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第3254号 2018年1月1日


2018年
新春随想


都道府県を主体に進む,地域に合わせた医療政策

遠藤 久夫(国立社会保障・人口問題研究所所長)


 2018年度は医療政策において都道府県の役割が格段に拡大する一年である。国民健康保険の安定的な運営を確保するため,市町村に代わり都道府県がその財政運営の責任主体となる。これまでの機能の一部は市町村に残るが,都道府県は市町村ごとの納付金の決定など重要な役割を担うことになる。

 2018年度から始まる第7次医療計画では地域医療構想が盛り込まれた。地域医療構想とは地域ごとに予想される医療需要に合わせて,機能別に病床数を再編するものである。大都市を中心に後期高齢者が急増する一方で,地方は人口減少が進むという予測が背景にある。病床数の再編は関係者の話し合いによって進めるのが基本だが,都道府県は議論の場を提供し音頭を取るという重要な役回りを果たさねばならない。

 地域医療構想は在宅医療提供体制の数値目標も示しており,介護との連携も重要となる。2018年度には新しい医療計画と介護保険事業計画が同時にスタートする。これらの計画の整合性を確保するため,都道府県による協議の場の設置が求められている。

 都道府県が行ってきた医療費適正化計画においては,2018年度から糖尿病の重症化予防,後発医薬品の使用促進等の新しい項目が追加されバージョンアップし,さらに保険者としての都道府県のガバナンス強化も求められている。また,医療費適正化の一環として,都道府県の特定地域に全国とは別の診療報酬を設定することができる高確法(高齢者の医療の確保に関する法律)第14条の運用についても関係審議会の俎上(そじょう)に乗っている。

 2018年度から新専門医制度が開始する。それに伴って医師の地域偏在が現在以上に進まないよう,各都道府県に協議会が設置された。協議会は,地域偏在に関して日本専門医機構や学会に改善要求ができる。

 基本方針は国が定め,都道府県が地域事情に合わせて実行する。高齢化や人口の見通しが地域ごとに異なり,また医療資源や医療費に地域差がある現状では,このような方針は基本的に正しい。都道府県の中には戸惑いも見られるが,今後,医療政策のプレーヤーとして存在感を増していくのは間違いない。このことは医療関連団体にとっても大きな環境変化だと言える。


「持続可能な社会」の医療

森 臨太郎(国立成育医療研究センター政策科学研究部部長・臨床疫学部部長/コクランジャパン代表)


 成熟しつつある日本の社会全体の持続可能性を考慮し,その中に医療制度を位置付けると,社会のみならず医療においても価値観の転換が迫られていることを実感する。持続可能な医療制度に関連する議論の多くは,いかに医療費の無駄を減らすか,自己負担額を増やすかに終始しているように見える。確かに,医療そのものの無駄を減らすことで効率を最大限まで高め,自己負担額や保険料の見直しにより財政規律を高めることは,目の前の問題を解決するには重要で,喫緊の課題であることは十分に認識できる事実である。

 ただ,それだけで持続可能な社会の医療制度が実現するのかというと,全く心もとない。医療もその周辺にある経済活動や研究活動と無縁ではない。人口減少は医療従事者のなり手の減少でもある。次々と新しい医療技術が開発され応用可能になる。一般的な経済活動では,新しい技術が開発されると旧来の技術は安価になり,高度技術者の手から離れていくが,医療分野においてこの動きは鈍い。また,多くの経済活動は,その需要や市場を開拓し広げていく傾向にある。地球全体の資源に向き合い,社会全体の持続可能性を考慮したとき,新しい時代の医療はその価値観の変容も求められていることがわかる。

 医療本来の目的とは何だろうか。死亡を防ぎ寿命を延ばすことから,生活の質を向上することに転換してきたが,その先にはより主観的な幸福や人生の充実を求めるのであろうか。程よいレベルの医療を確保しながら,全体の価値に衝突しない程度に,主観的価値観を妨げない医療制度をめざすのであろうか。

