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第3188号 2016年8月29日


【対談】

成長を支援し,自律性を育むOJT

西田 朋子氏(日本赤十字看護大学 准教授)
松尾 睦氏(北海道大学大学院 経済学研究科教授)


 人にとって「経験」は貴重な学習資源であり,OJT(On-the-Job Training)は,経験を通して学びを進めるための手段の一つです。しかし多忙な環境の中,自身も看護実践をしながら指導を行うことに,難しさやプレッシャーを感じている指導者も多いのではないでしょうか。「なぜ自分が指導者になったのだろう」「うまく指導できているのだろうか」と思いながら,指導している方もいることと思います。

 では,現場での実践(経験)を通して,どのように看護師の成長を支援していけるとよいのでしょうか。『新人看護師の成長を支援するOJT』(医学書院)の著者である西田氏と,ビジネスや医療の現場などさまざまな分野において経験学習に関する研究を行っている松尾氏にお話しいただきました。


西田 看護では,3~4年目に指導者を任されるケースが多く,自分自身がまだエキスパートとは言えない段階で後輩を指導することに不安を抱く方も少なくありません。松尾先生は看護を含め,これまでにさまざまな分野で人材育成に関する研究をされていますが,看護とそれ以外の分野において違いを感じることはありますか。

松尾 総じて,看護はすごく進んでいる分野だと思います。OJTは基本的にマンツーマンで行われますよね。でもプリセプターに任せきりにしてしまい,完全に1対1の関係になってしまうと,お互いフラストレーションがたまるのです。それが看護では,プリセプターに対するフォローなどがきちんと行われているケースが多く,組織全体で育成に取り組む雰囲気ができているように感じます。

西田 看護以外の分野から看護での人材育成を見ると,進んでいると評価されるのですね。中にいるとわからない,看護の良い部分です。

育成に関する考え方を形にし,共有する

西田 個人的には,看護師は指導においても一生懸命やろうとしすぎるというか,自分や他人に厳しすぎる部分があるのではないかと感じることがあります。例えば指導者の話を聞くと,新人に対して,「大人なのだし専門職なのだから,フィードバックがなくても自分で気づいていくべきだ」と言う人もいます。育成とはこうある“べき”という考え方が強固な指導者への対応は悩ましいところです。

松尾 そうした育成観のようなものは,自分が教えられた経験から構築される傾向にあるので,厳しい人というのはおそらく自分も厳しい指導を受けてきたのでしょう。反対に,あまり指導を受けてこなかった人は,そもそも教えることに対するマインドセットを持っていないので,「そんなことまで教えなければならないのか」「指導って面倒くさい」と感じてしまうのだと思います。

西田 その価値観を変えていく必要があるわけですよね。先生は,具体的にはどのような方法を使っていますか。

松尾 まずは,育成に関する自分の方針や基本的な考えを“形”にすることが重要です。ただ,言語化するのは意外と難しい。ですから,「自分が成長したと感じたときに,どのようなサポートを受けたか」といったテーマで絵を描いてもらったりしています。視覚化して他人と比べたり,フィードバックを受けたりすることで,自分一人で頑張ってきたと思っていた人も,実は誰かの支えやアドバイスがあったことや,成長するための場を与えられていたことに気づく機会にもなります。

西田 面白そうです。一人で成長してきたわけではないことに気づくのは,とても大事なことですね。ある程度時間や気持ちにゆとりがないと自分のことを振り返ることは難しいので,そうした機会を設けることも施設内教育では心掛けたいところです。

松尾 普段一緒に仕事をしていても,相手が感じていることや考えていることって案外わからない。週に1回,あるいは月に1回でも,振り返りの場や皆で話ができる場を持つことで,相手の成長はもちろん,価値観なども見えてきます。管理者はその場をファシリテートし,皆が思いを共有しやすい雰囲気を作っていくことも求められるでしょう。

西田 確かにオープンな雰囲気がないと,話すことは難しいです。日頃からそうした場が保障されていることが重要で,それを積み重ねていく中で「こういうことを言っても大丈夫なんだ」「困っていたら一緒に考えてもらえるんだ」と思えるようになると,ネガティブな感情も含めて思いを共有することに向き合いやすくなる気がします。

批判に対してオープンになることが成長の鍵

松尾 先生がおっしゃった“オープン”には二つの意味があります。一つが,思ったことを何でも言えるという「心理的安心感」。これはリフレクションの基本にもなっています。そしてもう一つが,「批判を受け止めるオープンさ」。経験から学ぶ上では後者が重要であるとされています。

西田 批判されると自分の価値観を否定されたようで,中には批判を受け入れられない人もいます。

松尾 そこは志向性が深くかかわっていて,批判を受け入れにくい人というのは「業績志向」が強い傾向にあるんですよ。業績志向の人は他人からの承認・評価を行動の原動力にしているため,認められずに批判されるとはねつけてしまう。一方,「学習志向」の強い人は,他人の評価ではなく自分の成長・向上を求めているので,自分の成長につながることとして批判を受け入れられるわけです。

