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第3052号 2013年11月18日


特集

男性看護師ならでは,ゆえに,だからこそ
巻頭対談――男性看護師の語りを求めて

秋山 智弥氏(京都大学医学部附属病院 看護部長)
宮子 あずさ氏(看護師/著述業)


 増えつつある男性看護師。厚労省「平成24年度衛生行政報告例」によれば,就業している男性看護師数は6万3321人と,10年ほど前と比較して2倍以上の人数となりました(下表)。しかしながら,就業している全看護師数101万5744人に占める割合は6.2%にすぎず,医療現場において,男性看護師がマイノリティである状況は変わっていないようです。

 女性が多数を占める看護の世界。男性看護師はどのような思いを持って,日々の看護に臨んでいるのでしょうか。本特集では,男性看護師ならでは,ゆえに,だからこその看護に迫ります。

 就業看護師数の推移
厚労省「衛生行政報告例」を参考に作成


宮子 私,男性看護師ウォッチャーなんです。現在,私が勤務する精神科単科病院の看護師は3割程度が男性で,所属している訪問看護室でも一時期は一緒に働いていたことがありました。それ以前には男性看護師と働く機会を持ったことのない身だったので,とても新鮮で,その一挙手一投足が気になってしまいます。

 私としては見ているだけでもワクワクしてしまう男性看護師ですが,彼らのなかには日々のケアや,将来のキャリアについて悩む声もあると聞きます。こうした背景には,男性看護師のロールモデルの少なさが原因としてあるのではないでしょうか。

 そこで今日は,男性看護師として第一線で働く秋山智弥さんに,ご自身のこれまでのキャリアや,看護に対するお考え等,いろいろな角度から迫ってみたいと思います。

看護に“呼ばれて”

宮子 秋山さんの幼少期や学生のころって,今以上に男性の看護師が少なかったはずですよね。そうした中,そもそもなぜ看護師になろうと思われたのでしょう。子どものころからの夢だったのですか。

秋山 いえ,子どものころは看護師という職業すら知りませんでしたね。ただ,幼いころは身体が弱くて,近所のお医者さんによく診てもらっていたこともあって,医師という職業には漠然と憧れを持っていました。

 身体がつらくて,精神的にも不安に陥っていく連鎖の中で,医師の手のぬくもりや「大丈夫」という声掛けが,その不安を消し去り,なんだか元気すら与えてくれる。そういう,病気がもたらす悪循環のプロセスを,元気の好循環のプロセスへ変えていく力に憧れを覚えたんです。

宮子 じゃあ,医師をめざした時期もあったのですね。

秋山 ただ,中学・高校と進学する中でもその思いをずっと持ち続けていたわけではなく,医師よりも,医学や薬学にかかわる基礎研究者への関心が出始めたりもして……。

宮子 それで東大理科二類へ進まれた,と。しかし,それからまた現場の医療者の道へ,しかも看護を学ぼうと歩みを進めたのはなぜなのでしょう。

秋山 大学2年の秋,進路を選択するときに初めて「保健学科」,そして看護学という学問が存在すると知り,とても驚いたんですよ。それまでは,看護のことを「治療のお手伝い」ぐらいにしか認識しておらず,自分の中でアカデミズムとは結び付かなかったのです。初めは興味なかったものの,いろいろと調べ,考えていくうちに看護で何か新しいことができるかもと思うようになって,保健学科(現・健康総合科学科)看護コースへと進むことにしました。

宮子 実際に学んでみて,看護に対する印象は変わりました?

秋山 そうですね。幼少期に憧れた,病気の悪循環を元気の好循環に変えていくかかわりって,実は看護の力そのものではないかと気付きました。あくまで主体は治癒する患者さんに据え,患者さんの環境を整えて治癒力を引き出していくという看護師の役割を知り,もともとやりたいと思っていたことは看護だったのだな,と。

宮子 看護に“呼ばれて”いたのかもしれませんね。

 ちなみに,保健学科で看護を学ぶ同級生の中に男性はいましたか。

秋山 保健学科看護コースは男女合わせても4人しかおらず,男性は私1人でした。上下の学年ではもう少し男性もいたようなので,私の同期は特別少なかったみたいです。

宮子 異性のほうが多い環境で学ぶのって抵抗感を抱きそうです。

秋山 その点は大丈夫でした。でも男子学生を増やしたくて,仲間作りには奔走しましたね。これから進路を考える1-2年生のいるキャンパスに行って,看護師の仕事の大切さを訴え,「将来の働き口にも困らないぞ」なんて言いながら下級生を誘っていました。当時,この道に連れ込んだ(笑)後輩たちの中には,現在,看護大の教授になったり,現場の管理職になったりと活躍している方も多くて,男性看護師の同志として心強いです。

男性看護師が働きやすい職場は,性別関係なく働きやすい職場

宮子 秋山さんが入職したころ,院内にはどのぐらいの男性看護師がいらっしゃいました?

