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第3236号 2017年8月21日


Medical Library 書評・新刊案内


ジェネラリストのための内科外来マニュアル
第2版

金城 光代,金城 紀与史,岸田 直樹 編

《評 者》上野 文昭(米国内科学会(ACP)日本支部・支部長)

いったん学べば一生の財産に

 医学書籍を選ぶとき,私はまずタイトルに興味を引かれるかを優先する。当然である。次に,著者が信頼できる医師と周知されていれば,既にこの時点で評価は高い。本書は,近年ますます重要さを増しているジェネラリスト内科医のためのマニュアルであり,優れたリウマチ内科医であると同時に日本のジェネラリスト内科医のリーダーとして敬愛している金城光代氏(沖縄県立中部病院総合内科/リウマチ・膠原病・内分泌科)とそのグループが編集・執筆された書籍となれば,もう期待感は最高潮である。

医師の財産となるような記載
 前半は初診外来での症候ごとに,考えておくべき疾患がCommon/Criticalの別にリストされ,医師の臨床能力を駆使した診断アプローチが手際よく展開されている。検査や治療に関する記載は,最小限にとどめられている。序文にもあるように,検査や治療と異なり,症候学のアプローチは時代遅れになることがほとんどないため,本書の記載の大部分は,いったん学べばこれからの医師の一生の財産となることは間違いない。

 後半は診断がついた後の継続外来の進め方や,健診への対処の仕方などであり,内科日常診療の90%以上が網羅されている。わが国では,健診異常者はスペシャリストに紹介されることが多い。その場合でも何を目的に紹介し,どのようなことが行われるかを理解する上で役立つ内容が記載されている。

これからの時代に読んでおくべき一冊
 今,世界ではValue-Based Medicineの波が押し寄せている。近い将来のパラダイムシフトにより,ジェネラリスト内科医が医療の主役となると確信している。供給過剰気味のスペシャリストは,超専門診療への特化またはプライマリ・ケアも同時に行う専門医へと二極化していくと思われる。ジェネラリストはもちろんのこと,プライマリ・ケアを担うスペシャリストにこそ,本書を熟読されることをお勧めしたい。

A5変型・頁736 定価:本体5,400円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02806-6


標準解剖学

坂井 建雄 著

《評 者》松村 譲兒(杏林大教授・解剖学)

簡明にして深い《標準》

 今春,医学書院の《標準》シリーズの一環として,満を持して『標準解剖学』が上梓された。さかのぼること40年,藤田尚男・藤田恒夫両先生の筆になる『標準組織学 総論・各論』が発刊され,《標準》構想がスタートし,現在では,定番教科書として30科目を超える《標準》が医学生の机上に開かれている。日本で最も知られたシリーズであることに異議を唱える方はいないであろう。にもかかわらず,なぜか解剖学の姿だけがなく,あたかも「永久欠番」の様相を呈していた。

 「なぜ?」と問われれば,まず《標準》という言葉の重さが理由に挙がるだろう。《標準》シリーズの評価が定着するにつれ,何をもって解剖学の《標準》とするかが課題になった。全国の先生が「誰がこの大仕事に手を染めるのか?」と見つめるうちに歳月を経たというのが正直なところかもしれない。

 今回,その大仕事に立ち向かわれたのが坂井建雄教授(順大大学院)である。しかも,おそらく日本中の解剖学教員が抱いていた「標準=詳細で分厚い」という予想を覆し,坂井流の,簡明にして深い《標準》を創り上げられた。重さ1260 g,本文569ページと小ぶりなので,『標準組織学』や『標準生理学』を見慣れた方は「これだけで大丈夫?」と心配されるかもしれない。しかし,ひとたびひもとけば,それが杞憂であることがわかるであろう。

 従来の解剖学書が「系統解剖学」に基づくのに対し,本書は「局所解剖学」が中心に据えられている。最初の約50ページで各器官系に触れた後は,胸部・腹部・骨盤部・背部・上肢・下肢・頭部・頸部・中枢神経の順にバランスよく解説されている。どこに何を記載するかは難しいところだが,本書には一点のよどみもない。章の冒頭には構成マップが設けられ,各項の関連が一目で把握できる。また,随所に組み込まれた「Developmental scope」「Functional scope」「Clinical scope」は,発生学,生理学,臨床医学との関連を理解する大きな助けとなっている。

 坂井教授が本書に取り掛かられたのは随分と前のことである。ほぼ脱稿まで進んだ原稿を破棄されたり,図案を何度も検討されているとの話も耳にした。本書は,推敲を重ねた結果たどりついた「坂井流哲学」の具現であり,単なる教科書ではない。このように斬新な「本格的解剖学書」を目にすることができ,単純にうれしい。

