医療管理
病院のあり方を原点からひもとく
病院が進むべき道を決めるための地図とコンパス
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医療を取り巻く環境の変化が激しさを増す今だからこそ、絶えず改定される制度に翻弄されることのない医療と病院の管理が求められる。医療の普遍的な構造をひもとき、より的確な経営判断に結び付けるために、病院マネジメントに携わる方々の必携書。
著 | 池上 直己 |
---|---|
発行 | 2018年07月判型:A5頁:172 |
ISBN | 978-4-260-03611-5 |
定価 | 3,520円 (本体3,200円+税) |
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- 序文
- 目次
- 書評
序文
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まえがき
医療管理は現場における実務であるので,「学」としての「理論」・「分析」は不要であるという考え方もある.実務において最も必要とされているのは,診療報酬の改定への対応方法である.そうであるならば,医療管理の本の中心テーマは,診療報酬にするべきであろう.ところが,診療報酬の改定は厚生労働省と医療団体の激しい交渉の産物であるので,解析するのは難しく,しかも絶えず改定されるので,その内容はすぐに陳腐化する.
一方,経営学の視点から医療管理を取り上げようとすると,医療の特殊性に阻まれる.すなわち,病院の収益と費用のほとんどは,医師の指示によって発生するので,効率性を追求しようとしても,医師の裁量権と業務独占によって大きく制約される.そのうえ,医師の技能は各個人に帰属するので,医師が管理者と意見が対立して退職しても,ほぼ同じ条件ですぐにも新たな就職先を見つけることができる.これは一般の被用者にはない特性であり,しかも病院職員の9割は,有資格者であるゆえ,同じように容易に転職できるので,管理者の立場は弱い.
本書は,こうした医師と病院の特性,およびその日本における両者の特異性を踏まえて,病院の内部環境において,どのように組織を改革し,人事や財務を管理すべきかを追求する.次に,外部環境としての医療計画・地域医療構想・診療報酬,および診療圏の動向を解説し,こうした状況で病院が連携関係を構築するには,互いに競争関係ではなく,補完関係にある必要性について解説する.そして最後に,民間中小病院における内部・外部環境への対応をケース・スタディとしてまとめている.
医療管理を初めて学ぶ方は,最初の章から順に読まれることをお勧めする.これに対して,忙しい実務家の方は,III章の経営改革より始め,VII章まで進まれた後,ご関心があればI章とII章に戻って,医療の特異性を再確認されることをお勧めする.病院のあり方を原点からひもとくことが,より的確な経営判断に結びつけば幸いである.
著者は一貫して研究者として大学で過ごし,経営実務の責任者になったことはない.したがって,もし本書が読者の参考になるとすれば,著者の納得する形で各課題を論理的な整合性を持つように整理したことにある.
執筆に当たっては,2005年度に開校した慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科におけるヘルス・サービス人的資源管理論の科目,および全日本病院協会の事務長研修(2001年度開始),同看護部門長研修(2004年度開始),同トップマネジメント研修(同2005年度開始)において,それぞれ講師を担ったことが大きな財産となっている.また,本書執筆の直接の動機も,聖路加国際大学公衆衛生大学院で,本年度より開講される「病院管理」を担当するに際し,教科書を用意する必要にあった.
筆をおくに当たり,本書全体を通してご助言いただいた木安雄慶應義塾大学名誉教授,および渡辺明良聖路加国際大学法人事務局長にお礼を申し上げたい.米国におけるnurse practitionerおよびII章の医師・病院の発達についてはNorthwestern大学のJoel Shalowitz教授に,III章の病院における日本的経営についてはMassachusetts大学のSeth Goldsmith名誉教授に,IV章の人事管理については慶應義塾大学大学院経営管理学研究科の大藪毅講師に,V章の財務管理については医療経済研究機構でともに調査研究に取り組んだ独立行政法人国立病院機構本部の服部啓子経営情報分析専門職に,それぞれ深謝する.
VII章のケース・スタディは,社会医療法人高橋病院の高橋肇理事長を始め職員の皆様のご協力によって作成することができた.本ケースは,全日本病院協会が実施してきたトップマネジメント研修コースの教材として,川原経営総合センター事業推進企画部の田川洋平副部長の協力を得て執筆した.本書への転載を認めていただいた全日本病院協会に感謝を申し上げる.