秋山 私が就職した東大病院は,おそらく全看護師約700-800人のうち,男性看護師は10人ほど。精神科以外だと小児科,脳外科,内科,手術室に1人ずついる程度だったと記憶しています。当時,男性看護師は全体の3%にも満たないと言われていた時代で,私も同院の整形外科史上,初となる男性看護師だったようです。

宮子 職場の先輩スタッフが男性看護師になじむことができたのか気になります。

秋山 当時の整形外科の師長は「男性看護師と一緒に仕事したことないから,うちの病棟に入職させる」と,まだ学生だった私を指名していたこともあってか,そのあたりの準備は入念にされていたのだと思います。ですから,入職後に気まずい思いを抱いた記憶はありません。ただ,私の入職前に行われた病棟会の記録を読み返すと,「仮眠のときに使う布団は男女で区別してほしい」などの要望が記されていて,やはりいろいろと話し合われた経緯はあったようですけれどね。

宮子 そうそう。「布団は別にしろ」「病棟の職員用トイレは使うな」といった同僚の女性看護師からの要望で苦労している男性看護師さんの話って,今でもよく聞きますよ。でも,秋山さんが実際に入職してからは,そうした声は聞かなかったと。

秋山 ええ。そのうち私の毛布のほうが新しいことを理由に「貸してくれ」って言ってくる先輩まで出てきたぐらいです(笑)。

宮子 そういうものですよね。当初は抵抗感を抱いたことも,結果的には慣れで解消されていくケースもかなりあるのだと思います。ただ,ハード面の問題は気軽に変えられるものではない場合もありますし,大きな声で言いづらい面もありますよね。

秋山 そうかもしれませんね。

宮子 そういう意味では,男性看護師が我慢して表面化していない問題もあるのかもしれません。同じ職場を共有する仲間として,そのあたりまで考えを至らせるようにしたいなあと思います。というのも,男性看護師が働きやすい職場こそ,性別関係なく職員が働きやすい職場であると思うんです。

男性だからこそ応えられるニーズがある

宮子 診療科によって,男性看護師の働きやすさの違いはあるのでしょうか。

秋山 婦人科だと男性にできることが限られる点でやりづらさはあるかもしれませんね。でも,個人的にはどの診療科もあまり変わらないと思います。

 むしろ,どの診療科においても男性看護師が少ないため,男性によるケアのニーズに対して十分に応えきれていないととらえると,どの診療科においても活躍の場があると考えられるのではないでしょうか。

宮子 男性看護師だからこそできることがあると。

秋山 例えば,私が経験した整形外科に関して言えば,思春期の男子にとっては女性看護師にケアされることや,何か相談をすることって恥ずかしかったりするのですね。そうした年代の患者さんのケアを,私が一手に引き受けていたこともありました。

宮子 確かに10代ぐらいの男性患者さんにとっては,男性看護師の存在が“兄貴分”のようで心を許しやすいかもしれませんね。

 あと,若い男性看護師の存在に華やいだ気持ちになるお年寄りの女性患者さんもいるんじゃないですか。

秋山 ええ。40-50代の女性患者さんに多いのですが,「元気になる」ってよく声を掛けてくれますよね。「清拭だけは女性看護師に頼みたいけど,受け持ちになって」と(笑)。

宮子 男性の患者さんだって若い女性看護師にワクワクしているわけですから,同じようにあって当然ですよねえ。ただ,もちろんそうした良い面ばかりではないのも事実ですよね。

秋山 ええ。以前,私が夜勤の日は,排泄の介助をされるのが嫌で水分を控えている女性患者さんがいらっしゃいました。夜勤は女性看護師とペアで組むものであり,実際に私が介助に当たることはほぼないのですが,患者さんはその点まで把握されておらず,私が介助すると思われていたんです。こうしたケースも想定して,患者さんには事前にきちんと説明する必要もあります。