 このように考えると,国内の医療制度の細やかな調整とともに,おそらくグローバルレベルで進む商業主義的医療活動が,医療の目的に適正に資するように,グローバルレベルでのルール作りの重要性がますます高まっていくように思う。医療の効率を高める意味でも,医療の目的に基づいて整理をする意味でも,グローバルのルール作りという点においても,コクランのような活動が重要視されてくるように思う。


人生100年時代の看護に必要な人材育成

福井 トシ子(公益社団法人日本看護協会会長)


 人生100年時代。激変する社会の中で,看護職の人材育成はどこに焦点を絞るべきか,職能団体としての大きな課題です。昨今は入院準備の段階から退院時を考え,在宅での生活を想定してケアを組み立てていきます。全ての看護職に「ニーズをとらえる力」,「ケアする力」,「協働する力」,「意思決定を支える力」が必要です(看護師のクリニカルラダー・日本看護協会版)。2015年10月1日には「特定行為に係る看護師の研修制度」が施行されました。

 「表参道次郎さん,78歳,脳梗塞の既往・糖尿病・認知機能低下あり,麻痺のためやや嚥下困難,妻と2人暮らし,時々脱水で入院するがほぼ在宅。退院時,ヘルパーの作る食事の味が薄いと苦情。初回デイサービスにはどうにか行くことができた。3か月後の孫の結婚式には出たい」

 このような複雑な状況にある表参道次郎さんに最適な看護を提供するためには,彼の価値観を尊重しながらケアの優先順位を考え,看護の提供方法を判断し,彼を支える家族へも配慮して,看護を提供する力が必要です。臨床推論とフィジカルアセスメント力,病態生理と薬理学の知識を持ち,水分と栄養管理に関する特定行為のできる看護師なら,表参道次郎さんに最適なケアを行えることでしょう。

 本会は本制度を活用し,看護師が専門性をさらに発揮することで少子超高齢社会における国民のニーズに応えるため,本会の認定看護師制度の在り方について検討してきました。特定行為研修を修了した看護師が,国民や医療現場の期待に応え役割を果たしていくためには,充実した研修体制の構築と安全性の担保が不可欠です。本制度創設の趣旨を踏まえて,在宅医療等の推進に向けそれぞれの活動場所で求められる看護師の役割をさらに発揮できる制度にするため,関係団体や関係者のご意見をうかがいながら認定看護師制度の再構築に取り組んでいます。

 看護管理者は,「地域でも活躍する看護職を育てる」という将来を見据えた決断に迫られています。例に挙げた表参道次郎さんにも,そのご家族にも,納得のケアが提供できる人材育成に一緒に取り組みましょう。


新たなヘルスケア政策におけるディープデータ活用への期待

筒井 孝子(兵庫県立大学大学院経営研究科教授)


 ケアする者とされる者とをつなぐのは,相互の関心である。この関心のありようは,いわゆる「助け合い」や「思いやり」だけでなく,「いがみあう」,また関心が薄れて「互いに知らないふりをする」といった多様な形態がある。われわれの日常は,これらの混合形態により成立している。

 人は,こういった負の関心への手当てとして,多様な社会制度を創造してきた。つまり,制度は個人の善意の所産ではなく,非本来的な人の在り方に対する社会的補完とも考えられる。新たな社会制度として2000年に創設された介護保険制度は,美徳とされ,ともすれば聖化されがちであった老親扶養にかかわるケアを制度化した。日常性の在り方を振り返れば,一般的とはなり得ない舅や姑の介護を担ってきた嫁役割の代替,補完としてのケアが制度化され,すでに18年が経過した。

 一方,1961年から半世紀を超えて国民の医療を支えてきた医療保険制度の下で,医療技術は進展し,患者は状況によっては関心の対象としてではなく,匿名化された治療や処置情報を持つビッグデータの一部として認識されるようになった。このため,これらのデータをもとに制度化されるケアには,本来の意味でのケアの本質を失う可能性がつきまとう。なぜなら,他者の不安に正面から向き合い,良心の声に耳を傾ける臨床現場のプロセスが,これらデータには含まれていないからである。

