医学界新聞

寄稿 山田 実

2020.08.24



【視点】

COVID-19感染予防とフレイル対策

山田 実(筑波大学人間系 教授)


 2020年夏,本来であれば東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催に世界中が歓喜しているはずでした。世界中からトップアスリートが集結するスポーツの祭典は,まさに平和と安寧の象徴であり,多くの国民は平和の光景を心待ちにしていました。しかし,この光景を観ることは少し先になってしまいました。新型コロナウイルス感染症(以下,COVID-19)の感染が拡大したからです。

 2019年12月に中国武漢で発生したとされるCOVID-19は瞬く間に全世界に広がり,2020年3月にはWHOよりパンデミック宣言が,4月には日本政府より緊急事態宣言が発出されました。その後も感染拡大は続き,7月末時点で国内の感染者数は約3万4千人に,全世界では2000万人に迫る勢いです。国内においては,緊急事態宣言の解除後,「アフターコロナ」「ウィズコロナ」という表現がしきりに用いられるようになり,感染予防を行いながらの新たな生活様式の確立が求められています。

 新たな生活様式が模索されている中で,深刻な影響を受けているのが高齢者です。昨今,高齢者の介護予防やフレイル対策の領域では,身体活動や社会活動を維持することの重要性が示されるようになり,各地でこれらの活動を促進する取り組みが行われています。しかし,COVID-19の感染予防によりさまざまな活動自粛が促されたことで,緊急事態宣言発出中には高齢者の身体活動時間が感染拡大前と比較して約3割(1週間で約65分)も減少していることがわかりました1)。これは1日当たり約10分間の運動に相当します。

 今後は,いわゆる3密を防ぎながら,この失われた10分間の身体活動をいかに元に戻していくかが重要になります。若年者やお元気な方ではレジリエンスがあるため,すぐに元の活動に戻すことが可能です。ですが,高齢者,特にフレイルを伴う高齢者にとって失われた活動機会を取り戻すことは容易ではありません。実際,第1波が収束した6月末時点で実施した調査では,多くの高齢者が感染拡大前の活動レベルまで回復していたのに対し,独居かつ近隣住民との交流が少ない方では回復しにくい傾向が確認されました。朝の屋外ラジオ体操への参加や,自宅周辺でのウォーキングを行うなど,密集場所を避けながら外出機会を確保し,失われた10分間の身体活動を補うことが重要と考えています。

 高齢者医療・介護の現場では,感染予防とフレイル対策の両輪をバランスよく回すことが求められます。前述の身体活動量減少は,この先の要介護者増加につながる懸念があります。外来や訪問などで高齢者とかかわる際には,感染予防と合わせて身体・社会活動を促す指導を含めていただきたいと思います。今後予想されているCOVID-19の第2波,3波,さらには高齢者の要介護化という別の波を乗り切るために,医療関連職種が連携をしながら新たな活動様式を確立することが求められています。

参考文献
1)Yamada M,et al.Effect of the COVID-19 Epidemic on Physical Activity in Community-Dwelling Older Adults in Japan:A Cross-Sectional Online Survey.J Nutr Health Aging.2020.Epub ahead of print.


やまだ・みのる氏
2008年京大大学院医学研究科人間健康科学系専攻助手,助教,筑波大人間系准教授を経て,19年より現職。専門は老年学。

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