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第3118号 2015年3月23日


【interview】

「今こそ,助産師像を描く必要がある」
「助産実践能力習熟段階(クリニカルラダー)」レベルIII認証制度の開始迫る

福井 トシ子氏(日本看護協会 常任理事)に聞く


 現在,日本助産評価機構による「助産実践能力習熟段階(クリニカルラダー)」レベルIII認証制度の準備が進んでいる。助産師一人ひとりの助産診断・助産技術といった助産ケアの実践能力を第三者機関が認証するもので,助産師の実践能力強化とキャリア開発の推進を目的としている。本紙では,同制度の準備の中心を担ってきた福井氏に,開発・導入に至る背景とその意義について聞いた。


――本年から,助産師の実践能力を評価する制度が始まろうとしています。まず,このような助産師のキャリア開発にもかかわる取り組みを進めてこられた経緯について教えてください。

福井 2003-4年ごろから,産科医と助産師の協働によって,安心・安全に出産できる体制を作ろうという意識が高まってきました。産科医の不足が指摘される中,産科医と役割分担を図り,助産師が主導となって行う院内助産所や助産師外来の普及が社会的に叫ばれるようになったのです。

 ただ,この動きはスムーズには進んでいないと思います。当初こそ,その原因は現場の医師や病院側の管理職からの抵抗感にあると考えられがちでしたが,それは違いました。現場の助産師たちの話を聞いていくと,むしろ助産師側から聞こえる「自信がない」という声のほうが断然大きくて,助産師が抱える不安が根本的な理由であるとわかってきた。つまり,ローリスクの正常妊娠・正常分娩という基本的な助産ケアについて,自信を持って実践できる助産師が少ないという実態が浮き彫りになったのです。

助産師を取り巻く環境変化が,実践能力の習熟を阻む事態に

――そもそも,そうした「不安を持つ助産師が多い」という状況は,何に原因があったと分析されていますか。

福井 助産師一人ひとりに原因を求められるものではなくて,産科医療領域における複合的な要因が助産師たちの実践能力習熟を阻んでいるのだと考えています。分娩件数の減少や産科医・小児科医の不足,それらに伴う産科病棟の混合化や縮小・閉鎖,周産期医療の機能分化といった環境の変化によって,助産師の実践能力の習熟が難しくなってきました。

――助産師を取り巻く環境に大きな原因があった,と。

福井 ええ。あらゆる変化が重なり,実際に就業する医療機関や部署によって,助産師の経験や実践能力に顕著な差ができる状況も生まれています。

 例えば,現在,多くの助産師は高度医療を担う総合周産期母子医療センターに就業していますが,こうした施設にはハイリスクの妊婦が受診する一方,ローリスクも含めた多様な助産ケアの経験を積むという環境にはありません。また,正常妊娠・分娩を扱う場面が少ないことで,助産師は医師の指示の下で助産ケアをせざるを得なくなる状況があり,自律的に実践を行う機会が減ってしまっているのです。では中規模病院ではどうかと言えば,こちらは分娩件数そのものが少ない。そのために助産師は混合病棟で他科の患者への看護業務と並行しながら,時々,分娩介助を行うという状態です。いずれの環境にあっても経験する内容に偏りが生まれやすく,自分の実践能力を振り返ったときに「一人前の助産師と言えるだろうか」と,自信を持てなくなっても仕方がないのかもしれません。

 助産師の助産ケアという専門的能力の習熟には,自分の持つ能力を発揮する経験を重ねていく必要があります。そうした経験のできる場が少なくなっているのであれば,計画的かつ意図的に実践能力を身につけられるような仕組みが必要になってきます。

――そこで日看協で着手されたのが,2012年に公表した助産師独自のキャリアパスと助産実践能力習熟段階(クリニカルラダー)でした。

福井 日看協では2011年から検討を重ね,2012年に助産師の実践能力強化支援の一環として,助産師のキャリアパスと助産実践能力習熟段階(クリニカルラダー,Clinical Ladder of Competencies for Midwifery Practice ; CLoCMip(クロックミップ))を策定しました。さらにその翌年には,これらを現場の研修や現任教育と連動して使うための「助産実践能力習熟段階(クリニカルラダー)活用ガイド」などのツールも作成しています(1)