最後に,I~IV章およびVI章は,雑誌『病院』の2018年1~5月号に連載したものを,本書のために見直し,加筆・修正した.またV章の元になった論文は,同誌2010年2月号に掲載されている.医学書院の関係者に感謝する.
2018年4月2日
池上直己
医療管理は現場における実務であるので,「学」としての「理論」・「分析」は不要であるという考え方もある.実務において最も必要とされているのは,診療報酬の改定への対応方法である.そうであるならば,医療管理の本の中心テーマは,診療報酬にするべきであろう.ところが,診療報酬の改定は厚生労働省と医療団体の激しい交渉の産物であるので,解析するのは難しく,しかも絶えず改定されるので,その内容はすぐに陳腐化する.
一方,経営学の視点から医療管理を取り上げようとすると,医療の特殊性に阻まれる.すなわち,病院の収益と費用のほとんどは,医師の指示によって発生するので,効率性を追求しようとしても,医師の裁量権と業務独占によって大きく制約される.そのうえ,医師の技能は各個人に帰属するので,医師が管理者と意見が対立して退職しても,ほぼ同じ条件ですぐにも新たな就職先を見つけることができる.これは一般の被用者にはない特性であり,しかも病院職員の9割は,有資格者であるゆえ,同じように容易に転職できるので,管理者の立場は弱い.
本書は,こうした医師と病院の特性,およびその日本における両者の特異性を踏まえて,病院の内部環境において,どのように組織を改革し,人事や財務を管理すべきかを追求する.次に,外部環境としての医療計画・地域医療構想・診療報酬,および診療圏の動向を解説し,こうした状況で病院が連携関係を構築するには,互いに競争関係ではなく,補完関係にある必要性について解説する.そして最後に,民間中小病院における内部・外部環境への対応をケース・スタディとしてまとめている.
医療管理を初めて学ぶ方は,最初の章から順に読まれることをお勧めする.これに対して,忙しい実務家の方は,III章の経営改革より始め,VII章まで進まれた後,ご関心があればI章とII章に戻って,医療の特異性を再確認されることをお勧めする.病院のあり方を原点からひもとくことが,より的確な経営判断に結びつけば幸いである.
著者は一貫して研究者として大学で過ごし,経営実務の責任者になったことはない.したがって,もし本書が読者の参考になるとすれば,著者の納得する形で各課題を論理的な整合性を持つように整理したことにある.
執筆に当たっては,2005年度に開校した慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科におけるヘルス・サービス人的資源管理論の科目,および全日本病院協会の事務長研修(2001年度開始),同看護部門長研修(2004年度開始),同トップマネジメント研修(同2005年度開始)において,それぞれ講師を担ったことが大きな財産となっている.また,本書執筆の直接の動機も,聖路加国際大学公衆衛生大学院で,本年度より開講される「病院管理」を担当するに際し,教科書を用意する必要にあった.
筆をおくに当たり,本書全体を通してご助言いただいた木安雄慶應義塾大学名誉教授,および渡辺明良聖路加国際大学法人事務局長にお礼を申し上げたい.米国におけるnurse practitionerおよびII章の医師・病院の発達についてはNorthwestern大学のJoel Shalowitz教授に,III章の病院における日本的経営についてはMassachusetts大学のSeth Goldsmith名誉教授に,IV章の人事管理については慶應義塾大学大学院経営管理学研究科の大藪毅講師に,V章の財務管理については医療経済研究機構でともに調査研究に取り組んだ独立行政法人国立病院機構本部の服部啓子経営情報分析専門職に,それぞれ深謝する.
VII章のケース・スタディは,社会医療法人高橋病院の高橋肇理事長を始め職員の皆様のご協力によって作成することができた.本ケースは,全日本病院協会が実施してきたトップマネジメント研修コースの教材として,川原経営総合センター事業推進企画部の田川洋平副部長の協力を得て執筆した.本書への転載を認めていただいた全日本病院協会に感謝を申し上げる.
最後に,I~IV章およびVI章は,雑誌『病院』の2018年1~5月号に連載したものを,本書のために見直し,加筆・修正した.またV章の元になった論文は,同誌2010年2月号に掲載されている.医学書院の関係者に感謝する.
