序
本書は,
「臨床整形外科」誌に45巻11号(平成22年)から48巻11号(平成25年)まで連載した「成長期のスポーツ外傷・障害と落とし穴」を再構成し,大幅に加筆してまとめています.編集の契機は,私が日本整形外科学会学術総会においてスポーツ外傷・障害の画像診断について講演した際,それらの症例を連載するようご指示いただいたことにはじまります.発刊にあたりまして,連載の機会を与えていただきました同誌編集委員の菊地臣一先生(福島県立医科大学理事長兼学長)をはじめ編集委員ならびに関係各位に御礼申し上げます.
今日,宮崎大学医学部整形外科学教室では関連病院を含め多くのスポーツドクターが診療を行っています.また,同大附属病院は地方の600床規模の病院ですが,整形外科の外来数も比較的多く,スポーツ外傷・障害をはじめとした運動器疾患のさまざまな手術を行っています.年間約1,300件以上行っている年度もあるので,それは本当に多様な疾患に遭遇します.多くの症例を経験すると診断に難渋する症例にも遭遇しますが,診断する医師にとっても患者さんにとっても早期診断・早期治療が重要です.特にアスリートにとっては,早期診断・早期治療により1日でも早いスポーツ復帰が可能になります.診断する側では,「後医は名医」と言われるように,後出しじゃんけんで診断し治療することは容易ですが,実臨床の第一線の現場で診療にあたっておられる医師は,診断に難渋することも多いと思います.さらにMRIなど画像機器の目覚しい進歩により診断技術が向上しているため,医療面接や身体所見を十分とらずに診断し,主病因の診断を誤る結果に陥るケースもあります.
そこで,少しでも先生方の初診時画像診断に役立つことを目的に,成長期を中心に画像診断の大切さをコンセプトにまとめました.医師のみでなく,メディカルスタッフにとっても,画像診断は客観的に知識・情報を得ることで「落とし穴」に陥る可能性を少なくすることができます.もちろん診断に際しては,医療面接(問診)や診察(身体所見)が最も大切なことは自明であり,そこである程度疾患は予測できますが,確定診断,鑑別診断,治療方針の決定や治療後の評価に画像診断は必要不可欠です.
また本書では,実臨床で役立つようスポーツ外傷・障害の診療に必要なことを若手医師の意見を踏まえ構成しました.診察に際しての注意点を「肝」として記載し,さらに診療に際し患者(選手),保護者や指導者などからよく質問を受けることを「アドバイス」として記載することで,日常診療で役立つ書となるよう次のように編集しました.
項目として,
第I章ではスポーツ診療の基本として,「スポーツ外傷・障害 みかた・考え方」として,スポーツ外傷・障害の診療をする際に必要な画像診断の基本と,競技特性や年代別の画像上の特徴や注意点について記載しました.第II章では画像の基本的な撮影法として,モダリティや撮影法の特徴,TipsやPitfallに陥らないためのポイントを記載しました.第III章は,患者が受診した際の主訴を部位ごとに分け代表的疾患や見逃しやすい疾患について,鑑別疾患,画像検査や画像所見についてポイントを記載しました.第IV章は,代表的なスポーツ外傷・障害を取り上げ,第V章は,さまざまなケースを提示することで読者が一緒に診断できるようにしました.ただ,頁の制約上,取り上げることのできなかった疾患があることをご容赦ください.
本書は整形外科医のみならずスポーツ診療に携わる医師やメディカルスタッフを含めた医療関係者すべてに役立つものと考えています.
最後に,本書の執筆は当教室でこの連載を担当した医師を中心に行いました.編集作業を担当した田島卓也医師や山口奈美医師をはじめ,執筆に尽力してくれた教室員に深く感謝いたします.また,医学書院の石井美香氏に深謝いたします.
本書が常に診療の傍らに置かれ,読者の皆様方の臨床に即役立つことを祈念し,序の挨拶といたします.
2015年9月
宮崎大学教授・整形外科学
帖佐悦男