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第3346号 2019年11月11日


【対談】

地域発,外科医の教育戦略

本多 通孝氏(福島県立医科大学低侵襲腫瘍制御学講座 教授/総合南東北病院外科 医長)
今村 清隆氏(手稲渓仁会病院外科 主任医長)


 手術の高度化や細分化を背景に,より専門性の高い診療経験を求めて都市部の専門病院での研修を希望する若手外科医が増えている。一方,地域医療の現場では,外科医は救急診療,集中治療,抗がん薬治療,緩和ケアなど広範な領域を受け持つため,都市部偏在による外科医不足は地域医療の活力低下に直結する喫緊の課題だ。

 高いレベルの手術修練を積みたい若手外科医と地域医療におけるニーズの融和を図り,地域の病院で若手外科医を育てるにはどのような工夫が必要か。市中病院が大学と連携して手術修練と臨床研究の実践を両立させるプログラムを福島県で立ち上げた本多氏と,オンライン外科勉強会で外科医の魅力を北海道から全国に発信する今村氏の2人が,若手外科医のキャリアアップを支援する,地域発の教育戦略について議論した。


本多 専門施設への外科症例の集約化が推進される昨今,地域医療の現場に残る若手外科医が少なくなっています。特に,新専門医制度の開始に伴い,大学に人が集まる傾向が強まっています。手稲渓仁会病院では,新専門医制度の開始による影響はありますか。

今村 懸念される通り,若手外科医は今まで以上に大学志向となり,当院を含め市中病院は募集に苦労しています。見学者を増やすために魅力を積極的に伝えたいと思っていても,機会を得難い状況です。キャリアアップをめざす若手外科医は,大学病院,あるいは都市部の専門施設へと集中しているのが実情です。

専門医資格取得後のキャリアプランを若手に示せるか

本多 同様の問題はどの地域でも起こっているでしょう。しかし,症例の多い都市部の病院で専攻医になったからと言って,誰でも一人前の外科医になれるわけではありません。というのも,手術手技の高度化に伴い,若手が術者を経験できる機会は非常に少なくなっているからです。

今村 専門分化が進んだ最近の消化器外科は,マイナー科の1つとして学生や研修医の目に映っているのかもしれません。全身管理を必要とするダイナミックな手術を担当するジェネラルな外科医の魅力が薄れているのではないかと危惧します。

本多 そうですね。全国のほとんどの地域医療では,外科医が救急の初療から抗がん薬治療,そして看取りまで行います。狭い領域の専門家をめざすことが格好いいとされ,大都市のハイボリュームセンターでの研修を志向する若手が増え過ぎることで,日本の地域医療が求めるジェネラルな外科医が育たなくなるとの危機感を抱いています。

今村 特に消化器外科は,他科に比べ救急疾患への対応が多い領域です。救急現場でジェネラルな外科的知識や経験を有する消化器外科医の存在は,警察や消防と同様に全国に満遍なく必要な人材であり,言わば“公共財”とも言える存在です。にもかかわらず,「医師の働き方改革」も相まって,質・量ともに外科医が不足しています。

本多 おっしゃる通りです。たとえ都市部の病院で高度なスキルに特化した研鑽を積んでも,いざ地域の第一線病院で職を得たときにギャップを感じ,モチベーションが維持できないという人も出てきています。

今村 当院を含む地方の市中病院が,若手外科医に対してキャリアアップのプランを具体的に示せないと,選んでもらうのは難しいですね。

本多 何も手を打たなければ,自施設で教育した初期研修医にさえ残ってもらえません。専門医資格取得後も見据え,将来なりたい外科医像がイメージできるキャリアプランの提示が必要です。

今村 若手にとって魅力に思える工夫を施せば,地域の病院でも人材獲得の成果を上げられるでしょう。しかし,外科の修練には長い年月が必要です。例えば内科系研修は,先輩から後輩に教える「屋根瓦式」の教育法に定評がありますが,外科は手術を行う卒後3年目の医師に,4年目が指導的な助手として屋根瓦式に付くことは難しい。