2018年4月2日
池上直己
目次
開く
まえがき
I章 医療の特異性
1 専門職による対応とその課題
1-1 医師の裁量権
1-2 専門職としての医師の課題
2 経済学の効率性
2-1 分業による効率化
2-2 タスク・シフティングによる効率化
3 医師,医療職者の報酬
3-1 報酬を決めるうえでの課題
3-2 支払方式との関係
4 包括報酬の導入
4-1 諸外国におけるDRGの導入
4-2 日本におけるDPC/PDPSの導入
まとめ
II章 医師と病院の歴史
1 英米における医師の歴史
1-1 英国における経緯
1-2 米国における経緯
2 英米における病院の歴史
2-1 貧困院からの分離
2-2 病院と医師の関係
3 日本における医師・病院の歴史
4 大学医局と専門医制度
4-1 大学医局の功罪
4-2 専門医制度の体系化
5 病院管理の確立
5-1 病院管理の創設
5-2 病院管理学の確立
5-3 日本における病院管理
まとめ
III章 病院の経営改革
1 業務の性質と組織の類型
2 病院の組織
2-1 医師への権限の集中
2-2 日米の対比
3 業務の捉え方を見直す
3-1 プロセスの標準化
3-2 その他の統合方法
4 規範の標準化
4-1 日本的経営の適用
4-2 病院のパフォーマンスとの関係
5 病院特性との関係
5-1 病院の機能との関係
5-2 公私による相違とグループ化の課題
まとめ
IV章 人事管理
1 人事管理の歴史
1-1 2つのルーツ
1-2 日本的経営とその変容
1-3 年功給に代わる体系の模索
2 医療の特殊性
3 医師の人事管理
3-1 医局制度と非金銭的報酬
3-2 医師の働き方
4 看護職の人事管理
4-1 看護職の特性
4-2 人員配置基準の維持
4-3 外部労働市場の活用
5 医療スタッフ(コメディカル)の人事管理
6 事務職と一般的管理技能
6-1 事務職の位置づけと事務長への抜擢
6-2 一般的管理技能の取得
まとめ
V章 財務管理
1 財務会計
2 管理会計の責任単位
2-1 責任単位の設定
2-2 責任単位としての診療科
3 費用の配賦方法
4 診療科へのフィードバック
5 診療科の収支
まとめ
VI章 病床機能と医療連携
1 病床機能
1-1 医療法の改正
1-2 地域医療構想
1-3 診療報酬の改定
2 医療連携
2-1 自院・法人の分析
2-2 医療連携の推進方法
まとめ
VII章 ケース・スタディ―病床再編・医療連携・人事管理
ケースの着眼点
1 背景と沿革
1-1 これまでの経緯
1-2 “老人病院”体質からの脱却
2 病床再編
2-1 再編の経緯
2-2 意思決定のプロセスと今後の課題
3 医療連携
3-1 リハビリテーションへの特化と急性期病院との連携強化
3-2 市立函館病院との関係強化
3-3 医療連携の現状
3-4 IT戦略
4 人事管理
4-1 明確な経営戦略
4-2 改革の経緯
4-3 採用
4-4 能力開発と評価
4-5 給与体系
4-6 定着に向けた施策
4-7 今後の課題
索引
I章 医療の特異性
1 専門職による対応とその課題
1-1 医師の裁量権
1-2 専門職としての医師の課題
2 経済学の効率性
2-1 分業による効率化
2-2 タスク・シフティングによる効率化
3 医師,医療職者の報酬
3-1 報酬を決めるうえでの課題
3-2 支払方式との関係
4 包括報酬の導入
4-1 諸外国におけるDRGの導入
4-2 日本におけるDPC/PDPSの導入
まとめ
II章 医師と病院の歴史
1 英米における医師の歴史
1-1 英国における経緯
1-2 米国における経緯
2 英米における病院の歴史
2-1 貧困院からの分離
2-2 病院と医師の関係
3 日本における医師・病院の歴史
4 大学医局と専門医制度
4-1 大学医局の功罪
4-2 専門医制度の体系化
5 病院管理の確立
5-1 病院管理の創設
5-2 病院管理学の確立
5-3 日本における病院管理
まとめ
III章 病院の経営改革
1 業務の性質と組織の類型
2 病院の組織
2-1 医師への権限の集中
2-2 日米の対比
3 業務の捉え方を見直す
3-1 プロセスの標準化
3-2 その他の統合方法
4 規範の標準化
4-1 日本的経営の適用
4-2 病院のパフォーマンスとの関係
5 病院特性との関係
5-1 病院の機能との関係
5-2 公私による相違とグループ化の課題
まとめ
IV章 人事管理
1 人事管理の歴史
1-1 2つのルーツ
1-2 日本的経営とその変容