 このプロセスは,生産過程やサービス提供に関する深い知識を内包した「ディープデータ」によって示される。さらに,このデータは,消費行動に付随するビッグデータとは区別され,新たな産業を生み出すものとして期待されている。

 医療・看護の臨床現場には,すでに「重症度,医療・看護必要度」の評価を通じて,現場で膨大なディープデータが蓄積されている。今後,ケアの制度化に当たっては,こうしたデータを活用して,本来のケアのあるべき姿として「ケアする側の気遣いと寛容」,そして「ケアされる側の自律」という,新たな時代にふさわしい姿がめざされることを期待している。


日本の心臓移植をめぐる50年

福嶌 教偉(国立循環器病研究センター移植医療部部長)


 日本初の心臓移植は,50年前の1968年,札幌医大の和田寿郎教授によって行われた。成果はメディアで大きく報道されたが,患者が死亡した途端,記事は批判一色となった。それは,私が小学6年生の夏休みの出来事だった。心臓を置換できることへの感動と,メディアの豹変ぶりに驚いた。それ以上に,亡くなった人から臓器をもらうことに抵抗感を覚え,心臓を創ろうと思って医学の道に進むことを決心した。

 紆余曲折を経て外科医になったが,小児心臓外科の研修中の1984年,いくら頑張っても救命できない心臓病の子どもを目の当たりにした。その時に,米国のベイリー教授が新生児心臓移植に成功したことを知り,心臓を創っている場合ではないと考え,心臓移植の道に進んだ。大阪大で心臓移植の体制整備を行っていた時に,臨時脳死及び臓器移植調査会(脳死臨調)ができた。法制定まで心臓移植ができなくなったので,1991年にベイリー教授のもとに行き,小児心臓移植の臨床研修と,ブタからヒトへの異種心臓移植の実験を行った。

 帰国後の1997年に臓器移植法が施行され,脳死臓器提供には生前の書面による意思表示が必須となり,小さな子どもの心臓移植の道が絶たれてしまった。私は国民の脳死と臓器移植への理解がまだないことを痛感し,正当な手続きのもとで成人心臓移植を成功させ,国民の理解を得ることに努めることにした。

 1999年に心臓移植が再開され,私は心臓の摘出を担当したが,摘出医の私を批判する手紙がたくさん来た。患者の退院まで75日間毎日記者会見を行い,事実を公表した。その後の臓器提供は伸び悩み,2003年は心臓移植が皆無だったので,国会への法改正の陳情活動を開始した。

 2010年,改正法が施行され,23人の子どもが心臓移植を受けることができた。その内容を2017年の国際心肺移植学会で公表した際,欧米の小児心臓移植医たちから,「ようやく仲間入りしたね」と言われたと同時に,「もっと頑張って,子どもを海外に送らないようにしてね」とも言われた。

 現在では心臓の摘出医に批判の手紙もなく,報道も減った。一見定着したように見えるが,移植希望数はドナーの数より圧倒的に多い。また,ドナーの家族が,提供の事実を普通に話すことができない状況であり,課題は残されている。これからも,ドナーと家族に敬意を払えるような移植医療の普及に尽力したい。


理学療法をさらに前に

高橋 哲也(東京工科大学医療保健学部理学療法学科長/日本理学療法士協会常務理事)


 気付けば理学療法人生の3分の2が過ぎようとしている。「あっという間だった」というのが率直な感想である。多くの先輩に恵まれてこれまでさまざまな仕事をさせていただいた。いつの間にか「若いから」という言葉は通じない歳になったとあらためて思う。

