,認知症に対するリハビリテーションはこれまで主としてBPSDに対する非薬物療法として行われてきた。しかし,現場におけるその実践の効果は懐疑的にみられることも少なくなく,私自身もそう感じていた。本書の最大の貢献は,タイトルが示すとおり,“Evidence Based”の観点から,科学的に有用な認知症のリハビリテーションについて記載されていることにあると思う。システマティックレビューやメタアナリシスにとどまらず,時にはケーススタディに至るまで,最新の知見を踏まえて構築されており,その構成は革新的といえる。さらに,単なる有用な評価やアプローチ法を羅列するのみならず,科学的にエビデンスが構築されていない分野に対しても言及されているため,臨床実践者だけでなく研究者においても有用な書といえるだろう。
特筆すべき点の2つ目として,認知症のリハビリテーションについて包括的に解説している点が挙げられる。認知症の種別における症状はもちろんのこと,重症度に合わせた評価やアプローチについても詳述されており,その対象は認知症罹患者本人だけでなく家族や環境にまで及ぶ。リハビリテーションアプローチの範疇も広く,昔から知られている回想法などの認知刺激療法や音楽療法から,Simulated Presence Therapyや栄養指導に至るまで多岐にわたる。これらは若手の実践者のみならず熟練者においても活用できるだろう。
また,具体的な事例が紹介されているのも大事な点である。私は過去の指導経験から,学術論文から臨床実践を考えること,つまりエビデンスを実践に結びつけるには具体的事案や体験が必要であり,初学者の多くはそれが無いために壁にぶつかることが多いものと感じている。本書は最新の知見をベースにしながらも,事例の紹介をとおして具体的な方法をしっかりと明示している。このことにより,臨床実践者が壁を乗り越えて理解を深め,実践していくことを促進できるものと思う。
本書は編者らが狙う「研究と臨床の架け橋」として十二分の書籍となっており,認知症リハビリテーションに取り組む実践者および研究者や学生に手にとってほしいと切に願う。
書評者: 濱口 豊太 (埼玉県立大大学院教授・作業療法学)
認知症は脳実質または機能の障害によって生活障害が生じる。認知症の中核・周辺症状は,介護者と患者本人との生活にしばしば混乱と不安をもたらす。家族の顔やお互いの大切な思い出までも損なって生活することの凄まじさについて,その家族体験を知る者としてはいくらかでも和らげたいと願う。本書は作業療法を学術背景とした田平隆行氏と田中寛之氏により,認知症に対する評価と非薬物療法としての介入について多数の研究知見を定礎として編さんされた,リハビリテーション(以下リハ)の参考書である。
編者らは,リハの対象を「生活障害」とし,適切な評価と介入のための最新の知見を渉猟し掲載している。認知症者の日常生活を評価する指標は,これまでLawtonやBristolのスケールなどがよく用いられてきた。それらの評価結果をもとに認知機能の障害特徴に合わせて介入するためには,生活動作を工程に区分けして,重症度にも合わせて方略を定める必要がある。そのようなリハのプログラムに結合するための評価として,近年開発された生活行為工程分析表(PADA-D)が紹介されている。PADA-Dは生活がある程度可能な軽症者に用いられる。重症者の評価としては,動作の工程ごとに介助量で表記できるRefined-ADL Assessment Scaleが紹介されている。重度認知症者の能力の日内変動や,対応する介護者によって発揮される能力が変化することも,評価の研究によって臨床家の経験が裏付けられていることがわかる。介入も同様に,介入研究の論文を詳細に引用しながら,作業療法,認知行動療法,運動療法などの効果と用法が解説されている。例示された図表がシンプルでわかりやすいので,自ずと介入プロトコルの要点は理解できるはずだ。
リハ介入の手引き書として,一人ひとりの認知症者への実際のプログラムが妥当か,どのような根拠に基づいて評価を行い,介入が組み立てられているのかについてはさらなるアップデートを期待したい。例えば,chapter 4には,認知症初期集中支援チームの取り組みや,認知症専門外来で出会う認知症者への評価と介入の方法についての詳しい記述がある。それらの役割機能と患者の集団的特徴が本書のコンセプト通りにレビューされて,介入の目的や課題も整理されている。その上で患者の紹介がなされ,生活障害の評価と介入の要点が記述されている。この点は臨床実習や国家試験の参考書としても秀逸である。本書を臨床家が参考とするには,介入の根拠とされている認知症者の集団に効果があるという点だけでなく,その集団に効くとされた介入方法が個人に適用された場合の結果を追究したもう一つのアームが要る。
編者らは,認知症による生活障害の疫学的観点と,個人固有の障害視点とを分けて理解し,その見識に立って研究知見を積み上げる必要性にすでに気付いている。本書が認知症リハに対する評価と介入の指針となって,認知症による生活障害を支援していくことを応援したい。
認知症リハの研究と臨床実践との架け橋となる良書
書評者: 澤田 辰徳 (東京工科大准教授・作業療法学)
本書はわが国の認知症作業療法領域を牽引する研究者である田平隆之氏,田中寛之氏を編者に迎えた良書である。編者らの認知症リハビリテーションに対する熱意が本書の節々に感じられる。
本書の特筆すべき点は大きく2点あると考える。
第一に,認知症のリハビリテーションについて国内外の多くの知見をもとに論述している点である。本書に記載があるように,認知症に対するリハビリテーションはこれまで主としてBPSDに対する非薬物療法として行われてきた。しかし,現場におけるその実践の効果は懐疑的にみられることも少なくなく,私自身もそう感じていた。本書の最大の貢献は,タイトルが示すとおり,“Evidence Based”の観点から,科学的に有用な認知症のリハビリテーションについて記載されていることにあると思う。システマティックレビューやメタアナリシスにとどまらず,時にはケーススタディに至るまで,最新の知見を踏まえて構築されており,その構成は革新的といえる。さらに,単なる有用な評価やアプローチ法を羅列するのみならず,科学的にエビデンスが構築されていない分野に対しても言及されているため,臨床実践者だけでなく研究者においても有用な書といえるだろう。
特筆すべき点の2つ目として,認知症のリハビリテーションについて包括的に解説している点が挙げられる。認知症の種別における症状はもちろんのこと,重症度に合わせた評価やアプローチについても詳述されており,その対象は認知症罹患者本人だけでなく家族や環境にまで及ぶ。リハビリテーションアプローチの範疇も広く,昔から知られている回想法などの認知刺激療法や音楽療法から,Simulated Presence Therapyや栄養指導に至るまで多岐にわたる。これらは若手の実践者のみならず熟練者においても活用できるだろう。
また,具体的な事例が紹介されているのも大事な点である。私は過去の指導経験から,学術論文から臨床実践を考えること,つまりエビデンスを実践に結びつけるには具体的事案や体験が必要であり,初学者の多くはそれが無いために壁にぶつかることが多いものと感じている。本書は最新の知見をベースにしながらも,事例の紹介をとおして具体的な方法をしっかりと明示している。このことにより,臨床実践者が壁を乗り越えて理解を深め,実践していくことを促進できるものと思う。
本書は編者らが狙う「研究と臨床の架け橋」として十二分の書籍となっており,認知症リハビリテーションに取り組む実践者および研究者や学生に手にとってほしいと切に願う。