1-3 年功給に代わる体系の模索
2 医療の特殊性
3 医師の人事管理
3-1 医局制度と非金銭的報酬
3-2 医師の働き方
4 看護職の人事管理
4-1 看護職の特性
4-2 人員配置基準の維持
4-3 外部労働市場の活用
5 医療スタッフ(コメディカル)の人事管理
6 事務職と一般的管理技能
6-1 事務職の位置づけと事務長への抜擢
6-2 一般的管理技能の取得
まとめ
V章 財務管理
1 財務会計
2 管理会計の責任単位
2-1 責任単位の設定
2-2 責任単位としての診療科
3 費用の配賦方法
4 診療科へのフィードバック
5 診療科の収支
まとめ
VI章 病床機能と医療連携
1 病床機能
1-1 医療法の改正
1-2 地域医療構想
1-3 診療報酬の改定
2 医療連携
2-1 自院・法人の分析
2-2 医療連携の推進方法
まとめ
VII章 ケース・スタディ―病床再編・医療連携・人事管理
ケースの着眼点
1 背景と沿革
1-1 これまでの経緯
1-2 “老人病院”体質からの脱却
2 病床再編
2-1 再編の経緯
2-2 意思決定のプロセスと今後の課題
3 医療連携
3-1 リハビリテーションへの特化と急性期病院との連携強化
3-2 市立函館病院との関係強化
3-3 医療連携の現状
3-4 IT戦略
4 人事管理
4-1 明確な経営戦略
4-2 改革の経緯
4-3 採用
4-4 能力開発と評価
4-5 給与体系
4-6 定着に向けた施策
4-7 今後の課題
索引
書評
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今後の病院経営と運営を考える指針として
書評者: 河北 博文 (河北医療財団理事長)
マネジメントの定義は,その組織が“継続して社会価値を創り続けること”と考えています。組織が医療機関であれば病院の理念を言葉として明確に示し,それを浸透させることが開設者ならびに管理者としての理事長,院長の第一の責任です。そして,社会価値を継続して創るということは,人・資金・情報に加え,天の時,地の利などの要素を最大限に活用する必要があります。よく,人・物・金と言われますが,物は人が集まり,ベクトルをそろえて活動し,資金調達が十分にできれば買ったり,設置したりすることはできますから,二次的な要素だと考えています。
医療法第一条の五には病院は「科学的でかつ適正な診療を受けることができる便宜を与えることを主たる目的として組織され,かつ,運営されるものでなければならない」と書かれています。わが国の病院が組織体であるということを認識し,運営が体系的であるということはいつから始まったのでしょうか。聖路加国際病院を開設したRudolf B. Teuslerは「This hospital is a living organism……」と宣言しています。組織は常に生命ある有機体であり,すなわち,形態的・機能的に分化しつつ異なる部分が一つの内面的原理(理念)によって統一されてできた全体であり,目的と事業を実現するものです。このことは実は,医療機関内部における医療の質のみならず,社会的に医療制度そのものの質によって大きく影響を受けることになります。医療財源,提供体制の計画,さらにプライマリ・ケア体制整備などが社会的に評価されなければなりません。
本書は著者の長い学識経験を踏まえて,歴史的観点,国際的な比較論,多くの職員が国家資格を持ち,加えて,その中でも医師という患者と直接準委任契約を有する集団がいる医療の特異性を示しつつ,実働部,技術部,指示部とそれらを統括する経営層,管理部からなる運営の方法を提案しています。言い換えれば,患者に直接接するサービス層とそのサービス層を支えるサポート層,そして,全体を指示する基盤,ベース層の役割分担と連携がなければ病院は機能しません。VII章で函館市の社会医療法人高橋病院の事例を紹介していますが,わが国の一般病院としてはよい選択だと思います。極めて実践的に分析された事例であり,今後の病院経営と運営のモデルになり得るでしょう。
診療報酬制度を鑑みてみると,DPCなどを含め病院においてもICTの活用によるデータ分析は不可欠です。さらに,地域との連携,さらには,地域づくりにはIoTを生かし,いわゆるポピュレーション・ヘルス・マネジメントへつなげていくことが望ましいと思います。本書では情報の活用があまり述べられていないので次回の改訂に委ねることになるでしょう。
医学書院の雑誌『病院』と併用しながら,本書が病院経営者,管理者の指針になることを望みます。