 2018年,理学療法卒前教育はこれまでで最も重要な局面に差し掛かったと言っても過言ではない。昨年6月から厚労省の「理学療法士・作業療法士学校養成施設カリキュラム等改善検討会」で新しい指定規則が議論されている。1999年のカリキュラムの大綱化以来の改正で,予防理学療法学,理学療法管理学,臨床薬学,栄養学,地域包括マネジメント論など多岐にわたる学修の必要性が指摘されている。これらは,日本に理学療法士が誕生して50年が過ぎ,理学療法士の社会的役割が拡大している表れでもある。

 日本の理学療法士の養成数は,社会の要請に基づき,指数関数的に増加してきた。しかし,医学教育のような卒前と卒後の接続可能な臨床教育システムは皆無でありながら,臨床実習を理学療法卒前教育の集大成と位置付け,いわば臨床実習先に丸投げしてきた。その結果,大きなゆがみが生じ,理学療法士の質の低下や教育の不整合の一部が国会でも取り上げられる社会問題となった。

 今回,臨床実習指導者に一定の研修を課すなどが議論されているが,理学療法卒前教育の不備が臨床実習指導者要件の見直しの議論にすり替わっているようにも思える。通過儀礼化している臨床実習を見直すためにも養成校と臨床実習先との密接な連携の義務化に加えて,臨床実習教育への教員の積極参加を義務化するなど,教育側の身を切る改革が行われずには,理学療法士の量の調整や質のコントロールの達成は困難を極めるであろう。

 理学療法士の需給関係は飽和状態が近いと言われ,SNS上では理学療法士の将来に対する不安をあおる投稿も目にすることが多くなった。不安をあおるくらいなら対象者に愚直に向き合い,世界の中でも超高齢社会を先導する日本国民を対象者にした科学的な成果を計画的に示す具体的な行動をしたい。久しく語られ続けた「べき論」を封印し,理学療法の大規模臨床研究が日本理学療法士協会主導で行われる予定である。

 2018年は個人的にも大きな節目の年になる。日本で心臓リハビリテーションが保険適用になって30年を迎える今年,私が医師以外で初めて日本心臓リハビリテーション学会学術集会の大会長を務める。理学療法士を代表して,これまでわが国の心臓リハビリテーションの発展を支えてきた医師,看護師をはじめとする多くの医療関連職への恩返しになると信じ,全身全霊を注ぐ覚悟である。さらに2018年は,私が理想として求め続けてきた,教員自らが現場で教える理学療法教育システムの実現に向けて,新たな環境で一歩踏み出す年になる。

 難しい時代だからこそ「理学療法をさらに前に」。理学療法人生の残りの3分の1をこれまで以上に楽しみたいと考えている。


ノーベル賞受賞で加速する概日周期と睡眠制御の研究

粂 和彦(名古屋市立大学大学院薬学研究科神経薬理学分野教授)


 2017年のノーベル生理学・医学賞はショウジョウバエの時計遺伝子の機能を解析し,概日周期生物時計の分子機構を解明した3人に与えられました。私は,受賞した米ロックフェラー大のヤング博士の弟子で受賞の立役者でもある米タフツ大のジャクソン博士の研究室にいましたし,他の2人もよく知っているので,まさに私の研究分野です。

 概日周期は植物から動物まで備わる,約24時間のリズムを作り出す能力で,俗に体内時計とも呼ばれ,それを対象とする時間生物学は一大研究分野です。日本にも20年以上前から時間生物学会がありますが,この分野初のノーベル賞受賞です。

 私自身は,1999年に哺乳類の時計遺伝子のクリプトクロームの機能を解析し,哺乳類が概日周期を作る仕組みの解明に貢献できました。未熟だった私は,「概日周期は解明のめどが付いたから次はその出力系である睡眠を研究したい。脳が単純な生物を使えば睡眠の制御機構もすぐにわかるだろう」と考え,ショウジョウバエで睡眠の研究を始めました。その後,多数の睡眠制御遺伝子がハエと哺乳類の間で保存されていることが示され,最初は世界で2グループだけが始めた研究が,国際学会で神経科学の発表の1割を占めるほどに成長しました。

