MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2016.02.15
Medical Library 書評・新刊案内
解剖と正常像がわかる!・疾患と異常像がわかる!
エコーの撮り方 完全マスター
種村 正 編
《評 者》山中 克郎(諏訪中央病院内科総合診療部/院長補佐)
この2冊を熟読して超音波が似合うかっこいい医者になろう
救急室での診療がかっこいい医者とそうでない医者がいる。その境目は何なのか? 彼らはおしなべてエコーを有効に使っていることに気が付いた。プローブを握る姿がかっこいいのではない。エコーを使いこなし,適切に診断する,そのスピード感にしびれるのである。
スマートフォンの小型化と機能の向上を考えると,聴診器と同じように携帯型エコーを誰もが持ち歩く時代が来るのかもしれない。先進国の中でも日本はCT撮影が多く,癌患者の100人に3人は医療被曝が原因との推計もある1)。ちなみに他の先進国では100人に1人である。医療被曝を減らすためにも,ベッドサイドで行う安全なエコー検査はもっと普及するべきだろう。
本二書は超音波診断にあまりなじみのない医師にとっても,「超音波ビームがどこから,どのように臓器を横断しているから,エコーではどう映っているか」が「エコー画像,シェーマ,解剖図,被験者写真の4点セット」でわかりやすく示されている。執筆陣は検査技師の皆さんである。さすが専門家だけあってワンポイントアドバイスや陥りやすい誤りに対するノウハウがふんだんに示されている。
プローブの持ち方から始まり,肝胆膵脾,腎臓,前立腺,子宮,消化管,心臓,血管,乳腺,甲状腺,唾液腺,関節まで幅広く基本手技が解説されている。救急診療でよく遭遇する急性胆囊炎,水腎症,急性虫垂炎,急性心筋梗塞,腹部大動脈瘤,深部静脈血栓症について,典型像とエコー所見,明確なアドバイスが記載されているのはありがたい。
最近では救急医療,外来診療,往診の場での迅速な超音波診断や処置(Point of Care)をもっと普及させようとする動きが日本でも広まりつつある。整形外科領域では盛んに超音波を用いた診断が行われている。肋骨骨折や肩の滑液包炎の診断に今やエコーが欠かせない。臨床の現場に出たばかりの初期研修医にも非常に有効な武器となるだろう。
エコーの達人による患者への優しい心遣いと,適切なプローブさばきが醸し出す雰囲気には静かな自信と迫力が感じられる。超音波検査は術者によって所見が変わるというイメージは根強い。しかし,聴診だってそうじゃないか。訓練を重ねなければ,微細な心雑音は聞こえてこない。この2冊を密かに熟読してトレーニングを積み,超音波診断が似合うかっこいい医者になろうではないか。
[解剖と正常像がわかる!]
AB判・頁272 定価:本体5,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02018-3
[疾患と異常像がわかる!]
AB判・頁280 定価:本体5,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02381-8
1)Gonzalez AB, et al. Risk of cancer from diagnostic X-rays : estimates for the UK and 14 other countries. Lancet. 2004 ; 363(9406): 345-51.[PMID : 15070562]
帖佐 悦男 編
《評 者》菊地 臣一(福島県立医大理事長/学長・整形外科学)
スポーツ医学の最前線・その集大成
超高齢社会を迎えている今,国民の健康に対する関心が高まっている。EBM(Evidence-Based Medicine)は,健康の獲得や維持に運動が深く関与していることを明らかにした。体を動かすことが,寿命,がん,認知症などの健康障害に良い影響を与えることが,関係者の地道な啓発活動により,国民の間にも浸透し始めている。
一方,「体を動かす」ことの象徴としてスポーツ活動がある。近年のスポーツ科学の発達は,トレーニングをはじめ,スポーツの在り方にさまざまな変革をもたらしている。
スポーツ愛好者や競技者への医療に関して,従来の医療は大きな問題を抱えていた。それは,スポーツの医療を,診療現場での医療と同じように対処していたことである。
臨床の現場でも,いまだに「安静」が治療手段として用いられていることが少なくない。EBMでは,「結果」としての安静は別にして,「治療」としての安静には,有効性は認められていない。すなわち,現在の治療では「守りの医療」は,特別な理由がない限り意味を持たない。