 クリニカルラダーにおける発達段階と臨床実践能力の構造(一部簡略 クリックで拡大)1)
「助産実践能力習熟段階(クリニカルラダー)活用ガイド」では,レベルIIIを「助産師が正常な妊娠・分娩・産褥・新生児期の助産ケアを,責任をもって自律して実践できる」能力を有する段階と位置付けている1)。なお,今後開始される認証制度では,上記のラダーでレベルIIIに到達している上で,分娩介助数100例以上,新生児の健康診査100例以上,妊娠期・産褥期の健康診査各200例以上などの実践例数や,必須研修の受講などの条件を満たすことが認証を受けるために必要となる2)

 これまで,「助産師が持つべき標準的な実践能力」は,“暗黙の了解”に過ぎず,各施設に育成の方針を委ねてきたのが実情です。そこで,助産師が現場で主体的に学んでいけるよう,実践能力の習熟に有用な経験や達成すべき課題が見える形で示し,全国規模で共有できるものをめざしました。これらの取り組みは,今こそ,助産師像を描き,それを体系的に打ち立てる必要がある。そうした切迫感のもとに進んできたものです。

認証が,助産師のキャリア開発の動機付けに

――それらの取り組みを基盤に,助産実践能力習熟段階のレベルIIIの認証を受けた助産師を,「自律的に助産ケアを実践できる助産師」として認める仕組みが整いつつあります。

福井 はい。本年8月より「レベルIII」の認証申請受付を開始すべく,今,準備を進めている段階です(註12)。ここに至るまでは,日看協,日本助産師会,日本助産学会,全国助産師教育協議会,日本助産評価機構の5団体で立ち上げた「日本助産実践能力推進協議会」で慎重に協議を重ねてきました。現場の助産師の声を聞き,日本産婦人科医会,日本産科婦人科学会や日本周産期・新生児医学会など関連学会からの助言を得て,ようやく制度の開始が見えてきたと感じています。

 今回,認証するレベルIIIは,責任を持って自律的に助産ケアを提供し,院内助産システムに従事できるだけの実践能力を持つ“一人前の助産師”レベルという位置付けです。認証を受けるためには,ラダー上のレベルIIIに到達している他,分娩介助数100例以上,新生児の健康診査100例以上,妊娠期・産褥期の健康診査各200例以上などの実践例数や研修の受講など,いくつかの条件が設定されています。就業環境にも左右されますが,おおよそ7年程度の助産師経験年数を想定しており,認証を受けた助産師の呼称は「アドバンス助産師」です。

――この制度はどのような意味を持つものになるとお考えでしょうか。

福井 ひとつは,一人ひとりの助産師自身のキャリア開発の動機付けです。個々の助産師が自身の実践力を評価し,認め,次の目標設定につなげる。そういうキャリア発達の道筋となるでしょう。また,認証は5年ごとの更新制を採り,知識・技術をブラッシュアップし続けることを求める制度です。これにより,個々の助産師の実践能力の向上はもちろん,中長期的には助産師全体の質が向上していくだろうと期待しています。

 もうひとつの意義としては,一定水準に達した助産師の能力を第三者機関が保証するということが,妊産褥婦やその家族に対する職能団体としての責務だろうと考えています。助産師とはいかなる能力を持ち,社会に対してどのような役割を果たす専門家であるのか。それをきちんと社会に表明していくことにつながるわけです。

認証推進には管理者の積極的な関与が必要

――認証を進めていくためには,まずは各病院や部署などの組織にラダーが広がっていかねばなりませんね。

福井 そのとおりです。現状,助産師育成に特化したラダーそのものが普及しておらず,日看協の調査によれば,助産師に特化したラダーを持つ施設は17.1%でした3)。この実態は課題としてとらえており,今後,導入を広く呼び掛けていきたいと考えています。

――ただ,これまで系統立った助産師の教育プログラムを持たない組織にとっては,ラダーから,それらに沿う教育プログラムまで整えるというと及び腰になってしまいかねません。

福井 そうした側面もあるのかもしれませんね。しかし,自組織にクリニカルラダーを導入し,教育支援を行い,レベルIIIに到達する助産師を増やしていく。これはフロントラインスタッフのキャリア開発を促すものであり,かつ自組織で提供できる助産ケアのレベルを把握することにもつながります。特に後者は,妊産婦や赤ちゃんに提供するケアの質に責任を持つべき組織の管理者にとっては重要な視点であるはずです。

――冒頭,施設の規模・特性によって経験できる症例にバラつきがあると指摘されました。この点で,管理者側,助産師側双方にとって「レベルIIIの到達は難しい」と思われてしまう恐れはないでしょうか。

