Always SOAP & Problem oriented(佐藤健太)
連載
2013.07.08
「型」が身につくカルテの書き方
【第13講】(最終回) Always SOAP & Problem oriented
佐藤 健太(北海道勤医協札幌病院内科)
(3030号よりつづく)
「型ができていない者が芝居をすると型なしになる。型がしっかりした奴がオリジナリティを押し出せば型破りになれる」(by立川談志)。
本連載では,カルテ記載の「基本の型」と,シチュエーション別の「応用の型」を解説します。
昨年7月から月1連載の形で1年間続けてきた本連載ですが,今回で最終回となります。
■まずは「基本の型」が何より大事
自分自身で試行錯誤しながら学び,そして研修医たちに指導し続けることで「カルテの書き方」に真剣に向き合うこと10年以上が経ちますが,この連載を書きながら「自分のカルテの型」を見つめ直すことができて,かなり濃厚な学びと自分自身の成長につなげることができました。
当初は,カルテの歴史や紙カルテと電子カルテの違いなどにも触れながら,「カルテ学総論」とでも呼べるような大層な企画を構想していましたが,対象読者である「カルテの書き方に悩んでいる初期研修医たち」に何を伝えたいのかを考えながら余計な枝葉を落とし,「カルテの書き方」そのものを伝える形に落ち着きました。伝えたかったメッセージは「カルテをちゃんと書ければ面白いし臨床能力も伸びる」「基本的な型に沿って練習すれば必ず書けるようになる」ということです。そしてこの企画を通して「総合診療医や家庭医の臨床への向き合い方」を伝えることでジェネラリストをめざす人が一人でも増えれば,という思いも込めて書いてきました。
今回は紙面の都合もあり,カルテの書き方の「基本中の基本」をお伝えするので精一杯だったため,この連載を読み終えただけで完璧なカルテが書けるようになるわけではありません。所属する地域や病院の文化,将来所属する科によって,そして対象とする患者やみなさんの臨床に対する姿勢によってもベストな書き方は変わってくるでしょう。
しかし,毎回引用している立川談志の「型ができていない者が芝居をすると型なしになる」という言葉や,私が学生時代に取り組んでいた弓道で言われる「守破離」の考え方からもわかるように,「オリジナリティを出す前に,医師として基本となる考え方と表現方法にのっとった『基本の型』を身につけておくこと」は何よりも大事と考え,あえて基本だけに絞って書いてきました。ぜひとも初期研修中はこの基本を“馬鹿正直に”繰り返し練習してきれいな型を身につけ,その後の後期研修で徐々に最適化されたオリジナルの型を編み出してほしいと思います。
■「臨床能力の研さん」と「基本にのっとったカルテ記載」は車の両輪
各回の内容を表にまとめました。
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第2-4講では「基本の型」としてS・O・A・P各要素の書き方を,第5-12講では「応用の型」としてセッティングごとに「基本の型をどのように応用させればよいか」について説明してきましたが,連載全体を通して伝えたかったメッセージは「Always SOAP & Problem oriented」です。
「S→O→A→P」の順番で記載し,かつできる限り「問題リスト」に乗っているプロブレム名に沿って,そしてそのプロブレム名を適切な形に深化し続けるのが基本姿勢です。もし今回扱わなかったシチュエーションでのカルテの書き方に迷った場合は,この基本を思い出して各自で工夫してみてください。
ただ,「カルテはただのツールでしかなく,美しいカルテを書くこと自体が目的ではない」という当たり前のことだけは忘れないようにしてください。カルテの書き方を学び始めたころは原則論に偏りすぎてしまい,現場で好まれないカルテ記載になることがあります(自分自身を振り返っても,これまでかかわってきた多くの研修医たちを思い出しても)。カルテは,医療現場での医師同士や他職種,患者・家族との情報共有のツールであり,また同時に診療の質向上や研修の効率向上に活かすためのツールです。常に「何のために自分はカルテを書くのか?」を意識しながら,現場のルールや職場の文化,指導医の流儀や好みも踏まえてカルテを書くようにしてみてください。
そして何より,カルテの書き方以前に基本的臨床能力の向上が大事なのは言うまでもありません。臨床的な実力以上のカルテはどうひっくり返っても書けません。一方で,きちんとした型にのっとって書いたカルテは,自分に欠けているところを浮き彫りにしてくれますし,読みやすいカルテであればそれを読んだ指導医やコメディカルが的確なフィードバックをくれる確率も上がります。「臨床能力の研さん」と「基本にのっとったカルテ記載」を車の両輪と考えて,どちらも大事にしながら今後の研修をしてほしいと思います。
■「表現を磨く」ための推薦図書
臨床的に立派な内容のカルテが書けるまでの道のりは長いですが,まずは文章の表現方法だけでも上達すれば読みやすく的確な情報共有ができるようになるため,臨床現場でのツールとしての有用性も増します。もしさらなる勉強をしたいという方は,以下のテキストも読まれるといいでしょう。
1)倉島保美著『論理が伝わる 世界標準の「書く技術」』(講談社,2012年)
↑「パラグラフライティング」という,要点を簡潔に伝える書き方の入門書。
2)本多勝一著『日本語の作文技術』(朝日新聞出版,1982年)
↑助詞や形容詞の使い方など正しい日本語の書き方についての解説書。
3)齊藤裕之・佐藤健一著『医療者のための伝わるプレゼンテーション』(医学書院,2010年)
↑カルテ以外に,医師として表現・伝達する技術全般の解説書。
まだまだ伝えたいことはたくさんありますが,そろそろ紙面が尽きてきました。もしニーズがあれば書籍化できるかもしれませんので,そのときには今回扱えなかったリハビリ記録,患者急変時記録,紹介状記録,カンファレンス記録といった各論に加え,カルテ学総論的な内容も含めて加筆修正したいと考えています。
最後になりますが,これまで連載を読んでくださった皆さんにお礼を申し上げます。時々届く感想やご意見は,毎月やって来る締め切りを乗り切るための大きなエネルギーになっていました。ありがとうございました。
(了)
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