医学界新聞

2017.06.26



ケアにおける哲学とは何か


 シスター寺本松野生誕100周年の集いが5月21日,上智大(東京都新宿区)にて行われた。シスター寺本(1916~2002年)は2001年に赤十字国際委員会から第38回フローレンス・ナイチンゲール記章を受章したことで知られる看護師。1938年に看護職に就いた後,病棟師長や教育師長として活動し,看護界に大きな足跡を残した。60年以上にわたる看護実践に加え,学生教育や卒後教育に尽力し,日本における終末期の看護を確立した先覚者としても評価されている。本紙では,シスター寺本の教えを受けた聖母大,聖母女子短期大(いずれも現・上智大)看護学科の卒業生によるシンポジウム「シスター寺本松野が看護界,教育界に遺したもの,そして私たちが未来に向かって何を伝えていくか」(座長=三重県立看護大名誉教授・村本淳子氏)の模様を報告する。

相手を中心に考え,傾聴,行動し,そして希望を与える

 最初に登壇したのは,島根県の離島に位置する隠岐島前病院に勤務する野田淳子氏。病院では終末期の患者を看取る立場にあり,日々の看護実践で患者の望みを推し量り,実現に努めていると話した。学生時代の実習にて医師,患者,家族との関係を大切にし,常に患者のそばにいるシスター寺本の姿勢を見てきたことで,そのような行動原理になったという。「何をしなければならないかという原則的なものではなく,その時々に患者が求めるものをくみ取り,行動に起こすことが看護である」というシスター寺本の教えは現場に生きており,今後も忘れてはならないと話した。

 聖母病院で病棟師長を務める石塚優子氏は,氏の考え方に大きな影響を与えているという『看護は祈り――寺本松野ことば集』(日本看護協会出版会)をもとに,シスター寺本が重視した人間関係の基本を考察した。その内容は,①信頼関係を築くためにまず自ら心を開く,②相手の長所に目を向ける,③自分の言葉が相手に大きな影響を与えているという自覚,④これらの根底には自分自身が満たされている必要があること。特に③については,師長である氏の言葉が患者を直接ケアするスタッフにどのような影響を与えるかを考えるとともに,スタッフから患者への声掛けの際に自問してほしいと結んだ。

 続いて,臨床看護師と看護教員を経て30年近く看護管理者を務めている山中誉子氏(姫路聖マリア病院)が登壇。シスター寺本がめざした看護実践や教育の在り方を回想し,PM理論をもとに看護におけるリーダーシップについて解説した。PM理論とは行動心理学の第一人者である三隅二不二が提唱した理論で,リーダーシップは目標達成能力(Performance)と集団維持能力(Maintenance)の両方から成り立つというもの。氏は,「良い看護実践をわかっていないと良い看護管理ができない」と述べ,相手がどのように感じているかをとらえることが集団を率いる上で特に重要だと説いた。

 何のために,何を考えながら,どのようにケアを提供していくかを学生に教えることは重要である。教育者である塚本尚子氏(上智大)は,シスター寺本のケア哲学の特徴を分析。特に終末期の看護に尽力したシスター寺本は,「どのように」ケアを提供するべきかを示している点に特徴があるという。患者から目を離すことなく,勇気を持って患者に寄り添いながらケアを見いだすといったケア哲学を「次世代の看護師に伝えていくことが教育者としての使命である」との考えを示した。

 最後に,指定発言として聖母女子短大で教鞭をとっていた田畑邦治氏(白百合女子大)が4人のシンポジストの話に共通する要素を指摘。「相手を中心に考え,傾聴,行動する姿勢」「患者に希望を与える」の2つを挙げた。「このような看護の精神を現場で受け継いでいくことを,シスター寺本も願っているのではないだろうか」と締めくくった。

シンポジウムの様子

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