 しかし私の考えは甘く,20年近く経って研究が進んでも,まだ謎ばかりです。ノーベル賞を受賞した時計遺伝子の転写翻訳に基づく概日周期機構は,全ての生物に共通とされていたのですが,2005年に名大のグループがシアノバクテリアで例外を発見し,哺乳類にも例外が見つかりました。さらに,概日周期と睡眠は独立して制御されると考えられていましたが,相互に影響を与えながらリズムと睡眠の必要性を作り出すこともわかってきました。

 科学の世界では,ゴールに近づくとさらに深い謎が開けて,またゴールが遠のくことがよくありますが,概日周期も睡眠制御も,まだまだ謎が深いようです。今回のノーベル賞受賞を契機に,研究のさらなる加速を期待するとともに,私も謎に迫る研究をしたいと気持ちを新たにしています。


医療のサポートで高校球児の未来を守る

越智 隆弘(大阪警察病院院長/日本高等学校野球連盟顧問)


 1991年,第73回全国高等学校野球選手権大会(夏の甲子園)の決勝戦で,沖縄水産高校のエースが肘の故障を押して登板するも大量失点して敗れ,結局投手生命を損じたことが転換点だったと思います。1993年の第75回大会前には,各校投手の肩・肘の状態を知るために,任意で投手登録選手の肩・肘検査が試行されました。肩・肘に強度の炎症を持つ投手や成長期の投球傷害の遺残を認める投手が予想以上に多かったことから,同年12月の日本高等学校野球連盟(高野連)の理事会で「今投げさせると投手生命を損じるリスクが高い投手は甲子園大会での登板を許可しない」と決定され,肩・肘検査は続けられました。

 阪神タイガース(当時は三好一彦球団社長)のご厚意で,1995年に甲子園球場内にX線検査装置を備えた診療室が作られました。検査は軌道に乗り,肩・肘に強度の炎症を持つ投手は激減しました。また,試合期間中には理学療法士が交代で球場に詰めて,ウォームアップとクールダウンの指導が続けられました。

 一方,高野連として大会の進め方も工夫されてきました。延長回数の制限に加えて,準決勝戦前日が休養日になりました。20年以上甲子園球場で続けられた投手の肩・肘検査は,スポーツ傷害予防対策がさらに広く展開されることを視野に,2017年春の選抜大会から各都道府県で実施されています。

 国民的スポーツである高校野球ですから,野球の面白さを保ち,強い選手を育て,国際的にも高いレベルを保たねばなりません。強い選手を育成するための基礎体力作りには,メリハリをつけての投げ込み・走り込みは必須です。子どもたちの持つ能力を成長期で壊すことなく発揮させてやるべきという話し合いの中で各地の高野連指導者からは,普段から選手の体調を気軽に相談できる医師を紹介してほしい,ウォームアップとクールダウンの指導もお願いしたいという話もありました。

 今年で第100回を迎える夏の甲子園。肩・肘の傷害予防をきっかけとして,高校球児のスポーツ傷害予防に,高野連と医療関係者が活発に連携する核が各地に増すことを祈念しております。


超高齢社会の糖尿病診療に何が求められるか

吉岡 成人(NTT東日本札幌病院副院長)


 2016年の国民健康・栄養調査で,糖尿病を強く疑われる国内の成人が推計1000万人に上ることが2017年9月に報告された。調査を開始した1997年には690万人と推計されており,20年間にわたり毎年16万人もの糖尿病患者が増え続けていることになる。

 この背景には人口の高齢化が大きく関与している。総務省統計局によれば,日本の総人口は2017年6月現在で1億2677万人であり,65歳以上の高齢者人口は3498万人,高齢化率は27.6%である。加齢に伴いインスリン分泌能は低下し,身体活動量も低下する。体組成の変化(筋肉量の減少,内臓脂肪の増加)はインスリン抵抗性を増大させ,耐糖能の低下を招く。高齢化に伴い糖尿病の発症リスクは増加する。

