医学界新聞

寄稿

2015.07.27



【FAQ】

患者や医療者のFAQ(Frequently Asked Questions;頻繁に尋ねられる質問)に,その領域のエキスパートが答えます。

今回のテーマ
在宅現場で遭遇する熱中症への対処――予防がポイント!!

【今回の回答者】三宅 康史(昭和大学医学部救急医学講座教授/昭和大学病院救命救急センター長)


 熱中症は,地球温暖化,高齢者の増加,マスコミ・医療界を含めた認識の高まりにより,注目を浴びるようになりました。予防が大切であること,早期対処で重症化を軽減できることを念頭に置いて,この夏の熱中症患者を一人でも減らしましょう。


■FAQ1

そもそも屋内に居る高齢者がなぜ熱中症になるのでしょうか?

 熱中症には2種類あることを確認しましょう。一つは元気な人がスポーツや肉体労働中に急激に発症する労作性熱中症で,もう一つは日常生活中,それも半数は屋内で起き,小児や高齢者に多く見られる非労作性(古典的)熱中症です。この2つは発症までの経過,危険因子,予後などが全く異なります(表1)。

表1 労作性熱中症と非労作性熱中症の比較

 まずは発症形態から,どちらのタイプの熱中症かを見極めます。高齢者でも元気な方が畑仕事やジョギング中に発症したのであれば,労作性熱中症です。一方の非労作性熱中症は1999年のシカゴ,2003年のフランス,2009年のアデレードで起きた熱波による大量発生が典型例です。日本でも熱波(猛暑日と熱帯夜が数日以上連続)の到来後,数日たって高齢者が次々と体調を崩して救急搬送され,災害ともいえる規模で発生する危険性があります。犠牲者が多く出るのもこちらのタイプです。

 高齢者は,急に気温が上がっても家の中で過ごしていれば,その日に熱中症になることはあまり多くありません。ただ,気温上昇に伴い室温が徐々に上がり,夜間も室温が下がらなくなってくると,3-4日目から食欲低下とともに元気がなくなり,脱水の進行,電解質の異常,低栄養,持病の悪化,新たな感染症の併発などが起き,最後は複合的な熱中症に陥り,「布団から出てこない」「返事をしなくなった」と救急車が呼ばれる事態になるのです。高齢者は暑さを不快に感じないために,暑熱環境下で長時間過ごしてしまい,重症化して初めて気付くという流れです。

 医療機関に搬送されたときには,高体温や意識障害,粘膜の乾燥,脱水(Ht値上昇,低栄養にもかかわらずAlb高値),急性腎障害(乏尿とBUN値,Cr値上昇),感染症(肺炎,尿路感染症),電解質異常(高Na・高K血症),褥瘡などを認めます。高齢者の場合,心機能への負担や元来のADL,集中治療の適応,長期予後予測を考え,一つひとつの症状に対応していくことになります。治療期間が長くなると,環境変化・長期臥床に伴う認知機能,ADLの低下を防止しつつ,今後の方針について家族やケースワーカーと話し合っていく必要も出てきます。

 持病(心不全,高血圧,糖尿病,低栄養,担癌状態,脳卒中後遺症,認知症,精神疾患など)や独居,老老介護,経済的困窮,地域での孤立といった身体的・社会的問題は熱中症の明確な危険因子となるのです1)

Answer…高齢者は熱中症弱者です。暑熱環境でも不快に感じず長く過ごしてしまうことで重症化する危険性があります。日中と夜間に高温の日が続いた最初の数日間は特に注意が必要です。

■FAQ2

在宅介護を受けている高齢者の熱中症予防のために,日頃から気を付けるべきことはどのようなことでしょうか。

 熱中症は予防可能な病気です。早期発見・早期治療も大切ですが,まずは「予防」に全精力を注ぎましょう。秋から春までは,特殊な状況を除き熱中症は発生しません。つまり,暑くなければ熱中症にはならないということです。訪問看護・介護に携わる方は,訪問時の状態だけでなく,今後の天気,夜間の生活環境(特に寝室の室温)などにも気を配り,早め早めの対応をする必要があります。

