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第3148号 2015年11月2日


【interview】

“医療面接は,知識や技術とともに両輪を成すもの。
臨床で使えるスキルを身につけてほしい”

児玉 知之氏(柏厚生総合病院内科)に聞く


 医療面接は卒前教育において身につけるべき項目として位置付けられており,若手医師の中では医療者-患者間のコミュニケーションの重要性が認識されてきている。しかし,その認識は抽象論やスローガンの域にとどまっており,実践には結びついていないことも多い。『戦略としての医療面接術』(医学書院)を執筆した児玉氏に,臨床で使えるスキルとして医療面接術を学ぶことの重要性を聞いた。


――医療面接術に興味を持ったきっかけを教えてください。

児玉 私が研修医だったとき,素晴らしい医療を提供しているにもかかわらず,コミュニケーションの問題で治療の方針や内容を患者さんにうまく伝えられていない上級医がいました。いくら医学的に高度な知識や技術を持っていても,患者さんの理解が得られなければトラブルにつながります。研修医のほうが患者さんと接する機会が多いからこその気付きでしたが,研修医である私から上級医に意見をすることもできず,もったいなさともどかしさを感じていました。そのころから,どうすれば医療面接がうまくできるのかを考えてきたんです。

経験を重ねるだけでは医療面接はうまくならない

――医療面接は医師なら誰でも行うものです。経験を重ねれば自然とうまくなるものではないのでしょうか。

児玉 私もかつてはそのように考えていました。しかし実際には,自ら意識して医療面接を振り返り,学んでいかなければなかなか改善されません。

 一見問題なく医療面接が終わった場合でも,患者さんの中には不満がたまり,後々のトラブルの原因になることもあります。私自身,これまでの臨床経験の中で,患者さんに医学的な方針を理解してもらえなくてトラブルになりかけたり,言いたいことが十分に伝わらず不満を持たれたりという事例を何度も経験してきました。

――もし問題があれば,周囲から指摘を受けませんか。

児玉 たとえ患者さんの不利益となるような医療面接をしている医師がいたとしても,他職種から医師に対しては注意しにくいですし,トラブルが起きない限り医師同士でもなかなか指摘できません。研修医の間であれば上級医に注意してもらえることもあるでしょう。しかし,上級医の側も限られた研修期間内では知識や手技を教えるので手一杯で,面接術にまでは手が回らないことが多いものです。

――OSCE導入以降,医療面接の能力を評価されるようになりました。卒前教育だけでは不十分なのでしょうか。

児玉 卒前教育に導入されたことで,私が医学教育を受けたころと比べると,若い世代はコミュニケーションへの意識が高いことを感じます。医療面接に興味を持っていたり,努力の必要性に気付いていたりする段階で,「自分は問題ない」と思っている医師よりもかなりリードしているのは確かです。それでも,研修医に医療面接の注意点について尋ねると,「患者の立場に立って愛護的にふるまう」「傾聴して共感することが大切」という抽象論やスローガンの域を出ないことが多い。

――臨床で使うには,もう一歩進んだ学習が必要なのですね。

児玉 医療は,検査や治療だけでなく,それを実行するための説明などのコミュニケーションがあって成り立ちます。毎日行う医療面接は診療の基本とも言えるのです。医学的知識や技術を最大限に生かすためにも,トラブルを回避するためにも,「臨床で使える」面接術を身につけてほしいと思います。

モデルケースとともに系統立って「型」を学ぼう

――では,どのように面接術を学べばよいのでしょうか。

児玉 まずは医療面接の基本となる流れ,「型」とも言える手順を身につけるとよいでしょう。欧米でも日本でも,医療面接に関してさまざまな実験が行われ,エビデンスと呼んでも遜色ない研究結果が多数存在します。『戦略としての医療面接術』の中では,読者が科学的に医療面接に臨むための一助となるよう,これらを積極的に取り入れました。

――患者さんの背景やパーソナリティは多様です。誰にでも納得してもらえる方法などあるのでしょうか。

児玉 例えば外科手術でも,患者ごとに解剖学的なバリエーションがありますが,それを織り込んだ上で共通の手技・手順がありますよね。医療面接も同じです。基本の「型」があれば,ある程度の個人差には対応できます。

