医学界新聞

2016.05.23



Medical Library 書評・新刊案内


内科診断学 第3版

福井 次矢,奈良 信雄 編

《評 者》長谷川 仁志(秋田大大学院教授・医学教育学)

全ての医学生・医師必携!国際認証評価時代における医学教育の質保証のために

 日本で「医学教育の国際認証評価制度の確立」の動きが本格的に始まってきている2016年2月に,待望の『内科診断学 第3版』が発刊された。8年ぶりに大幅改訂された中身を見て,まさにこのテキストは医学科1年生からの臨床実習前教育から診療参加型臨床実習時,さらには生涯教育まで,すなわち初学者から指導医まで,症候・病態ベースで統合すべき日本の医学教育改革を実現化するバイブルと言えるテキストであり,内科系のみではなく,全国の全ての医学生,医学部教員,医育にかかわる機関の各科指導医の皆さんにお薦めしたい一冊であることを実感した。

 その理由としては,①始めの「診断の考え方」(第I章)と「診察の進め方」(第II章)で医療面接における情報収集スキルの重要性と臨床推論のエッセンス(検査前確率,尤度比など)と信頼を確立するために必要なコミュニケーションンスキルなどについて,カラー図表が駆使されて初学者でもわかりやすくまとめられていること,②続いての「症候・病態編」(第III章)で,発熱,全身倦怠感,めまい,頭痛,胸痛から精神領域の救急まで,何科の医師としても実践対応が可能になるよう修得すべき約100の必須症候・病態について,患者の訴え方,医療面接,身体診察,確定診断のポイントなど臨床各分野横断的な統合教育を展開するために適した内容が,幅広く網羅されていること,③購入者は,本文を収載した付録電子版も利用でき,いつでもどこでもネットを介して読むこともできるようになったことが挙げられる。特に,①②については,医師の資質・人間力を養う「プロフェッショナリズム教育効果」も高く,この観点からも有用であることを強調しておきたい。

 評者の大学では,2010年頃から本テキスト(第2版)を入学直後の1年生全員が指定教科書として共同購入し,入学直後から通年で症候ベースのPBL/TBL形式で基礎医学,臨床医学,臨床推論・医療面接コミュニケーション,医療行動科学,プロフェッショナリズム教育を統合させる講義を展開してきた。本テキストの活用により,入学直後からの医学に関する自己学習も容易に導入することができ,1年生全員への臨床推論・医療面接OSCEも年4回実施することが可能となった。今後の国際認証評価時代には,大学のみならず関連病院の各科指導医の皆さんにも普及し,日本社会のニーズに合った教育展開をめざしていきたいと考えている。ぜひ,全国の全ての医学生,医学教育にかかわる全ての機関の指導医の皆さんにお薦めしたいテキストである。

B5・頁1066 定価:本体9,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02064-0


スピリチュアル・コミュニケーション
医療者のための5つの準備・7つの心得・8つのポイント

岡本 拓也 著

《評 者》野口 忍(北摂総合病院退院支援担当看護師長・在宅看護専門看護師)

全てのケア提供者の心を軽やかにしてくれる一冊

 「岡本拓也スピリチュアルシリーズ」(勝手に命名),待望の新刊です。

 評者は大阪府がん診療連携拠点病院,地域医療支援病院である北摂総合病院の法人内の訪問看護師として2000年から2015年1月末まで,多職種と協働しながらがん・非がんの終末期にある方,約200人の在宅看取りをさせていただきました。

 本書にもありますように臨床では,しばしば患者さんから「私だけがどうしてこんな病気になるの?」という,That’sスピリチュアルペインな言葉を投げ掛けられます。まず答えようのないライフ・イシューな問いですが,われわれケア提供者は「何か気の利いた答えを言わなければ!」と葛藤しがちです。

 そんな時,本書の滋味豊かな,5つの準備・7つの心得・8つのポイントを踏まえて,自らの実践を内省しつつ,読み進めることをお勧めします。

 特に第3章の「心得③対等な人間として向き合う――同じ弱さを抱えた人間として寄り添う」の項が本書のキモ(勝手に宣言)です。この本を手に取る方には,既知の心得でしょうが,的確に言語化されることで,より意識して実践できるようになるでしょう。

 これらの準備・心得・ポイントを日々実践することで血肉となり,ひいては人間力の涵養につながり,明日からの臨床で対患者さんだけではなく,多職種間のコミュニケーションまでもが,よりスムーズになり得るのです。

