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第3129号 2015年6月15日


糖尿病診療の一層の進化をめざして

第58回日本糖尿病学会学術集会開催


 第58回日本糖尿病学会が,2015年5月21-24日,谷澤幸生会長(山口大大学院)のもと,「糖尿病学の進化と深化――サイエンスとヒューマニティーの融合」をテーマに開催された。海峡メッセ下関(下関市)を中心に9つの施設が会場となった今学会。本紙では,高齢糖尿病患者診療の在り方に関するシンポジウムの模様を紹介する。


シンポジウムの模様
 超高齢社会の進展に伴い,高齢糖尿病患者の診療機会が急増している。高齢になると併存疾患が多くなる他,認知・生活機能の低下なども生じるため,患者の症状に応じた診療・療養指導が一層重要になる。2015年5月には,高齢者の糖尿病診療指針を作成するための委員会が日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同で設立されており,高齢糖尿病患者への適切な診療の在り方を求める動きが見られている。シンポジウム「超高齢化時代の糖尿病診療」(座長=都健康長寿医療センター・荒木厚氏,東女医大東医療センター・佐倉宏氏)でも,高齢者の糖尿病診療について議論が交わされた。

高齢者特有の病態を理解する

 まず千葉大大学院の小林一貴氏が,高齢者糖尿病の病態と特徴を解説した。加齢に伴う体組成変化や,インスリン初期分泌の遅延・低下,運動量の減少など,高齢者の耐糖能低下の要因は多岐にわたる。また,高齢患者では低血糖も頻発・重症化しやすいと指摘。低血糖状態はADL低下や生活機能障害,認知症と相互に悪影響を及ぼすことから,低血糖回避を主眼とした緩やかな血糖管理が重要になると述べた。また氏は,高齢者の高血糖を適切に是正し得る追加薬の一例として,多施設共同で実施したDPP-4阻害薬シタグリプチンによる血糖管理の結果を報告。1剤目にインスリン抵抗性改善薬を服用し,治療前のHbA1cが高値な高齢患者ほど,シタグリプチン追加によるHbA1c低下効果が大きく得られたという。一方で,1剤目の違いや年齢によって有害事象の発生に有意な差は認められなかった。高齢糖尿病患者への適切な治療方針を確立していくには,高齢者を対象とした臨床的知見のさらなる集積が必要になるとの見解を示した。

 糖尿病とサルコペニア,フレイル(虚弱)の関係について説明したのは梅垣宏行氏(名大大学院)。サルコペニアは骨格筋肉量の減少に加え,筋力または身体機能の低下を特徴とする老年症候群の一つ。糖尿病患者はインスリン抵抗性による筋肉の合成の低下が背景となり,非糖尿病者と比較してサルコペニアの発生リスクが高く,フレイルも来しやすいという。在宅医療を受ける高齢患者を対象としたコホート研究を実施し,糖尿病がADL低下に与える影響を分析したところ,総合的なADLは糖尿病の有無による有意差はみられなかったものの,経時的にみると糖尿病患者のADLのほうが低下しやすいことがわかった。サルコペニアやフレイルは可逆的で,改善できる状態であるため,早期の運動・食事療法などの介入によってサルコペニアやフレイル,ひいては患者のADL低下予防に努めることが重要だと訴えた。

 糖尿病の血糖管理不良は認知機能低下のリスクとなること,2型糖尿病ではアルツハイマー病(AD)や血管性認知症の発症リスクが高まることが報告されている。認知症患者を多く診療する立場から,羽生春夫氏(東医大)が登壇。AD初期では遅延再生障害と時間の見当識障害を認めやすく,簡便なスクリーニング法としてMMSE,1分間スクリーニング法,MoCA-Jなどを掲示。MRIやSPECTなどの脳画像検査も用いることで,糖尿病患者の早期認知症や認知機能低下の検出は可能だという。さらに氏は,AD病理や血管性病変とは異なる特徴を示す認知機能が低下した糖尿病患者の一群を「糖尿病性認知症」として紹介。この病態では,血糖管理によって認知機能が改善する可能性があり,コントロール・予防可能な認知症だと述べた。糖尿病患者の認知機能低下はインスリン自己注射が困難となる要因にもなり,治療やケアの観点からも早期発見が欠かせないと強調した。

個々に合わせた血糖管理目標を

 「高齢者は多剤併用や薬物動態の変化など,さまざまな要因を考慮して治療薬を選択,使用する必要がある」。こう話した吉岡成人氏(NTT東日本札幌病院)は同院での調査から,食事・運動療法のみで血糖管理が可能な患者は加齢に伴い減少し,経口糖尿病治療薬やインスリンを利用する患者の割合が増え,それに起因する有害事象も増加すると述べた。その要因として,併存疾患増加による多剤併用,慢性疾患による長期服用,薬物動態変化による過量投与,視力・聴力・認知機能低下によるアドヒアランスの低下などを列挙。特に,服用薬剤数と有害事象や転倒の発生頻度には正の相関があることから,多剤併用を避けるために,(1)予防薬としてのエビデンスの妥当性,(2)対症療法の有効性,(3)薬物療法以外の治療法の有無,(4)使用薬剤の優先順位を意識した処方を求めた。

 加古川西市民病院の永田正男氏は,同院の症例を用いて高齢糖尿病患者へのインスリン治療法を紹介した。インスリン治療が必須となる1型糖尿病の高齢患者に対しては1日4回のインスリン頻回投与法を原則とし,患者の生活環境に応じたインスリン治療を実施しているという。一方,2型糖尿病患者も,経口糖尿病治療薬の長期服用によりインスリンを分泌するβ細胞が減少し,インスリン治療が必要になるケースが多いと指摘。基本的には経口糖尿病治療薬と基礎インスリンを併用するBOT療法が推奨されるが,インスリン追加分泌能力が乏しく,食後高血糖を来す患者に対しては,超速効型のインスリンを用いる治療法を候補として挙げた。また,インスリン自己注射ができない患者であれば,訪問看護師による42時間有効の超持効型インスリン投与を一例として提案。簡便かつ患者のQOLを損なうことのない治療法を一人ひとりに合わせて検討していく重要性を呼び掛けた。

 最後に登壇した座長の荒木氏は,高齢糖尿病患者の治療は,合併症予防が目的であれば厳格に,心身機能・QOL維持が目的であれば柔軟に血糖管理を行う必要があると話した。目的の設定については,年齢,認知機能,身体機能,低血糖リスク,社会サポートの有無を判断基準として提示。その上で,J-EDIT研究や海外の研究結果を紹介し,高齢者はHbA1c 7.0%未満で脳卒中,転倒,骨折,重症低血糖のリスクが,HbA1c 8.0%以上で老年症候群(認知機能低下,ADL低下,サルコペニア,フレイルなど)のリスクが増大するため,HbA1c 7.0%以上8.0%未満が種々のリスクが最も低いと説明した。最近の海外の糖尿病治療ガイドラインでは,血糖管理の目標値が2-3段階に分けられていることから,日本でガイドラインを作る際にも,患者の認知機能や身体機能評価の指針を設け,個々に合わせた目標設定が可能となる指標作りが求められると訴えた。