 最後に,というよりも,むしろ最初に述べるべきだったと思うが,本書の図は全て阿久津裕彦氏(東京藝大)の手になる「描き下ろし」であり,本書の価値を格段に高めている。かつて『グレイ解剖学』が2人のヘンリーによって上梓されたことを彷彿とさせる。本書『標準解剖学』が出版されたことで《標準》シリーズというチームにようやく「先頭打者」が現れた気がする。ぜひご一読を願うものである。

B5・頁662 定価:本体9,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02473-04


標準組織学 各論 第5版

藤田 尚男,藤田 恒夫 原著
岩永 敏彦,石村 和敬 改訂

《評 者》藤本 豊士(名大大学院教授・分子細胞学)

ナラティブな組織学の魅力

 「藤田・藤田の組織学」という名で親しまれてきた名著『標準組織学 各論』の第5版が,装いも新たにして出版された。原著者であるお二人の藤田先生の薫陶を受けられた岩永敏彦先生(北大教授)と,石村和敬先生(徳島大名誉教授)の手になる労作である。

 組織学は人体を構成する臓器や組織の構造を知るために,主に光学顕微鏡を使って,さまざまな細胞がどのように配置されているかを調べ,臓器や組織の生理機能を支える構造を学ぶ学問である。当然のことながら,組織学がカバーする範囲は人体の隅々にまで及び,含まれる情報量は膨大なものになる。多くの科目が詰め込まれている医学部・歯学部の6年間の学部教育課程の中で,組織学をどのように学んだらよいか? 世の中に出回っている教科書のスタンスは,二つに分かれるようである。

 一つはできるだけ分量を切り詰め,ぎりぎり必要な事項だけ記述するという方針で書かれた本である。この種類の教科書の記載は事実の列挙に限りなく近く,どうしても無味乾燥なものになってしまう。既に身につけた知識を確認,整理するには効率的かもしれないが,初学者が読んで組織学を理解するためにはあまり適当とは言えない。

 一方,『標準組織学』では,細胞たちが織りなす物語(narrative)として組織学が語られる。このような記載を無駄と思う人もあるかもしれない。しかし組織学に限らず,初めての内容を学び,頭の中に知識を定着させるためには,物語として語られるほうがずっと有効である。ここで「有効」という意味は,何かの知識が教授のジョークと一緒に思い出されるというような類いのことだけを言っているわけではない。教科書に記載されている内容は,数学の定理のように未来永劫変わらない真理ばかりではない。もちろん現時点では正しいと信じられている事柄ではあるが,それぞれの確からしさには少しずつ程度の違いがある。物語にはそのニュアンスを伝える力があり,それによって読者はより正しい全体像の理解に到達することができる。細胞の物語を読み解いてきた研究者たちについての記載も,その一助になるはずである。

 『標準組織学』の魅力として見逃せないのは,挿入図の質の高さである。組織学観察の基本であるヘマトキシリン・エオジン染色はもちろん,走査電子顕微鏡や蛍光抗体染色など,掲載されている写真がどれも実に美しい。一部のアトラスに散見される毒々しい色合いの図版と異なり,『標準組織学』では顕微鏡をのぞいて見える像が忠実に再現されている。さらに付け加えると手書きの模式図やスケッチが素晴らしい。パソコンの描画ソフトでは難しい微妙な表現は,細胞の物語の挿画にふさわしいものである。

 初版刊行以来,40年にわたって多くの人々に愛読されてきた『標準組織学 各論』に新たな命が吹き込まれ,次の世代に受け継がれたことを心から喜びたい。

B5・頁568 定価:本体11,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02404-4


運動学で心が折れる前に読む本

松房 利憲 著

《評 者》高嶋 孝倫(長野保健医療大教授・リハビリテーション工学)

「心が折れそうな」学生に,そうなる前に読んでほしい

 運動学は,ヒトの体の動きに関する学問です。「運動」とは,この地球上という時空間での重力に抗したさまざまな動きであることから,運動学を理解するには,物理学や数学の素養が求められます。そのせいか,途中で理解が及ばなくなり,あるいは拒否反応のようなものを感じてしまい,「心が折れてしまう」学生もいます。本書は,そうなりそうな人に,そうなる前に読んでもらいたい参考書です。

 第1章では,「運動のしくみ」について整理されています。この部分は,用語の定義と説明が中心で,言葉の丸暗記になりがちですが,ラテン語の語源なども交えて,記憶に残る解説が施されています。先生と学生の対話形式で記述される本文には,随所にユーモアがちりばめられて読者を飽きさせず,無理のない自主学習につながります。