本多 今村先生のおっしゃる通り,一人前の外科医になるまでに卒後10年,分野によっては15年ほどの教育期間が必要です。卒後3~5年目の後期研修と,卒後6年目以降のサブスペシャルティ確立(サブスぺ研修)までの2つの段階があり,特に後半のサブスぺ研修をどうするかが外科教育ではブラックボックスになっています。臓器別に普遍的な教育理論はあるはずで,それを意識した勤務および学習の環境整備が必要だと私は見ています。

今村 後期研修は専門医資格取得に向け一般外科の初歩を学ぶ期間であり,専門医資格取得は言わば一人前になるスタート地点に立ったところです。専門医資格取得後の次のフェーズにどのような外科医生活を送るかが,その先のキャリアパスに大きく影響します。地域と大学が人材を取り合うのではなく,どう特色を出してすみ分けるか。新専門医制度の開始は,自施設の教育システムを再構築するチャンスととらえたいですね。

臨床研究の方法論を学びノンテクニカルスキルを磨く

本多 外科医教育の充実にはシミュレーション教育や執刀機会を増やすことが重視されますが,それと同時に私は,チームのマネジメントや患者のリスク管理といったノンテクニカルスキルをいかに身につけるかが大切だと考えています。なぜなら,多数の症例を経験した卒後10年目以上の外科医がいざ指導する側になった際に,ノンテクニカルスキルが伴わなければ十分なパフォーマンスを発揮できるとは限らないことが明らかになっているからです。

今村 ノンテクニカルスキルについて米国の教科書は,①状況判断,②外科的判断,③コミュニケーションとチームワーク,④リーダーシップの4つを挙げています。本多先生はどう教え導くのでしょう。

本多 それらを身につけるためにたくさんの方法論があると思いますが,その中の一つとして,臨床研究という視点があります。これは単に論文を読むだけでなく,自分が日々の診療から得た疑問を解決する研究手法を体系的に学ぶことです。その結果,臨床の状況判断力を培えるのはもちろん,他施設と連携し助け合える横の関係を築いたり,他分野の臨床研究に視野を広げたりする中で,コミュニケーション力やリーダーシップが身につきます。外科専門医資格取得後のサブスぺ研修では,手術の修練と同時に臨床研究による学習を両立してこそ地域医療に貢献できる一人前の外科医になれると思うのです。

今村 教育の特色として,臨床研究の学習を打ち出すわけですね。

本多 はい。私が外科常勤医として総合南東北病院に着任した当初は後期研修医がおらず,本来ノンテクニカルスキルを磨くべき時期にある卒後10年目前後の若手は業務に忙殺され,研究などを行える環境ではありませんでした。即戦力となる有望な若手外科医が福島県で臨床研究を学べるよう,福島医大との連携による寄附講座開設に着目し,サブスペ研修の確立をめざす卒後6年目段階の外科医を対象とした4年間のプログラムを2017年に立ち上げました。プログラムの1年目は病院で外科医として一生懸命働いてもらいますが,病棟業務や臨時手術に呼ばれない日を1日設けています。

今村 土休日とは別に?

本多 はい。平日の1日を,自分の臨床疑問の整理や関連論文の精読など,科学的・論理的な思考力を養う時間として確保してもらうためです。

今村 それはいいですね。朝から晩まで手術を行い,土日も緊急対応に追われていると,あっという間に10年,20年たってしまいます。

本多 そうなのです。将来どんな医師になりたいか,そのために何を探究するかを落ち着いて考える時間を持ってほしい。平日1日休んでも,病院の収益は確保できる体制です。

 そして2年目は留学期間として自分の勉強に専念できる施設に出ます。第1期生は4人が京大大学院の臨床研究者養成(MCR)コースに1年間国内留学し,臨床から完全に離れてじっくり学んでもらいました。私もかつて履修した同コースは,医師以外の多職種の受講生と議論を繰り返しながら臨床研究の計画を立てる授業もあり,研究計画遂行のマネジメントやリーダーシップを学べます。

 その後,3~4年目には再び臨床現場で働き,手術修練を行いながら自身の疑問に基づく臨床研究を進めていきます。その成果が論文としてしかるべき国際誌に受理されれば,福島医大に学位を申請できる仕組みです。