一方,スポーツ競技者の医療では,積極的な「攻めの医療」で対処する必要がある。選手に,「競技を休め」と言うのは,一歩間違えると,レギュラーの座からの転落や選手生命の終わりを意味する。スポーツ競技者が,代替医療に流れる大きな理由の一つがここにある。
こんな世情の中,帖佐悦男先生を代表とする宮崎大整形外科の方々によって本書が刊行された。同大整形外科学講座は,田島直也名誉教授が現役の時代からスポーツ医学に関心を持ち,現場と一体となってスポーツ医学の最前線に立って今に至っている。本書はその集大成でもある。
本書は,スポーツ医学における近年の画像診断の劇的な進歩を積極的に紹介している。また,スポーツによる外傷や障害の診療上のポイントを本書の中で提示し,診療を受ける側への実際の対応も掲載している。
もう一つの特徴は,詳細な症例提示を一つの章として構成している点である。豊富な経験を有している講座ならではの目次立てである。
運動が健康に重要な役割を果たしていることが明らかになった今,本書は,スポーツ医学とその実践をこれから学ぶ人間には良き入門書として,専門家には自らのknow-howの確認と錬磨の書として推薦できる。8000円は安くないが,その価値はある。
B5・頁228 定価:本体8,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02195-1
平井 康夫 総編集
矢納 研二,則松 良明 編
《評 者》青木 大輔(慶大教授・婦人科腫瘍学)
形態学による子宮内膜細胞診のアプローチ
子宮内膜細胞診は非常に難しいと常々感じている。判定者間の再現性が高いとは言えず,世界的にみてもコンセンサスを得られた検査法としては確立されているとは言い難い。本書のイントロダクションにもあるように,日常的にこの検査を行っているのはほぼ日本のみであろう。その日本においても細胞診所見の判定基準に統一した見解を持ち得ていない。
現在,わが国では子宮内膜細胞診の所見についてどのように記載し判定していくか,どこまで統一見解を持ち得るものかを模索している。めざすべき方向としては,有意な所見とされるものに再現性や科学的な根拠があるかどうかを検証し,また内膜細胞診が子宮内膜癌の診断や検出にどのように寄与し得るか否かについても臨床的な取り扱いとともに科学的に検証することであるが,今回はそのプロセスの第一段階ともいうべき取り組みとして,たたき台となる最も重要な判定の枠組みの提示をしていただいた。
本書は多彩な細胞診の顕微鏡写真を掲載することによって,この第一段階がどのようなイメージのものであるかを可視化したものである。本書の画像や説明をもって納得される方もいれば,あるいは相いれない意見を持たれることも,現段階では十分許容されるものである。特に内膜細胞診の判定をする際に最も悩ましいグレーゾーンを,さらに良性ととらえられるべき範疇の中の変化と悪性疾患が疑われる変化に分けて,その特徴についても詳述している。現行のsuspiciousとの判定を行っているものにとってみればかなり大胆なchallengeである。そして数多くの方々が本書に目を通し,オープンな場での議論が始まるのを惹起することこそが本書の真の狙いであろう。この機会を提供してくれた執筆陣諸氏の,「内膜細胞診をどうにかしたい」という一念からの無私な努力に敬意を表し,広く,婦人科腫瘍学に携わる方々,もっぱら病理診断を専門とされる方々,細胞診に携わる職種以外の方々にもぜひご一読いただき,意見をいただければと思っている。
内膜細胞診の試みが始まった当初に比べ,今日では形態学を中心とした臨床検査の分野にも組織化学などの手法の導入が可能になったり,細胞診にもさらに分子生物学的手法が用いられるようになった。この段階で,形態学による内膜細胞診のアプローチの可能性とその限界を把握しておくことは,新たな手法とのすり合わせをどう考えていくかを準備するためにも重要である。今後,オープンなディスカッションを経て,本書がどのように変遷していくかは現在未知数であるが,本書の指針である細胞診ガイドラインとともに広く活用され,検査室ではすぐに手に取って一読できる書籍になることを希望している。
B5・頁176 定価:本体10,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02409-9
診断力強化トレーニング2
What's your diagnosis?