宮子 男性看護師は増えてきつつはあるけれど,やはりまだまだ「女性の看護師が当たり前で,男性の看護師は珍しい」という世間の認識が根深くあるということなのでしょうね。確かに「男性看護師がうかがってもよろしいですか」という確認を患者さんにとらなければならない場面がありますけど,「女性看護師が行ってもいいですか」なんて言うことってなかなかありませんから。

秋山 でも,現場に男性看護師が増え,実践で示していくことで社会の認識を変えていけると私は思っているんです。

管理職志望の男性看護師が少ない?

宮子 男性看護師がマイノリティであるがゆえの問題としてよく聞くのが,「将来像が描きづらい」ということ。つまり,先輩の男性看護師が少ないので,この先どのようなキャリアを築いていくべきかイメージしづらいと悩む若い男性看護師がいるというのです。

 管理職になることも一つのキャリアプランだと思うのですが,秋山さんは若いときから管理職になることを意識されていましたか。

秋山 比較的早くから,看護管理そのものは面白そうだと思っていました。でもだからといって,「めざしていた」というと少し違います。まさか自分が看護部長になるとは考えていませんでしたから。

宮子 看護管理を「面白そう」と感じていたというのには,何か理由があるのですか。

秋山 看護師2年目に行った,米ボストンのベス・イスラエル病院の研修がきっかけかもしれません。東大病院整形外科は,同院整形外科と姉妹病棟のような関係をつくっていて,私も研修留学させてもらったのです。そこで見た米国病院の管理システム,特にプライマリ・ナーシングにおけるナースマネジャーの役割には感銘を受けました。職場環境の質を向上させる上での看護管理の重要性に気付かされ,関心を持つようになったんです。

宮子 2年目ですか。早いですねえ。

 もしかしたら「管理職になること」に対するとらえ方って,男性看護師と女性看護師で異なるのでしょうか。私の周囲の男性看護師さんも,管理職に就くことに対してポジティブな印象を持っている方が多かったんです。一方で,以前の職場で看護師長を務めていた私はと言えば,正直なところ,管理職になりたいなんて思ったことがなかった。同世代の看護師が次々と退職し,病棟で年長者となっていく中では打診を断るほうに負担を覚えるようになって,仕方なく引き受けたって感じでした。私のようなスタンスの女性看護師のほうが多数派ではないかと思っているのですが……。

秋山 本当ですか。私は,女性のほうが管理職を潔く引き受けてくれる印象を持っていますよ。適性があると判断した上で,「そろそろ責任のある立場に……」と打診しても,むしろ男性のほうが弱腰になってしまう。

 男性看護師には,「優しい性格を活かして人の役に立ちたい」「周囲の人の勧めで看護師を選んだ」という方も少なくありません。だからでしょうか,どちらかと言えば野心もなく,消極的なタイプが多いのかもしれませんね。

宮子 えっ,意外です。

秋山 その点,女性の場合は自立した生活を送るために看護師を職業として選ぶ方もいたりと,積極的で野心のある方が多いのではないかと推察しています。

宮子 看護師をめざす背景の違いが影響しているということですね。

秋山 もちろん絶対数が違うので,そうした印象を受けやすいだけかもしれませんけれどね。でも,適性がある場合は,男性看護師の方も積極的に管理職になっていただきたいといつも思っているんです。

宮子 管理職になると確かに責任は重くなり,日勤ベースの勤務となって夜勤ができないぶん給与も減りかねません。弱腰になる気持ちもよくわかる。でも,やってみると面白い仕事ですよね。私もスタッフの顔を思い出しながら勤務表を作るのって,大変だけど嫌いではなかったなあ。

秋山 職場環境をどのように整えるかを考えるのって面白いですよね。職場環境の作られ方によって,スタッフのパフォーマンスは変わりますし,それが患者さんに提供されるケアの質をも左右します。そういう意味では,患者さんのケアに直結する重要な役回りを担えるのです。