今村 とても魅力的なプログラムです。臨床研究を学ぶための十分なチャンスが与えられ,手技修練との板挟みにならないスケジュールであれば,より多くの若手医師が集まりそうですね。

本多 はい。それに,若手医師が集まれば今いる指導医も刺激を受けて活気付きます。

 ただ,卒後6年目の医師を集め,彼らが平日に研究日を取って安定的に仕事を続けるには,それを支える専攻医も必要と気付き,2019年から1年遅れで外科基幹プログラムを作りました。

 これに対し,今村先生の教育に対する構想は,私とは逆の方向性を持っており,医学生・研修医を対象に外科医教育の充実を図っていますね。

オンライン勉強会で教育の魅力を全国に発信

今村 はい。本多先生の「上から下」に攻める教育に対し,私は逆に「下から上」です。当院では,毎年17人の初期研修医を採用しても,道内出身者は4~5人。道外から集めるためには,全国に数ある有名研修病院に負けない教育体制を敷かないと応募が減ってしまう危機感を常に持っています。

本多 今村先生の臨床と教育の割合は,今どのくらいですか。

今村 臨床7:教育3です。外科研修医教育の仕事は,前任者から引き継いだ2014年から担当しており,現在は,①医学生を対象としたオンライン外科勉強会,②初期研修医対象の院内症例発表,③専攻医向けに米国外科専門医試験「ABSITE(American Board of Surgery In-Training Examination)」のテキストを用いた勉強会の3本柱で,毎週コツコツ行っています。この他当院では,新しくて面白い取り組みを積極的に示すため,臨床留学の経験がある講師を招いたウェブ講演会を約2か月に1回のペースで実施しています。

本多 初期研修医対象の症例発表会はどう行うのでしょう。

今村 消化器外科で2か月間の研修を終了した初期研修1年目が週に1度順番に,院内で印象に残る教育的な症例を皆の前で発表し,アウトプットの機会としています。

本多 大切なことですよね。プレゼンをさせると,その研修医がどの程度理解しているのか一目瞭然です。教育を行う上で今村先生が重視している点は何ですか?

今村 初期・後期研修のうちに,生涯学習の習慣を身につけることです。それには,内発的動機付け(Internal motivation)が必要です。自分がやりたいと思わなければ学習は続きません。

本多 その通りです。ただ,1人で毎週行うのは相当な準備時間が必要ではないですか?

今村 準備は各1時間までと決めています。週に3回,学生,研修医,専攻医向けにそれぞれ1時間ずつ行うと年間150時間,プラス準備に150時間の計300時間を割いています。大変ですが,若手の教育を見渡せ,それぞれキャリアをどう選択していくかを見守るのはやりがいがあります。

本多 オンライン外科勉強会も週1回,先生がレクチャーされているのですね。

今村 はい,ビデオ通話アプリZoomを用い,英語の症例集『Surgery――A Case Based Clinical Review』(Springer)に沿って毎週火曜日に行っています。英語と外科に興味を持つ全国の医学生が対象です。

本多 オンライン勉強会に参加するのはどのような学生でしょう。

今村 地方の学生が突出して多いです。2019年1月から週1回,計34回,延べ284人が参加しました。内訳を見ると,5大都市圏以外の医学部に在籍する学生が,参加者の82%を占めています。英語で外科を学びたい学生は少数派ですが,ここでは仲間を見つられるメリットがあります。それに,Zoomを用いることで,オンライン上で勉強などの相談に乗るTele-mentoringも可能です。外科は,ともすると体育会系で近寄りがたい雰囲気があり,たとえ憧れがあっても何となく遠慮してしまう……。学生時代,そう感じていた自身を振り返ると,勉強を教えてくれたり,親身に相談に乗ってくれたりする先輩医師の存在は大きいと思うんです。

 オンライン勉強会やSNSを活用した草の根的な教育活動から,当院の魅力を全国に発信し続けています。

施設を越え,協力し合える輪を地域から

本多 専攻医が充実した研修生活を送るには,隣接する内科領域や初期研修医の層を厚くすることが不可欠です。今村先生の,院内にとどまらない教育機会の発信のように,当院も各フェーズに応じたキャリアアップを図る教育戦略と実行が必要です。