 1997年の国民健康・栄養調査では男性糖尿病患者全体の59%は40~59歳であり,糖尿病は青壮年層の疾患であった。しかし,2016年の調査では青壮年期の患者は全体の39%に減り,70歳以上の患者が19%から53%に増加している。女性においても60歳以上の患者が59%から75%となっている。20年前の青壮年層の糖尿病患者がそのまま高齢者にシフトしたことに加え,高齢発症の糖尿病患者も増えている。

 高齢者には「フレイル(Frailty)」という問題がある。フレイルという概念は,筋力・筋量の低下(サルコペニア)により動作の俊敏性が失われて転倒しやすくなるような身体的問題のみならず,認知機能障害やうつなどの精神・心理的な問題,独居や老老介護,経済的困窮などの社会的問題を含んだものである。フレイルを伴う高齢者の糖尿病にどのように対応するのか。治療内容のみならず,代謝管理の目標をどの程度に設定すべきなのか,解決の糸口が容易には見つからない課題が極めて多い。

 現在,日本人の死因の第一位はがんであり,2人に1人ががんに罹患し,3人に1人ががんで亡くなる。糖尿病患者では,非糖尿病者に比較して,がんや感染症で亡くなる比率が高いことが日本糖尿病学会の死因調査でも確認されている。高齢化が著しい糖尿病患者のケアにおいては,QOLのみならずQODをも考える時代となっているのかもしれない。


「ブロックチェーン技術×医療」の現在地

笹原 英司(NPO法人ヘルスケアクラウド研究会理事/一般社団法人日本クラウドセキュリティアライアンス代表理事)


 医療におけるブロックチェーン技術の活用を考える契機になったのは,政府主導のオープンイノベーション推進政策である。例えば,米国保健福祉省(HHS)の国家医療IT調整室(ONC)は,2016年7月,医療分野におけるブロックチェーン技術と利用可能性をテーマにホワイトペーパーを公募・選定した。個々のソリューションが現実世界に及ぼす効果や可能性を議論することを目的として,「医療ITおよび医療関連研究におけるブロックチェーンとその新たな役割」と題した公開アイデアコンテストを開始し,2017年3月には「医療ブロックチェーン・コードアソン」を開催している。

 ONCは,「ブロックチェーン」について,改ざんを防止する秘密鍵を利用して,タイムスタンプの記録や署名を可能にするデータ構造と定義し,以下のような利用想定例を挙げている。

・デジタル署名情報
・ポリシーおよび契約(スマートコントラクト)の電算処理可能な執行
・IoTデバイスの管理
・分散型暗号化ストレージ
・分散型の信頼

 前述の公開アイデアコンテストでは,医療機関,医療保険会社,ITベンダー/コンサルティング会社,研究機関などから,電子カルテの分散記録管理,医療保険請求業務の改善,医薬品物流の効率化,患者アウトカム評価手法の開発促進といった具体的な課題解決策が提案されている。これらの情報は,ウェブサイトやインターネット動画配信サービスなどでオープンになっている。

 医療分野でもさまざまなメリットが考えられるブロックチェーン技術だが,暗号化された分散環境下でアーキテクチャをセキュアに管理する技術は発展途上段階にある。例えば,情報セキュリティの3大要件(機密性,完全性,可用性),否認防止,来歴管理,プライバシー対策などを,どのように社会実装していくかが大きな課題だ。

 日本での取り組みは初期段階だが,さまざまなステークホルダーを巻き込んだアクションが不可欠となる。


医師の働き方を見つめ直す

片岡 仁美(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科教授)


 2018年を迎え,岡山大で取り組んでいる女性医師のキャリア支援も11年目となります。取り組みを通じて,「いかに働き続けるか」というテーマに一貫して携わってきました。岡山大病院では柔軟な勤務体制を導入することでライフイベントにかかわらず勤務を継続することが可能となり,女性医師の活躍の場が広がりました。日本全体でも近年,女性医師の働く環境は変わってきています。