 岡本先生の丁寧で温かな言葉遣い,平易な文章,柔らかな挿画と相まって,全てのケア提供者の心を軽やかにしてくれることでしょう。

A5・頁188 定価:本体2,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02529-4


理学療法 臨床実習サポートブック
レポート作成に役立つ素材データ付

岡田 慎一郎,上村 忠正,永井 絢也,長谷川 真人,村上 京子,守澤 幸晃 著

《評 者》前野 竜太郎(常葉大准教授・理学療法学)

先輩の経験や思いが詰まった待望の一冊

 「自分たちが学生の時に欲しかった内容をこの一冊に詰めました」という言葉が,この書籍の帯に記されている。この本のコンセプトはまさにここにある。臨床実習という,学生にとっての最難関科目において,生きるか死ぬかの苦労をされた先輩の経験や思いが詰まった,現役の学生さんや社会人学生さん向けの待望の一冊と言える。

 この本は,実習生なら必ず1週間前に行わないといけない臨床実習指導者への連絡や,実習に向けての必要物品の確認から始まり,バイザーおよびスタッフとのコミュニケーションの取り方,デイリーノートの書き方,わからない臨床上の疑問への対応,そしてレポートの作成方法,発表レジュメの作成方法,最後に実習終了後のお礼状の書き方まで,学生が施設で実習を始めようとするとき,「どうしよう,わからない!」と不安になることへ,できる限り応えようとしている労作である。

 ただし,ここまで懇切丁寧に書かれた一冊をもってしても,臨床実習は甘くはないのが現実である。その原因は,病院・施設ごとに評価治療の基準の細部に独自性があり,その異なる基準の中に,外部から実習生として入り,短い時間で適応していかないといけないからである。よって,臨床実習を進める上で一番問題になるのは,多くの場合,実習生と,バイザーを中心とした医療スタッフとのコミュニケーションである。これは,バイザーがいかに感じているか,そしてそれを実習生の側が感じとることができるか,という,なかなか説明が難しい感性の問題でもある。その辺りの感性の世界の一端も,この本では,漫画も含めてわかりやすく紹介されている。

 臨床実習の本質は,医療の世界,ひいては理学療法の世界に入るために必ず身につけないといけない儀式・儀礼をいかに理解し,適応し,加えて行動に移すか,にある。独特な医療文化をくぐり抜けることなしに,一足飛びに医療人,そして理学療法士になるのは不可能である。もし学生さんたちが,医療系の「社会人」というものがどんなものか知りたいのであれば,この医療の世界独特の通過儀礼を知ることが必須である。

 社会人学生を含め学生にとって大切なのは,それまで学んできたこと,自らのこだわりや自我といったものを,いったんカッコにくくって脇に置き,指導者に従ってみることである。それが実習をうまく運ぶ一番の近道なのかもしれない。臨床実習は,終わってみれば,ほんの通過点にすぎない。これで人生が全て決まるわけではないし,生死が決まるわけでもない。もしさまざまなよしなしごとで,理不尽を感じ,疑問に思ったことがあったとしても,バイザーに合わせて頭の中で上手に整理し,対応できればそれが一番であろう。まずは,常に何かを学ぼうとする意欲と,日々の誠実な対応を忘れないよう心掛けよう。そうして苦闘する日々の中で,思わぬところでこの労作が支えてくれるかもしれない。この本をひもといたとき,何かがひらめいてくるかもしれない,そんな一冊である。

 最後に。臨床実習指導者の皆さま,この書籍をぜひ参照いただき,日々誠実に学ぼうとしている実習生を,時には優しい大きな背中で見守ってあげてください。皆さんの学生時代を思い出しつつ。

B5・頁224 定価:本体3,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02413-6


JRC蘇生ガイドライン2015

一般社団法人 日本蘇生協議会 監修

《評 者》外 須美夫(九大大学院医学研究院教授・麻酔・蘇生学)

不慮の死からよみがえるための国民の福音書とも言えるもの

 本の価値はいったい何で決まるのだろうか? わかりやすく言えばそれは,その本によってどれだけの人が救われるかということではないだろうか。そして,救われるのが死にひんして助かる命だとしたら,その本の価値は何にも代え難いものだろう。この本がまさにそんな本だ。

 人ががんや寿命で死ぬとき,人は死を自覚し,死を受容し,受容しないまでも納得して,諦めて,死ぬことができる。しかし,突然の病気で死に至るとき,あるいは不慮の事故に巻き込まれて死に至るときは,死を思う時間さえも与えられない。人生を振り返る時間もない。だから,突然の死からできるだけ多くの人を救ってあげたい。全ての医療者は,いや全ての人々は,家族は,そう願っている。その願いを叶えるのがこの本だ。

