医学界新聞

2017.02.13



Medical Library 書評・新刊案内


マイナー外科救急レジデントマニュアル

堀 進悟 監修
田島 康介 編

《評 者》嶋津 岳士(阪大大学院教授・救急医学)

救急診療現場で手元にあると心強い有用なマニュアル

 救急受診をする患者数は近年増加傾向が著しく,救急車の搬送件数は過去10年間で約1.2倍に増加している。そのほとんどは初期・二次救急患者で,いわゆるマイナーエマージェンシーに相当し,直ちに生命にかかわるものではないが,早く対応することが求められる。しかしながら,対応する医療機関の数はむしろ減少傾向にあり,通常,当直医は全ての領域の患者を診療することは困難であるために,専門医に任せることになる。

 例えば,夜中に眼痛や鼻出血を来した救急患者はどこを受診すればよいのだろうか。眼科,耳鼻咽喉科領域の救急医療体制を見てみると,大阪市のような大都市でも平日22時から翌0時30分まで,休日準夜では17時から21時30分までは大阪市中央急病診療所が対応するが,それ以降の時間帯では,専門医による診察を受けることができない。

 救急外来(ER)や夜間当直において,外科系のマイナーエマージェンシー(開放創からの出血,蜂窩織炎,脱臼・捻挫,眼・耳・鼻異物,鼻出血,扁桃周囲膿瘍,尿閉など)に遭遇する機会は多い。初期研修医やレジデントはもちろんのこと,何科の医師であっても,自分の専門領域ではない傷病に対応する場合には不安や戸惑いを持つことがあろう。

 本書は形成外科,口腔外科,整形外科,眼科,耳鼻科,泌尿器科および皮膚科の7つの領域にわたって,初期・二次救急診療で遭遇する機会の多い傷病・病態についてわかりやすく簡潔に記載したマニュアルで,非専門医がどのように対応すればよいかを専門医が具体的に指南するものである。

 すなわち本書では,①どこまで非専門医が救急外来で処置すればよいか(やるべきこと,やれることの限界),②どのような場合に専門医にコンサルトするか,③コンサルトする場合のタイミング(特に緊急性の有無)が明確に示されていることが特徴で,研修医や若手医師にとって好適な入門書である。また,救急に携わる全ての医師にとって,救急診療の現場で手元にあると心強い有用なマニュアルとなろう。そして,救急診療に不安や戸惑いを持たない医師にとっても,本書はまた,カラフルな図表や写真が多く掲載されているので,若手医師やコメディカルスタッフへの説明,教育に重宝することであろう。

 本書で取り上げられた各領域でのテーマの選択から,編著者らの救急診療に対する思いがうかがわれる。全編で16のコラム(memo)が掲載されているが,memoだけを通読しても面白い。

B6変型・頁322 定価:本体3,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02545-4


一歩先のCOPDケア
さあ始めよう,患者のための集学的アプローチ

河内 文雄,巽 浩一郎,長谷川 智子 編

《評 者》山岸 文雄(旭硝子千葉工場健康管理センター所長)

超高齢社会で重要な知見に富む集学的チームによるガイドブック

 COPD(慢性閉塞性肺疾患)は2015年の日本人の死因ランキング第10位,男性では第8位となっており,超高齢社会において健康寿命を維持する上で,非常に重要な疾患である。しかしわが国でCOPDという病名を知っている人は30%にも満たず,極めて認知度が低い現状である。また,最近の疫学調査では,わが国のCOPD患者数は約700万人,COPD治療者数は約50万人,無治療者数は約650万人と推定されており,診断されて治療を受けている患者よりも,症状があるのに医療機関を受診していない,あるいは受診していても正しく診断されずに無治療で放置されている患者のほうが圧倒的に多い。

 本書のタイトルは『一歩先のCOPDケア』である。一歩先,としたのは「より良い明日を目指してという気持ちからである」と,まえがきに記載されている(p.VI)。重症化したCOPD患者は「地上で溺れるような」苦しい状況を経験することになる。しかし,そうならないように,サブタイトルの「患者のための集学的アプローチ」にあるように,地域基幹病院の専門医だけでなく,看護師,理学療法士,かかりつけ医などの,多職種の医療関係者がチームを組んでCOPD患者を励まし,支え,ケアを行っていただきたいと述べられている。そして本書の中で繰り返し記載されているのが,今からでも遅くないので,禁煙してほしいということである。長年タバコを吸ってきても禁煙すれば,不可逆性であるCOPDは改善しないまでもCOPDの進行を止めることができ,何歳であっても禁煙により肺のダメージを減らすことが期待できると前向きなメッセージが明確に呈示されている。栄養療法,運動療法,肺理学療法,薬物療法なども同様に,病気の進行を遅らせ,症状を軽減することが可能となる。