松村 理司 監修
酒見 英太 編
京都GIMカンファレンス 執筆
《評 者》清田 雅智(飯塚病院総合診療科診療部長)
「われわれは症例からしか学ぶことができない」
前著『診断力強化トレーニング』に引き続き,7年の歳月を経て出版された待望の続編である。監修者である松村理司先生が第1弾の序文の中で述べられていた,日本の臨床研修で不足しているのが「診断推論の徹底した訓練」であるという指摘は,現在でも続いていると感じる。この涵養には多くの医師は10年ほどかかるのではなかろうか。
初期研修では,病歴聴取の型やコモンな疾患に関する一般的な知識を習得することが可能であるが,後期研修を終えたとしてもまれな疾患は遭遇する機会に乏しく,そのような疾患は鑑別の仕方もわからないものである。より深い臨床上の疑問や知恵というのは,ケースカンファレンスで扱われる類いまれな疾患や,コモンな疾患のまれな徴候への洞察により生まれる。そのための教育手法はcase discussionであると私は思っているが,この環境がなかなかできない。私は京都GIMカンファレンスには出席したことがないのだが,その環境ができているであろうことをこの本から察することができる。
熟練者の思考プロセスを敷衍(ふえん)することが,臨床教育上最も重要であり,そのシラバスとして前書と本書が存在していると私は考えている。通常の診療をしていても,おそらく10年に1回程度しか経験しない症例から臨床上の深い知恵が生まれるが,その経験には時間と空間を必要とする。この本は実は時間を買っているのである。Clinician educatorをめざす医師はcover to coverで熟読すべき必携の本であろう。編者である酒見英太先生が発案されたClues,Red Herring,Clincher,Clinical Pearlsという,前書から引き継がれている体裁にこの本の深みを感じ取るヒントがある。病歴と身体所見,付け加えられる検査所見(病歴と身体所見があくまで情報の中心というコンセプトは随所に垣間見られる)を同じように見せられても,初学者と熟練者では見ているところが異なることに気付かない。適切な指南者がいて症例から学ぶべき道筋が得られるものであり,それがこの体裁に現れている。ともすると堅苦しくなりがちなケースカンファレンスを,その強引とも言えるタイトル命名!(このあたりは関西人の発想であろう)とその種明かしというオブラートで楽しく包んでいる。
講演で「われわれは症例からしか学ぶことができない」と酒見先生がおっしゃる。その真意がこの本にはちりばめられていると感じている。参考文献も含めて十分な考察がなされている本書のコンセプトは,William B. Beanの『Rare diseases and lesions: Their contributions to clinical medicine』(Charles C. Thomas. 1967)に匹敵するのではないだろうか。
B5・頁256 定価:本体3,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02169-2
吉村 長久,後藤 浩,谷原 秀信 シリーズ編集
杉山 和久,谷原 秀信 編
《評 者》阿部 春樹(新潟医療福祉大教授・眼科学)
緑内障治療の新しいスタンダードを網羅した実践書
この度,医学書院より《眼科臨床エキスパート》シリーズの一冊として,杉山和久先生(金沢大教授・眼科)と谷原秀信先生(熊本大教授・眼科)が編集された『緑内障治療のアップデート』と題する書籍が発行されました。
わが国における最新の緑内障治療を概観すると,薬物治療・レーザー治療・手術治療は,いずれも変化が著しく大きく発展してきました。薬物治療では新しい緑内障治療薬が開発され導入されたり,手術治療ではチューブシャント手術が保険適用となったり,流出路系の新しい術式が次々開発され,いずれも大きく発展してきました。
ところで日本緑内障学会で編集・出版した緑内障診療の指針とも言うべき『緑内障診療ガイドライン』も,第3版が出版されてから4年が経過し,日進月歩の緑内障診療の進歩を考慮すると,改訂が必要な時期に来ておりますが,まだ第4版は出版されておりません。
本書は『緑内障診療ガイドライン』の知識をアップデートするとともに,病型別に薬物治療から手術治療への指針を示し,実際の薬物治療の処方例の解説や,手術については従来からの濾過手術や流出路手術の解説に加えて,近年わが国に新しく導入されたエクスプレスや,チューブシャント手術そして新しい流出路再建手術の適応や,実際の手術テクニックや,コツと落とし穴,そして合併症対策などを,動画を用いてわかりやすく解説しています。