医療提供体制の背景を踏まえて病院経営を考える(雑誌『病院』77巻7号より)
書評者: 松田 晋哉 (産業医大教授・公衆衛生学)
本書は,わが国の医療・病院管理学をリードしてきた池上直己先生による医療管理の総合的なテキストである。専門職の理想的形態に関するFreidsonの類型をもとに日本の医師の特異性に触れ,そしてMintzbergの組織論をベースに,業務の性質に基づいて病院に勤務する職種の特性を分析し,そのマネジメント上の特徴を明確に説明している。こうした視点は病院のマネジメントを考える上で非常に参考になるものである。また,米国の医師と異なり,わが国の医師がそのキャリア形成の過程で管理者としての経験を積み,上級管理者になっていくという特徴を指摘している。それゆえに各病院団体による管理者コースなどの研修機会が重要であるが,本書はそのテキストとしても有用であると考える。
医療管理を考える上で,歴史的な背景や医療政策の動向に関する理解は欠かせない。その理解なしに欧米のマネジメント論をうのみにすることは適切ではない。本書ではそうした視点からの丁寧な説明がなされており,医療管理を基礎から学ぶ者にとって大変有用であろう。人事管理についても,著者の研究成果をもとに基本的な考え方の整理がされていて参考になる。医療職における非金銭的報酬や事務職における一般的管理機能の重要性は認識こそされているものの,それをターゲットにした人事管理およびその研修などはあまり行われていない。本書の指摘をもとに,そうした側面からの人事管理の研修が定式化されることを期待したい。
著者はわが国の医療機関における管理会計学的分析の第一人者でもあるが,その経験をもとに医療機関の財務管理を考える上での注意点を説明している。特に,責任単位の設定方法や分析結果の活用方法に関して,一般企業の管理会計とは異なった視点が必要である。
本書の最も大きな特徴は最終章のケース・スタディである。雑誌『病院』における評者の連載でも取り上げた北海道函館市の高橋病院は急性期後の医療・介護を支えるモデル的病院である。かつては古い形態の“老人病院”だった同院を,現理事長である高橋肇氏がどのように先進的な医療機関に変革してきたかが,本書の各章の項目(経営改革,人事管理,財務管理,地域連携)の視点から物語として記述されている。読者はそれを読みながら,必要に応じて本書の前半で説明されている理論を読み,それがどのように具体化されているのかを分析することで,本書が目的とする医療管理の内容をより深く理解することができるだろう。惜しむらくは,このようなケース・スタディで設定されることが多いガイド的な設問(例えば「Q.なぜ,現理事長はこの時点で病床を転換することを決断したのか? 転換を行わなかった場合,どのような結果になっていたと予想されるか?」など)があれば,より学習効果の高いテキストになったのではないかと思う。ぜひ本書のワークブックを続刊として執筆していただければと思う。
病院管理にコミットする看護管理者の必読書(雑誌『看護管理』より)
書評者: 井部 俊子 (聖路加国際大学名誉教授)
◆病院サービス全体に貢献し,病院管理の中枢に乗り出す看護師
わが国の看護職の62.6%(2016年時点)は病院で仕事をしている。しかも昨今の病院組織では「看護部」に属さない看護師が増えつつある。看護師が医療安全管理者として活躍する,人事課で採用活動を担う,医事課で患者対応にあたる,経営管理室でデータ分析をする,地域連携室を動かすなど,看護師の活動範囲は拡大している。看護師は看護部長のもとで統率される時代は終わり,病院サービス全体に貢献している。よい病院こそ,こうした傾向が強まっていると感じる。
いずれにしても,病院の中で最大の職種である看護職は,看護を通して「医療管理」を担っている。現場では経営方針が分からず困惑したり,医師と衝突したり,チームが機能せず硬直したりして投げ出したくなることもあるが,看護師は確実に看護管理から病院管理の中枢に乗り出している。
◆「病院のあり方を原点からひもとく」入門書
そうした時代だからこそ本書が役に立つ。著者は医療の特異性として,医師の裁量権と専門職としての医師の課題を説明し,「医師は専門職として経済的な制約を直視してこなかったこと」を指摘する。そして経済学の効率性をタスク・シフティングの視点で論じる。効率性の追求は,医師同士の分業によってではなく,医師よりも人件費の低い職種に業務を移すことによって行われるが,医師の裁量権を侵し,報酬の低下につながる可能性のある分野については,医師は反対するのだと。著者は特定行為に係る看護師の研修制度をタスク・シフティングの一環として捉え,制度には肯定的である。