西田 業績志向・学習志向という考え方は非常に興味深いです。

松尾 どちらの志向性がより強いかは人によって異なりますが,業績志向には学習志向を阻害する側面があります。実は僕は業績志向が強くて,困っているんです(笑)。ただ,自分の志向性を知っていれば,批判をはねつけてしまったときに「これではいけない」と気づけるので,多少は対処が可能になります。

西田 そこに気づくのは,若いうちのほうがよいのかもしれません。人はいつでも変わるチャンスがあるとは言うものの,看護に限らずネックになりがちなのは,ある程度経験を積んだ中堅以降の人だと思います。その年代の方が変わらないので,組織全体がギスギスしてしまうという相談を受けることがあります。

松尾 そういう人は,職場でもなんとなく腫れ物扱いされていませんか。本人もそれに気づいているから,余計に意固地になってしまっている。どんな人にも得意な面や強みがあるはずです。ですから,そこを生かせる役割を与えたり,頼ったりすることで,居場所を与える。地道ですが,そうして相手を尊重していけると,状況は改善していくのではないかと考えています。

西田 自分のまわりにいる人たちがそれぞれどのような強みを持っているかは,意外とわかっていないことも多いです。以前,職場の全員の名前を書き出して,その人はどんなことが得意か,何をどう頼んだらよいかを現場の看護師さんと考えてみたことがあります。すると,職場には本当にさまざまな人がいるということに皆さん気づけていました。

褒めるときも叱るときも相手と真剣に向き合えているか

西田 もう一つ気になっているのは,「褒めること」と「叱ること」についてです。看護では新人の離職率が高くなった時期があり,厳しく叱ったりせず,褒めて育てようという風潮が生まれました。その結果,叱れない人が増えてしまったのではないかと懸念しています。人が成長していく過程では,叱られる経験が必要なときもあるでしょう。特に看護の場合は人の命がかかわる職業ですから,「やってはいけないこと」があると思うのです。

松尾 おっしゃるとおりです。以前ある派遣会社の方に聞いた話ですが,派遣時代の評判が良くて正規社員として雇用されても,いざ就職したら評判が悪い人が多かったそうです。派遣時代に叱られなかったため,社会人としての基礎力や基本姿勢が身につかなかったからだというのがその方の分析でした。要は一人前に育てる必要がないから,誰も叱らないのです。

西田 叱るということは期待の裏返しとも言えますね。

松尾 はい。ですから,叱ることがいけないことなのではなく,適切な叱り方ができるかどうかが重要なのだと思います。教えるのが上手な人は頭ごなしには叱らずに,「ここまでできているけれども,ここができていないね」「これができればステップアップにつながるよ」「君ならできるはずだ」と,相手のモチベーションが上がるような叱り方をしているんですよ。

西田 相手のことを本気で考えているからこそできることだと思います。それは褒め方にも言えることで,人を叱れない人は,実は褒めることも本気ではできていません。「褒めればいい」から,とりあえず褒めているような印象を受けます。

松尾 褒めなければいけない風潮というのは現場特有のものなのですか。

西田 いえ,基礎教育にも近い傾向はあります。叱る教員は学生から敬遠されますし,叱られると実習に来なくなる学生もいます。そうなると学習が進まないので,何とかして学校に来てもらいたい,卒業させたいということに教員の目が向いてしまう。結果として,適切に指導されずに卒業してしまった学生は,就職してから現実とのギャップに戸惑い,「この病棟は自分には合わない」「ここでは働けない」と言って辞めていくパターンが結構あります。

松尾 一概に,臨床現場だけの問題とも言えないわけですね。

西田 ええ。基礎教育と卒後教育に乖離があることは,以前から指摘されていましたが,実は双方で教える側の考え方に乖離があるのかもしれません。基礎教育で私たちが育てているのは学生ですが,その学生がいずれは専門職として働いていくという部分に,もっと目を向けていくべきだと思うのです。そして連続性をもって看護師を育てていくために,教える側のスタンスやかかわり方について両者で共通の認識を持つ必要があります。

松尾 現場のリアリティを見せられるよう,基礎教育の段階から現場を意識した指導ができるといいですよね。僕らは専門職を育てているわけではないので,学生が就職した後のことを見据えた指導ができているかというとあまりできていません。今の話を聞いて,一般の大学教員も反省すべき点だと感じました。

言葉にして説明する,相手に考えさせる

西田 人としての成長を支え,自らも成長していく上では,個としての「自律」も不可欠な要素だと考えています。どのように自律を促していくのが望ましいのでしょうか。

松尾 経験学習においては,リフレクションが重要な役割を果たします。看護では「思いの共有」や「気づき」といったキーワードを耳にすることが多く,自律に向けた振り返りがすでに積極的に行われていると思います。

