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症例で学ぶ脳卒中のリハ戦略[Web動画付]

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いま、脳卒中のリハビリテーションの現場では、「脳のシステム」を理解したうえで、患者にかかわる必要性が叫ばれている。患者の脳画像を読み、想定される患者の障害像を把握したうえで、実際の臨床像と擦り合わせを行い、最も効果的なリハを構築していく。本書は千里リハビリテーション病院で行われた脳卒中のリハを、脳画像と実臨床の写真・動画などを交えて振り返り、解説していく。最前線の脳卒中リハをこの1冊で追体験せよ!
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編集 吉尾 雅春
発行 2018年11月判型:B5頁:224
ISBN 978-4-260-03683-2
定価 4,400円 (本体4,000円+税)

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発刊にあたって

 脳卒中によって脳は相応の障害を受ける.脳卒中患者がみせるさまざまな現象や行動の多くはその脳のなかで手続き処理された結果としての表現である.セラピストたちに対して,脳画像は脳のなかで行われる手続き上の問題やこれからの可能性,病棟生活やリハビリテーションを進めていく上で配慮すべきことなどに気づかせてくれる.
 脳画像や脳科学が発達したいまの時代になっても「理学療法士は現象をみていく仕事だから,画像をみずに現象をみて判断し,アプローチしていくべきである」というセラピストがいる.確かに現象をしっかりみるべきであるという主張は間違ってはいない.しかし,それは1950年前後の反射生理学が主流であったころの主張にほかならない.脳のなかの状況がかなり可視化されたいまの時代にあって,その原因が脳にあることが明らかであれば,脳画像をみてその原因を探って対処していくことは何ら間違ってはいない.高熱が出たとき,その原因を明らかにしようとせず,ただ解熱剤だけを投与して治療を終える医師を信頼はしないだろう.脳のことが分からなければ,あるいは脳画像をみても判読できなければ,画像をみる価値はない.脳が分かるような学習を,教育をすればよいだけのことである.脳の機能解剖が分かれば脳画像をみる意味が分かるはずである.
 脳のなかで行われる手続き上の問題やこれからの可能性,配慮すべきことなどを画像からある程度考察することができるのであれば,評価やプログラム立案のときに相当な手助けになる.高次脳機能障害も障害名をつけることが重要なのではなく,脳のシステムの手続き上の問題に目を向けて,なぜいまの問題が生じているのか理解することが本来的である.そのほうが高次脳機能障害をもつ患者へのかかわり方のヒントが得られる可能性も高い.
 前頭連合野は過去やいまを評価し,将来に向けた行動計画を立て,実践していこうとする.つまり潜在的なものを顕在化しようとするのである.脳卒中のリハビリテーションにおける臨床はその連続である.脳のなかでおきている問題を理解しながら実践することは,脳卒中患者の潜在能力を顕在化できることにつながる.その可能性の広がりは脳の知識を保有したセラピストたちの前頭連合野の機能によるといっても過言ではない.
 そして何よりも大切なのは彼らの前頭連合野が発揮する知恵と発想力,そして情熱である.知識としては脳の機能解剖学や生理学が基礎になる.しかし,セラピストたちが活躍する脳卒中の臨床場面は生理学で説明されるような細かい話を追求するものではない.脳出血の拡がりや脳梗塞後の浮腫などをみると,それはもっとザックリと考えていけばよいことがわかる.つまり,脳画像をみて知ることは,こういう問題があるかも,という「可能性」のレベルだからである.そこにセラピストたちの知恵と発想力が活かされ,「生活を営む社会的動物である」人間に向き合う彼らの情熱が結集される.ここに取り上げた若いセラピストたちの取り組みは,間違った理解をしたものも含まれているかもしれないが,とても臨床的で称賛に値するものであると私は考えている.
 本書の発刊にあたり,対象になられた皆様およびご家族にはご理解とご協力を賜り,心から感謝申し上げます.