 また,患者さんを共通した要素ごとにパターン分けし,事前に対応策を考えておくことも有効です。多様と言っても,ほとんどの患者さんはわれわれと同じ文化的背景を持っていますし,疾病は違っても心配事や不安は似通った内容が多いものです。モデルケースを把握しておけば,スムーズに対応できるようになります。

――医師側に大きな問題がなくてもトラブルになることはあると聞きます。

児玉 私は内科研修後,精神科に6年間勤務しました。その間,「意思疎通がとれない患者さん」とのトラブル解決の依頼が他科の医師から舞い込んでくることがしばしばありましたが,紹介されたケースの7割は,患者-医師間のコミュニケーションが原因でした。

――そういったことが起こるとき,具体的にはどのようなシチュエーションが想定されますか。

児玉 実際の面談を見てはいませんが,例えば,親身になって聴いていることを示すために使う「相手の言葉を繰り返す」というスキルは広く知られていますが,ただオウム返しするだけでは軽くあしらっているような印象を与えてしまうこともあります。真剣に聞いていることをきちんと患者さんにアピールするには,早口な医師の場合は特に意識して,いつもより声のトーンを1段階落として通常の口調よりもゆっくり話すほうがよいでしょう。

――スキルは「患者に伝わるように」使わねば意味がないということですね。

児玉 臨床の実態に即したスキルを選ぶことも重要です。例えば「オープンクエスチョン」。患者さんの心情を引き出すためには有効なスキルですが,オープンクエスチョンばかりを使っていては,医療面接が不必要に長引いたり,必要な情報にたどり着けなかったりという問題が生じます。クローズドクエスチョンを併用しなければ,効率的に,かつ短時間でより良い医療情報は引き出せません。

 臨床で必要になるのは,クローズドクエスチョンを多用した際,患者さんがどのような不満を感じるか理解した上で,できる限りそれを緩和させるスキルなのです。書籍の中では,「前口上先行法」「closed question分散法」「身体診察並行法」を紹介しました。

 その他にも,一見すると問題はないようにみえる医療面接のモデルケースを複数示し,どのように改善できるのかを取り上げています。臨床で使えるスキルを身につけるには,象徴的なモデルケースとともに系統立って学ぶことが近道です。

自分のコミュニケーションの傾向を知り,対応策を考える

――スキル以外に各自で工夫できることはありますか。

児玉 自分のコミュニケーションの傾向を知り,トラブルが起きやすい状況を把握しておくことが大切です。

 私の場合,トラブルが起きた後に原因を振り返ってみると,ある程度シチュエーションが共通していることに気付きました。一番多かったのは,自分に余裕がないとき。医師は時間に追われる職業です。患者さんと重要な話があるときでも,その後に予定が詰まっていることは少なくありません。そういった場面で私は,無意識のうちに早口になったり,説明を省略してしまったり,つっけんどんな言い方になったりしがちだったようです。

――事前にセルフモニタリングしておけば対策を取れますね。

児玉 私は対策として,時間の調節のきく面談については次の予定まで余裕を持つようにしたり,どうしても外せない予定が入ってしまった場合は日を改めたりするようにしました。

 問題が起きやすい状況は医師によって違いますが,自分の傾向を自覚していれば,苦手なシチュエーションを避けられないときでも,注意して行うことができます。毎回気を付けて医療面接を行えば徐々に苦手意識も克服されていくでしょう。

――最後に,面接術を学ぼうとする医師へのメッセージをお願いします。

児玉 面接術を基に,こうすればよりよくなるのではないか,患者さんに喜んでもらえるのではないかと日々工夫して実践すれば医療面接はどんどんよくなります。

 モンスターペイシェントなどに毅然と対応できるかどうかも,医療面接に日頃からどれだけ注意を払えているかが分岐点になります。医師にとって医療面接は,知識・技術とともに両輪を成すものです。臨床で使えるスキルを身につけ,日々の診療に,より一層のゆとりや自信が持てるようになることを期待しています。

――ありがとうございました。

(了)


こだま・ともゆき氏
2002年旭川医大医学部卒。聖路加国際病院内科にて初期研修,04年同院チーフレジデント,08年東医歯大精神科入局。青梅市立総合病院精神科,東京都立多摩総合医療センター精神科などを経て,15年より現職。著書に,『一般臨床医のためのメンタルな患者の診かた・手堅い初期治療』『戦略としての医療面接術』(いずれも医学書院)など。