 この本は「参考書」に位置付けられています。参考書は,理解を初学者自身によって助けるもので,自分で読んで理解できることが必要だと思います。他方,教科書は,その分野のエッセンスが集約されたもので,専門用語やキーワードが最大限に収載され,整理されていますが,初学者が理解できるとは思えません。そのため授業での解説が必要で,事例を挙げたり,一般論に置き換えて説明したりすることによって,学生の理解が生まれると考えています。

 繰り返しになりますが,この本は参考書であり,学生が自習して「なるほど」と思える一冊です。

 第2章は,運動学の基礎となる物理学的な内容が解説されます。ベクトルの意味に始まり,エネルギーとは何か,歩行中の床反力はなぜ生じるか,など,それらが「なぜ」という観点で記述されているので,記憶に残る理解が得られます。

 しかも,こうした記述が非常に短い文章なので,高校で物理を履修していない方でもシンプルに頭に入ります。シンプルでありながら,内容に過不足なく文言化された著者に敬意を表します。

 これまで,運動学などの理数系の基礎知識を必要とする学問で「心が折れてしまう」学生を,幾度も目にしてきました。本稿を学生が目にする機会は少ないかもしれません。もし周りに「心が折れそうな」学生がいたら,ぜひとも本書をご推薦いただければと思います。

A5・頁144 定価:本体1,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02863-9


日常診療に潜むクスリのリスク
臨床医のための薬物有害反応の知識

上田 剛士 著

《評 者》山中 克郎(諏訪中央病院総合内科/院長補佐)

日常診療で頻用する薬の副作用を詳細に分析

 上田剛士先生(洛和会丸太町病院救急・総合診療科)は数多くの文献から重要なメッセージを抽出し,わかりやすい表やグラフにして説明してくれる。評者と同様,『ジェネラリストのための内科診断リファレンス』(医学書院,2014年)を座右の参考書としている臨床医は多いであろう。これは臨床上の問題点に遭遇したとき,そのエビデンスを調べる際に非常に重宝している。

 『日常診療に潜むクスリのリスク』は薬の副作用に関する本である。高齢者はたくさんの薬を飲んでいる。私たちは気が付いていないのだが,薬の副作用により患者を苦しめていることは多い。

 「100人の患者さんを診療すれば10人に薬物有害反応が出現」(序より),「高齢者の入院の1/6は薬物副作用によるもので,75歳以上では入院の1/3」(p.5より)に及ぶという事実は決して看過すべからざることである。「Beers基準」や「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」は存在するが,高齢者への適切な処方への応用は不十分だ。

 NSAIDsの服用により血圧が上昇する,メトクロプラミド(プリンペラン®)の処方が薬剤性パーキンソニズムを起こすことは臨床医がよく経験することではないだろうか。そんな私たちが日常診療で頻用する薬により起こる副作用について詳細に分析されている。

 次の内容は特に示唆に富む。

・Ca拮抗薬による浮腫は11%で認められるとされている。長期内服しているうちに浮腫が出現してくることが多い(p.29より)。
・高齢者ではアルファカルシドール(アルファロール®)1 μg/日やエルデカルシトール(エディロール®)による高Ca血症は非常によくある。高Ca血症は食欲低下,倦怠感,便秘という非特異的症状のこともある(p.40~41より)。
・アスピリンやNSAIDsを服用すると,20分~3時間後に重篤な喘息発作が誘発される可能性がある。アスピリン喘息は成人喘息患者の7~9%程度で存在すると考えられている。多数の患者が過敏性を自覚しているが,医療従事者が軽視している可能性がある(p.61より)。
・高齢者に睡眠薬を投与しても,満足する結果が得られるよりも,害のほうが2倍生じやすい(p.76より)。
・プロトンポンプ阻害薬(PPI)は胃酸の分泌を抑制し,鉄やビタミンB12の吸収を低下させる。顕微鏡的大腸炎,骨折,認知症,頭痛,腎機能障害,貧血を起こす可能性がある(p.94~98より)。
・抗甲状腺薬による無顆粒球症の頻度は約0.3%。投与開始3週間~3か月後の発熱・咽頭痛での発症が典型的であり,定期的な採血だけで無顆粒球症を予測することは困難(p.143より)。

 どれもヒヤッとすることばかりである。日常診療でよく処方する効果的な薬ばかりであるからこそ,潜在的な副作用についてプライマリ・ケア医は特に注意を払う必要がある。“両刃の剣”である薬の特質を理解してこそ,自らの診療をさらに高いレベルに引き上げることが可能だ。

 そしてコラムでは,どうして私たちはクスリを処方したくなり患者はクスリを希望するのか,ウイットに富んだ考察がなされるのである。ぜひご一読をお勧めしたい。

A5・頁164 定価:本体2,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03016-8

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