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第3172号 2016年4月25日


Medical Library 書評・新刊案内


ベナー 看護実践における専門性
達人になるための思考と行動

パトリシア ベナー,クリスティン タナー,キャサリン チェスラ 著
早野 ZITO真佐子 訳

《評 者》山本 則子(東大大学院教授・健康科学・看護学)

ナラティブを通して看護実践が見えてくる

 本書はベナー,タナー,チェスラによる『Expertise in Nursing Practice:Caring, Clinical Judgment and Ethics』(第2版,2009年)の邦訳で,原著は『From Novice to Expert』(第2版,2001年)1)と(『Clinical Wisdom and Interventions in Acute and Critical Care』(第2版,2011年)2)の間に書かれている。看護師のスキル獲得の5段階について,『ベナー看護論』の枠組みがさらに詳細に検討されており,最後には,今回の知見に基づき今後の看護教育のあり方を提言している。クリティカルケア領域の看護師130名へのインタビューと参与観察によるデータを,解釈学的現象学の手法を用いて分析した結果である。

 看護実践を,各種理論の専門的活用という視点だけで理解することに,ベナーは一貫して警鐘を鳴らす。看護は,生物学的知識や心理社会的な理論を用いつつも,個別の文脈において患者への深い共感と善をなす態度の基で具体的に展開される実践であり,経験的な学習の蓄積により初めて成長できる。ベナーらは,看護実践の知や専門性は形式理論にすることはできないと主張し,代わりに看護を特徴付ける中心的なテーマとナラティブおよびその解釈を紹介している。テーマの言葉に説得力がある。

 分析は多岐にわたり,なるほどと思う点がいくつもあった。看護師の成長にとって「一人前」からの学びと「中堅」への移行が重要であること。エキスパート看護師の臨床判断は原理原則やエビデンスにのっとった機械論的な思考過程ではないこと。このような機械論的な思考は「初心者」や「新人」の思考モードであって,スキル獲得の段階を踏むにつれ,臨床判断は個別事例の文脈の中に埋め込まれた思考プロセスそのものとなり,さらに,意識的な思考プロセスを経ない直観的な判断になること。また,医療チームの中でのコミュニケーションによって学ぶ知識と看護師の成長〔「ナラティブを通じて他者の経験から学ぶ」(p.347),「卓越性についての集合的なビジョンと当然と思われている実践の共有」(p.365)〕についての記述も興味深かった。

 本書は達人レベルの看護実践の検討解説にとどまらず,看護教育への提言に進んでいる。病気のナラティブや新人・達人のナラティブを教育に用いること,講義室での理論的学習と現場での経験的学習を近付けること,かかわりのスキルを学習すること,社会的に埋め込まれた実践として看護を理解すること,倫理的態度として看護を教えることなどが主張されており,日本の看護学教育が今後深く学ぶ必要がある内容と思われた。

 分厚い翻訳書で全文を読み通すのは大変だし,内容は平易とは言い難い。しかし,看護実践に対する深い理解と言語化,現象学的人間観に基づく看護実践と看護がなし得ることへの深い洞察,研究にとどまらずその知見を看護教育に活用してゆく積極性など,ベナーという研究者に学ぶことがいかに多いかを改めて感じた。本書もいくつもの箇所でそうだそうだと思いあたり,語り合いたい同僚の顔が次々と浮かんだ。日本の看護にもこのような分析がいつか生まれることを願う。

参考文献
1)パトリシア ベナー.ベナー看護論 新訳版――初心者から達人へ.医学書院;2005.
2)パトリシア ベナー,他.ベナー 看護ケアの臨床知――行動しつつ考えること.第2版.医学書院;2012.

A5・頁724 定価:本体5,600円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02087-9


認知症ケアの考え方と技術 第2版

六角 僚子 著

《評 者》松岡 千代(佛教大教授・老年看護学)

幅広い読者を対象とした,ケアの優れた指南書

 本書は2005年に初版が発行され,このたび新しく改訂されました。著者もあとがきに書いているように,この10年において認知症そのものや,ケアに関する考え方が大きく変化しました。超高齢社会に突入した日本において,認知症はもはや国民的な病であり,子どもから高齢者までが知っておくべき時代が来たと言えるでしょう。本書は,病院や施設のケア専門職だけではなく,認知症のことをよく知らない介護者や一般の方も活用できるものです。

 まず本書の印象は,何よりも読みやすく,全編にわたって認知症者に対する著者の愛が溢れているということです。一般の専門書のように難解な専門用語が少なく,柔らかいイラストとともに話し言葉でわかりやすく書かれています。そうした意味で,認知症者の介護を始めたばかりの介護者,地域の民生・児童委員や自治会の方々,そして一般の方への入門書として適していると言えるでしょう。

 一方で,認知症者のケアに携わるケア専門職にも活用できる知識や技術が豊富に提示されています。認知症の病態やアセスメントなど,認知症ケアにおいて重要な専門的ポイントについては,第1章「自分の世界を生きる認知症者」などできちんと学ぶことができます。認知症者のケアにおいて,われわれケア専門職は簡単に「その人らしく」「安全・安楽」に「残存能力を引き出して」「寄り添ったケア」をしますと言いがちです。しかし本当にその本質を理解してケアができているのでしょうか。著者は,「あるある」事例をコラムとして提示してそれを解説する中で,読者にそのことを突き付けます。そして「当たり前」「わかったつもり」のケアについて,認知症者の特徴に応じた工夫がまだまだできることを,第4章「認知症ケアの基本的対応」と第5章「認知症者の日常生活をさせる援助技術」として具体的に提示してくれます。さらには,これまであまり触れられてこなかった認知症者のセクシュアリティ(第7章)について,人としての「自己表現」や生きるパワーが秘められていることに気付かされます。

 認知症ケアの根本には,第3章「認知症ケアに求められる姿勢」として,その考え方が重要であり,「良いケア」ができたかどうかは,ケアの鏡として認知症者のありよう(さま)に反映されることが示されています。介護施設や地域・在宅でのケアだけでなく,病院での認知症ケアを見直す機会となるのではないでしょうか。

 本書は,認知症ケアの学術書や研究書ではないかもしれません。しかし,時々に語られる認知症者との豊富で心温まるエピソードから,認知症ケアに求められる考え方,姿勢・態度について,あらためて考えるきっかけとなるでしょう。また,ケアの本質的な内容が凝縮されており,具体的で活用できる技術も豊富であることから,一般からケア専門職まで幅広い人を対象としたケアの指南書として優れていると思います。

B5・頁180 定価:本体2,400円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02194-4

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