医学界新聞

2014.09.22



Medical Library 書評・新刊案内


質的研究をめぐる10のキークエスチョン
サンデロウスキー論文に学ぶ

マーガレット・サンデロウスキー 著
谷津 裕子,江藤 裕之 訳

《評 者》中木 高夫(天理医療大教授・看護学科)

質的研究を哲学する本

 本書はハウツー本ではない。質的研究の本質は方法論ではなく《理解》にある。理解のためにさまざまな方法が,研究者の置かれた制約を反映して考案されているのだ。現在,ノースカロライナ大学チャペルヒル校の教授であるサンデロウスキーは,1990年代,『Research in Nursing & Health』誌に質的研究を哲学する論文を連続的に発表した。それらの論文は1冊の本としてまとめられることはなかったが,質的研究者の間では「little books」と呼ばれていた。

 JRC-NQR(日本赤十字看護大学質的研究勉強会)を主宰し,質的研究のさまざまな研究方法の根底を流れるものを問い続けていた谷津裕子氏(日赤看護大教授)は,数十編のlittle booksを前にして,大きな野望を抱いた。というのも,今の日本の質的看護研究は,まず指導教員から与えられた方法ありきという状態に思えたからだ。そこで,サンデロウスキー自身の協力を得て,必要不可欠な10編を選んで翻訳し,さらに日本の読者の理解に資するための解説を書き下ろした。翻訳にあたっては,JRC-NQRの盟友・江藤裕之氏(東北大教授)が全面的にバックアップした。一例を示そう。

 「質的研究は1つひとつのケーススタディを深め,次にメタシンセシスを行っていると思うが?」

――ケーススタディは,……常に「1つのもの」の理解へと向いている。その「1つのもの」とは,1人の人間のように単一のものの場合もあれば,家族,組織,文化的集団,出来事といった集合的な,つまり空間と時間によって決定づけられるものを指す場合もある(p. 65)。それぞれのケースに注意して……データの意味を理解し……ケース間の比較へと移り,さらに,分類を行い,仮説や理論を立てて検証し,……そこから逸脱していないデータの集約,統合,解釈などを行なう(p. 67)。

 「となると,質的記述的研究は?」

――質的研究者は自らの仕事を,……現象学的研究,グラウンデッド・セオリー法,エスノグラフィックな研究,ナラティブ研究を行なっているというよりは,あまりにも多くのケースで,現象学,グラウンデッド・セオリー,エスノグラフィー,ナラティブを「装っている」(Wolcott, 1992)だけの結果となった。……ごくわずかしか構造化されていない開放型のインタビューしか行なわない研究でもナラティブと呼び,研究参加者の「主観的な」経験の報告に過ぎないものでも現象学的と呼び,さらに,異なるエスニック集団の研究参加者しか含まないにもかかわらずエスノグラフィックと呼んでいる。……そこにナラティブ的,現象学的,エスノグラフィックな含みがあったとしても,質的記述的研究と言い表わしたほうがよい場合が多い(p. 134-135)。すべての質的研究アプローチの基礎となるものではあるが,質的記述的研究は,それ自体が価値のある方法論的アプローチを形づくっている(p. 145)。質的記述的研究は「分散型残余カテゴリー」に位置づけられるのである(p. 166)。

 本書の一端を理解していただけただろうか?

A5・頁220 定価:本体3,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01895-1

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