 一方,2017年には働き方改革実現会議(議長・安倍晋三首相)によって「働き方改革実行計画」が決定されました。同計画において,医師については「2年後を目途に規制の具体的な在り方,労働時間の短縮策等について検討し,結論を得る」とされています。これを受けて,医師の働き方改革に関する検討会が開催され,医師の長時間労働に加えて応召義務の考え方,自己研さんの時間と労働時間の切り分け方,当直業務の考え方などについて多彩な議論がなされています。

 同検討会は労働関係の専門家や医師で構成され,私は女性医師の働き方に取り組んできた立場からか,構成員として参加しています。非常に大切な課題であるだけに身の引き締まる思いです。検討会では,長時間勤務を余儀なくされる現状について多くの意見が挙がっています。極端に過剰な勤務は是正すべきと考えますが,一様なルールを適用することは現場の混乱を来し,医療提供体制への影響を及ぼす可能性もあり,慎重な対応が求められると思います。

 出産,育児,介護などによって柔軟な働き方や多様な選択肢が必要となる時期は誰にでも訪れる可能性があります。女性医師の問題に収束させるのではなく,医師全体の働き方を考える時期にきているのではないでしょうか。

 大学卒業後の約20年間,ほとんどの時間を仕事に費やしてきましたが,2016年に第一子を出産し,仕事と育児という異なるタスクに取り組む毎日となりました。一生をかけて追求すると決めている医師としての仕事に集中できる時間をこれまで以上に大切にしつつ,「いかに働くか」というテーマをあらためて見つめ直したいと思います。


ユマニチュードを行動から,脳から知りたい

中澤 篤志(京都大学大学院情報学研究科准教授)


 介護の「優しさ」とは何でしょうか? どうすれば人は優しく接することができるのでしょうか? 優しさは学ぶことができるのでしょうか?

 この疑問を解明し,優しい介護を多くの人に学んでいただく方法を開発するために,科学技術振興機構(JST)のCRESTプログラムの中でプロジェクトを始めました。メンバーは,われわれのような情報科学者に加え,ロボット研究者,脳科学者,医療・介護研究者や従事者で,ユマニチュードを開発されたイブ・ジネスト先生や日本に導入されている本田美和子先生にもご参加いただいています。

 このプロジェクトでは「優しい介護技術」ユマニチュードがなぜ働くかを,体の行動,脳の活動から明らかにしようとしています。行動の解明では,体に取り付けたセンサーや映像,視線センサーで介護行動を測り,人工知能技術を使ってユマニチュードにはどのような動作が重要なのかを発見します。ユマニチュードの4つの技術,見る,話す,触れる,立たせるが行動的にどのような要素から成り立っているか,それらをどのように組み合わせればよいかを見つけようとしています。脳からの解明では,介護者と被介護者の間でどのような感情のやりとりが生じるのか,被介護者の快感情が増えて不快感情が減っているか,さらにユマニチュードを学ぶことで介護者にどのような脳活動の変化が生じるかを知ろうとしています。これらがわかれば,誰もが優しい介護を学べるシステムが実現でき,介護者の介護負担感を少なくし,介護される方をより幸せにすることが実現できるかもしれません。

 より視野を広げると「優しさ」とはわれわれの日常生活でも重要な概念であるとともに,あいまいな概念でもあります。介護だけにとどまらず,医療現場や日常のコミュニケーションでも「優しさ」は何によってもたらさられるかを知るのはとても大切です。介護ロボットは優しいのでしょうか? 自動運転の車は優しいのでしょうか? どうすれば人や機械はもっと優しくなれるのでしょうか? このプロジェクトの将来としてそのような分野への展開も考えています。


顧みられない熱帯病の制圧に向けて

金子 聰(長崎大学熱帯医学研究所 顧みられない熱帯病イノベーションセンター長)


 2008年の洞爺湖G 8サミットでの「顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Diseases;NTDs)」対策の重要性が掲げられ,10年となります。その間,NTDsに関して国内外にさまざまな動きがありました。この熱帯病の一群は,開発途上国の貧困層に広がり,それ故に治療・診断の研究開発のみならず,その対策からも見放されてきたことから,「顧みられない」という用語が使われるようになりました。2013年の世界保健総会において,17の疾患群と定義され,昨今の追加により,20へと増えています。