 エアコンは熱中症予防の必須アイテムです。特に熱波の間は,昼夜を問わずエアコンでしっかり室温管理を行うことが重要になります。最近は室温と湿度を指示通り適切に管理してくれる高機能なものもありますが,高齢者自身がその機能を生かすのはたいてい至難の業です。体に直接冷風を当てない,冷やしすぎない,室内の空気を攪拌して足元ばかり冷えないようにする,乾燥に注意してこまめに水分補給をする,夜間も窓を閉めて寝るならばエアコンを使用する(例えば就寝数時間後にスイッチが入り,2時間で切れて,朝日が出るころに再びスイッチが入るよう設定する)など,室温を乱高下させず,体に負担の少ない室温に管理するお手伝いが,看護・介護をする側にも求められます。

 これに加えて,水分,塩分,栄養の補給は食事が中心となるため,三度の食事をきちんと取れているかを確認してください。食欲が落ちているのであれば,経腸栄養剤,経口補水液やスポーツドリンクで適宜補給する必要があります。ただ,高齢で高血圧や心不全の方は,塩分制限,水分制限を受けていることがあるため,この場合には過量摂取に注意が必要です。かかりつけの医師と相談しつつ,血圧,体重変化,心不全徴候に留意した細かな調整を行わなくてはなりません。

Answer…猛暑の季節は長くても1か月です。この間,暑さを避け,水分,栄養補給を怠らず,常に周囲が気を配りましょう。高齢者の最も長く居る環境(居間と寝室)の変化を把握し,エアコンを上手に使ってあげてください。

■FAQ3

熱中症を疑う症状にはどのようなものがありますか? 対処法とあわせて教えてください。

 どんなに注意をしていても熱中症になる危険性はあります。熱中症を疑う症状は何でもよいと思いますが,初期症状(熱中症I度)としては,大量の発汗,筋肉の痛み,こむら返り,手足のしびれ,脱力,一瞬のぼーっとする感じなどが挙げられます。II度に進めば頭痛や吐き気,強い倦怠感,ごく軽い意識障害などが認められ,さらに重症(III度:医師が鑑別)になると,けいれん,明らかな意識障害,採血で確認される肝障害,腎障害,播種性血管内凝固症候群(DIC)などが起こります(表22,3)

表2 日本救急医学会熱中症分類2015(参考文献3より一部改変 クリックで拡大)

 日常生活における高齢者の熱中症はかなり進行してしまってから気付くことが多いため,前述したようにいろいろな病態が重なります。夏季に,食欲低下,元気がない,体重減少などの症状があれば熱中症を鑑別診断の一つに入れましょう。必要に応じて採血を行い,臓器障害の有無を確認するとともに,脱水や感染症のチェックをしてください。他の病態がかぶることもありますが,しばらく続いた暑さとそれに伴う脱水症が,誘因として関与している場合は多いでしょう。応急処置を行いながら,病院搬送の適応(II度以上)を判断できるアルゴリズムが環境省より公開されています()。

  熱中症の応急処置(参考文献4より一部改変)

Answer…夏の体調不良はまず熱中症を疑うこと。水分を自分で飲めるかどうか,改善するかどうかを付き添って確かめる。高齢者の場合は遠慮せずに救急車を呼んで医療機関で診察を受けるよう勧めましょう。

■もう一言

 昔と比べ,夏季は高齢者にとって危険な季節になっています。しかし,高齢者は自分からエアコンのスイッチを入れようとはしません。昼間最も過ごす時間の多い部屋の目立つ場所に,温度計を置いてもらい,本人が暑さを感じていなくても,室温が30度を超えていたらエアコンを入れるよう助言してください。

参考文献
1)日本救急医学会熱中症に関する委員会.熱中症の実態調査――日本救急医学会Heatstroke STUDY2012最終報告.日本救急医会誌.2014;25:846-62.
2)三宅康史,他.レセプトデータを用いた最近5年の熱中症患者の推移(2010-2014年).日本医会誌.2015;144(3):527-32.
3)日本救急医学会.熱中症診療ガイドライン2015.2015.
http://www.jaam.jp/html/info/2015/pdf/info-20150413.pdf
4)環境省.熱中症環境保健マニュアル2014.2014.
http://www.env.go.jp/chemi/heat_stroke/manual/full.pdf


三宅 康史
1985年東医歯大卒。2012年より現職。救急指導医,脳神経外科・集中治療・外傷専門医。日本救急医学会「熱中症に関する委員会」委員長,日本臨床救急医学会「自殺企図者のケアに関する検討委員会」委員長などを務める。JATECコースディレクター,ISLSコースディレクター,PEECプロデューサー。

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