 本書は,突然襲う心肺停止から人をどのように救ったらよいのかを,科学的に,医学的に,そして経験的に示した手引書である。

 本書は日本蘇生協議会(JRC)が精魂込めて作成したものである。野々木宏編集委員長(静岡県立総合病院院長代理)をはじめ総勢188人からなる編集委員や作業部会員の汗の結晶でもある。AHA(米国心臓協会)やILCOR(国際蘇生連絡委員会)の冠が付いたガイドラインではなく,JRCを頭に置いているところに注目したい。もちろん,国際的なコンセンサスに沿ってはいるが,わが国の実情に即して日本の国民のために,あえてJRCが策定したものである。

 蘇生科学領域におけるわが国の役割は近年急増している。それは長年にわたって全国的な院外心停止大規模データベースの収集と解析がなされ,多くの有意義な蘇生情報を国際発信してきたことに裏付けられている。また精力的に市民への蘇生活動普及が図られ,蘇生実施率向上などの効果を上げつつある。

 本書には,市民用BLSアルゴリズム,医療用BLSアルゴリズム,NCPR(新生児蘇生法)アルゴリズムなど,最新のアルゴリズムが提示されている。本書には推奨と提案に対するPICO質問形式やアウトカムとエビデンス評価に対するGRADEシステムが導入されている。さらには,ファーストエイドや蘇生法の普及・教育への提言も盛られている。まさに蘇生の百科事典と言っても過言ではない。

 本書は,目の前で急変する患者を救わなければならない全ての医師,全てのメディカルスタッフ,医学生,そして救急救命士たちの良き手引き書となるであろう。いや市民一人ひとりもこの本に教えられ,また救われるだろう。本書は,不慮の死からよみがえるための国民の福音書とも言えるものである。

 わが国で心肺蘇生法の普及に長年尽力されてきたJRC名誉会長の岡田和夫先生(本書顧問)も出版をきっとお喜びのことだろう。岡田先生に心から感謝申し上げたい。

A4・頁592 定価:本体4,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02508-9


ジェネラリストのための
外来初療・処置ガイド

田島 知郎 編
千野 修,田島 厳吾 編集協力

《評 者》北川 雄光(慶大教授・一般・消化器外科学)

真のジェネラリストの在り方を問う珠玉の道標

 昨今,臓器別,領域別の専門分化が高度に進み,自らの専門分野で極めて高い診療能力を持ちながらも,ジェネラリストとしての守備範囲が狭い医師が増加している。現在,新専門医制度の発足を前に,基本領域として新設される総合診療専門医の医師像,研修プログラムの在り方が議論されているところである。“真のジェネラリスト”の医師像がいかなるものか大変注目を浴びているこの時期に,本書はそれに対する一つの具体的な回答を示す形で,絶妙のタイミングで出版されたと言えよう。

 本書は,領域横断的に,基本的な手技や比較的簡素な医療機器を駆使して“手を動かし,頭を使って”初療に当たる真のジェネラリストのあるべき姿を示してくれている。精緻な画像診断や詳細な血液分析結果に頼る前に,あるいは患者に触れる前から何かを察知する能力までも研ぎ澄ますことを提唱している本書は,「当直マニュアル」などのレベルをはるかに超えた,医師としての基本的素養,哲学を伝えてくれていると言えよう。明解な図や貴重な実地臨床における写真を的確に駆使して解説し,「コツとアドバイス」に込められたエッセンスは,まさに最前線の現場でしか得られないジェネラリストたちの生の声が伝わってくる。積極的にかつ興味を持って初療に取り組む若手医師の勇気と知識,技能を後押ししてくれる本書の編者田島知郎博士(東海大名誉教授)は,米国で長く外科研修を積んだ後,日米両国で世界最高レベルのsurgical oncologistとして指導的な立場で活躍されたジェネラリストの基盤を持ったスペシャリストである。米国の医療現場の待ったなしの救急,初療で培った編者の医師としての哲学,しっかりと手を動かして初療を行うことのできるジェネラリスト育成に対する熱い思いが伝わってくる。私自身もスペシャリストとしての到達点の高さは,ジェネラリストとしての基盤の広さに立脚して決まってくると信じている。

 本書は,初期臨床研修医,総合診療専門医のみならず全ての基本領域専門医研修を志す医師,そして現場の指導者たちがその“医師としての基盤”を生涯維持するために必携の名著である。

B5・頁312 定価:本体8,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02420-4

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