 本書は,長年地域医療に尽力し多くの患者の診療を行ってきた開業医,関連学会で指導的立場にある医学部教授,そして慢性呼吸器疾患看護認定看護師の育成に携わってきた看護学部教授という,まったく分野の異なった3人が協力し,編集して出来上がった大変ユニークなものである。その内容は,第I~VI章にわたって構成されており,各項目におのおのの分野の専門家がCOPDケアについて,大変わかりやすく記載している。また随所にちりばめられた16のコラムは,温かい気持ちにさせてくれるウィットに富んだ内容のものが多い。患者さんとの医療を介したほのぼのとした付き合いが垣間見られ,読者は思わずにんまりしてしまうこと請け合いである。

 本書は主に看護職を対象に平易に書かれたものであるが,実地医家や初期研修医にも役立つ内容となっており,ぜひ,お手元に置かれ,利用されることをお薦めしたい。

B5・頁240 定価:本体2,700円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02839-4


作業で結ぶマネジメント
作業療法士のための自分づくり・仲間づくり・組織づくり

澤田 辰徳 編
齋藤 佑樹,上江洲 聖,友利 幸之介 編集協力

《評 者》長谷 龍太郎(神奈川県立保健福祉大教授・作業療法学)

作業を中心とした実践を職場で行うための準備と運営

 革新的なことを始めようとすると,組織の理念や継続して行ってきた方法や制度による否定的な圧力に阻まれることが多い。歴史の浅い作業療法の世界であっても,新たに開発された治療法や評価法,そして革新的概念やシステムを導入しようとすると周囲とのあつれきに苦しむ。対象者の“作業に焦点を当てた実践”を試みようとすると,従来から行われてきたような疾患の特徴や機能障害,そして遂行を阻む個々の要因へ問題点を集約する考え方に戻るように指摘を受けることがある。指摘する側は“従来からの原則”も重視してほしいと考えている。二者択一を求めてはいなくても,指摘した側とされた側の“対立”は結果として残り,時には感情的な対立に向かうこともある。

 作業療法士は自らのアイデンティティーの確立に苦しんできた歴史がある。なぜ作業なのか,作業とは何か,作業で人間は変わるのか? 等々である。“作業”という言葉の意味と“作業療法”に含まれる意味の違いは,長く作業療法士を悩ませてきた。クライアント自ら行う作業が持つ価値観を重視した実践は,作業療法士にとって魅力的なアプローチである。

 “作業に焦点を当てた実践”を試みた作業療法士たちの前に壁が立ち塞がったときに,彼らはどのようにしてそれを乗り越えたのか? を示すことが本書の出発点である。ビジネスの領域では,壁にぶつかったときに,何をして,どのように乗り越え,成功へと導いたのかといったことについて語られた本が多く出版されている。医療に関連した領域では,成功や失敗に関することは事例集で扱われることが多い。本書の編者たちは既に事例集『作業で語る事例報告』(医学書院,2014年)を出版しており,それに引き続く本書は,事例集を読んで,実行を模索している読者が壁にぶつかることを予測し,それに対する問題解決に必要な知識と技術を盛り込んだ「ハウツー本」ということになる。

 先人たちが乗り越えてきた過程を示すべく,教科書の管理運営の項目と違い,企画書,職場環境,組織の方向性,理念,人格,交渉のスキル,カンファレンスの活用などの言葉が躍る。本書が医学書院ではなく,自己啓発について特集する一般向けの雑誌に連載されていたなら,作業療法士ではなく,人生の成功や恋愛の成就を願う若者に,自分づくりや仲間づくりを目的として読まれていたかもしれない。

B5・頁208 定価:本体3,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02781-6


神経内科ハンドブック 第5版
鑑別診断と治療

水野 美邦 編

《評 者》廣瀬 源二郎(浅ノ川総合病院顧問・脳神経センター長/金沢医大名誉教授)

レジデントだけでなく専門医にも知識源となる書

 水野美邦先生の編集された神経内科臨床のエンサイクロペディアと称されるスタンダード教科書がついに6年ぶりに改訂され,待望の第5版が上梓された。

 初版で米国流のレジデント向けマニュアルの日本版を意図して編集された本書が29年を経て新たな神経学教科書として登場したと言えよう。順大教授を退職されて以降も臨床を続けられ,その間も神経学教育のあるべき姿について熟慮を重ねられた中から生まれた書である。

 私は第3版の出版時に本書の書評を書かせていただいているが,今回のハンドブックは重みも中身も重量化され,執筆者は倍増の40人,ページ数1368で発刊された。本書の項目数は実に500を超え,最新の診断と治療法が記載された膨大な教科書となった。世界で神経学のバイブルと称されるWilliam Gowersの教科書『A Manual of Diseases of the Nervous System』は第1巻が1886年,第2巻が88年の発刊で疾患項目数132であるが,本書では実に467となり,項目ごとに適切な執筆者を得て内容が豊富となり,百科事典的な標準教科書がさらに充実したものとなった。編者の初期の狙いである神経学のレジデント向けマニュアルの域を超えて,今や神経内科専門医が生涯教育として新たな神経疾患に取り組むときの座右の書として使える参考書である。

