医学界新聞

2020.08.31



Medical Library 書評・新刊案内


進展ステージ別に理解する
心不全看護

眞茅 みゆき 編

《評者》吉田 俊子(聖路加国際大教授・看護学部長)

心不全への理解を深め,根拠のあるケアにつなぐ

 心不全は高齢化に伴って増加することが示されており,超高齢社会を迎えたわが国において,心不全患者への対応は最重要課題といえます。循環器疾患の対策は,がんと比べて大きく後れをとっていましたが,2018(平成30)年12月に「健康寿命の延伸等を図るための脳卒中,心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法」(脳卒中・循環器病対策基本法)が制定されたことにより,拡充が待たれる状況にあります。

 心不全患者は,入退院を繰り返しながら悪化していきます。心不全は多様な臨床症状を呈することから,その状態を把握することは困難です。さらに,高齢の患者の多くは併存疾患を有し,身体機能や認知機能,心理・社会的側面などにさまざまな課題を持っています。そのため,質の高いケアの提供には,専門的な看護支援とともに,多職種連携での医療提供や介護・福祉との連携も重要となっています。

 本書は,このような複雑な背景を持つ心不全患者に対して,質の高い看護実践の基盤を持つことをめざして構成されています。

 心不全は進行性の病態であり,予防期から終末期までのステージ分類がなされています。本書は,このステージ別に心不全をとらえており,複雑な心不全の病態をわかりやすく解説し,そのステージで求められるケアの根拠と方略を示しています。

 心不全への入り口は高血圧などのサイレントキラーであり,一次予防が重要です。心不全につながる虚血性心疾患などの治療は低侵襲化されていますが,回復が早い分,その後の生活習慣の改善といった療養を十分に行っていく必要があります。特に,心臓リハビリテーションは重要な要素となることから,看護師も理解しておくことが必要です。

 心不全患者には,症状緩和とともに増悪予防を図り,その人らしさを支えていくケアが求められます。そのためには,症状アセスメントやケアの提供とともに,地域医療との連携も重要なカギとなります。また心不全患者の緩和ケアでは,心不全の特性を踏まえながら,アドバンス・ケア・プランニングをどのように行うのかが重要な課題となっています。

 本書では,これらの心不全患者の看護において,今まさにホットな話題,理解してケアに臨んでほしい内容が網羅されており,わかりやすくそのポイントが示されています。

 心不全ケアに携わる看護職のみならず,医療者の方々,またこれから心不全を学びたい看護職や学生の皆さんが心不全への理解を深め,根拠のあるケアにつなげていくことができる良書です。ぜひ手に取って,ケアに生かしていってほしいと思います。

B5・頁264 定価:本体4,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03896-6


医療者のためのExcel入門
超・基礎から医療データ分析まで 第2版

田久 浩志 著

《評者》山田 眞佐美(大阪国際がんセンター看護師長)

個人レッスンを受けているように作業が進む一冊

 皆様が本を選ばれる時の基準は何でしょうか? 著者? タイトル? ベストセラーかどうか? どれも気になる内容ですが,私は,①見た目の良さ(表紙がすっきりしていて読みやすそうかどうか),②手に取った時の手触り(自分の手にしっくりとくるかどうか),③ページをパラパラとめくった時の紙の質感(指のひっかかりはよいか,ページはめくりやすいか),④最後まで読めそうかどうか(目に痛くない色使い,文字が見やすくて,読みやすそうかどうか),⑤重たさ(手や腕に負担なく読めそうかどうか,持ち運びに耐え得る重たさか)を重視しています。解決したいことや学びたい意欲があるからこそ本を読むのだと思いますが,いくら良いことが書かれていても,自分の頭の一部になるくらいまで何回も読んで内容を理解できないと,知識やスキルにつながる役に立つ本とはならないからです。

 一冊の本との出合いが人生を変えることもあります。私は現在,立命館大MOT大学院テクノロジー・マネジメント研究科博士課程後期課程に在籍していますが,研究者としてのルーツは,上の①~⑤の山田基準を満たした田久浩志先生らの『看護研究なんかこわくない――計画立案から文章作成まで』(医学書院)を2000年に読み,初めて看護研究に取り組んだことにあります。どの入門書を選ぶかは,その後の好き・嫌いを左右し,人生にも影響します。「下手の横好き」とは「下手なくせに,その物事が好きで熱心であること」のことわざですが,私と看護研究の関係はまさにこれ,横好きを育ててくださいましたのが田久先生です。

 今回ご紹介させていただく『医療者のためのExcel入門――超・基礎から医療データ分析まで(第2版)』は,まず①~⑤の山田基準を満たしています。肝心の内容はというと,実際のExcel画面がふんだんに使われているので,とにかくその通りに読み進めれば,まるで個人レッスンを受けているかのごとく作業が進みます。「データを手際よく入力する」「ExcelでPowerPointの原稿を作る」など,先人が四苦八苦しながら格闘されてきた内容が,「裏ワザ」として気前よく公開されているのも本書のお値打ちなところといえます。田久先生は指導者として,どうやってわかりやすく教えるかを常に研鑽されています。本書は文字の配列や色使いも絶妙で,どうやってわかりやすい本を世に届けるかといった医学書院さんのノウハウが結集された,歴史とセンスを感じる一冊に仕上がっています(上から目線になってしまいすみません!)。

 本書の「おわりに」に「データの分析能力が伸びる方の共通点は好奇心」と記されています。「継続は力なり」ということわざがありますが,実際は「継続したこと(だけ)が力」になります。「好きこそものの上手なれ」です。医療の発展は人類の幸せ。研究は人類の幸せのために行うものです。本書をきっかけに「自分が集めたデータをもとに誰もが知らない世界に足を踏み入れ,誰もが知らないことを知り喜びを感じる」仲間が増えることを願っています。

B5・頁184 定価:本体2,400円+税 医学書院
ISBN978-4-260-04079-2

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