医学界新聞

2015.04.27



Medical Library 書評・新刊案内


看護技術
ナラティヴが教えてくれたこと

吉田 みつ子 著

《評 者》陣田 泰子(横市大看護キャリア開発支援センター)

人間の暮らしの中にある“もう一つの看護技術”

 本書を初めて手にした時,「ん? 看護技術に,ナラティヴって……?」というのが第一印象だった。さらに「看護技術の定義は,ベッドサイドで更新される」とある。えっ!

 でも,患者さん一人ひとり病気も症状も違うし,それからナースだってベテランから新卒まで,さまざまな段階の人による技術であるし,状況や環境も異なるし,究極的には,そうだ。

本書の意図,それは“風景”
 本書のユニークな点は,「これまでの看護技術のテキストは,エビデンスやノウハウを中心に記されてきた」と文中にあるように,あえてそうでない切り口から技術をとらえていることである。そのコンセプトが明瞭にわかるのが本書の構成の“看護技術のある風景”という表現である。前述した意図に沿って,それは一つの“風景”なのである。そして,その風景の描写がなんと細やかなのだろう。

 一番うなったところは,一つひとつの看護技術の描写である。昼夜逆転の80歳の吉井さんのひげ剃り。舌を動かして,ひげを剃りやすいようにしてくれる。ミトンを外された手は,さらに剃りあがった顎をまんべんなく撫でて剃り具合を確かめるように……。そしてまだ終わらない。ひげを剃り終わり手渡された熱いおしぼりタオルで自分で顔を拭き,汚れた面を折り返してきちんと畳んだ。そしてもう一度,顔を拭いた……。

 思わず,患者さんの様子が目に浮かぶ。と同時に,そこに目をそらさず追っている著者のまなざしが,また見えてくる。

 「臨床における学びは,一つの物語のように経験されるのである。(中略)そのナラティヴによって発動力や流動性,そして経験的学習に欠かせない実践的理解が把握されるのである」(P. Benner,他.ベナー看護ケアの臨床知 第2版.医学書院;2012.p.33)。

科学を超えた,人間の技術・看護の技術
 それは看護の技術が,人間の技術になる瞬間である。その人と一体になった,まさに“看護実践”がここには描かれている。私たちは,これをめざしていたはずだ。今,このような瞬間はもう起きていないのだろうか。病院までもがハイスピード時代に入ってしまった現代に,このような情景はなくなってしまったのだろうか。そうではないような気がする。むしろ目に見えて少なくなったのは,この風景を読み取る,いやその前にこの風景に目を留める看護師の姿ではないだろうか。刻々と流れている状況の中で,自身も動き続けている中で,目を留め,目で追い,そこから見る,じっと見る,そして意味が見えてくる……,その実態,著者が“風景”と表現した,その別名“人間の生活・暮らし”,これは通常の生活の場ではなく病院の中だったりはするけれど,ないはずはない。

 「病院は,工場になってしまった」,少々過激な表現を時々私はしてしまうのだが,それでも,そこで人間は眠って,起きて,動いている。そう,人間の暮らしがないはずはない。

 本書で語られる物語を,過ぎ去ったセピア色の物語にしてはいけないと思う。「果たして,今伝わるだろうか」と思う一方で,「だからこそ今」とも思う。そんな著者の深い思いが見えてくる本である。

B6・頁176 定価:本体1,600円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02077-0


緩和ケアエッセンシャルドラッグ 第3版

恒藤 暁,岡本 禎晃 著

《評 者》梅田 恵(昭和大大学院保健医療学研究科・がん看護専門看護師)

緩和ケアの症状と薬剤情報が系統的にまとめられ,現場でさっと手に取れる実践的な好著

 がん医療や緩和ケアについての話題が,広く市民や患者・家族目線で語られることが増えてきた。臨床でも,これまで看護師は医師の顔色を見ながらオピオイドや症状緩和の薬剤の使用依頼をすることが主流であったが,最近は看護師に対し「患者の苦痛症状についてもっと早くに気付けないのか」と,前のめりの医師の姿勢が目立つようになってきている。確かに,がん医療と緩和ケアはパラレルで提供できるよう変化し,患者・家族のさらなる症状緩和や効果的な薬物療法への期待が高まってきている。

 看護師は薬剤の処方権を持っているわけではないが,薬物療法が適切に患者に活用され,その効果,つまりは症状の変化を生活の目線でキャッチする役割がある。さらに,患者が薬物療法を安心して積極的に活用できるよう,薬剤への誤解や不安を払拭し,患者の薬剤活用の力を高めていく役割も担っている。看護師自身が薬剤について適切な知識を持ち,患者に働きかける力を蓄えることが大前提である。特にがん医療に従事する看護師にとって,手術や放射線,抗がん剤治療を行っている段階から,痛みだけでない症状マネジメントの一端を担うことは不可欠となっている。医療者が症状に関心を持ち適切に対応することが,何よりも患者の薬物療法への理解を促し,効果的なマネジメントを可能にする。看護師も薬剤についての知識を蓄え,医師や薬剤師と薬剤の選択や継続に関して話し合えるぐらいの能力を蓄えたいものである。