 編者の意図はさらに鑑別診断に重きを置いて組まれており,症候から鑑別診断への項では17項目の症候についての鑑別が250ページ以上となり,読者の整理のため,沢山の鑑別診断のための表が挙げられている。これらを利用すれば混乱せずに正しい診断に導かれるわけである。

 米国でのレジデント教育を経験された編者が,わが国での研修教育にも標準化が不可欠と考えて日本版のレジデント向けマニュアル初版がコンパクトに組まれたわけである。しかし今やわが国での卒後の神経学教育のレベルは欧米と遜色のない所に到達してきており,内容としてレジデント向けマニュアルの基準を残しつつ,さらなる神経専門医のレベル向上をめざして一人でカバーすることの難しくなった各神経疾患の病態,治療法を編者の意図を十分に把握した多数の専門医を得て分担執筆で編まれたものである。近年著しく発達した神経学全般の中でとりわけ分子病態学,遺伝学,免疫学,放射線診断学,疾患治療学はその知識の整理が大変となってきており,臨床の現場で現在の立ち位置,いわゆる標準的な診断・治療を常に確認しておく必要があろう。

 神経内科の初心者の専門医試験への準備段階でも有用なマニュアル的教科書であるとともに,専門医となった後もそのレベルを保つため臨床現場で患者に合わせてひもとくことで疾患概念を再把握して,新たな治療へと進める重要な知識源となる書であり,自信を持ってお薦めしたい。

A5・頁1368 定価:本体13,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02417-4


大腸癌診療ポケットガイド

がん・感染症センター都立駒込病院 大腸グループ 編
高橋 慶一,小泉 浩一 責任編集

《評 者》藤田 力也(昭和大名誉教授・三喜会顧問)

日常診療で活用してほしい一冊

 大腸癌の罹患患者数は増加し,胃癌を超えるまでになっている。特に女性の総計では,部位別の癌死亡率のトップになっているが,大腸癌診療に当たっては整理しなければならない,あるいは知っておくべき問題点は多い。

 大腸癌の効率的な検診はどうすべきか,受けたくない大腸内視鏡検査は本当に楽にできるのだろうか,手術は開腹が良いのか,腹腔鏡手術が良いのか,手術前に化学療法を受けるほうが良いと聞いたがそうだろうかなどなど,患者からの質問も多いこの頃である。また,血便,腹痛などの自覚症状に頼る診療では手遅れになることもしばしばである。特に右側結腸(上行結腸)では手遅れになりがちで,左側(下行結腸・S字状結腸・直腸)では症状も出やすいので,予後が良いとも言われている。

 こういった疑問や質問に答えるだけでなく,例えば症例検討会カンファレンスでチョット見て知識を得るにはポケットガイドは便利である。大きい雑誌や本は持ち歩けない。これをタブレットで見ることができればさらにうれしい。

 この診療ガイドは都立駒込病院の大腸診療班内科・外科の総力を挙げて,医師やナース,ケアワーカーが執筆に当たっているので,カバーする範囲が幅広いのはありがたい。ポケットガイドでこれほど守備範囲が広いのは驚異的である。特にストーマケアの写真は具体的で説得力が感じられる。

 目次を見ると,解剖の基本から始まり,最後の章では社会ニーズに応えて,介護の在り方,緩和医療からチーム医療としてキャンサーボードの在り方まで記述されている。高橋慶一・小泉浩一両部長の高い見識がうかがえる項目立てである。

 都立駒込病院で行われている診療が中心となっているため,病院によっては使用する薬剤や,前処置の方法,化学療法などに違いがあるかもしれない。大腸検査の前処置も病院によっては異なる工夫があるかもしれないので,ここに記載されていることが全てではないと思う。病期の記載も最近のガイドラインを取り入れて,あるいは,それを訂正して使用することが大切であろう。また,何かと最近,話題が多い術前・術後の化学療法も日進月歩の状態であり,記載漏れの薬剤もあり得ると思うので,最新の情報は補給・補助していけばよかろうと思う。評価が一定していない新しい試みは採用していないので,かえって安心してお薦めができると思う。

 必要事項を要領よくまとめてあるので,ひと昔前の試験勉強を思い出した。このポケットガイドを小生の関連病院消化器センターの内科・外科の医師,ナースメンバーに回覧したところ,ベッドサイド・症例検討会・外来・キャンサーボード,その他に新人研修にも有用と好評であった。知識の再整理にも,もちろん有用であった。

 「山椒は小粒でもピリリと辛い」の例え通りの小冊子である。日常の診療の場で活用してほしい小冊子であると推奨したい。

B6変型・頁240 定価:本体3,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02550-8

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