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第2983号 2012年6月25日


協同学習で,現場で活躍できる看護師を育てる
久留米大学・安永悟氏の授業づくりに学ぶ


  「現場で活躍できる看護師になってほしい」。これはすべての看護教員が持つ願いのはずだ。では,どんな授業を行えば,その願いどおりの看護師を育てることができるのだろうか。このほど刊行された『活動性を高める授業づくり――協同学習のすすめ』(医学書院)では,協同学習の理論や技法が紹介され,学生たちに効果的な学びを与える授業づくりのヒントが示されている。本書の著者であり,久留米大学文学部で教鞭をとる安永悟氏の講義を取材した。


 「久留米大学文学部の教育理念を見て,本学が育てたい理想像を読み取り,自分の言葉で言い換えてみてください」。そう課題を投げかけると,安永氏は学生たちに考える時間を与えた。

仲間と共に学び合う授業づくり

 この日に取材したのは,安永氏が担当する『教育心理学』の講義。第2講目となる今回は,本科目のガイダンスともいえる授業内容だが,早くも「協同学習」に基づいて展開されている。

 氏の授業でまず特徴的なのは,約70人のクラスを,3-4人ずつのグループに分けている点だ。グループの編成は同じ学年・学科・性別などで偏らないように調整され,履修期間中,必要に応じてグループの再編を1-2回実施。講義中,さまざまなタイミングで,このグループによる対話の機会が設けられる。これらはすべて協同学習に基づいた授業づくりの一環だ。

 氏は,協同学習を「小グループの教育的使用であり,学生が自分自身の学びと学習仲間の学びを最大化するために共に学び合う学習法」と定義付ける。協同学習に基づく授業を展開する中で,学生一人ひとりが,仲間と共に主体的かつ積極的に学習へ取り組むことが可能になるという。

写真 左:「協同学習は,学生たちの活動性を高める」と語る安永氏/:学生たちは悩みながらも自分の考えを述べ,意見を交換していた

グループによる学習が学びを深める

 記事冒頭で投げかけた課題の考察時間を1分で区切ると,再び安永氏は学生たちに指示を出した。「それでは,グループの仲間に自分の考えたことを順番に述べてみましょう。全員が発言を終えたら,グループ内で話し合って,共通理解をつくってみてください」。

 安永氏の声がかかると,学生たちはグループごとに頭を寄せ合い,作業に取り組み始めた。「自分の知識を地域社会や国際社会などのいろいろな場面で活かせる人かな」「教える対象に合わせた,専門的な知識を有する人とか?」。学生たちは悩みつつも,自分の考えについて言葉を選びながら語り出す。それを聴くグループの仲間も真剣な面持ちで相づちを打ち,意見を述べる学生の話を促す。5分ほど経ち,グループの議論が出尽くしたのを見計らって,安永氏は課題に関する解説を始めた。

 この授業展開は,協同学習でよく用いられる技法の一つ,「ラウンド・ロビン」だ。個人思考の後,そこで得られた個人の意見や考えを足がかりに,グループによる集団思考を実施するというもの。その効果について,氏はこう述べる。「新しい知識を学ぶ際,すでに持っている知識と関連づけることで学びは深まる。それは1人で行うより,自分と異なる価値観や興味を持つ仲間と一緒に行うことで関連づけの幅はさらに広がり,一層深い学びとなるのです」。

「グループ学習=協同学習」とは限らない

 講義に出席した学生たちからは,「みんなで話し合う中で難しい内容も理解できる」「(グループの仲間が)自分の言葉で噛み砕いて説明してくれるのでわかりやすい」という感想が聞かれた。氏の狙いどおり,グループによる対話を通して学生たちの学びは深められているようだ。

 このようなグループの活動を重視する授業は,単なる「グループ学習」と混同されやすい。しかし,安永氏は「グループ学習を用いているから協同学習である,とは言えません」と指摘。「グループを用いるのも,協同学習の技法の一つ。技法は,協同学習の理論を実践に活かすための工夫です。技法の背景にある理論をきちんと理解した上で実践しなければ,学生たちの主体性は生まれず,学習効果を生む授業はつくれない」と説明する。

看護技術教育の学習効果向上も

 協同学習の理論と技法は,看護技術教育にも有効だという。筑紫看護高等専修学校の宇治田さおり氏は,基礎技術指導に協同学習を導入したことで,「大きな学習効果が得られた」と述べる。

 同校では2011年4月より,ベッドメイキング,全身清拭や足浴,洗髪などの技術指導に,協同学習の理論と技法を導入。教員による講義と講義内容に基づく技術演習を中心とした従来の授業形式を一新し,学生たちを3-4人ずつのグループに編成,授業の序盤から学生同士の対話を重視する形式に変更した。その結果,学生たちの学習意欲の向上が見られ,看護技術の授業で欠席する学生はゼロ。また,授業時間外に学生同士で声を掛け合って技術を教え合う姿が見られるようになったり,実習先の病院からの評価が高まったりと,さまざまな面で協同学習が良い効果をもたらしたという。

 「現場で動ける人材とは,何か新たな事態が生じたときでも,自分が持っている知識と関連づけて対応,実践できる人」と安永氏は語る。仲間と共に学び合うことにより関連づけの幅を広げ,学びを深めることのできる協同学習。現場で活躍できる看護師を育てる一つの方法として,その理論と技法に基づく授業づくりは有用に違いない。