 2018年秋
 千里リハビリテーション病院 吉尾雅春

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脳のシステムを学ぶ
 1 視覚経路
  1 大脳半球への血液供給
  2 大脳皮質の構造と機能
  3 脳のシステム
 2 視床
  1 視床の概要
  2 視床の位置と分類
  3 視床の血管支配
  4 視床放線と内包
  5 視床の脳画像の読影のポイント
 3 大脳基底核のネットワーク
  1 大脳基底核の概要
  2 大脳基底核の機能
  3 基本回路
  4 被殻の血管支配
  5 被殻出血
 4 小脳系のネットワーク
  1 はじめに
  2 小脳の内部構造
  3 小脳の神経経路
  column 千里リハビリテーション病院に入院した小脳損傷患者データ
 5 脳幹
  1 脳幹の概要
  2 脳幹の脳画像
  3 脳幹の解剖
  4 脳幹の伝導路
  5 脳神経

症例
 16歳男性 Aさん 重度の意識障害で四肢の動きもありませんでした
 60歳代男性 Bさん 姿勢制御障害と左半側空間無視が起きた脳のメカニズムは?
 60歳代女性 Cさん 出血部位と症状がマッチしないんです!
 50歳代女性 Dさん 易怒性があり,どんな行動をとるか予測できません!
 70歳代前半女性 Eさん 内包後脚損傷で,全盲もあります
 73歳男性 Fさん 立位で容易に膝折れが出現.長下肢装具は必要か?
 60歳代女性 Gさん 重度片麻痺,発症から1年2か月経過.
              歩いてハワイ旅行は実現可能か?
 64歳女性 Hさん 介助に強い拒否感があります.打開のカギは?
 62歳女性 Iさん 重度右片麻痺患者.発症後11か月が経過しています
 65歳男性 Jさん 重度の運動麻痺残存.それでもギターが弾きたいんです!
 86歳男性 Kさん 理学療法の目標は,歩行獲得……なのか?

索引

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臨床で脳画像をどう見るべきかを提案してくれる良書
書評者: 森岡 周 (畿央大大学院教授・理学療法学)
 脳卒中は脳の病気である。しかし,旧体系の理学・作業療法は脳を知らずとも,脳を意識せずともできていた。誤解を恐れず述べると,運動器疾患であろうが脳損傷であろうが,そのほとんどが関節を動かし,筋力を増強させ,基本動作を練習する。障害像が異なったとしても,実施内容にさほど違いを見いだせない。この問題の背景には,脳の知識が不十分であること,知識を持っていたとしても,それが臨床に役立てられていないことが挙げられる。本書はそれら問題を払拭してくれる。

 本書は吉尾雅春先生(千里リハビリテーション病院・副院長)を旗手とする同病院スタッフが行った脳卒中患者に対するリハビリテーションの結晶である。前半は脳の機能解剖と脳画像の解説に割かれている。通常,機能解剖に関しては,それに詳しい教育研究者が著わすことが多いが,本書は臨床に従事している理学・作業療法士がこれを書いている。そして,機能局在にとどまらず,神経経路からシステムとして脳を捉える必要性を説いている。脳は直接損傷されていない領域も機能不全を起こすことが当たり前であり,その経路・線維も視野にいれて病態を捉え介入すべきであるという,著者らの強い意識を感じとることができる。そして,この程度の機能解剖は臨床で知っていて当然といわんとばかりの著者らの気概を感じる。同時に教育機関に対する「ここまでは最低でも教えなさい」という強いメッセージを感じる。