さらに,医療の特異性として,医療職の報酬と支払い方式との関連を説き,包括報酬の導入としてDPC/PDPS(Diagnosis Procedure Combination/Per Diem Payment System)について概説する。
本書では,病院の歴史,病院の経営改革,人事管理,財務管理,病床機能と医療連携をテーマとして扱い,最終章にこれらを統合した応用編として高橋病院のケーススタディがある。
まさに,「病院のあり方を原点からひもとく」入門書として,病院管理を知り,看護管理を実践する看護管理者には必読書であろう。
(『看護管理』2018年10月号掲載)
書評者: 河北 博文 (河北医療財団理事長)
マネジメントの定義は,その組織が“継続して社会価値を創り続けること”と考えています。組織が医療機関であれば病院の理念を言葉として明確に示し,それを浸透させることが開設者ならびに管理者としての理事長,院長の第一の責任です。そして,社会価値を継続して創るということは,人・資金・情報に加え,天の時,地の利などの要素を最大限に活用する必要があります。よく,人・物・金と言われますが,物は人が集まり,ベクトルをそろえて活動し,資金調達が十分にできれば買ったり,設置したりすることはできますから,二次的な要素だと考えています。
医療法第一条の五には病院は「科学的でかつ適正な診療を受けることができる便宜を与えることを主たる目的として組織され,かつ,運営されるものでなければならない」と書かれています。わが国の病院が組織体であるということを認識し,運営が体系的であるということはいつから始まったのでしょうか。聖路加国際病院を開設したRudolf B. Teuslerは「This hospital is a living organism……」と宣言しています。組織は常に生命ある有機体であり,すなわち,形態的・機能的に分化しつつ異なる部分が一つの内面的原理(理念)によって統一されてできた全体であり,目的と事業を実現するものです。このことは実は,医療機関内部における医療の質のみならず,社会的に医療制度そのものの質によって大きく影響を受けることになります。医療財源,提供体制の計画,さらにプライマリ・ケア体制整備などが社会的に評価されなければなりません。
本書は著者の長い学識経験を踏まえて,歴史的観点,国際的な比較論,多くの職員が国家資格を持ち,加えて,その中でも医師という患者と直接準委任契約を有する集団がいる医療の特異性を示しつつ,実働部,技術部,指示部とそれらを統括する経営層,管理部からなる運営の方法を提案しています。言い換えれば,患者に直接接するサービス層とそのサービス層を支えるサポート層,そして,全体を指示する基盤,ベース層の役割分担と連携がなければ病院は機能しません。VII章で函館市の社会医療法人高橋病院の事例を紹介していますが,わが国の一般病院としてはよい選択だと思います。極めて実践的に分析された事例であり,今後の病院経営と運営のモデルになり得るでしょう。
診療報酬制度を鑑みてみると,DPCなどを含め病院においてもICTの活用によるデータ分析は不可欠です。さらに,地域との連携,さらには,地域づくりにはIoTを生かし,いわゆるポピュレーション・ヘルス・マネジメントへつなげていくことが望ましいと思います。本書では情報の活用があまり述べられていないので次回の改訂に委ねることになるでしょう。
医学書院の雑誌『病院』と併用しながら,本書が病院経営者,管理者の指針になることを望みます。
医療提供体制の背景を踏まえて病院経営を考える(雑誌『病院』77巻7号より)
書評者: 松田 晋哉 (産業医大教授・公衆衛生学)
本書は,わが国の医療・病院管理学をリードしてきた池上直己先生による医療管理の総合的なテキストである。専門職の理想的形態に関するFreidsonの類型をもとに日本の医師の特異性に触れ,そしてMintzbergの組織論をベースに,業務の性質に基づいて病院に勤務する職種の特性を分析し,そのマネジメント上の特徴を明確に説明している。こうした視点は病院のマネジメントを考える上で非常に参考になるものである。また,米国の医師と異なり,わが国の医師がそのキャリア形成の過程で管理者としての経験を積み,上級管理者になっていくという特徴を指摘している。それゆえに各病院団体による管理者コースなどの研修機会が重要であるが,本書はそのテキストとしても有用であると考える。
