医学界新聞

寄稿

2019.09.30



【視点】

IgG4関連硬化性胆管炎をめぐる最近の動向

神澤 輝実(がん・感染症センター都立駒込病院 消化器内科/同院長)


 自己免疫性膵炎は,発症に自己免疫の関与が示唆される膵炎として1995年に本邦から発信され1),2001年には自己免疫性膵炎患者では血中のIgG4値が上昇することが報告された2)。そこでわれわれは,抗IgG4抗体を輸入し病理組織学的検討を行ったところ,自己免疫性膵炎患者の膵臓および諸臓器に密なIgG4陽性形質細胞浸潤を認めた。さらに,自己免疫性膵炎にしばしば合併する涙腺・唾液腺腫大や後腹膜病変なども,膵臓と同様の特殊な病理組織像を呈したことより,IgG4が関連する全身性疾患という新しい疾患概念(IgG4関連疾患)を2003年に提唱した3)

 IgG4関連硬化性胆管炎は,高率に自己免疫性膵炎を合併し,IgG4関連疾患の胆管病変と考えられている4)。本症は,高齢の男性に好発,特徴的な病理組織像を呈し,ステロイドが奏効する。

 診断は,①胆管の特徴的な画像所見,②血清IgG4の高値(135 mg/dL以上),③胆管外のIgG4関連疾患の合併,④胆管壁の病理組織学的所見(高度なリンパ球とIgG4陽性形質細胞の浸潤,花筵状線維化,閉塞性静脈炎),⑤ステロイド治療の効果の5項目を組み合わせ,IgG4関連硬化性胆管炎臨床診断基準20125)に従って行う。ただし,原発性硬化性胆管炎(Primary Sclerosing Cholangitis;PSC)や胆管癌と類似の胆管像を呈する例があり,これらの疾患との鑑別が重要である。胆管像は次の4型に分類される(中沢の分類,6)

 IgG4関連硬化性胆管炎の胆管像分類(文献6をもとに作成)(クリックで拡大)

Type 1:下部胆管のみに狭窄
要鑑別:膵臓癌による締め付け,下部胆管癌
Type 2:下部胆管のみならず肝内胆管に狭窄が多発
要鑑別:PSC
Type 3:下部胆管と肝門部胆管に狭窄
要鑑別:胆管癌
Type 4:肝門部胆管のみに狭窄
要鑑別:肝門部胆管癌

 胆管癌との鑑別のために胆管生検や細胞診は必要であるが,IgG4関連硬化性胆管炎の病変は胆管上皮下に存在するため,十分量の検体を採取することが難しく,胆管生検による確定診断は困難なことが多い。一方,対称性で平滑な内側縁の胆管壁肥厚像を胆管狭窄部のみだけではなく胆管非狭窄部においても広範囲に認めることが本症の特徴である。この所見は,超音波内視鏡検査や管腔内超音波検査により詳細に観察でき,胆管癌との鑑別診断に有用である。

 自己免疫性膵炎を合併しないIgG4関連硬化性胆管炎単独例は,胆管癌との鑑別が特に難しい。本症に特徴的な胆管像や胆管壁肥厚像が得られた場合は,ステロイドトライアルを行い,ステロイドの効果が乏しい例は,診断を再度し直し,手術も考慮する必要がある。現在,超音波内視鏡検査,管腔内超音波検査,磁気共鳴胆管膵管造影検査やステロイドトライアルの所見などを加えたIgG4関連硬化性胆管炎の診断基準の改訂を進めている。

 本症の治療法は,原則として全例がステロイド治療の対象となる。閉塞性黄疸や胆管炎を併発している場合は胆管ドレナージを施行後,経口プレドニゾロンを初期量0.6 mg/kg/日(通常30~40 mg/日)から開始し,2~4週間継続する。その後,血液検査や画像検査でステロイドの効果を確認しながら1~2週間ごとに5 mgずつ減量する。ステロイド減量中や中止後に30~50%の例で再燃が起こるので,再燃防止のためにプレドニゾロン5 mg/日前後で2~3年間の維持療法を行う。再燃例では,ステロイドの増量や再投与が有効である。ステロイド抵抗性の難治性のIgG4関連硬化性胆管炎に免疫抑制剤やリツキシマブの有効性が報告されているが,日本では保険適応外である。

 これまで述べてきたIgG4関連硬化性胆管炎の最新の正確な診断法と安全で適切な治療法を解説するガイドラインが,厚労省研究班と日本胆道学会により世界で初めて作成され,2019年1月にJournal of Hepato-Biliary-Pancreatic Sciences誌に掲載された7)。その日本語版は学会誌『胆道』にも掲載され8),現在,日本胆道学会のウェブサイトでも公開されている。IgG4関連疾患はあらゆる臓器に生じるので,どの診療科の医師も遭遇する可能性があり,一般臨床医にも役立つように作成した。

 本ガイドラインの普及により,IgG4関連硬化性胆管炎の理解が深まり,より適切な診療がなされることを期待する。

参考文献
1)Dig Dis Sci. 1995[PMID:7628283]
2)N Engl J Med. 2001[PMID:11236777]
3)J Gastroenterol. 2003[PMID:14614606]
4)Lancet. 2015[PMID:25481618]
5)J Hepatobiliary Pancreat Sci. 2012[PMID:22717980]
6)Pancreas. 2006[PMID:16552350]
7)J Hepatobiliary Pancreat Sci. 2019[PMID:30575336]
8)神澤輝実,他.IgG4関連硬化性胆管炎診療ガイドライン.胆道.2019;33(2):169-210.


かみさわ・てるみ氏
1982年弘前大医学部卒。2008年東京都立駒込病院内科部長を経て,19年より同院院長。専門は膵胆道疾患の診断と治療および臨床病理。IgG4関連疾患の提唱者である。

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