 後半を構成するのが症例報告である。11名の患者が登場するが,その構成としては,「脳画像から『障害像』を考えてみよう」と実際の画像情報からスタートするところに特徴がある。これはバイアスなく画像から病態を想像するトレーニングになるし,機能解剖をきちんと理解できているかがここで試される。そして現象の記述,病態の解釈,プロブレム・リストへと進む。このプロブレム・リストを見た際,私は「やっとこの時代がきたか」と肯定的にうなずいてしまった。これまでの症例報告では,現象を読みとくためにきちんと検査が遂行されていても,結局は個人の病態が見えない「関節可動域制限」や「筋力低下」などが列挙されることが多かった。しかし本書は,例えば「右上縦束損傷→左半側空間無視」などと,画像と現象を「対」にして捉えている。つまり,画像がアクセサリー情報ではない。その後には臨床像と画像情報に整合性があるかないかがきちんと解釈されている。そして病態を捉えやすいように,QRコードを用いて動画が提供されるといった工夫がされている。

 リハビリテーション領域において脳科学を推し進めてきた私にとって,本書はそれをしてきてよかったと思わせる産物である。あえて注文するならば,早速改訂に向けて,それぞれの症例報告が査読に耐えられる内容へと進化するために,何がスペキュレーティブで何がそうでないのかを議論を重ね,次へと準備していただきたい。なぜなら,リハビリテーションの発展は症例報告にかかっているのだから。いずれにしても,リハビリテーション関連職種の皆さまに手に取っていただきたい良書として自信を持って薦めることができる。
脳卒中発症前と異なる生活設計をいかに援助できるか
書評者: 原 寛美 (東京リハビリテーションセンター世田谷)
 脳卒中のリハビリテーション(以下,リハ)に携わっていて,日々感じていることがある。それは脳卒中患者さんの障害像はすべからく異なっており,定型化されたパターンで予後を論じることは困難であるという点である。さらに,進化してきているリハ医療・医学の知見と方法論を導入することで,障害像への新しい援助の介入が可能となってきている点である。

 本書籍の編集者の吉尾雅春氏(千里リハビリテーション病院・副院長)は,理学療法士として長らく臨床における実績を積んだ後に,札幌医大解剖学第二講座に在籍して神経系を含めた解剖学的知見を修得し,キャリアアップをされている。本書においてはその経験がいかんなく発揮されており,現在の千里リハビリテーション病院において指導している後進の手で執筆されている。

 二部構成であり,前半は「脳のシステムを学ぶ」と題して,神経機能解剖と臨床症状の解説編である。後半は「症例」編であり,脳画像から障害像を考えて分析するプロセスと,生活期までを俯瞰して援助を継続したリハの軌跡が詳述されている。

 「脳のシステムを学ぶ」では,基本となる解剖学的知見と機能局在のみならず,脳卒中リハでは必須となる脳内神経ネットワークにも丁寧な記述が網羅されている。それらの病変によって生じる脳卒中例の臨床症状と関連付けた解説がされていることが特徴である。大脳皮質と皮質下核,小脳,脳幹における,入力系と出力系と血管支配,臨床症状について,詳しく分析されていて,他の著書では得ることができない新しい知見を学ぶことができる。そしてカラーで明瞭に図示された脳内の局在とネットワークがわかりやすい。

 「症例」編では,全例で脳画像の分析の進め方とその障害像のプロブレム・リストの記述がされている。それらに依拠したリハの目標設定と,実際のリハの経過が,回復期リハの期間だけではなく,退院後の生活まで含めて詳細に記述されている。さらにQOLのレベルまで言及した分析がされている。回復期リハ病棟を退院後に,訪問リハなどを継続して生活のフォローがなされ,初期の目標設定とリハのアプローチが的確であったのかフィードバックがされている。脳卒中リハ医療とは,一人の患者さんの発症前とは異なる生活設計を,いかに援助できるかという原点を喚起させてくれる読み応えある内容となっている。回復経過を評価尺度の数値でもって論じていることが多い日常であるが,本書においては数値だけにとどまらない著述的な描写が徹底されている。若いリハスタッフがそうした視点で仕事をしていることに驚くとともに,評価尺度にとどまらない観察を教示する内容に衝撃を受けることができた。

 本書が,脳画像を読み解く教科書であるとともに,脳卒中リハ医療の本質を学ぶテキストとして活用されることを望みたい。

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