西田 確かに振り返りは頻繁に行われていますが,その際「できて当たり前」なことはスルーされがちです。そこにも気づきはあるはずなのに,意味づけが十分になされているとは言い難い。本当に効果的な振り返りを行えているのかという点については疑問に感じることがあります。

松尾 ある企業のマネジャーさんは,ささいな改善や成長をフィードバックするよう心掛けているそうです。頼んだものがいつもより早くできたら,「早めに行動するのは当たり前のことだ」とスルーしてしまうのではなく,「早くできたね」と素直に伝えてあげる。日々の小さな成長に敏感になることが,一つのポイントかもしれません。

 もう一つ大切なのが,行為の意味づけを行うことです。欧米が「言葉にして伝える文化」だとすると,日本は「考えさせる文化」「察する文化」であり,言葉にして説明することが得意ではありません。ある人材育成コンサルタントの方から聞いた話ですが,「ジャガイモを100個むいてくれ」と言われるのと,「このジャガイモはうちの店で一番大事なコロッケを作るためのジャガイモで,むき方次第で味も変わる。100個むいてくれ」と言われるのとではだいぶ印象が違いますよね。

西田 その一言があるだけで,仕事に取り組む気持ちはかなり変わりそうです。説明に長い時間がかかるわけではありませんし,ひと手間を惜しんではいけませんね。

松尾 はい。ただ,考えさせる文化が醸成されているのは日本の良いところでもあるので,そこは残しつつ,時には言葉で伝えていけるようになるといいと思います。実はこのバランスが難しくて,人って教えられすぎると自分では考えなくなってしまうんですね。

 あるグローバルメーカーでは,OJTの際に“Space to think”,つまり相手が考える余地は残すことを大事にしているそうです。育て上手な人は,相手によってその余地の大きさを変えていて,ヒントを与えたりしながら,相手が考えやすいよう導いていくのがうまい。大きな問いを具体的な小さな問いに変換し,最終的には相手に決断させているわけです。

西田 そのためには,指導者側に“待つ力”も求められますよね。すぐに口や手を出してしまうのではなく,適切なタイミングで助言やフォローを行う。相手のことをしっかり見ていないとできないことなので,そうした「積極的な待ち」の姿勢を持てるといいのかなと思います。

「can」を積み重ねる中で,「will」を見つけていく

西田 任せたくても,最近は自分の考えを主張しない人が多いように感じ,どう自律を促せばよいのかわからないという話を聞きます。実際,「就職先に困らないから」「国家資格として認められているから」といった理由で看護師を志望する人もいます。最初から大きな志を持っている人ばかりではないので,少しずつ関心を持っていければいいと思うのですが,いかがですか。

松尾 同感です。よくキャリア教育で使われるのが,「will」「must」「can」です。willは「こうしたいこと」,mustは「しなければならないこと」,canは「できること」。やりたいことって思いのほかわからないものですが,少なくともできることはわかりますよね。ですから,まずは「できること」をこなしていき,自信が持てるようになると,次第にそこを起点にして本人の「やりたいこと」も明確になってくると言われています。心の中にある小さな火種を少しずつ大きくするようなイメージでかかわっていけると理想的かなと思っています。

西田 自律性を育むってそういうことかもしれないですね。そのチャンスを私たちがいかに投げ掛けられるか。問題や失敗ばかりを見ていても人は成長しないので,良いところや,直したり伸ばしたりしていくと良いところ,それら含めた多面的な角度から相手を見て,成長を支えていくことの大切さをあらためて実感しました。

(了)


問題や失敗ばかりを見ていても人は成長しない。良いところ,伸ばせるところを含めた多面的な角度から相手を見て,成長を支えていきたい。

にしだ・ともこ氏
日赤看護大卒。同大大学院博士後期課程(看護教育学専攻)修了。虎の門病院にて病棟,看護教育部での勤務後,日赤看護大助手,講師を経て,2015年より同大准教授。現任教育全般に関心を持ち,特に指導者や新人看護師へのインタビューや参与観察を行い,新人看護師の教育・支援を主要な研究テーマとしている。近著に『新人看護師の成長を支援するOJT』(医学書院)。

まずは「できること」をこなしていき,自信が持てるようになると,次第にそこを起点にして本人の「やりたいこと」も明確になってくる。

まつお・まこと氏
小樽商科大商学部卒。北大大学院文学研究科(行動科学専攻)修士課程,東工大大学院社会理工学研究科(人間行動システム専攻)博士課程修了。英国ランカスター大にてPh.D. (Management Learning)取得。塩野義製薬,東急総合研究所,岡山商科大,小樽商科大,神戸大を経て,2013年より北大大学院教授。『学習する病院組織――患者志向の構造化とリーダーシップ』(同文館出版),『職場が生きる 人が育つ 「経験学習」入門』(ダイヤモンド社)など著書多数。