さらに本書では最新の情報を網羅して,緑内障専門医のみならず眼科専門医・専門医志向者が読むにふさわしいアップデートされた緑内障治療のスタンダードとなる指針を提供してくれているのに加え,現在の世界の緑内障治療に関するスタンダードと最新情報,そして日本の緑内障エキスパートである執筆者の経験に基づいた読み応えのある解説が網羅されています。
現在,緑内障患者を治療する機会を有する眼科医は,本書を診察室に常備して,個々の患者に対して,現在最適だと思われる治療を提供していただきたいと思います。
本書を,現在の緑内障治療の新しいスタンダードを網羅した実践書として,心より推薦させていただきます。
B5・頁424 定価:本体17,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02379-5
坂本 穆彦,北川 昌伸,菅野 純 著
《評 者》三上 哲夫(東邦大教授・病理学)
医学生から初期研修医まで使用できるアトラス
2008年に初版が発行された,『組織病理カラーアトラス』の第2版が刊行された。初版の序に書かれているように,本書は基本的には医学生を対象に編集されたものである。本書の旧版は病理組織実習の携行書として多くの医学生に使われていたが,今回の版もその基本的なところは継承しており,総論・各論に分けて,その両方を行き来しながら病変と疾患の概念の理解を深めていけるように配慮している。扱っている項目は基本的に変わりないが,この7年間で変化した用語や概念に対応しており,いくつかの点で明らかな違いが指摘できる。例えば,子宮頸部の重層扁平上皮の腫瘍性病変は,旧版では「異形成-上皮内癌-微小浸潤癌-浸潤性扁平上皮癌」と項目立てされているが,新版では「子宮頸部上皮内腫瘍-微小浸潤癌-浸潤性扁平上皮癌」となっており,cervical intraepithelial neoplasia(CIN)の用語,概念を前面に出した記載となっている。同様のことは膀胱の尿路上皮性腫瘍や,甲状腺低分化癌などの記載にもうかがえる。また,医学生にとって理解しにくいと思われる非上皮性腫瘍について,旧版では総論の部分でさまざまな腫瘍を紹介していたが,新版では総論での記載を最小限とし,個々の腫瘍の紹介は各論に移している。この新版の配置のほうが医学生には使いやすいと思う。
実際にページをめくってみると,総論はさらに代謝障害,循環障害,炎症,腫瘍などの章に分けられており,そのうち,例えば循環障害の章では,出血,浮腫,血栓などの項目が基本的に1項目1ページで扱われている(重要な項目は数ページに及ぶところもある)。各項目ごとに冒頭に「概念」として簡潔な説明がまとめられ,その後に項目の説明文が続き,代表的な1から数枚の組織像が簡単な説明文とともに提示される。各論部分も基本構造は同様で,こちらは臓器ごとの章となっているが,各項目では冒頭に「疾患概念」としてその疾患についてまず理解しなければいけないことがまとめてあり,続いて「病理診断のポイント」として診断上の重要所見が説明され,さらに写真,という配置になっている。各論部分で工夫してあるのは,各章の最初に「基本構造のチェック」という項目が置かれ,簡単な模式図とともに臓器の正常構造の説明がなされている点である。医学生は以前に学習したマクロ解剖学と組織学の知識を忘れていることが多いため,このページは自己学習に有効であろう。組織写真は旧版同様見やすく,大きく配置されており理解しやすい。
各論が病理診断の対象となる病変を主体に構築されていることもあってか,全身病における病変の紹介がやや少ない印象がある。例えばアミロイドーシスは「タンパク変性」のページでアミロイド変性としてわずかに扱われているのみである。また,1型糖尿病が各論「内分泌」の章で1ページ扱われているのに対して,2型糖尿病は扱われていない。糖尿病性腎硬化症を「腎・泌尿器」の章で扱っているので,2型糖尿病におけるランゲルハンス島の変性所見も載せてほしいと思うのだが,総論・各論のどこに入れるかが悩ましい。次の改訂のときにはこれらもお願いしたい。
全体として見ると,医学生にぜひ病理組織像を含めて理解してもらいたい病変は網羅されており,卒後も初期研修医ぐらいまで使用できるアトラスとなっている。後期研修医以降での専門領域での病理学の勉強にはそれぞれの専門書が必要となるが,本書はそれまでの基本を学ぶためのアトラスと位置付けることができよう。
B5・頁416 定価:本体10,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02143-2
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