福井 その点については,日看協でかねてから整備をしてきた「助産師出向システム」(註2)で対応可能だと考えています。このシステムを利用することで,例えばハイリスク分娩の多い病院から,ローリスク分娩またはフリースタイル分娩を経験できる個人病院や診療所へ出向できる。つまり,現在の所属施設では足りない経験を積むことができるようになるわけです。このシステムの他にも,院外研修やオンデマンド研修などの準備も併せて進めており,自施設のみでは賄えない部分は他施設・他サービスとの連携でカバーできるように整備しつつあります。

――一連の教育体制の構築の他,レベルIII認証申請に当たっても「施設内部承認」を求めています()。そういう意味では,導入時も開始後も,組織の管理者の理解の度合いが特に重要であるということになりますね。

 「助産実践能力習熟段階(クリニカルラダー)」レベルIII認証申請の流れ2)(クリックで拡大)

福井 組織の育成方針にかかわる問題ですから,管理者たちの積極的な関与なくして機能するものではありません。地域の周産期医療体制において,分娩取扱施設として地域住民にどのような責任を果たすのか,その目的達成のために助産師に必要な実践能力をどのように獲得させるのか。それを管理者の方々に検討していただき,助産師の実践能力を十分に発揮できる環境を設け,彼女らの能力を伸ばしていけるような場に整えてほしいですね。

“ALL JAPAN”での取り組みを

――もちろん助産師側に対しても,積極的な参加が期待されます。

福井 ええ。最終的に問われるのは,助産師個人が実践能力の向上に関心を持ち,主体的に取り組もうとする意識と姿勢です。十分な経験を積み,熟練した中堅以上の助産師の中には,「今さら認証を受ける必要はない」と思う方もいるかもしれません。確かに申請に費用は掛かりますし,到達要件である実践の例数や必須研修をクリアし,ポートフォリオを作成するのはある程度の負荷になります。しかし,「今まで培った経験を形にする」と考え,実践を振り返り,課題をいかに克服するかを自問自答する機会であるととらえてほしいと思っています。それこそが,専門職として実践能力を絶えず習熟させる唯一の手段なのですから。

――実践能力が高まっていくことで,産科医療領域における助産師の存在感も増すことになりそうです。

福井 そう期待しています。でも,助産師の実践能力の向上は,妊産褥婦や新生児に質の高い助産ケアを届けるためにあるべきです。全ての妊産褥婦と赤ちゃんに安全な助産ケアを提供できるよう,“ALL JAPAN”体制で進められることを願っています。

(了)

註1:レベルIII認証申請に関する最新情報は,日本助産評価機構ウェブサイト参照。
註2:助産師出向システム:現在の勤務先の身分を有しながら,他施設で助産師として働くもので,正常分娩の経験など,助産師としての実践能力の強化を目的としている。なお,出向先は分娩施設に限られ,期間はおよそ半年-1年間4)

参考文献・URL
1)日看協ウェブサイト.助産実践能力強化とその体制整備.助産実践能力習熟段階(クリニカルラダー)
2)日本助産評価機構ウェブサイト.「助産実践能力習熟段階(クリニカルラダー)」レベルIII認証申請の流れ(確定版予定)
 http://www.josan-hyoka.org/shiryo/ladder3/150227_Application_procedure.pdf
3)日看協.平成24年度「助産師出向システムと助産実習の受け入れ可能性等に関する調査」「助産師の出向システムと助産師就業継続意思に関する調査」報告書.2014.
 http://www.nurse.or.jp/home/innaijyosan/pdf/2012/h24chosahokoku-01.pdf
4)日看協ウェブサイト.助産実践能力強化とその体制整備.厚生労働省看護職員確保対策特別事業「助産師の出向モデル事業」


福井トシ子氏
2003年杏林大病院看護部長,10年7月より現職(医療制度,診療報酬,医療機能評価,医療安全,助産事業,ICM担当)。経営情報学修士,保健医療学博士,診療情報管理士。中央社会保険医療協議会専門委員,日本医療機能評価機構理事,日本助産評価機構評議員,日本看護管理学会理事,日本助産学会理事,日本糖尿病教育・看護学会理事など役職多数。一貫して,助産師のキャリア開発・発達につながる環境づくりに注力してきた。2015年7月に横浜で開催される第11回ICMアジア太平洋地域会議・助産学術集会では実行委員長を務める。「皆さん,横浜でお会いしましょう!」。