医療管理を考える上で,歴史的な背景や医療政策の動向に関する理解は欠かせない。その理解なしに欧米のマネジメント論をうのみにすることは適切ではない。本書ではそうした視点からの丁寧な説明がなされており,医療管理を基礎から学ぶ者にとって大変有用であろう。人事管理についても,著者の研究成果をもとに基本的な考え方の整理がされていて参考になる。医療職における非金銭的報酬や事務職における一般的管理機能の重要性は認識こそされているものの,それをターゲットにした人事管理およびその研修などはあまり行われていない。本書の指摘をもとに,そうした側面からの人事管理の研修が定式化されることを期待したい。
著者はわが国の医療機関における管理会計学的分析の第一人者でもあるが,その経験をもとに医療機関の財務管理を考える上での注意点を説明している。特に,責任単位の設定方法や分析結果の活用方法に関して,一般企業の管理会計とは異なった視点が必要である。
本書の最も大きな特徴は最終章のケース・スタディである。雑誌『病院』における評者の連載でも取り上げた北海道函館市の高橋病院は急性期後の医療・介護を支えるモデル的病院である。かつては古い形態の“老人病院”だった同院を,現理事長である高橋肇氏がどのように先進的な医療機関に変革してきたかが,本書の各章の項目(経営改革,人事管理,財務管理,地域連携)の視点から物語として記述されている。読者はそれを読みながら,必要に応じて本書の前半で説明されている理論を読み,それがどのように具体化されているのかを分析することで,本書が目的とする医療管理の内容をより深く理解することができるだろう。惜しむらくは,このようなケース・スタディで設定されることが多いガイド的な設問(例えば「Q.なぜ,現理事長はこの時点で病床を転換することを決断したのか? 転換を行わなかった場合,どのような結果になっていたと予想されるか?」など)があれば,より学習効果の高いテキストになったのではないかと思う。ぜひ本書のワークブックを続刊として執筆していただければと思う。
病院管理にコミットする看護管理者の必読書(雑誌『看護管理』より)
書評者: 井部 俊子 (聖路加国際大学名誉教授)
◆病院サービス全体に貢献し,病院管理の中枢に乗り出す看護師
わが国の看護職の62.6%(2016年時点)は病院で仕事をしている。しかも昨今の病院組織では「看護部」に属さない看護師が増えつつある。看護師が医療安全管理者として活躍する,人事課で採用活動を担う,医事課で患者対応にあたる,経営管理室でデータ分析をする,地域連携室を動かすなど,看護師の活動範囲は拡大している。看護師は看護部長のもとで統率される時代は終わり,病院サービス全体に貢献している。よい病院こそ,こうした傾向が強まっていると感じる。
いずれにしても,病院の中で最大の職種である看護職は,看護を通して「医療管理」を担っている。現場では経営方針が分からず困惑したり,医師と衝突したり,チームが機能せず硬直したりして投げ出したくなることもあるが,看護師は確実に看護管理から病院管理の中枢に乗り出している。
◆「病院のあり方を原点からひもとく」入門書
そうした時代だからこそ本書が役に立つ。著者は医療の特異性として,医師の裁量権と専門職としての医師の課題を説明し,「医師は専門職として経済的な制約を直視してこなかったこと」を指摘する。そして経済学の効率性をタスク・シフティングの視点で論じる。効率性の追求は,医師同士の分業によってではなく,医師よりも人件費の低い職種に業務を移すことによって行われるが,医師の裁量権を侵し,報酬の低下につながる可能性のある分野については,医師は反対するのだと。著者は特定行為に係る看護師の研修制度をタスク・シフティングの一環として捉え,制度には肯定的である。
さらに,医療の特異性として,医療職の報酬と支払い方式との関連を説き,包括報酬の導入としてDPC/PDPS(Diagnosis Procedure Combination/Per Diem Payment System)について概説する。
本書では,病院の歴史,病院の経営改革,人事管理,財務管理,病床機能と医療連携をテーマとして扱い,最終章にこれらを統合した応用編として高橋病院のケーススタディがある。
まさに,「病院のあり方を原点からひもとく」入門書として,病院管理を知り,看護管理を実践する看護管理者には必読書であろう。
(『看護管理』2018年10月号掲載)
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