医学界新聞

寄稿

2016.10.10



【寄稿】

チェックリストの活用で安心・安全な気道管理を

深野 賢太朗(仙台市立病院 救命救急センター)
乗井 達守(University of New Mexico, Department of Emergency Medicine)


 救急外来で「気管挿管をしよう!」と思ったとき,皆さんは何を思い浮かべるでしょうか。気道管理は意外と複雑です。喉頭鏡や挿管チューブだけでなく,吸引カテーテルやシリンジといった物品,鎮静薬や筋弛緩薬などの薬剤も必要です。いざ挿管するときに必要な物がそろっていないという事態は,意外とよく経験します。筆者(深野)が短期臨床留学した米Level 1 Trauma Center(ニューメキシコ大)の救急部では,その対策として日常的にチェックリストが使用されていました。本稿では,気道管理におけるチェックリストの使用について紹介したいと思います。

ただ管を通すことが気管挿管ではない!

筆者 なぜチェックリストを使うのですか? 日本の救急外来では,チェックリストを使うことなんてないですよ。もし使うとしても,看護師さんが物品がそろっているかを毎朝確認するぐらいかな。だって,ちゃちゃっと管を通せばよいだけじゃないですか。私はそれでうまくいっていました。

ニューメキシコ大救急部指導医(以下,指導医) あなたが言う“うまくいった”とは何を指すのですか? “気管に挿管チューブを通せば,それで挿管は大成功だ”という考えは間違っています。

 高度な気道管理を必要とする患者は,低酸素や低血圧が最終的な予後に影響を与えることが知られています。例えば外傷性脳損傷では,低酸素や低血圧を伴うと,死亡や植物状態となる可能性は2倍になります1)。それらを予防しながら,安全に気道管理を行うのは当然のことです。チェックリストは,気道管理を安全に行う目的で用いられているのです。

筆者 気管挿管が,ただ管を通せばいいものではないことはわかりました。しかし,チェックリストがどう安全に寄与するのかイメージが湧きません。

指導医 私たちが救急外来で使用しているチェックリストをお見せします()。気管挿管に限らず,何事も準備が重要です。喉頭鏡や挿管チューブなどの基本的な物品の確認だけでなく,気道の評価を行ったか,挿管が難しそうであれば意識下挿管の適応がないかも確認します。また,最初のプラン(例:通常の喉頭鏡を用いた気管挿管)がうまくいかなった場合の次のプラン(例:ビデオ喉頭鏡やブジーの使用)の準備ができているかも確認します。最初のプランがうまくいかず,そこから急いで次の準備を始めても,必要な物品がどこにあるかわからなかったり,慌てたりする可能性があるでしょう。それでは安全な挿管はできません。

 気道管理のチェックリスト(ニューメキシコ大救急部,筆者訳)

 チェックリストはチーム内の議論を促す目的でも用いられます。例えば薬剤選択の際,血圧が低めの患者には通常の鎮静薬ではなくケタミンやEtomidate(日本未認可)など,血圧が下がりにくい鎮静薬を用いることがあります。薬剤選択に関するそうした意見が,チェックリストのチェック中に別の医師や薬剤師から出ることがあります。

手技前の少しの手間が,挿管時間や合併症リスクを減らす

筆者 アイデアはいいと思うのですが,チェックリストにはエビデンスはあるのでしょうか? エビデンスがないと,信じられないですね。

指導医 なかなか懐疑的ですね。チェックリストの歴史は長く,多くの分野で使われ,エビデンスが蓄積されてきました。......

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