医学界新聞

寄稿

2013.12.02

【視点】

製薬企業とのかかわりを見直してみよう

宮田 靖志(北海道大学病院卒後臨床研修センター特任准教授)


 降圧薬バルサルタンの臨床研究データの捏造が発覚し,日本の臨床研究の信頼性が大きく揺るがされかねない事態となっています。現在,データ捏造がどのように行われ,何がその原因になったのか調査されていますが,その原因のひとつに製薬会社から大学の研究者に提供される奨学寄付金という資金の問題が挙がっています。製薬会社から研究資金を受け取って研究すると,その製薬会社の開発した薬剤の有効性を強調するような結果を導いてしまうことが以前から指摘されており,研究者と製薬企業のかかわりについて透明性を確保することが重要と言われています。このことを"利益相反の管理"と言います。

 "利益相反の管理"は臨床研究者に限ったものではなく,一般臨床医,研修医,医学生にもかかわる大きな問題です。例えば,製薬会社からさまざまな利益供与を受けると,臨床医はその製薬会社の薬剤をより頻回に処方するようになってしまいます(PLoS Med.2010[PMID:20976098])。医学生は処方権がないので直接的には臨床上の問題は生じませんが,学生のうちから製薬企業からの利益供与を受けていると,そのような利益供与は受けて当然というふうに考えるようになり(これを「culture of entitlement仮説」と呼びます),臨床医になってからさらにそのような考えが深まり,ひいては製薬会社のバイアスのかかった情報に影響を受けて臨床行為を行ってしまう可能性があると言われています。

 製薬企業からの利益供与を受けても自分は不当な影響は受けないと多くの医師は考えますが,自分以外の医師も不当な影響は受けないはずだと考える医師は少数です(週刊医学界新聞2885号「ともに考える医師と製薬会社の適切な関係 連載第2回」参照)。このように自分だけは大丈夫と皆が考えがちで,自分のバイアスには気づかない,自分の都合の良いように考える,という傾向があるので,"利益相反の管理"はしっかりと行っておかなければなりません。

 私たちは2012年に全国の医学生5431人にアンケート調査(「医学生の製薬企業との接触行動に関する全国調査」)を実施しました。臨床実習前(前)と臨床実習後(後)に製薬企業から受けた主な利益供与の結果は次のとおりでした(数字は%)。文具[前36.8,後98.2],弁当[前21.2,後95.1],講演会後の懇親会[前13.0,後59.7],講演会参加のタクシーチケット[前8.5,後57.6]。このような利益供与に何の問題があるのかと疑問に思うかもしれませんが,知らぬ間に製薬企業からの影響を受ける可能性が高いことは先に述べたとおりです。

 まだ日常臨床の"利益相反の管理"については日本では議論が高まっていませんが,今回のバルサルタン問題を契機に少しずつ議論がされるようになると思われます。皆さんも製薬企業との関係を一度考え直してみてはどうでしょうか?


宮田靖志
1988年自治医大卒。愛媛県にて地域医療に従事。札医大,ハーバード大などを経て,2010年より現職。

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