 しかし,医薬品情報は専門用語が多く,難解であることが多い。また,薬剤の効果があるのか,どのような活用方法が適切であるのか,さらに症状の評価はどのように行うのかまで理解することは容易ではない。そのような情報が系統的にまとまり,しかも実践しながらさっと手に取れる資料として活用できるよう本書は編集されている。2008年に初版が発売され,第2版,そして今回第3版の出版に至っていることが何よりの証であろう。

 緩和ケアで活用できる薬剤の適用は年々拡大を続けている。これはひとえに苦痛症状を患う人を少しでも早く救済することを願う多くの専門家の努力の結晶である。その結晶を,本書を通じて,さまざまな症状に苦しむ患者と日々向き合う医師や薬剤師,そして看護師により,一人でも多くの患者に届けていただくことを願っている。

三五変型・頁334 定価:本体2,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02023-7


神経眼科学を学ぶ人のために

三村 治 著

《評 者》臼井 千惠(帝京大病院眼科・視能訓練士技師長)

眼科学の大部分は神経眼科学であることに気付かされる一冊

 神経眼科学は,「難解な」とか「敬遠されがちな」といった言葉で形容されることの多い学問である。視能訓練士や看護師など眼科医療に従事するコメディカル職の中にも,苦手意識を持つ者は多いと思われる。かくいう私もその一人である。

 学生時代,神経眼科学の講師から「神経眼科学は決して難しい学問ではありません。皆さんに地図をあげましょう。これを手掛かりにすれば,神経眼科領域は容易に理解できますよ」と言われ,A4用紙1枚を手渡された。そこには眼球と脳の視覚野とが入力系・出力系・統合系の線で結ばれた「地図」が書かれてあった。しかし,生来,方向音痴で地図が読めない私には,この地図も読めなかった。それ以降,今日まで神経眼科学に関する分野は暗記と臨床経験でかわしてきた。ただし,手をこまねいていたわけではない。神経眼科学の参考書を購入し,学会にも出席して,自分なりに少しは努力したつもりである。それでも,神経眼科学への「難解な」という形容詞は払拭できなかった。

 このたび,『神経眼科学を学ぶ人のために』が出版された。序文には,「医師や視能訓練士でこれから神経眼科学を学ぼうとする人たち」や「これから神経眼科疾患の治療の説明や実施に役立つ情報をさらに深く知ろうとする人たち」に向けた本であると書かれている。その言葉に背中を押され,神経眼科学をもう一度初心に返って勉強してみようと覚悟を決め,第1章「神経眼科の解剖と生理」をめくってみた。

 いきなり見慣れた眼底写真と,OCTによる黄斑中心窩網膜の層構造が目に飛び込んできた。そうか,OCTの撮像は神経眼科学の検査だったのか……とあらためて思う。その後は,多くの参考書に書かれている視神経の構造や視路の解説が続くが,精密で美しい解説図が随所に挿入されているため,絵に促されるように読み進むことができる。

 第2章「神経眼科診察法」では,視能訓練士になじみ深い検査がわかりやすい写真と図によって次々に紹介され,日々の臨床で行っている検査を神経眼科学に関連した検査として見直すことができるようになっている。そのことで,検査で得られた結果を眼科一般検査としてではなく,神経眼科学の立場からあらためて評価するという姿勢が自然に養われるのではないだろうか。検査結果は,多角的,客観的に評価されることで診断と治療に役立つデータになる。どのような目的で行う検査なのかを知ることで,得られる結果も明確な意義を持つようになると思われる。

 第3章からいよいよ神経眼科疾患の診断,病因,治療と予後が解説されるが,ここでも最新検査機器で得られた典型的な検査結果が鮮明な画像や写真で挿入され,しかも評価のほぼ確定している事実や覚えておくべき知識が太字で記載されているため,ポイントを押さえてビジュアル的に学ぶことができる。疾患ごとに紹介される参考文献やClose Upも,著者からワンポイントアドバイスを直接教えていただいているような気持ちになる。

 本書を読み,眼科学の大部分は神経眼科学であることにあらためて気付かされた。本書は神経眼科学の参考書であるが,同時に眼科学の参考書でもある。神経眼科学を学ぶ人はもちろん,眼科学を初めて学ぶ学生にもぜひ推薦したい一冊である。最初に本書で勉強すれば,神経眼科学は決して敬遠する学問ではなくなるだろう。

B5・頁288 定価:本体9,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02022-0

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