 国内では,洞爺湖G 8サミットやアフリカ開発会議(TICAD)の結果,SATREPS事業,官民パートナーシップのグローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)等が開始・設立され,研究開発を中心にNTDs対策が進みつつあります。しかし,国外では,それ以上のスピード感を持って,国際的連携によるNTDs対策が急激に進んでいます。

 2012年には,世界の大手製薬企業13社,ビル&メリンダ・ゲイツ財団,世界銀行,NTDsまん延国政府らにより,10のNTDsを2020年までに制圧することをめざした共同声明「ロンドン宣言」が発表され,世界保健機関(WHO)と共にNTDs制圧に向けて活動する協賛組織の共同体「Uniting to Combat Neglected Tropical Diseases」が設立されました。これにより,世界的NTDsコミュニティー連合の構築とNTDs対策が加速的に進んでいます。しかし,製薬企業以外,わが国からの参加がないのが現状です。

 このような状況を憂慮し,長崎大では,わが国の産官学民が一体となるNTDsコミュニティー形成と世界的連合との連携強化を支えることを目的に,「顧みられない熱帯病イノベーション(NTDi)センター」を新たに立ち上げました。NTDs対策は,最貧困層(the poorest of the poor)の健康改善のための最低基盤です。わが国のNTDsコミュニティーと世界との連携を深め,開発途上国からのNTDsと貧困の根絶を達成するために,当センターを有効に活用できればと思っております。皆様方のご支援をいただけますようお願いを申し上げ,新年のあいさつに代えさせていただきます。


腸内細菌叢を踏まえた個別化医療実現への道

大野 博司(理化学研究所統合生命医科学研究センター粘膜システム研究グループ)


 今世紀に入り,疾患に共通の原因究明や治療をめざすこれまでの医療にかわり,個々の患者の生理や病理を理解してそれぞれに最適な治療を施す個別化医療(テーラーメイド医療)が提唱されてきた。人それぞれに異なる遺伝情報を知る必要性から,網羅的な遺伝子情報に基づくゲノム医療が着目され,わが国でも,がんをはじめとするさまざまな疾患の大規模ゲノム解析が,大型国家予算で推進されてきた。

 しかし,疾患の発症や増悪には喫煙のような環境因子も大きく影響する。寄与の割合は疾患によってもさまざまだが,50%ないし80%が環境要因との試算もある。実際,本邦の糖尿病やアレルギー疾患,炎症性腸疾患などは過去20年で2~数倍にも増加しており,食生活をはじめとする生活習慣・生活様式の変化によるところが大きい。

 腸内細菌も環境因子のひとつである。ヒトの腸内には,40兆個以上にも達する細菌が生息している。この腸内細菌叢が人体に及ぼす影響は長く不明であったが,次世代シーケンサーの出現とともに,EUおよび米国では約10年前から腸内細菌叢の遺伝子解析(メタゲノム解析)に国家予算が投入され,サイエンスとして語られはじめた。種々の疾患で腸内細菌叢組成の異常が明らかにされ,それが疾患の結果ではなく症状の出現や増悪の原因となること,さらに腸内細菌の正常化が疾患の予防・治療につながる可能性も示されている。また,腸内細菌叢は国や地域で大きく異なることもわかってきた。

 腸内細菌叢の異常を見いだすには,正常を知る必要がある。そのためには日本人の正常な腸内細菌叢のデータベースの整備が急務である。わが国でも欧米に遅れること10年,2016年度にAMED-CRESTの一領域としてようやく大型の「微生物叢」研究が発足したが,これにはデータベース整備事業は含まれない。10年,20年後に腸内細菌叢を含む個別化医療の社会実装が実現したとき,2018年がわが国におけるその研究元年であった,と振り返ることができるなら素晴らしい。