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第3102号 2014年11月24日


多職種間での協働の実現をめざして

第73回日本公衆衛生学会総会開催


 第73回日本公衆衛生学会総会が,2014年11月5-7日,武藤孝司学会長(獨協医大)のもと,「連携と協働――理念から実現に向けて」をテーマに開催された(会場=宇都宮市・栃木県総合文化センター他)。本紙では,災害時の公衆衛生活動の実質的な推進に向けた提案を行ったシンポジウムと,がん患者の就労支援体制と連携の在り方を検討したシンポジウムの模様を報告する。


大規模災害に備え公衆衛生専門チームの構築を

武藤孝司学会長
 東日本大震災では中長期にわたり公衆衛生的な支援を行う仕組みが存在しておらず,その必要性が認識されることとなった。シンポジウム「災害における公衆衛生的な活動を行なう支援体制(DHEAT)の構築にむけて」(座長=地域医療機能推進機構・尾身茂氏,東医歯大大学院・高野健人氏)では,災害時健康危機管理支援チーム(DHEAT : Disaster Health Emergency Assistance Team)構築に向けた提案が行われた。

 初めに登壇した坂元昇氏(川崎市健康福祉局)は,東日本大震災の際に行われた保健医療支援の数量的データを基に,大規模災害時の支援の課題を解説。氏の試算によると,今後想定される大地震で東日本大震災と同程度の支援を行うためには,被災を免れた自治体の保健医療職員の約37%が1年間被災地で支援を行う必要があるという。しかしこれは現実的には不可能であり,効率的な自治体間支援の体制構築,保健医療災害マニュアルなどの統一化が急務であると主張。その上で,自治体機能が失われた現場に入り,主に公衆衛生面の調整を行う派遣チーム創設の必要性を訴えた。

 大規模災害発生時の公衆衛生アセスメントの意義を説明したのは尾島俊之氏(浜松医大)。アセスメントは死亡・疾病・障害を予防することが一義的な目的であり,支援を行うために必要な情報を意識して把握する必要がある。しかし,災害発生直後は正確な調査が困難であり,迅速性も求められることから,平常時に収集した情報から推計値を出すことも有用と説明。一方で,時間が経過した段階では,正確かつ詳細な情報が重要となる。アセスメント結果からどのような対応に移るのか,その後の対応まで含めた在り方を平時から検討すべきとの考えを示した。

 保健所長等を対象に災害時の情報収集・共有研修を行う金谷泰宏氏(国立保健医療科学院)は,災害時に備えた公衆衛生専門家の育成について提案。東日本大震災以前,避難所・救護所活動の実施主体は市町村などの自治体であったが,東日本大震災では自治体そのものが機能を失い,支援に差が生じた。その反省を踏まえ,厚労省は2011年度より災害時健康支援システムの構築を進めている。今後このシステムを活用し,被災地のニーズに応じた支援を可能にするためには,集めるべき情報の優先度や情報をどのように解釈すべきか,支援の標準化を図る教育研修が求められると考察した。

 最後に,座長の高野氏がDHEAT設立に向けた取り組みを紹介。東日本大震災後,公衆衛生の専門家,行政・医療・福祉関係者などさまざまな専門家が集まり,DHEAT設置提言のための研究が開始された。DHEATは災害発生時に迅速に被災地に入り,医療機関の被害状況,被災者の飲料水・食糧・生活環境などの衛生状態,感染症発生などの状況を把握し,必要な人的・物的支援の確保・供給・配置を行う公衆衛生チームを想定しているという。限りある資源を最大限に活用し,被災地の迅速な復旧・復興を可能にするため,氏はDHEAT設置に向けて協力を呼び掛けた。

がん患者に対し,領域を超えた就労支援が必要

 がん医療の発展に伴い,近年,社会的な問題として注目を集めるのが,がんの診断を受けた患者・家族の就労問題だ。2012年度から5年間の国のがん対策の骨格を定めた第2次「がん対策推進基本計画」においても,重点的に取り組むべき課題として,働く世代のがん対策の充実が挙げられている。シンポジウム「がん患者の就労支援――医療現場・地域・職域・行政における連携の実際」(座長=東海大大学院・錦戸典子氏)では,医療現場・職域・地域・行政での実践例が紹介されるとともに,領域を超えた就労支援体制構築の必要性が共有された。

 まず,高橋都氏(国立がん研)が,がん患者の就労に関する現況を概説した。氏は,がん患者の就労に関する課題・ニーズ,活用できる既存の制度・仕組みについて,患者・家族や企業,医療者の認識がまだ十分なレベルに達していない点を指摘し,社会全体の理解を深める必要性を主張。「医療機関,地域,職域,行政など,個々の領域で取り組むべき課題は見えつつある。それらの実現には各領域の連携・協働が必要。今後,そのための具体策の検討が求められる」と結んだ。

 産業医の立場から,職域における支援の在り方を説明したのは,立石清一郎氏(産業医大)。「企業のための『がん就労者』支援マニュアル」の有効活用を呼び掛け,自身がかかわった症例をもとに産業医が確認すべきポイントを解説した。氏は,産業医の役割は,がん就労者本人の意向を踏まえ,企業が適切な就業上の措置を実現するためにかかわることにあると主張。企業に対し,妥当性のある助言を行うためには,就労者・企業・主治医,三者間の円滑なコミュニケーション・情報共有が求められると語った。

 愛媛県松山市の患者・家族グループ「愛媛がんサポートおれんじの会」代表・松本陽子氏は,地域で実施する患者・家族への支援活動について報告した。同会で担うのは,愛媛県から委託を受けて開設した「町なかサロン」。悩みを分かち合い,相談できる場として機能する他,キャリアコンサルタント資格を持つスタッフが来訪者の就労・復職に関する相談支援も行うという。

 また,同会では,県内の企業に対し就労支援の意識調査も実施。その結果から,特に産業保健スタッフを雇用していない中小規模事業所では,就労支援の実施に対する不安や困難感も垣間見え,事業所のための「相談先」を設ける必要もあることが示唆されたと紹介した。

 企業側の就労支援の充実には,行政からの働き掛けも欠かせない。広島県では2013年に,企業向けの就労支援啓発を目的とした冊子『経営者の皆様だからこそできること』を作成。県内企業への調査を基に,がん就労者が増加する見込みや,就労支援が企業経営に与える影響を試算して示す他,実際に支援に取り組んでいる企業の実践例や担当者のコメントを一冊にまとめた。同県健康福祉局の金光義雅氏は,企業の意識改革を促すためには,行政から一方的に就労支援を呼び掛けるだけでは不十分と指摘。「地域の他企業の取り組みを通して,各企業に当事者意識を持ってもらう」「支援実施による経済的側面の効果を提示する」ことが重要と話した。

 総合討論では,各領域で行われた連携・協働のグッドプラクティスを積み重ね,広く共有していく必要性を確認。最後に高橋氏は,「がん領域のみならず,何らかの“働きづらさ”を抱える方々に共通する困難さも見据えて,各地域で就労支援の在り方を検討していく必要がある」と話し,シンポジウムを終えた。