 自分の病棟から病院全体まで,さらに日本や世界の看護現場の環境を変えていきたいとがんばってくれる,野心的な男性看護師の同志が増えることを期待しています。

性差がもたらす,看護現場の戸惑い

宮子 今の職場では,以前,男性利用者さんから「女性看護師に訪問してほしい。男性看護師はイヤ」という要望を受けたことがあるんです。私としては,それを受け入れることにどこか抵抗感を覚えました。異性からのケアを嫌がるケースは止むを得ないとしても,わざわざ異性の看護師を要望してくるというのは,「単なる好みではないのか」と心の中で引っかかったんですね。

 性差がもたらす戸惑いの一例として,秋山さんはこうした利用者さんからの要望をどのように考えますか。

秋山 私としては,患者さんの尊厳を傷つける可能性があるのだとすれば,その要望をむげにはねつけることはしたくないですね。というのも,私自身,過去に男性患者さんへのケアによって,その方を傷つけてしまった経験があるんです。

宮子 どのようなケースだったのですか。

秋山 男同士だから問題ないだろうと,何の配慮もせずに患者さんに座薬を入れてしまいました。その場では患者さんから何も言われなかったものの,後で親しい間柄になったときに「男性看護師に座薬を入れられたのは,ものすごく傷ついた」と打ち明けてくださったんです。

宮子 なるほど,男同士だからこそ嫌だったわけですね。

秋山 患者さん自身に「看護師=女性の仕事」という思想が根深くあるがゆえとも言えるかもしれませんね。

 ただ,看護は,日常ならば他人が入り込めない領域まで踏み込んでいくものです。しかも一方的に,です。自らのプライベートを明かすわけでもない看護師と,自分の全てをさらけ出さざるを得ない状況にさらされる患者さん。この特殊な関係性の中で,身体を触らせていただくわけですから,患者さん側に選択の余地は残してあげたいなと思うのです。

父性と母性の使い分けが看護の質を決める

宮子 今日のお話を聞いていて,男性看護師ならではの看護だけでなく,男女の性差という枠組みではとらえきれない「秋山さんの看護」というものがあると強く感じました。

秋山 そう言っていただけるとうれしいですね。これまで,私も「男性の自分が看護師をやれるのだろうか」と考えることはあったんです。看護師というとナイチンゲールの印象が強く,世の中にも「看護師=女性の職業」という認識があったわけですから。

宮子 いま,その問いに対して,どのような考えをお持ちですか。

秋山 もちろん,男性でもできる,と考えていますよ。その上で,看護師のケアの質を決めるのは,男性性・女性性という面ではなく,男女ともに備え持っている父性・母性という性質であると考えています。

 例えば,急性期において,おんぶしてでも患者さんを治療の場へ連れて行かねばならないとき,「決断」と「リーダーシップ」が看護師に求められます。そこで問われるのが父性です。一方,回復期・リハビリ期であれば,患者さんが自分で一歩踏み出すことを「温かく見守る」母性が必要になる。このような両者の性質を,患者さんの置かれた状況に合わせてバランスよく発揮できるか否かが,看護のケアの質を決めるのであって,必ずしも「男性・女性」という二元論では語りきれないのではないかと思うようになりました。

宮子 男性看護師対患者の前に,あくまで人間対人間という看護の構造があるということになりますね。

秋山 おっしゃるとおりです。看護は人間の普遍的な営みの一つとしてあるものだと信じています。

宮子 秋山さん,本日はありがとうございました。ますますのご活躍を期待しております!

(了)


秋山智弥氏
92年東大医学部保健学科(現・健康総合科学科)卒。同年より同大病院整形外科に勤務。98年同大大学院医学系研究科修士課程修了(保健学)後,新潟県立看護短大助教授。2002年より京大病院に勤務し,11年より現職。現在は,看護の「見える化」に努め,看護師の専門性の明確化とともに,各種教育プログラムや看護職人材育成モデル「京大病院マングローブ型キャリアパス」の創設・実践に力を入れている。

宮子あずさ氏
1983年明治大文学部中退。87年東京厚生年金看護専門学校卒。87-2009年東京厚生年金病院に勤務し,内科,精神科,緩和ケアを経験。09年より非常勤で都内の精神科単科病院で訪問看護を行っている。在職中から大学通信教育で学び,短大1校,大学2校,大学院2校を卒業。13年には東女医大大学院博士後期課程修了(看護学)。『気持ちのいい看護』『看護師専用お悩み外来』(医学書院),『看護師という生き方』(筑摩書房)など著書多数。雑誌『看護管理』(医学書院)で「やじうま宮子の看護管理な日々」を連載中。