 私も,地域で頑張る全国の若手が交流できるネットワーク作りをめざし,今年から若手外科医20人を対象とした,学会発表のための「ブラッシュアップセミナー」を始めました。施設の垣根を越え,学会発表に向けたスライド作成や発表の方法を学びます。

今村 連携病院の当院から3人が参加しています。ニーズが高そうですね。

本多 そう実感しています。先輩から後輩に自然と方法が受け継がれる大学医局と異なり,市中病院では学会発表の方法を学ぶ機会がほとんどありません。そのような若手を対象に,eラーニング形式の講義と,参加者が実際に顔を合わせる年3回のワークショップ形式を組み合わせ,年間に十数回のレクチャーを行います。

今村 受講後の目標は何ですか?

本多 日本外科学会定期学術集会に向けて抄録を書き,発表することが第一目標です。そのために必要な,基礎的な臨床研究の方法論をワークショップ形式で学びます。モチベーションの高い若手外科医が全国から参加し,刺激し合えればと思います。そして将来的には多施設共同研究などの実施に生かしてほしいと願っています。

今村 今後,受講人数を増やす予定はありますか。

本多 私1人で講義の課題や抄録をチェックするには20人が精一杯です。でも,この先5年も継続すれば修了者が100人に増え,その輪が広がります。中には教える側に立つ人も出てくるでしょう。共同研究を行いたいと思い立ったときに助け合える仲間を作り,広げていくのが最大の目標です。

本多 私の尊敬する指導医がかつて,「子は家の宝,そして研修医は病院の宝」と話していました。給与や待遇がいくら良くても,若手の“やりがい”や教育,キャリアパスを意識しない病院に有望な人材は集まりません。愛情を持って若手を育てることが求められるのです。地域医療を担う第一線の病院が取り組みやすい切り口でもあると思います。

今村 その通りですね。働き方改革で若手医師の意識も変化する中,待遇面をアピールするだけでは人は集まりません。

本多 大学からの派遣に頼っている病院の中には,「安くて使い勝手の良い若手人材をこちらにも回してほしい」という意図が見え隠れしていないでしょうか。逆に教育体制を整え,「派遣された若手医師が勉強できる病院」とアピールし,「ぜひ,あの病院に行かせてほしい」と若手に言われるような工夫が必要です。それぞれの病院が持つ強みを生かし,若手の教育にアイデアを凝らすことで,大学から人材を分けてもらう,あるいは他の関連病院と取り合う構造から脱却することにつながるかもしれません。

今村 私たちの世代が担う大切な役割にmentoringがあります。部長クラスの指導医にはなかなか行き届かない部分で,学生や研修医と直に向き合いながら彼らが何に悩み,何を求めているのかをくみ取る作業が必要です。外科医不足の岐路に立つ今,私たちのような地域で働く中堅外科医の教育手腕が,まさに問われる時代を迎えました。創造的な仕事で,逆境に立ち向かいたいと思います。

本多 地域にいながらにして臨床研究を行い,医学論文を発信できる環境を,後に続く若手のために,今後さらに充実させていきたいと考えています。教育の積み重ねによって若手が集まり,それが病院や地域医療の活性化につながるものと確信しています。

(了)


ほんだ・みちたか氏
2003年日大卒。12年,京大大学院医学研究科修了。亀田総合病院,都立駒込病院で外科研修後,川崎市立川崎病院,京大再生医科学研究所,がん研有明病院,米ミシガン大などを経て17年より現職。著書に『外科系医師のための手術に役立つ臨床研究』『外科系医師のための臨床研究 手術を評価するアウトカム』(いずれも医学書院)など。

いまむら・きよたか氏
2005年筑波大卒。北九州総合病院で初期研修後,08年より手稲渓仁会病院で後期研修。14年より同院における外科系初期研修医の教育担当に就任。17年より現職。専門は消化器外科,ヘルニア。毎週火曜日に医学生向け外科オンライン勉強会「TKH Surgery for Med Students」を開催している。参加希望の方はimamura-ki◎keijinkai.or.jpまで。最新のウェブ講演会情報は同院ウェブサイトより。 (メールを送る際,◎は@に置き換えてください)