医学書院

検索
HOME週刊医学界新聞 > 第3062号 2014年02月03日

第3062号 2014年2月3日


【投稿】

今見直すべき,終末期腎不全医療の在り方

石川 英昭(東海中央病院腎臓内科医長)


その患者にとって透析治療は必要か

 病状が進行した慢性腎不全患者は,ある時期から腎代替療法が必要となることが広く知られています。そんな患者に対するわれわれ腎臓内科医の重要な職務は,治療方針として,血液透析,腹膜透析,腎移植についての説明を十分に行い,患者がふさわしい治療を選ぶお手伝いをすることです。しかし,昨今,非常に高齢であったり,進行癌で余命いくばくもないであろう慢性腎不全患者を診察する機会が増えており,事情が変わってきています。

 腎代替療法は,おもに中年から壮年期の慢性腎不全患者の社会復帰を支援する治療法として広く用いられてきました。最近では高齢の慢性腎不全患者にも適用されていますが,なかには社会復帰できるほどの回復が得られず,結果的に延命治療と解釈せざるを得ないケースも増えてきました。こうした状況は,治療を受ける患者や治療を提供する腎臓内科医等の透析スタッフに,これまであまり意識されてこなかった難しい問題を提起しつつあります。すなわち,その患者さんにとって「透析治療は必要か」「近い将来,死が不可避と予想される場合,身体的負担となる透析治療の継続は必要か」という問題です。「終末期腎不全医療」では,こうした問題と向き合い,腎代替療法を必要とする患者への適切な治療提供と,現在透析を受けている患者の看取りについて,考えていかなければなりません。

慢性腎不全患者の透析離脱例に学ぶ

 当院でも,透析離脱を余儀なくされたケースを経験しました。患者は,拡張不全による慢性心不全と認知症を併発した85歳の男性。高血圧などによる末期腎不全で,透析適応の病態となっていました。安静保持の理解困難のため,ご家族主導の腹膜透析を開始したものの,鼠経ヘルニアが原因で陰嚢水腫を合併。腹膜透析の中断,緊急の血液透析を実施するも,不穏のため安全な実施が困難となりました。

 当初は,透析導入による病状改善への期待があり,介護負担の少ない腹膜透析を導入したものの,合併症による中断や血液透析の実施困難という現実に,ご家族は透析継続以外の選択肢を想起せざるを得ない状況でした。そこで,医療者のほうからご家族に,抑制して血液透析を継続するという方法と,透析離脱と緩和医療の併用という二つの選択肢を提案。検討の末にご家族が希望されたのは,透析離脱と緩和医療でした。

 残腎機能が多少は維持されていたこともあり,この患者は透析離脱後約5か月間,通院での経過観察が可能でした。最終的には呼吸困難で再入院しましたが,緩和ケア専門医の助言に基づいてモルヒネを投与し,ご家族に囲まれて穏やかな最期を迎えられました。患者家族には苦渋の決断を迫ることにはなりましたが,今回の治療経過,意思決定の過程に十分納得されたご様子でした。この経験から,透析の開始と継続に関して,“治療への意思決定プロセス”こそが,終末期医療ではもっとも大切であると痛感した次第です。

患者の主体的な決定を尊重できる医療環境の整備を

 透析医療の導入に際しては,従来の腎代替療法に関する説明に加え,透析非導入という選択肢についても言及し,その後の経過について責任をもって医療を提供する姿勢を示す必要があるでしょう。時には,これまで以上に患者やその家族と向き合い,開始時期や透析期間,さらには最期の看取りといった非常にデリケートな話題にまで踏み込む必要があるかもしれません。そして,これまで以上に患者が主体的に「透析を受ける/受けない」を判断し,その決定を周囲が最大限に尊重できる医療環境を整えると,患者自身が透析導入を辞退するケースも出てくるでしょう。個人的には透析治療を受ける権利と同時に,透析治療を辞退する権利も意識されてよいのではないかと思います。もちろん,こうした非導入によって予想される呼吸困難,尿毒症症状などの有害事象に対しては,緩和医療などをもって最大限に苦痛を除去する配慮が必要です。

 一方,終末期透析患者の透析をいつまで継続するのかという問題は,透析自体が,患者の身体的苦痛になっているという視点から派生した問いかけと言えます。数十年にわたって透析治療を受けてきた患者にとって,透析の中断・離脱は相当に重大な決断となるため,実際の現場では医療者側から中断を提案し,同時に最大限に苦痛を除去する緩和医療の提供を約束する形で,決断していただく場合が多いです。その際には,完全な中断ではなく状態の改善に合わせて再開を検討できることを示すなど,患者やご家族の心理的負担を軽減する配慮も大切でしょう。当院では,透析専門医,緩和ケア専門医,透析室,病棟看護師など多くのスタッフがこの透析離脱までの経過にかかわることで, 治療方針に関する意思決定プロセスがより開かれた状態で共有できる環境作りに努めています。

 いかなる場合でも最善を尽くして治療する姿勢が大切であることは言うまでもありません。しかし,終末期医療では検査結果などのデータ改善のみをめざすのではなく,患者自身の症状緩和を重視して治療が提供されることが望ましいと考えられます。そこで筆者は,終末期透析医療において透析の非導入や中断を視野に入れた「患者中心の医療」を提案します()。「病態中心の医療」の場合,時として透析という負担に身体が耐え切れず,透析中の突然死や心肺停止などの事態が起こり得ます。こうした場合の緊急の蘇生処置は,医療としては正しい反面,本人や家族の意向,意思決定が尊重されにくい点に最大の問題点があると考えます。終末期という認識に基づいて,透析治療の開始,継続,取り止めを十分な時間をかけて事前に話し合う「患者中心の医療」という概念が広まることを期待する次第です。

 終末期透析医療における「病態中心の医療」と「患者中心の医療」の概念図(文献1より改変)

 折しも昨年12月,日本透析医学会から「維持血液透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言(案)」が発表されました()。透析治療の開始や継続について,医療従事者と患者自身が事前に十分協議する意思決定プロセスこそが重要との見解が示されています。われわれ現場の医師にとっても,よりよい終末期医療を考える上で,大いに参考になるものでしょう。医療従事者,患者双方がこれまで以上に主体的に終末期腎不全医療の意思決定にかかわることで,すべての慢性腎不全患者とその家族が納得のいく最期を迎えられるような医療環境の整備を,切に願っております。

文献1: Ishikawa H, et al. Withdrawal from Dialysis and Palliative Care for Severely Ill Dialysis Patients in terms of Patient-Centered Medicine. Case Reports in Nephrology. 2013. Article ID 761691.

:全文は,日本透析医学会のホームページよりご覧になれます(2014年1月21日現在)。


石川英昭氏
1999年東海大医学部卒。2009年に名大大学院卒業と同時に博士号取得。10年より現職。専門は腎臓・透析医療。よりよい地域医療を提供すべく,日々の診療に邁進する傍ら,学会・執筆活動にて積極的な情報発信にも努めている。